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第二章 初学院編
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ジーマル辺境伯領まであと少しというところに今は来ている。夜にしっかりと休んで、明日一日移動すれば辺境伯領にはたどり着くだろう。
「ジール、交代の時間だよ。」
「う………了解ッス。」
俺が寝ているジールのもとに行き交代を告げると、ジールはまだ眠そうな目をこすりながらのそのそと寝袋から這い出てきた。
王都から辺境伯領への行く道の終盤は、細い山道となっている。今回が初めての野営に加え、次の日が山越えということで俺たち初学院生組は馬車の中でゆっくりと休むようにと、新人の方々が気を遣ってくれたのだ。馬車内の不寝番を交代で行うことにして、俺達は最後のひと踏ん張りに備えて休ませてもらうことにした。
「じゃあジール、俺は眠るからあとはよろしくね。感知してたけど、特に異変はないようだしこのまま朝を迎えることができそうだね。」
「みたいッスね。じゃあアースも、ゆっくりと休むッスよ。お休みッス。」
「うん、お休み。」
俺は徐々に疲れてきている心身を少しでも休ませようと、すぐに寝袋に入って目を閉じた。それに、あんまり動いていると近くで眠っているキルたちを起こしてしまうからね。
俺はそのまま、眠りに落ちた。
――
俺は突然の揺れとジールの叫び声で目を覚ました。
「全員、起きるッスよ!」
しかし状況を把握しようとした瞬間、俺達は急な浮遊感に襲われてそして、馬車の隅の方に体が投げ飛ばされた。
「どうした、どうなっている………うわぁ!!」
馬車の隅の方に体が投げ飛ばされたかと思うと、今度は馬車の上部に体が投げ飛ばされた。そして今度は、馬車の下部にからだが投げ飛ばされた。
………これはこの馬車が空中で回転しているのか?
ドンッ! その瞬間、俺は馬車の壁に頭を強打して意識を失った。
――
「………きろ。起きろ、アース!」
俺はキルの声で意識を取り戻した。いてて………頭の側頭部に痛みが走る。先ほど強打したときに、たんこぶができてしたようだ。
それよりも!!
「さっきのはいったい何? まさか、敵襲なの?」
「落ち着け、アース。俺にも何が起こっているのかだ分からないんだ。まずは他の皆を起こそう。」
見ると、他の三人も俺と同じように頭を強打して意識を失っているようだった。俺はキルの言葉にうなずいてすぐに、三人を起こしにかかった。いったい何が起こっているんだ………。
俺は三人を起こす傍らで、カーテンの隙間から外の状況を覗いた。
な、なんだよこれ………。
カーテンの隙間から見えたものは、一面の木の枝と葉っぱだった。木の枝がこんなに見えるということは、まさかこの馬車は今、木の上にあるのか?
「キル、この馬車は今もしかして木の上に………。」
「ああ。………だけど今は、三人を起こしてからだ。不寝番だったものならば、何か見聞きしているかもしれない。」
そうか、ジールなら何か知っているかもしれない。俺はジールの頭をさすって、こぶができているところに癒しをかけながらジールの名前を呼んだ。
少しすると、全員が目を覚ました。起きたばかりのローウェルとキースは、俺とキルと同じように事態をうまく把握できていないようだったけど、ジールは青白い顔をしていた。そんなジールにキルは、ジールの背中をさすりながら優しく声をかけた。
「ジール、今は一刻を争う事態かもしれないんだ。何か知っているなら、話してくれるか?」
「………はいッス。俺は殿下の側近ッス、だから報告はしっかりするッス。だけど、俺もほとんどよくわからないッス。俺が見たのは、カーテンに浮かび上がった大きな魔物のようなやつッス。すると突然、馬車が傾いてそのまま馬車が空中に放り出されたッス。」
「ちょっと待て、ということはそのデガい魔物が、この馬車をここへ投げ飛ばしたということか?」
キースがそういうと、ジールはゆっくりと頷いた。
な、なんということだ。この大きな馬車を投げ飛ばしたということか? そんなことができるのは、人間とは何もかもが違う魔物だけだ。
それよりも、ここはどこで、護衛団はどうなったんだ?
「馬車の周りにいた騎士や魔導士はどうなったんだ?」
「音は特に何にも聞こえなかったッス。………どうなっているのかは、俺にもわからないッス。」
ローウェルの問いに対して、ジールはゆっくりと首を振りながら静かに答えた。音が何も聞こえなかったというのは、少し不自然ではないだろか? そんな大きな魔物が現れたら騒ぎになるだろうし、なによりでかい魔物を騎士や魔導士たちが放っておくはずがない。
考えられるのは、声を上げる間もなくやられたか意識を奪われたかだけど………今は自分たちの心配をしなければならない。
「護衛の皆さんのことも心配だけど、今は俺達の状況を把握することが先決だよ。俺は感知してみるから、四人は窓から周囲の状況を探ってくれる? これでいいかな、キル?」
「ああ、わかった。各々、何か気付いたらすぐに報告してくれ。」
俺達が頷くと、キルたち四人は静かに窓際に移動した。俺も自分の仕事をしっかりしよう。心臓の鼓動がいつも以上に速い。みんな口にはだしていないけど、この状況はとてつもなくまずい。
俺はゆっくり息を吐いて、感知を始めた。するとすぐに、俺は悟った。これは完全に詰んでいる、と。
「みんな、落ち着いて聞いて。この木の下に、A級相当の魔物が一体とB級の魔物が十体いる。俺たちは狙ってこの場所に投げ飛ばされたみたいだ………。」
俺がそういうと、全員が言葉を失って目を見開いた。
そう、この状況はほとんど終わりに近い。B級なら一対一ならまだ勝てるかもしれない。だけど、俺達の倍の数がいる。だけどそれは、些細な問題だ。なぜなら、A級の魔物は文字通り次元が違うからだ。A級と勝負になるのは団長クラスの人物だ。だけど団長たちでさえも、A級と戦うときはチームで戦っている。勝負なるとはいっても、一対一だとほとんど負ける場合が多いからだ。
それを、初学院生の俺たちが相手にできるわけがない。俺も魔力が多いとはいっても、初級魔法しか扱えない。これはもう………。
「A級だと………。A級がいるということは、ここは魔物の森の奥地なのか? A級以上は魔物の森の奥地に生息しているはずだ。ここが魔物の森の奥地だとしたら………。いやそれ以前に、A級が一体いる時点で状況は最悪だ。」
キルの言うとおり、A級なんてめったにお目にかかれない。スタンピートでも出てきて数体くらいだ。だけど………。
「ここは魔物の森ではないかもしれない。感知したけど、下にいる奴ら以外の魔物は見当たらない。魔物の森にしては、魔物の数が少なすぎるからね。」
「アースの言う通りなら、ここはまだ辺境伯領の周辺ということだ。だから、下のやつらさえどうにかできれば逃げ切れる可能性はある。………だけど、A級を相手にそれはほとんど不可能だ。だとすれば、俺たち側近の役目は………わかっているな?」
ローウェルの言葉に俺たちはゆっくりと頷いた。………そう、俺たち側近の役目は「キルヴェスター殿下を命がけで逃がすこと」だ。
「ジール、交代の時間だよ。」
「う………了解ッス。」
俺が寝ているジールのもとに行き交代を告げると、ジールはまだ眠そうな目をこすりながらのそのそと寝袋から這い出てきた。
王都から辺境伯領への行く道の終盤は、細い山道となっている。今回が初めての野営に加え、次の日が山越えということで俺たち初学院生組は馬車の中でゆっくりと休むようにと、新人の方々が気を遣ってくれたのだ。馬車内の不寝番を交代で行うことにして、俺達は最後のひと踏ん張りに備えて休ませてもらうことにした。
「じゃあジール、俺は眠るからあとはよろしくね。感知してたけど、特に異変はないようだしこのまま朝を迎えることができそうだね。」
「みたいッスね。じゃあアースも、ゆっくりと休むッスよ。お休みッス。」
「うん、お休み。」
俺は徐々に疲れてきている心身を少しでも休ませようと、すぐに寝袋に入って目を閉じた。それに、あんまり動いていると近くで眠っているキルたちを起こしてしまうからね。
俺はそのまま、眠りに落ちた。
――
俺は突然の揺れとジールの叫び声で目を覚ました。
「全員、起きるッスよ!」
しかし状況を把握しようとした瞬間、俺達は急な浮遊感に襲われてそして、馬車の隅の方に体が投げ飛ばされた。
「どうした、どうなっている………うわぁ!!」
馬車の隅の方に体が投げ飛ばされたかと思うと、今度は馬車の上部に体が投げ飛ばされた。そして今度は、馬車の下部にからだが投げ飛ばされた。
………これはこの馬車が空中で回転しているのか?
ドンッ! その瞬間、俺は馬車の壁に頭を強打して意識を失った。
――
「………きろ。起きろ、アース!」
俺はキルの声で意識を取り戻した。いてて………頭の側頭部に痛みが走る。先ほど強打したときに、たんこぶができてしたようだ。
それよりも!!
「さっきのはいったい何? まさか、敵襲なの?」
「落ち着け、アース。俺にも何が起こっているのかだ分からないんだ。まずは他の皆を起こそう。」
見ると、他の三人も俺と同じように頭を強打して意識を失っているようだった。俺はキルの言葉にうなずいてすぐに、三人を起こしにかかった。いったい何が起こっているんだ………。
俺は三人を起こす傍らで、カーテンの隙間から外の状況を覗いた。
な、なんだよこれ………。
カーテンの隙間から見えたものは、一面の木の枝と葉っぱだった。木の枝がこんなに見えるということは、まさかこの馬車は今、木の上にあるのか?
「キル、この馬車は今もしかして木の上に………。」
「ああ。………だけど今は、三人を起こしてからだ。不寝番だったものならば、何か見聞きしているかもしれない。」
そうか、ジールなら何か知っているかもしれない。俺はジールの頭をさすって、こぶができているところに癒しをかけながらジールの名前を呼んだ。
少しすると、全員が目を覚ました。起きたばかりのローウェルとキースは、俺とキルと同じように事態をうまく把握できていないようだったけど、ジールは青白い顔をしていた。そんなジールにキルは、ジールの背中をさすりながら優しく声をかけた。
「ジール、今は一刻を争う事態かもしれないんだ。何か知っているなら、話してくれるか?」
「………はいッス。俺は殿下の側近ッス、だから報告はしっかりするッス。だけど、俺もほとんどよくわからないッス。俺が見たのは、カーテンに浮かび上がった大きな魔物のようなやつッス。すると突然、馬車が傾いてそのまま馬車が空中に放り出されたッス。」
「ちょっと待て、ということはそのデガい魔物が、この馬車をここへ投げ飛ばしたということか?」
キースがそういうと、ジールはゆっくりと頷いた。
な、なんということだ。この大きな馬車を投げ飛ばしたということか? そんなことができるのは、人間とは何もかもが違う魔物だけだ。
それよりも、ここはどこで、護衛団はどうなったんだ?
「馬車の周りにいた騎士や魔導士はどうなったんだ?」
「音は特に何にも聞こえなかったッス。………どうなっているのかは、俺にもわからないッス。」
ローウェルの問いに対して、ジールはゆっくりと首を振りながら静かに答えた。音が何も聞こえなかったというのは、少し不自然ではないだろか? そんな大きな魔物が現れたら騒ぎになるだろうし、なによりでかい魔物を騎士や魔導士たちが放っておくはずがない。
考えられるのは、声を上げる間もなくやられたか意識を奪われたかだけど………今は自分たちの心配をしなければならない。
「護衛の皆さんのことも心配だけど、今は俺達の状況を把握することが先決だよ。俺は感知してみるから、四人は窓から周囲の状況を探ってくれる? これでいいかな、キル?」
「ああ、わかった。各々、何か気付いたらすぐに報告してくれ。」
俺達が頷くと、キルたち四人は静かに窓際に移動した。俺も自分の仕事をしっかりしよう。心臓の鼓動がいつも以上に速い。みんな口にはだしていないけど、この状況はとてつもなくまずい。
俺はゆっくり息を吐いて、感知を始めた。するとすぐに、俺は悟った。これは完全に詰んでいる、と。
「みんな、落ち着いて聞いて。この木の下に、A級相当の魔物が一体とB級の魔物が十体いる。俺たちは狙ってこの場所に投げ飛ばされたみたいだ………。」
俺がそういうと、全員が言葉を失って目を見開いた。
そう、この状況はほとんど終わりに近い。B級なら一対一ならまだ勝てるかもしれない。だけど、俺達の倍の数がいる。だけどそれは、些細な問題だ。なぜなら、A級の魔物は文字通り次元が違うからだ。A級と勝負になるのは団長クラスの人物だ。だけど団長たちでさえも、A級と戦うときはチームで戦っている。勝負なるとはいっても、一対一だとほとんど負ける場合が多いからだ。
それを、初学院生の俺たちが相手にできるわけがない。俺も魔力が多いとはいっても、初級魔法しか扱えない。これはもう………。
「A級だと………。A級がいるということは、ここは魔物の森の奥地なのか? A級以上は魔物の森の奥地に生息しているはずだ。ここが魔物の森の奥地だとしたら………。いやそれ以前に、A級が一体いる時点で状況は最悪だ。」
キルの言うとおり、A級なんてめったにお目にかかれない。スタンピートでも出てきて数体くらいだ。だけど………。
「ここは魔物の森ではないかもしれない。感知したけど、下にいる奴ら以外の魔物は見当たらない。魔物の森にしては、魔物の数が少なすぎるからね。」
「アースの言う通りなら、ここはまだ辺境伯領の周辺ということだ。だから、下のやつらさえどうにかできれば逃げ切れる可能性はある。………だけど、A級を相手にそれはほとんど不可能だ。だとすれば、俺たち側近の役目は………わかっているな?」
ローウェルの言葉に俺たちはゆっくりと頷いた。………そう、俺たち側近の役目は「キルヴェスター殿下を命がけで逃がすこと」だ。
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