32 / 57
王太子視点5
しおりを挟む
あれはサフィニアが目覚めたと連絡が入って2週間経った頃、ローズマリアがいきなり姉の見舞いに行くと外出届が出された。
その知らせを聞いて、私はユリウスに許可を出さない様に指示した。
「ただでさえ目覚めたばかりで、混乱しているかも知れないし、直ぐには起き上がれる状態ではないだろう」
先方の都合も聞かず、実家に帰ろうとするローズマリアの無神経さに、苛立ちを隠せない私に、ユリウスが
「1カ月程したら、体もある程度動かせる様になるとの医師からの連絡が入っています」
サフィニアには王宮医師を派遣していた。事故が起きたのは王宮のバルコニーからで、王家にも落ち度があったからだ。医師からサフィニアの状態を逐一報告させている。
「1カ月か。長いな…」
「殿下、あっと言う間ですよ」
そして、日程を定めて公爵家に先触れを出していたのだが、何故かサフィニアには知らされていなかった。
どこまでもサフィニアを蔑にし続ける公爵に怒りを感じながら、一人で行かせると何をするのか分からないローズマリアと一緒にサフィニアに会いにいったのだ。
寝台に背もたれのクッションを挟んで上半身を起こしているサフィニアは、まだやせ細って痛々しかった。健気に微笑む姿は、以前よりも美しく感じた。
「お姉様、お加減は如何です?」
「ええ、順調に回復しているわ。わざわざお見舞い等して頂かなくてもいずれ夜会で会えますのに…」
「まあ、お姉様はやはり恨んでお出でなのですね。私が王太子殿下と婚姻したことを、やはりあれは自殺するつもりで…」
一体、この女は何がしたいのだ。何故、実の姉を貶めようとするのだ。
自分がしたことを棚に上げて、姉を追い込む様な真似をするローズマリアに私は内心、腸が煮え繰り返るのを我慢しながら、
「止めないか、ローズ。サフィニアはまだ目覚めたばかりなのだぞ。そんな事を言うものではない」
何を言い出すのだこの女は、私のサフィニアに。
早くこの女を罰したい。
もどかしい思いを抱えている私に
「殿下、私はもう婚約者ではなく妃殿下の身内ですので、どうか名前で呼ぶのは控えて頂けないでしょうか」
そんな事を言わないで欲しい。せめて名前を呼ぶ事だけは赦して欲しいのだ。
何か繋がりを求めている私は取り敢えず、謝罪の言葉を口にした。
「す、すまないつい、口から出てしまった」
だが、私とサフィニアとの久しぶりの会話に、割ってはいるローズマリア。
「ねえ、ジーク様、お腹が張って来たので帰りましょう」
やってわざとらしい仕種で、私の愛称を勝手に口にするこの女を、殺したい衝動に駈られている。
グッと我慢しながら
「そうだな。(サフィニアの)身体に良くないし、帰ることにしよう。(これ以上居て、サフィニアに何かし出すといけないからな)サフィニア嬢も身体に気を付けて早く元気な姿を見せてくれ」
「畏まりました。遅らせながら殿下、妃殿下ご成婚おめでとうございます」
ああ、サフィニアの微笑みはこんな状態でも美しい。
しかし、君の美しい声から祝福の言葉は聞きたくなかった。
本来なら、私の隣はサフィニアのものなのに……
「ありがとう」
「まあ、お姉さまったら妃殿下だなんて他人行儀な呼び方はよして下さい。今まで通りローズと呼んで下さい」
「いえ、最早貴女様は王族になられたのですから、そのようにはお呼びできません」
「まあ、お姉様ったら冷たいお言葉です。やっぱり祝福して頂けないのですわ。お姉様は私を嫌っているのね」
この女は何処まで行ってもサフィニアを貶めようとする。
なんと心がひねくれているのだろう。
「ローズいい加減にしなさい。サフィニア嬢はそんな事を言っていないだろう」
私が咎めると、今度は泣き出した。
ローズマリアがサフィニアの部屋で泣きわめくので、その騒ぎを聞き付けた公爵夫妻が
「サフィニア、何故身重の妹を労ってやれないのだ」
「やはりサフィニアは心の中ではローズを恨んでいるのね。さあ、ローズ彼方に、落ち着かないとお腹の子供によくありませんよ」
ローズマリアを宥めながら部屋から出て行った。
この家は、ずっとこんな風なのか。
私は、愚かな親子やり取りに、サフィニアの置かれた状況が異常に感じた。
早く、この家からサフィニアを出さないと、彼女は自ら命を絶つかも知れない。
私は帰りの馬車の中で、ローズマリアを睨みながら
「君には常識というものがないのか。病み上がりの姉になんということをするのだ。誰もいなければ…」
私の言葉にハッとなったローズマリアが
「…申し訳ありません」
と小さな声で謝った。しかし、その謝罪は、私にではなく本来、サフィニアにすべきなのだ。
何処までも自分本意なこの女をどう処置しようかと考えていた。
そして、私はユリウスにサフィニアの婚約者になるように指示した。
その知らせを聞いて、私はユリウスに許可を出さない様に指示した。
「ただでさえ目覚めたばかりで、混乱しているかも知れないし、直ぐには起き上がれる状態ではないだろう」
先方の都合も聞かず、実家に帰ろうとするローズマリアの無神経さに、苛立ちを隠せない私に、ユリウスが
「1カ月程したら、体もある程度動かせる様になるとの医師からの連絡が入っています」
サフィニアには王宮医師を派遣していた。事故が起きたのは王宮のバルコニーからで、王家にも落ち度があったからだ。医師からサフィニアの状態を逐一報告させている。
「1カ月か。長いな…」
「殿下、あっと言う間ですよ」
そして、日程を定めて公爵家に先触れを出していたのだが、何故かサフィニアには知らされていなかった。
どこまでもサフィニアを蔑にし続ける公爵に怒りを感じながら、一人で行かせると何をするのか分からないローズマリアと一緒にサフィニアに会いにいったのだ。
寝台に背もたれのクッションを挟んで上半身を起こしているサフィニアは、まだやせ細って痛々しかった。健気に微笑む姿は、以前よりも美しく感じた。
「お姉様、お加減は如何です?」
「ええ、順調に回復しているわ。わざわざお見舞い等して頂かなくてもいずれ夜会で会えますのに…」
「まあ、お姉様はやはり恨んでお出でなのですね。私が王太子殿下と婚姻したことを、やはりあれは自殺するつもりで…」
一体、この女は何がしたいのだ。何故、実の姉を貶めようとするのだ。
自分がしたことを棚に上げて、姉を追い込む様な真似をするローズマリアに私は内心、腸が煮え繰り返るのを我慢しながら、
「止めないか、ローズ。サフィニアはまだ目覚めたばかりなのだぞ。そんな事を言うものではない」
何を言い出すのだこの女は、私のサフィニアに。
早くこの女を罰したい。
もどかしい思いを抱えている私に
「殿下、私はもう婚約者ではなく妃殿下の身内ですので、どうか名前で呼ぶのは控えて頂けないでしょうか」
そんな事を言わないで欲しい。せめて名前を呼ぶ事だけは赦して欲しいのだ。
何か繋がりを求めている私は取り敢えず、謝罪の言葉を口にした。
「す、すまないつい、口から出てしまった」
だが、私とサフィニアとの久しぶりの会話に、割ってはいるローズマリア。
「ねえ、ジーク様、お腹が張って来たので帰りましょう」
やってわざとらしい仕種で、私の愛称を勝手に口にするこの女を、殺したい衝動に駈られている。
グッと我慢しながら
「そうだな。(サフィニアの)身体に良くないし、帰ることにしよう。(これ以上居て、サフィニアに何かし出すといけないからな)サフィニア嬢も身体に気を付けて早く元気な姿を見せてくれ」
「畏まりました。遅らせながら殿下、妃殿下ご成婚おめでとうございます」
ああ、サフィニアの微笑みはこんな状態でも美しい。
しかし、君の美しい声から祝福の言葉は聞きたくなかった。
本来なら、私の隣はサフィニアのものなのに……
「ありがとう」
「まあ、お姉さまったら妃殿下だなんて他人行儀な呼び方はよして下さい。今まで通りローズと呼んで下さい」
「いえ、最早貴女様は王族になられたのですから、そのようにはお呼びできません」
「まあ、お姉様ったら冷たいお言葉です。やっぱり祝福して頂けないのですわ。お姉様は私を嫌っているのね」
この女は何処まで行ってもサフィニアを貶めようとする。
なんと心がひねくれているのだろう。
「ローズいい加減にしなさい。サフィニア嬢はそんな事を言っていないだろう」
私が咎めると、今度は泣き出した。
ローズマリアがサフィニアの部屋で泣きわめくので、その騒ぎを聞き付けた公爵夫妻が
「サフィニア、何故身重の妹を労ってやれないのだ」
「やはりサフィニアは心の中ではローズを恨んでいるのね。さあ、ローズ彼方に、落ち着かないとお腹の子供によくありませんよ」
ローズマリアを宥めながら部屋から出て行った。
この家は、ずっとこんな風なのか。
私は、愚かな親子やり取りに、サフィニアの置かれた状況が異常に感じた。
早く、この家からサフィニアを出さないと、彼女は自ら命を絶つかも知れない。
私は帰りの馬車の中で、ローズマリアを睨みながら
「君には常識というものがないのか。病み上がりの姉になんということをするのだ。誰もいなければ…」
私の言葉にハッとなったローズマリアが
「…申し訳ありません」
と小さな声で謝った。しかし、その謝罪は、私にではなく本来、サフィニアにすべきなのだ。
何処までも自分本意なこの女をどう処置しようかと考えていた。
そして、私はユリウスにサフィニアの婚約者になるように指示した。
4
お気に入りに追加
815
あなたにおすすめの小説
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる