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第二章 初学院編

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「では最初に、アース様の現状を見せていただけますか? 『氷弾』で構いませんので、お願いいたします。」


「かしこまりました。」



俺はいつものように魔力を制限することに集中した。魔力がありすぎて、これを制限するのが本当に難しいのだ。


『氷弾』



ドンッ!  

いつも通りの氷山が現れた。現在の大きさは初回に比べたらましと言える程度であり、現状でもお世辞にも実践向きとは言えない。



「なるほど、これは見事な魔力量ですね。しかし、サールの言っていた通りこれでは実践には向きません。壁で防御出来ないにしても、簡単に避けることが可能です。………少し邪魔ですので、遠くに飛ばしますね。」



カーナイト様はそう微笑むと、氷山に手を当てた。その瞬間、氷山があっという間にどこかに消えた。



いやいやいや! この人、流石にチート過ぎないか? 転移で自由に行き来できるのも充分にすごいと思っていたけど、あんなに大きなものまで一瞬でどこかに飛ばしてしまうとは………。ジールが以前、自分が知る中でカーナイト様が最強だと言っていたけど、最強を優に超えている気がする。

俺に加えて、周りにいる人たちも口を開けて一瞬で消えた氷山の影を追っていた。転移が最強すぎる。

カーナイト様は再び微笑むと、何事もなかったかのように話を進めた。



「アース様の行っている魔力制限は正解の一つです。しかし、この分では一般的な大きさにできるまで何年いえ………何十年かかかるでしょう。加えて、他の魔導士と違い魔力を制限するという工程が入ることで、煩雑さも出てくるでしょう。この事から、この方法は正解ではありますが、最適解ではないのです。」




転移の件はスルーされてしまったので、一旦おいておこう。確かに魔力を制限する工程が入ると面倒くさいし、そんなに時間がかかっていては話にならない。ということは、ヴィーナ様が行っていた方法が最適解ということか。



「ヴィーナも最初は魔力を制限していましたが、すぐに最適ではないと判断し別の方法を考え付きました。それが、「魔力展開」です。余分な魔力を自分の周囲に展開することで魔力の制限を行わずに魔法を放つことができます。また、自身の魔力を広域に展開することにより様々な恩恵を受けることができます。」



魔力展開………。そういうことか! 魔力をおさえるのではなく、むしろ周囲にまき散らして有効活用しようということか! まさに逆転の発想である。

………でも、余分な魔力を周囲にまき散らしていたのなら、ヴィーナ様の体内の魔力量は少なくなっていて、病弱も治っていたのではないだろうか? 俺がこの時計をつけて、余分な魔力を放出している様に………。



「………その放出を行えば、「私たち」の症状も緩和されるということでしょうか? この腕時計をつけていなくても………。」



カーナイト様はそういうと、静かに頷いた。私たちというのが俺とヴィーナ様ということが伝わったようなので、「悪魔の呪い」のことも知っているのだろう。じゃあ、なんでヴィーナ様は生前まで苦しんでいたのだろうか………?




「………ヴィーナは、子供のころからよく高熱を出していました。しかし、魔導士として活躍していくうちにその症状はなくなっていきました。魔力展開により、訓練や実践で魔力の放出が出来ていたからですね。しかし、王妃になり王城に入ったことで魔導士ではなくなりました。その結果、魔力を放出することができずに昔のように病弱になっていってしましました。………これはアース様がお気づきになられた、「悪魔の呪い」と魔力量の関係から導き出される私の推論です。」




………まだ証明されてはいないが、その因果関係が真であるならばカーナイト様の推論は間違っていないと思う。魔導士だったころは自然に魔力を放出で来ていたが、王妃となったことでその機会もなくなり魔力が体内にたまる一方となり、体調を崩してしまった。

もしも、もっと早くこの因果関係が知られていたならと思うと………。だけど、そう思っているのは俺以上にカーナイト様やキルたちの方だ。俺は何も言うことができずに、ただ静かに下を向いた。




「申し訳ございません、暗い話をしたかったのではないのです。アース様のおかげで、私たちの内でくすぶっていた炎が静かに消えていきました。だからこそ、アース様に魔力展開を引き継いでいただきたいというお話です。………魔力を周囲に放出するにおいて、その範囲や量、無意識にできるかどうかなど課題はたくさんありますが………引き継いでいただけますか?」




俺に引き継いでほしいか………。カーナイト様がそうおっしゃるのなら、俺が引き継がさせていただきたいと思う。隣にいるキルも笑顔でうなずいてくれた。



「承知しました。よろしくお願いいたします。」



俺がそういうと、カーナイト様はゆっくりと頷いた。そして、転移で十メートルくらい後ろに下がった。



「では本日の課題は、私がいるところまで魔力を放出することです。最初は難しいとは思いますが、少しずつ頑張っていきましょう。最初は特に助言は致しませんので、アース様の思うままにやってみてください。」



魔力を放出するか………。アドバイスなしでやるということは、俺もポテンシャルが試されているのだろうか? それならば、皆も見ているし頑張ってやるしかない!

思い出せ、魔法はイメージだ。イメージ次第で、魔法は大きくも小さくもなる。魔力を放出するのは、たぶんできる。礼儀作法のような感じで、魔力に感情をのせて威圧とかができると思う。正の感情よりも、最初は負の感情をのせた方がわかりやすいと思うな。こう、周囲を威圧する感じで………。いや、もちろん威圧したいわけではもちろんない。あくまでそういうイメージで………。


俺は深呼吸をして、目を閉じた。魔法を使うときは大体敵がいるときだろうから、その敵を威圧するような感じで魔力を放出する感じで………。



『魔力展開』



その瞬間、パンッと乾いた音が響いた。音のした方向を見ると、カーナイト様が手をたたいた音だったようだ。



「素晴らしいです。助言なしに魔力を放出できるとは、お見事です。ただ、のせる感情を間違えていますね。私が止めなければ、何人かの生徒が失神していたでしょう。」


え………? 周りを見ると、魔導士団員たちが、生徒をガードするような体勢をとっていた。魔力量が尋常ではないせいで、のせる感情を間違えると周囲にとてつもない影響を与えてしまうのか………。



「皆様、申し訳ございませんでした!」



俺は周囲に向けて深く一礼した。すると、カーナイト様が穏やかに笑った。



「これはこれで使い道がありますよ。殿下を護衛する上で小物が現れたら、使って差し上げてください。ただ他の面では、共闘する上で仲間を不快にさせてしまったり、相手を無駄に挑発してしまったりする恐れがありますので、のせる感情は無そして無意識にできるようにしていきましょう。今日は魔力放出ができたので次回以降、感情をのせない魔力展開と範囲の拡大を行っていきましょう。」



「はい、かしこまりました。本日はありがとうございました。」

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