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第二章 初学院編

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俺達の準備が整ったことで、いよいよ扉が開かれた。王の間は廊下とは比べ物にならないくらい豪華絢爛だった。目がちかちかするのが気にならないくらい、緊張を増幅させる代物だ。次に人物について観察してみると、中央には豪華な椅子に座っている二人の姿が見えた。一人は赤い髪のイケメンだから国王様だろう。三児の父とは思えないほどの若々しさだ。もう一人はウェル殿下の母親、つまり今の王妃様だろう。その他にはアルベルト殿下とウェル殿下、そしてカーナイト様を始めとした重鎮たちや重役たち、父上などたいそうなメンバーが勢ぞろいしている。

いくら「悪魔の呪い」の仮説を立てたとはいえ、八歳児の辺境伯家の次男には不釣り合いすぎる面々だと思うのは俺だけだろうか?




「よく来てくれた、其方がアース・ジーマルだな?」


俺が視線だけで建物や人物の観察をしてると、国王様から朗々とした声で話しかけられた。お顔だけではなく声もイケメンのようだ。確かに、キルたち三兄弟の誰に似ているかと問われるとアルベルト殿下に系統が近いようだ。



「はい、左様でございます。お初にお目にかかります、ジーマル辺境伯家次男アース・ジーマルと申します。」


「うむ。其方には個人的に礼をしたいところだが、今回は「悪魔の呪い」の原因究明に多大な貢献を果たした其方に褒美を与える。」


「もったいなきお言葉にございます。」



個人的にお礼がしたいと言うのは、アルベルト殿下と同じくキル関係のことだろうか? 感謝されるのはもちろんうれしいけど、あまりにも恐れ多いのでその言葉だけで十分だ。それから「悪魔の呪い」の件についても辞退をしたいのだけど、この期に及んで「自分は仮説を言っただけですから」などと言ったところで、心証が悪くなるだけだから素直に受け取るのが吉だ。



「ではまず、其方の功績についてだがそれは、其方の仮説による多くの子らの救済だ。其方のおかげで、現在や将来の多くの子らが救われたと言っても過言ではないだろう。また各国としても、魔力量の多い子らを知らずに失わずに済む。其方はこの国だけではなく、多くの国々にも影響を与えたのだ。」


「恐縮にございます。」



俺と同じように魔力過多に苦しむ子供たちが減るのであればすごくうれしい。だけど、魔力が多いとわかれば養子や誘拐など色々な厄介ごとが起こりそうだ。各国の責任者には、そこら辺の対策をしっかりと練ってほしい。現状の俺では、自身で何とかすることはできないのがもどかしい。



「各国から感謝の声が上がっている。その中でも人口が多いアイバーン帝国では、救われた子が多いとして其方への感謝状と共に、アイバーン帝国貴族院への推薦状が届いている。」



国王様がそういった瞬間に、周囲の貴族からどよめき声が上がった。隣にいるキルも驚いた表情をしているから、知らされていなかったのだろう。それにしても、他国の貴族院への推薦権はそんなにも珍しいものなのだろうか? 俺がなんと返していいものかと悩んでいるのがわかったのか、国王様が事情を説明してくれた。


「帝国は騎士、魔導士ともに最高峰の国だ。その貴族院へ入学するものは基本的に帝国の貴族なのだが、他国の貴族を全く受け入れていないわけではない。だが、入学するためには帝国からの推薦状が必要であり、他国の貴族が簡単に入ることのできる場所ではないのだ。しかし、其方はキルヴェスターの側近見習いだ。通常、側近は主と同じ貴族院に進むため、キルヴェスターとよく相談しなさい。余としては、其方が帝国の貴族院で実力をつけたのちに我が国へと帰ってきてくれるのが一番だと考えるが、それは其方の自由にするといい。」



そういうことか。世界最高峰の貴族院の推薦状で且つめったにお目にかかれるものではないから、周囲の皆さんがどよめいていたのか。大変ありがたいけど、キルがアーキウェル王国の貴族院に進む以上、俺にはほかの選択肢はないんだよな。帝国の貴族院には興味があるけど、キルと一緒にいたいのだ。………だけど、キルに婚約者ができたら精神衛生を考えて、帝国の貴族院に途中留学するというパターンもあるかもしれない。ここは保険の意味も兼ねて、一応受け取っておこう。



「承知いたしました、光栄にございます。」


「うむ。では次に我が国からの褒美についてだが、一つ目は其方へアーキウェル王国貴族院への推薦状を与える。だが調べたところによると、其方は成績優秀であり推薦状がなくとも、貴族院には入学できそうだという報告が上がっている。よって別の褒美を与えたいと考えているが、なにか希望はあるか?」


アーキウェル王国への推薦状があるということは、遊んでいても貴族院には入れるということになるけど、将来の自分が困るしキルの役に何もたたないためそんなことはしない。俺としては別の褒美はいらないんだけど、何か言わないと帰してくれなそうな雰囲気だ。………何かあるかな?


あ!そうだ! さっき考えていた、魔力過多の子供の人権に関しての法整備を各国にお願いしてもらうというのはどうだろうか? 通常では法の整備なんて簡単にはいえないけど、今なら絶好のチャンスだ。よし!



「………では恐れながら、魔力過多の子供たちの人権保護のための法整備及び、各国の法整備へのお声がけをお願いしたく存じます。」



俺がそういうと、国王陛下を始め周囲のみんなは鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔をした。やはり、法の整備をお願いするなんて烏滸がましいお願いだったかな………。まずそうならすぐに訂正したいけど、どうなんだろうか?


「………其方はそれで良いのか? もっと其方のためになる権力や金品などは要求しないのか?」


「はい、私が望むものは先ほど申し上げたものだけにございます。私は現状に満足しております。これ以上何かを望むと罰が当たるかと存じます。それに………魔力が多い子供には様々な思惑が飛び交うのではないかと考えます。せっかく救われた子供たちに更なる困難は必要ないかと存じます。」



魔力過多は本当につらい。病弱の症状もそうだけど、俺のように同世代の子供たちから取り残されるのはもっとつらい。その子供たちがさらい大人たちの思惑に振り回されるのは、あまりにもひどすぎる。



「わかった、其方お望み叶えよう。」

「恐縮にございます。」




それからすぐに退出の許しが出たため、俺とキルはそろって退出をした。緊張したけど、結構早めに終わったみたいで安心した。











――








退出後は、キルの部屋に向かっている。前回来た時に香水の話をして、キルの専属の調香師を紹介してくれることになっていたのだ。キルと何かをすることって久しぶりだから楽しみだな。



「キル、この後楽しみだね。今日は時間をとってくれてありがとう。」


「………ああ。」



うん? なんか元気がないような気がするけど、気のせいだろうか? キルは何か言いたそうに、俺の様子をうかがっているようだ。



「キル、どうかしたの? なんか元気がないようだけど。」



俺がそういうと、キルは少し言葉を詰まらせていた。何かをいおうか言わまいか迷っている、そんな様子だ。しかし、少しすると意を決したように口を開いた。



「………行きたかったか? 帝国の貴族院に。行きたいなら、俺は止めはしない。アースの可能性をつぶしたくないからな。」



………そのことか。キルは優しいから、俺が行きたいと言えば止めはしないだろうな。だけど、俺はできるだけキルの近くにいたいし、行くつもりはないよ。引き留めてほしいとまではいわないけど、「勝手にしろ」と言われているようで、少し悲しいな。



「………う、うん。キルは優しいね、ありがとう。」



俺の言葉に対して、キルはぎこちない笑みを浮かべるだけだった。少しの沈黙が流れると、突然アルベルト殿下が現れた。
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