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第二章 初学院編
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しおりを挟む「こちらを身につけていただくわけにはまいりません。なぜなら、わたくしは一流の調香師としてのお仕事をまだできていませんもの。今行ったことは、アース様のご要望通りの香りを調合したにすぎません。一流の調香師は、お相手のご要望に応えたうえでさらに、ご本人に合う香りを新たにご提案することです。」
………これが、カーラ様の一流の調香師としての矜持なのか。与えられたこと完璧にこなすだけではなく、それにさらに付加価値をつけてこその一流か。この姿勢は、見習っていきたい。側近としての心構えにも通じるものがありそうだ。
「カーラ様の一流としての心構えに、私は敬意をお払いします。ここはお言葉に甘えさせていただきまして、私に似合う香りを提案していただけますか。」
「かしこまりました、アース様。………そうですね、アース様には落ち着いた香りが似合うかと存じます。それと、人が使っている香りの一部をいただくという方法もございます。例えば、家族や恋人からいただくということがよくございます。他には、主よりもらい受けるということもございますね。」
落ち着いた香りか………。そういえば、前世では檜風呂が好きだったな。木の香りは落ちついいた香りに分るされるとは思うけど、この世界にあるかわからないし、何より柑橘系の匂いに合うのかもわからない。他には、主からもらい受けるか………。キルの香水は、白檀の香りをベースに落ち着いた香りが特徴だ。………白檀なら、柑橘系の匂いに合うだろうか。
「カーラ様、先程調合していただいた香水に白檀の香りは合いますでしょうか?」
俺がそういうと、カーラ様は目を瞬かせて、キルははっとしたような表情で俺の方を向いた。キルは前に同じ香水を使わないかと提案してくれたのに、なぜそんなにも驚いているのだろうか?
「一般的にはあまり見ない組み合わせですけど、わたくしがアース様に合う香りを調合して見せましょう。」
「ありがとうございます、カーラ様。キル、事後承諾になってしまって申し訳ないけど、白檀の香りを使わせてもらってもいいかな?」
俺がそういうと、キルはうれしそうな恥ずかしそうな表情で笑って頷いてくれた。側近が自分と同じ香りを一部でも使ってくれるということは、主として嬉しいこと、ということかな? 今度側近仲間のみんなにも聞いてみよう。
「ありがとう、キル。ではカーラ様、よろしくお願いします。」
「かしこまりました、アース様。」
そうしてカーラ様は、再び調合と向き合い始め集中しだした。俺とキルはその様子をしばらく見守った後、もうしばらく時間がかかると判断して邪魔にならないように少し離れた場所に移動して、お茶をしながら話すことにした。
時間を忘れて話していると、カーラ様から声がかかった。どうやら、カーラ様の納得のいく香水が仕上がったようだ。
「アース様、キル坊ちゃま、お待たせいたしました。お試しくださいませ。」
俺はカーラ様から小瓶を受けって、ゆっくりとかいでみた。………これは、初めて嗅ぐ匂いだ。だけど、瑞々しい果実の中に、白檀の落ち着いた香りがしっかりと感じられる。………好きだな、この匂い。自然とそう思える、そんな香りだ。
「カーラ様、つけてみてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんですわ。香水の香りは、一肌に付くことにより変化いたしますからね。ご自身の体の香りと馴染むのかどうか、お確かめくださいませ。」
俺はカーラ様に一言お礼を述べて、香水を手首につけてみた。少し時間をおいて、再び嗅いでみた。………うん、俺の体の匂いにもうまく調和しているようだし、とてもいい香りだ。だけど、香りの感じ方は人によって違うものだ。俺自身はよくとも、周囲に迷惑をかけるような香りならやめておいた方が良い。よし、キルにも確かめてもらおうか。
「キル、良かったら匂いを確かめてもらってもいいかな? 周囲によくいるキルや側近のみんなに不快な香りを至近距離で嗅がせることになるのは、本意ではないからね。」
「ああ、俺でよければ是非。」
キルはそういうと、俺の腕を丁寧につかんだ後、ゆっくりと自分の鼻に近づけた。………うん? これってなかなか心臓に悪いような………。いや、考えるな。何も考えずに、キルが嗅ぎ終わるのを待つことに集中しよう。
キルが俺の腕の匂いを嗅いでいる時間は、時間にするとほんの十秒にも満たなかったが、俺にはとても長い時間に感じた。肝心のキルはと言うと、においをかぎ終わった後も何やら難しい顔で何かを考えこんでいるようだった。
………そんなに難しい顔をしなければいけないほど、嫌な匂いだったのだろうか?
「………えーと、キル。そんなに嫌な匂いだったのかな?」
俺がそういと、キルはハッとしたような表情を浮かべて、すぐに首を横に振った。………
よかった、そういうわけではなかったようだ。
「嫌ではない! とてもアースにあっていて、素敵な匂いだと思う! ………ただ、合いすぎていて問題があるというか、何というか………。」
「え? 問題って、どういうこと?」
俺がそれからいくら聞いても、キルは愛想笑いを浮かべながら俺の追及をのらりくらり躱すだけだった。………これはいくら聞いても答えてくれそうにないな。
すると、カーラ様静かに笑いだした。
「うふふふふふ。キル坊ちゃまとアース様は、本当に仲がよろしいのですわね。坊ちゃまにアース様のような素敵なお友達が現れてくださいましてわたくし、本当にうれしゅうございます。」
カーラ様はそういうと、俺とキルのことをほほえましいものを見るかのような温かい目をした。
は、恥ずかしいところをお見せしてしまった………。俺とキルは、互いに気恥ずかしい笑みを浮かべて笑い合った。
「………そういっていただけて、私もうれしいです。そして私自身も、キルとあえて本当に幸いでした。キル、これからもよろしくね。」
「と、突然だな………。俺の方こそ、アースが友人にそして、側近になってくれて本当にうれしい。こちらこそ、これからもよろしく頼む。」
突然の羞恥プレイタイムとはなったものの、念願のマイ香水をつくることができて本当に楽しい一日だった。
――
それから、香水を側近仲間のみんなに褒めてもらったり、訓練をしたり、お茶会をしたりと充実した冬休みを過ごした。この調子で、貴族院に向けて頑張っていきたい。
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