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ローズマリア視点

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 私には二つ上の姉がいる。何でも完璧に熟せられる姉が。容姿も性格も全く似ていない私達を、周りの大人はよく比べた。

 私は母によく似ていて、姉は父に似ていた。一つだけ羨ましいと思ったのは肌の色だけ。

 この国の人間は褐色の肌を持っているが、異国の血が色濃く表れた象牙色の肌が私にあったら完璧なのに。

 その他は私の方が美しい容姿をしていたし、逆に姉の方が羨ましいだろうと思い込んでいた。

 どんな事を言っても姉は長年しみついた淑女の仮面を外すことはなかった。

  どうすれば、その澄ました顔が醜く歪むの?

  どんな言葉を言えば、悲しむの?


 どんどん姉をどうやって貶めるか、そんなことばかり考えていた。

 母の愛情も父の関心も私だけのもの。姉が持っていないものよ。だけど、どんなにそう思っても埋められないものがあった。なんだか虚しい気持ちがいつも私を「もっと、もっとやらなくては」責め立てる。

 そんなある日、姉の家庭教師を私につけると母が言い出した。また、完璧な姉に比べられる。長年かけて姉の影から抜け出せたのに、またあの頃のようになるのはごめんだ。

 わざと傷ついた振りをしたら、母が追い出してくれた。

  ふふ、伯爵夫人風情が、身の程知らずだわ。

 私は、楽しかった。もっと早くにこうすれば良かった。コツがわかったから今度からは上手くやれるわ。

 私は周りの気に入らない者を貶める事で、勝ち誇ったきになっていた。

 そして、社交界デビュの日に、成長した王太子ジークレスト様に会った。姉が婚約者候補だった時に訪問された時には一度会っていたが、それよりもずっと男らしくなって、誰よりも美しかった。

 彼こそ私に相応しい男よ。あの地味な姉よりも、だって他の男性も私を女神・・と呼んでいるわ。絶対に奪ってやる。

 そう決心して、彼にあの手この手で迫った。でも彼は見向きもしなかった。それどころか、冷めた目で『私に触れるな』そう言われるような鋭い視線を浴びせられた。

 だから作戦を変えて、彼にこう囁いた。

 「姉の誕生日に姉が欲しがっていた物をお教えしますわ」

 彼はこの甘い・・罠に引っかかった。彼の弱点は姉なのだ。そして、この日から彼は姉の誕生日に贈る品物を私に聞くために、会うようになった。

 それを周りは誤解して、好き勝手に噂したのだ。

  ふふ、私は悪くないわ。周りが勝手に誤解しただけ。

 そう思って、愉悦に満ちた笑みを浮かべていた。

 あの日が来た。暑い夏の日の建国記念の式典が。

 突然、目の前で姉がバルコニーから落ちた時、冷や汗が流れた。まさか本当に落ちると思っていなかった。本の冗談のつもりで姉の飲み物に睡眠薬を入れたけれど、それが原因で落ちるなんて考えもしなかった。

 落ちた姉を抱きしめながら、普段表情を変えない殿下の声と顔を忘れない。


 この時、初めて知ったのだ。


  邪魔者は私だったのだと、酷く後悔したが、起きたことの恐ろしさに真実を語る勇気はなかった。

  殿下の慟哭が今も私を苦しめている。婚約者となり、殿下が誰を愛していたのか思い知った。彼は私を一生見ることはない。結婚してもただ公務の時しか傍にいることを許さない。

 それは私がした事への罰。今更、悔いても仕方がない。

 一年後に姉は奇蹟の生還を果たした。昏睡状態から目覚めたのだ。そして、この日から私の新たな苦痛の始まりだった。姉は生きている限り、私を苦しめる楔となったのだ。 
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