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第二章 初学院編
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「さて、まずはここから降りた方が良いかもね。相手のA級がどのような強さを持っているかわからないけど、パワー型だったら騎士の身体強化で逃げ切れる可能性があるからね。一度、相手を確認した方が良いかもしれない。」
俺がそういうと、キルは馬車の壁を拳でたたきつけた。俺たち側近はわかっている、キルが俺たち側近を見捨てて逃げることは絶対にしないことを………。だけど、主をまもり逃がすことが俺たちの役目だ。
「キル、俺たち側近は命を懸けて戦う覚悟はできているよ。主であるキルも、覚悟を決めてほしい。何を捨ててでも生きる覚悟をね。それが、王族に生まれたキルの役目だよ。」
俺がそういうと、キルは「ギリッ」と、奥歯を強く噛みしめた。それを見てジールたち側近は、キルの肩を優しくたたいた。
「アース、ちょっといいか? 身体強化をすれば逃げ切れるというのはすこし、楽観的じゃないか? ここが町からどれくらい離れているかもわからないうえに、相手もA級だけじゃない。逃げ切るまで、魔力が持たないと考えていた方が良い。」
確かに、ローウェルの言うとおりだ。俺の考えが安直すぎた。A級の魔物相手に、力押しだけではキルを逃がすことができない。
ん………これは………。話し合いはもう終わりのようだ。
「みんな、タイムアップだよ。魔物たちが魔欲を高めて戦闘態勢に入っている。木の上でさらに馬車の中では逃げ場がないから、急いで降りてしまおう。………ただ気になる点が一つあるんだ。A級の魔物は、あまり動く気がなさそうだ。なにか企んでいるかもしれないから、頭に入れておいてほしい。」
俺がそういうと、キル以外の三人はゆっくりと頷いた。俺はキースにアイコンタクトを送って、先に降りてもらうことにした。当然だが、この高さから生身で降りることはできない。俺とジールとローウェルは、騎士の二人に背負ってもらう必要があるのだ。キースならローウェルとジールの二人を担いで降りることができるだろう。
「全員で生きて戻りましょう、主。」
「殿下、俺が必ずお守りします。」
「殿下、俺はあなたに感謝してるッスよ。だから、殿下は必ず生きてくださいッス。」
各々がキルに最大限の笑みを見せて一言言った後、キースが二人を担いで下へと飛び降りた。………俺が必ず、皆まとめて無事に逃がすから。たとえ、この身を犠牲にしてでも………。
「さあ、キル。俺達も下へ行こう。俺たちの一番の目的はキルを逃がすことだけど、それは何も俺たち自身がどうなってもいいと思っているわけではないよ。………だけど、この相手にはそういう覚悟が必要だということは理解してほしい。だからキル、最後まで俺たちを導いてほしい。最高の主に仕えていると、俺達に思わせてほしい。」
「………死なせない。もう誰も、大切な者を失いたくない。だから、俺はお前たちをあきらめない。俺にも譲れないものがあるからな。」
キルはそういうと、俺を背負うためにしゃがみこんだ。………まったく俺たちの主は、自分よりも他者を気遣うことを優先して困ったものだ。だからこそ、俺が必ず守るから。
俺はキルの背中に乗って、最後になるかもしれないその温もりを確かめながらキルと共に、下へと向かった。
――
下に降りると、キースたち三人はすでに戦闘態勢に入っていた。三人の正面には、様々な魔物たちがいた。中央にA級の魔物の魔力が感知できる。俺は中央にいるであろう、A級の魔物を探した。すると、魔物たちの間から一匹の魔物が姿を現した。その魔物を見た瞬間、俺は目を見開いて息をのんでしまった。
そこには、サルがいた。大きさはチンパンジーくらい、というのが妥当な表現だろう。そこまではいいんだ。………だけど、顔が気色悪かった。俺には人の顔と獣の顔が混ざったような顔に見える。半人面とでもいうのだろうか? なんにしろ、顔を見ているだけで鳥肌がおさまらない。もちろん、A級を前にした魔力の圧力というものもある。だけど、それ以上に顔の気味が悪すぎる。他の四人も、中央の魔物に視線が釘付けになっている。
「ヨウコソ、人間」
………は? 俺たちは、その気味の悪い魔物がいる方向から聞こえてきた声に耳を疑った。何しろ、魔物がしゃべったのだ。
魔物が人間の言葉をまねて音を発することはまれにある。だけど、意味を理解して使っているわけではない。現世のオウムなどがそうであるようにだ。だけど、この魔物は意味を分かって言葉を発しているように思える。この状況に加えて、さらなる異常事態が発生している。
「………お前、言葉を理解しているのか? その知識はどういう風に得たんだ?」
少しの間をおいてから、ローウェルが冷静にその魔物に話しかけた。流石ローウェルだ。こんな異常事態でも、冷静に情報を得ようとしている。
「コノ前サラッタ人間ニ教エサセタ。コノ男ダ。」
魔物はそういうと、首から下げていたペンダントを俺たちの方に投げた。地面に落ちたはずみで、ペンダントの蓋が開き中の写真が見えた。そこには、新婚と思われる男女二人の幸せそうな笑顔があった。この前さらったというのは、魔物の森の定期巡回で、騎士・魔導士の四人チームのうち、一人忽然と消えたあの事件の被害者だろうか?
俺達が言葉を失っていると、その魔物は人間の醜悪な部分を凝縮したような不気味な笑みを浮かべた。
「ソイツハ最後マデソノ女ノ名前ヲ呼ンデイタナ。マア、少シ拷問ヲシテ言葉ヲ教エサセタアトハ、食ッテシマッタケドナ。ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ」
………彼のことはしらないけれども、俺では推し量れないくらいの絶望に立たされたであろう。俺はゆっくりと、二人の写真を拾い上げた。
俺がそういうと、キルは馬車の壁を拳でたたきつけた。俺たち側近はわかっている、キルが俺たち側近を見捨てて逃げることは絶対にしないことを………。だけど、主をまもり逃がすことが俺たちの役目だ。
「キル、俺たち側近は命を懸けて戦う覚悟はできているよ。主であるキルも、覚悟を決めてほしい。何を捨ててでも生きる覚悟をね。それが、王族に生まれたキルの役目だよ。」
俺がそういうと、キルは「ギリッ」と、奥歯を強く噛みしめた。それを見てジールたち側近は、キルの肩を優しくたたいた。
「アース、ちょっといいか? 身体強化をすれば逃げ切れるというのはすこし、楽観的じゃないか? ここが町からどれくらい離れているかもわからないうえに、相手もA級だけじゃない。逃げ切るまで、魔力が持たないと考えていた方が良い。」
確かに、ローウェルの言うとおりだ。俺の考えが安直すぎた。A級の魔物相手に、力押しだけではキルを逃がすことができない。
ん………これは………。話し合いはもう終わりのようだ。
「みんな、タイムアップだよ。魔物たちが魔欲を高めて戦闘態勢に入っている。木の上でさらに馬車の中では逃げ場がないから、急いで降りてしまおう。………ただ気になる点が一つあるんだ。A級の魔物は、あまり動く気がなさそうだ。なにか企んでいるかもしれないから、頭に入れておいてほしい。」
俺がそういうと、キル以外の三人はゆっくりと頷いた。俺はキースにアイコンタクトを送って、先に降りてもらうことにした。当然だが、この高さから生身で降りることはできない。俺とジールとローウェルは、騎士の二人に背負ってもらう必要があるのだ。キースならローウェルとジールの二人を担いで降りることができるだろう。
「全員で生きて戻りましょう、主。」
「殿下、俺が必ずお守りします。」
「殿下、俺はあなたに感謝してるッスよ。だから、殿下は必ず生きてくださいッス。」
各々がキルに最大限の笑みを見せて一言言った後、キースが二人を担いで下へと飛び降りた。………俺が必ず、皆まとめて無事に逃がすから。たとえ、この身を犠牲にしてでも………。
「さあ、キル。俺達も下へ行こう。俺たちの一番の目的はキルを逃がすことだけど、それは何も俺たち自身がどうなってもいいと思っているわけではないよ。………だけど、この相手にはそういう覚悟が必要だということは理解してほしい。だからキル、最後まで俺たちを導いてほしい。最高の主に仕えていると、俺達に思わせてほしい。」
「………死なせない。もう誰も、大切な者を失いたくない。だから、俺はお前たちをあきらめない。俺にも譲れないものがあるからな。」
キルはそういうと、俺を背負うためにしゃがみこんだ。………まったく俺たちの主は、自分よりも他者を気遣うことを優先して困ったものだ。だからこそ、俺が必ず守るから。
俺はキルの背中に乗って、最後になるかもしれないその温もりを確かめながらキルと共に、下へと向かった。
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下に降りると、キースたち三人はすでに戦闘態勢に入っていた。三人の正面には、様々な魔物たちがいた。中央にA級の魔物の魔力が感知できる。俺は中央にいるであろう、A級の魔物を探した。すると、魔物たちの間から一匹の魔物が姿を現した。その魔物を見た瞬間、俺は目を見開いて息をのんでしまった。
そこには、サルがいた。大きさはチンパンジーくらい、というのが妥当な表現だろう。そこまではいいんだ。………だけど、顔が気色悪かった。俺には人の顔と獣の顔が混ざったような顔に見える。半人面とでもいうのだろうか? なんにしろ、顔を見ているだけで鳥肌がおさまらない。もちろん、A級を前にした魔力の圧力というものもある。だけど、それ以上に顔の気味が悪すぎる。他の四人も、中央の魔物に視線が釘付けになっている。
「ヨウコソ、人間」
………は? 俺たちは、その気味の悪い魔物がいる方向から聞こえてきた声に耳を疑った。何しろ、魔物がしゃべったのだ。
魔物が人間の言葉をまねて音を発することはまれにある。だけど、意味を理解して使っているわけではない。現世のオウムなどがそうであるようにだ。だけど、この魔物は意味を分かって言葉を発しているように思える。この状況に加えて、さらなる異常事態が発生している。
「………お前、言葉を理解しているのか? その知識はどういう風に得たんだ?」
少しの間をおいてから、ローウェルが冷静にその魔物に話しかけた。流石ローウェルだ。こんな異常事態でも、冷静に情報を得ようとしている。
「コノ前サラッタ人間ニ教エサセタ。コノ男ダ。」
魔物はそういうと、首から下げていたペンダントを俺たちの方に投げた。地面に落ちたはずみで、ペンダントの蓋が開き中の写真が見えた。そこには、新婚と思われる男女二人の幸せそうな笑顔があった。この前さらったというのは、魔物の森の定期巡回で、騎士・魔導士の四人チームのうち、一人忽然と消えたあの事件の被害者だろうか?
俺達が言葉を失っていると、その魔物は人間の醜悪な部分を凝縮したような不気味な笑みを浮かべた。
「ソイツハ最後マデソノ女ノ名前ヲ呼ンデイタナ。マア、少シ拷問ヲシテ言葉ヲ教エサセタアトハ、食ッテシマッタケドナ。ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ」
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