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ユリウス視点2
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あれは、殿下と女狐が正式に婚約して二ヶ月ほどのこと、殿下の侍従が私を呼びに来た。その様子は青ざめていて、不安に駆られて私が殿下の寝室まで案内された。
「殿下が部屋から出てこないだと」
朝の支度を手伝う侍女達を部屋に寄せ付けず、殿下は籠っていたのだ。
「殿下、如何したのです。私です。ユリウスです。どうか部屋に入れて下さい」
「ユリウスか……、君だけが入れ…」
中に通されたが、カーテンも開けていない薄暗い部屋で、殿下は寝台横に座って俯いていた。
「一体、何があったのです?」
私の呼びかけに、殿下が告げたあまりの出来事に、私は驚愕した。
殿下の話では、昨夜いつもより多めの御酒を飲んだらしいのだが、記憶がなく。朝目覚めると下着姿の女狐がさめざめと泣いていて、自分も着衣しておらず、部屋には乱れた服が散らばっていた。
その上、シーツには白濁液交じりの赤い血痕があり、破瓜の様だと思われる。事情を女狐に聞けば、酔った勢いで押し倒され、何度も精を中に放たれた。と言われたらしい。
確かに二人は公で婚約関係にあるのだが、実際はあくまでサフィニア嬢が目覚めるまでの代用でしかなった。朝、彼女が殿下の部屋から出たのを、数人の宮人が目撃している。
事実がどうであれ最早、取り返しはつかない。起きてしまった以上、あの女と結婚するしかないのだ。殿下は苦痛に耐える様な表情を見せながら
「こうなった以上サフィニアが目を覚ましても、彼女を取り戻すことは出来ない」
こうして、殿下の苦痛と後悔の日々が始まり、次第に仄暗い狂気へ突き進む事になって行く。
側近として、何もできない日々が続く中、三ヶ月後に女狐が妊娠したのだ。
周りは、結婚前の懐妊とあって、ぎこちないが相手が相手だけにあり得るだろうと、勝手な憶測が飛び交った。なにせ実の姉が婚約者であった時も殿下にすり寄っていた事を、誰もが知っていたのだから。
建国記念祭と同時に結婚式を挙げ、殿下も親になるのだから気分も落ち着くだろうと思っていた矢先、螺子曲がった運命を元に戻そうとするかの様に、彼女が目覚めた。
その日から、殿下の苦悩は再び始まり、公の場以外での妃殿下を避ける様になった。特にサフィニア嬢の見舞いに訪れた日から殿下の様子が変わり、夕刻になると忍んで公爵邸を訪れるようになっていた。
ただ彼女の歌声を聴くために、人目を忍んで通っていたのだ。
そしてある時、私を呼び出し
「ユリウス、サフィニアと婚約してくれないか?今の私には彼女を幸せにはできない。せめて信用のおける相手に嫁いでほしい」
そう頭を下げられた。
「わかしました。殿下がそうお望みなら臣下として、サフィニア嬢をお守りします」
「すまない。ありがとう」
殿下は肩の荷が降りた様に、この時穏やかに笑っていた。だが、彼の眼は未だ仄暗さを映していたことに私は気付いていなかったのだ。
「殿下が部屋から出てこないだと」
朝の支度を手伝う侍女達を部屋に寄せ付けず、殿下は籠っていたのだ。
「殿下、如何したのです。私です。ユリウスです。どうか部屋に入れて下さい」
「ユリウスか……、君だけが入れ…」
中に通されたが、カーテンも開けていない薄暗い部屋で、殿下は寝台横に座って俯いていた。
「一体、何があったのです?」
私の呼びかけに、殿下が告げたあまりの出来事に、私は驚愕した。
殿下の話では、昨夜いつもより多めの御酒を飲んだらしいのだが、記憶がなく。朝目覚めると下着姿の女狐がさめざめと泣いていて、自分も着衣しておらず、部屋には乱れた服が散らばっていた。
その上、シーツには白濁液交じりの赤い血痕があり、破瓜の様だと思われる。事情を女狐に聞けば、酔った勢いで押し倒され、何度も精を中に放たれた。と言われたらしい。
確かに二人は公で婚約関係にあるのだが、実際はあくまでサフィニア嬢が目覚めるまでの代用でしかなった。朝、彼女が殿下の部屋から出たのを、数人の宮人が目撃している。
事実がどうであれ最早、取り返しはつかない。起きてしまった以上、あの女と結婚するしかないのだ。殿下は苦痛に耐える様な表情を見せながら
「こうなった以上サフィニアが目を覚ましても、彼女を取り戻すことは出来ない」
こうして、殿下の苦痛と後悔の日々が始まり、次第に仄暗い狂気へ突き進む事になって行く。
側近として、何もできない日々が続く中、三ヶ月後に女狐が妊娠したのだ。
周りは、結婚前の懐妊とあって、ぎこちないが相手が相手だけにあり得るだろうと、勝手な憶測が飛び交った。なにせ実の姉が婚約者であった時も殿下にすり寄っていた事を、誰もが知っていたのだから。
建国記念祭と同時に結婚式を挙げ、殿下も親になるのだから気分も落ち着くだろうと思っていた矢先、螺子曲がった運命を元に戻そうとするかの様に、彼女が目覚めた。
その日から、殿下の苦悩は再び始まり、公の場以外での妃殿下を避ける様になった。特にサフィニア嬢の見舞いに訪れた日から殿下の様子が変わり、夕刻になると忍んで公爵邸を訪れるようになっていた。
ただ彼女の歌声を聴くために、人目を忍んで通っていたのだ。
そしてある時、私を呼び出し
「ユリウス、サフィニアと婚約してくれないか?今の私には彼女を幸せにはできない。せめて信用のおける相手に嫁いでほしい」
そう頭を下げられた。
「わかしました。殿下がそうお望みなら臣下として、サフィニア嬢をお守りします」
「すまない。ありがとう」
殿下は肩の荷が降りた様に、この時穏やかに笑っていた。だが、彼の眼は未だ仄暗さを映していたことに私は気付いていなかったのだ。
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