異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo

文字の大きさ
上 下
104 / 151
第二章 初学院編

閑話(アースのいない日々1)

しおりを挟む
※ キルヴェスター視点


アースが王都を離れてから1週間が過ぎた。そうしてアースのことを考えているうちに、初学院の後期の開始を迎えていた。クラスを超えて学年の間では、アースが領地療養となっていることで話題が持ちきりとなっていた。このことに俺は、ひどく驚いた。あの時兄上は、「アースに罰を与える」といった。ついては、学園中でアースは罰を受けて領地謹慎になったと嘲笑されるものだと思っていた。俺はなんとしてもアースの名誉を守ろうと決意していたのだが、蓋を開けてみると、アースは領地での療養ということになっていた。……一体、どういうことだろうか? 俺は、側近たちに聞いてみた。



「アースは、なぜ自領での療養という扱いになっているんだ? まさか、アースや俺たちに気を使って、そう言ってくれているのか?」


俺の問いに神妙な面持ちで答えたのは、文官のローウェルだった。ローウェルなら、すでに何か、情報を掴んでいるかもしれない。



「いえ、そういう訳ではないと思いますよ、主。皆は、本当にそうだと認識しているのです。おそらく、情報操作がなされているのでしょう。アースの名誉に配慮して、対外的には自領での療養ということになっているようです。」



謹慎が療養に上書きされたわけではなく、最初から療養ということになっているのなら、情報を発信する側が最初から療養という名目にしようと考えていたということだ。ということは、兄上たちは最初から対外的にはアースを療養という名目にするつもりだったということだ。では、なぜ罰という名目にしてアースを領地に送ったのか? 兄上が言っていた、「俺に対するもう1つの罰」というのに関係があるのか? アースの領地行きが罰であると知っているのは、王族と王族関係者。そして、国の上層部だ。意思決定をした、国や上層部は除くとして、そのことを伝えられたのは俺とその側近、そしてタームウェルとその側近たちだ。つまり、俺とウェル、そしてその側近に何かを伝えたかったということだ。

……ということは、その何かを伝えるためにアースは、俺たちの「教材」に使われたわけか。原因が俺にあることはわかっているだけど……気に入らないな。兄上の判断の可能性もあるが、兄上はあの時「国王」の代理といった。つまりは、上層部の意思ということだ。……兄上も賛成しているのだろうか? 


「殿下、具合が悪いッスか?」


急に黙り込んだ俺を心配に思ったのか、ジールが肩を揺すりながら声をかけてくれた。


「いや、大丈夫だ。少し、そのような情報操作がなされた理由を考えていたんだ。……当たっていたら、そういってくれ。アースは、俺たちの教材のために使われたのか?」



俺がそういうと、側近たちはどう答えたものかと、視線を交わし合っていた。側近たちは、俺のもう1つの罰の内容にも気づいていたようだし、すでに大体のことを察しているのだろう。

少し様子を伺っていると、ようやく答えが出たのか、ローウェルがゆっくりと頷いた。


「言い方は少しアレですが、概ねそのとおりかと思います。」


「……そうか。」


俺は心の中でそっと、舌打ちをした。


「キル殿下、今お話ししてもよろしくて?」


すると、マーガレットが俺の顔色を窺うように躊躇いがちに話しかけてきた。マーガレットとは例年、長期休みにお茶会をしているのだが、今年は色々とあったため取りやめとなったのだ。俺はすぐに表情を取り繕って、マーガレットに笑顔を向けた。



「ああ、マーガレット。久しぶりだな。夏休みは、お茶会の時間をとれずにすまなかった。」


「いえ、キル殿下が謝ることは何もありませんわ。この夏は、アーキウェル王国の歴史においても最大級といっていいほどのスタンピードが起こったのですもの。それに、わたくしのことよりも………アース様を含めたキル殿下たちの方が心配ですわ。………アース様のこと、聞きましてよ。魔物の攻撃で、かなりの重傷を負ったそうですわね。お加減はいかがでしょうか?」



「アースは………」



俺はそこまで言って、言葉を区切った。
ここで、「ザール様の血液回復魔法によって完治した」と話せば、アースは一体何を療養するために領地へと向かったのかという話になってしまう。俺はチクリと痛む心を押さえつけて、微笑んだ。



「アースは、命の危機は脱している。ただ、回復魔法でも完治の難しい傷を負ってしまったんだ。だから、療養期間を十分にとるため領地へと向かったんだ。」



「………そうでしたの。アース様の傷は、その………時間が解決してくれるような傷ですの?」


「ああ。貴族院の入学に合わせて、きっと、帰ってくるだろう。」


俺がそういうと、マーガレットとその友人たちは安心した表情を浮かべた。特に、マリア嬢とムンナ嬢は胸の前で手を組んで、大きく息を吐いた。この2人は、アースのことをとりわけ気に入っていたからな………。

そうだ、マリア・テレシ―嬢にはお礼を言わないといけないな。



「テレシ―嬢。グート様を始め、テレシ―侯爵家には大変世話になった。本当にありがとう。」



俺がそういうと、テレシ―嬢は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに淑女らしく微笑んで、左胸に手を当てた。




「光栄にございますわ。キルヴェスター殿下を始め、わたくしたちのご学友の側近の皆様のお役に立つことができたこと、誇りに思いますわ。」


「ああ、本当にありがとう。今度、テレシ―侯爵にも直接お礼を言わせてほしい。」



「承知いたしましたわ、キルヴェスター殿下。」



俺と、テレシ―嬢が話している間、マーガレットたちは特に表情を変えずに穏やかに見守っていた。おそらくテレシ―嬢から事情をきいていたのだろう。

俺とテレシ―嬢の話がひと段落すると、マーガレットが再びゆっくりと口を開いた。


「それにしても、アース様のお怪我の具合が時間がかかるとしても、完治するものときいて本当に安心いたしましたわ。特に、マリア様とムンナ様は、アース様がお怪我をしたと聞いたときにひどく取り乱してしまいまして………。」


マーガレットがそういって、2人を見て「うふふふふ、」とほほ笑むと、2人は顔を赤らめてマーガレットの袖を引きながら、顔を扇子で隠してしまった。


「マ、マーガレット様! お止めくださいまし………。顔から火が出そうなくらい、お恥ずかしいですわ。」



「うふふふふ、ごめんなさいね。少し、からかいすぎてしまいましたわね。」


マーガレットはそういって、2人をなだめた。その後に、再び俺に向き直った。












しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...