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第二章 初学院編
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「アース、いいんッスか? 殿下をあのままいかせてしまっても………。俺にはアースが怒っている理由はわからないッスけど、殿下をあのまま行かせてしまっては、仲直りが難しくなるッスよ。」
え………。俺は怒っているように見えていたのか………? 俺はそんなつもりはなく、ただキルの顔が見れないと思ったから少し離れてほしいと思っただけで………。
「ジールには、俺が怒っているように見えたの………?」
「少なくとも俺にはそう見えたッス。殿下はアースに拒絶されたと感じたのかもしれないッスね………。アースにとってもそれは本意ではないッスよね? 兄上は今、アースの魔法を見て別の世界に行っているッス。今のうちに、殿下を連れ戻すッスよ。」
キルが俺に拒絶されたと思ったなんて………、そんなことは絶対にしない! すぐにキルに謝らないと!
「ごめん。ありがとう、ジール。俺、キルを追いかけてくるね。」
「それがいいッスよ。俺はここで待ってるッス。」
俺はジールに頷いて、キルを追いかけた。
――
「キル、待って!!」
俺が叫ぶと、キルは止まってくれた。一瞬止まってくれないかと思ったけど、走ってきた俺を気にかけてくれたように思えた。
「なんだよ………。」
「ごめん、俺………間違えた。キルのことを、拒絶したかったわけじゃないんだ。それを伝えたくて………。」
「じゃあなんで、さっきは怒っていたんだよ。何か気に障るようなことをしたか? 俺、お前には嫌われたくないんだ。だから、何かあるなら言ってほしい………。」
気に障るというか、俺が我慢できなかっただけで………。キルの言動があれだったなんて言えないしな………。俺が勝手に、そう妄想してしまっただけだしな………。だけど、何か理由がないと俺が理由を隠している様に思われてしまい、キルをまた傷つけてしまうかもしれない。何か、理由を………。あ、これならどうだろうか?
「気に障ったわけでも、怒っていたわけでもないんだ。今日は朝からのどが痛くて、もしかして風邪を引いたかなと思っていたんだ。だからさっき、キルの顔が近くにあったからうつしたら行けないと思って、離れてもらおうと思ったんだ。俺の伝え方が悪くて、本当にごめん。キルのことを傷つけてしまったよね………本当にごめん。」
俺がそういうと、キルははっとした表情を浮かべて俺の肩を掴んだ。
「なんで、朝のうちに言わないんだよ! 昨日倒れたのが原因か? 今も具合が悪いなら、すぐに医務室に行こう。」
「あーいや、今は大したことないよ! 昨日キルにもう倒れないと約束したし、あと少しで授業も終わるし本当に大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。さっき傷つけたのは俺なのに………キルは本当に優しいね。」
ごめん、キルにまた嘘をついてしまったよ。キルと離れるころには俺は、どれだけの嘘を重ねているのだろうか………。
「そうか、よかった………。だけど、急変したら俺にすぐに言ってくれ。それに関してはあれだ………、俺が勝手に勘違いしただけだから気にするな。さあ、ジールたちも待っているだろうし、戻ろう。」
「うん、ありがとう。」
――
俺たちは駆け足でジールたちの元へと戻った。俺たち気付いたジールは笑顔で手を振ってくれた。
「二人で戻ってきたッスね! よかったッス!」
ジールがいい人すぎる。あったときから親切だったけど、こういう人が近くにいるとても安心できる。
「ジールのおかげだよ、ありがとう。ところで、サール様はこちら側にまだ戻ってきていないの?」
「ああ、そうっスね………。今呼ぶッス………。」
ジールはそういうと、恍惚そうな表情を浮かべてるサール様の方を揺らした。おそらく、こうして何度も兄をこちら側に引き戻しているのだろう。
「はっ! アース君の素晴らしい魔力にあてられてしまっていたよ! さあ、次は今日の仕上げとして初級魔法を放ってみよう。魔導士の初学院での心構えは覚えているね。」
俺は頷いた。
初学院での魔導士の心得。それは、中級魔法以上の魔法は使ってはいけないことだ。つまり、初学院では初級魔法しか扱えないのだ。体内には魔力が流れる魔力回路という血管みたいなものが存在している。初学院に通う年ではその魔力回路が十分に発達しておらず、中級魔法以上の魔法を使うと魔力回路が壊れてしまうのだ。壊れた魔力回路はほぼ修復不可能で、魔導士の道をあきらめるしかなくなる。だから、初学院ではそもそも中級魔法以上の魔法は教えられていない。
「では、初級魔法を一つはなってみようか。威力や速度、命中率などはこれから鍛えていくから今日の所は発動することを目標にしよう。先ほどアース君の魔力は氷に変わったから、氷との親和性が一番高そうだね。だから今日は、氷の初級魔法を使ってみよう。残念ながら氷魔法を使える人はここにはいないけど、原理は大体同じだから俺が教えるね。」
「はい、よろしくお願いします!」
「では、最初に………魔法はイメージだ。イメージ次第で魔法は君の力になってくれる。だけど、その反面イメージ力が乏しいと、全く役に立たない魔導士に成り下がってしまう。それではイメージしてみて、アース君の魔力が氷になることを。そして、イメージができたらこう詠唱するんだ、「氷弾」と。」
俺は目を閉じて、お腹の手を当てた。先ほど感じた魔力を体内で循環させて、最後に利き腕に集約させて放つイメージにしよう。手から放つことによって、狙いも付けやすくなるだろう。魔力が氷になるイメージか………。こういう時は水分子の動きが遅くなってなど、原理的なことを考えた方が良いのだろうか? うーんでも、そういうことを考えると魔法の発動が遅くなりそうでいやだな………。いったん氷を強くイメージしてやってみよう。前世を通して氷というものは食事の時から冬の季節に至るまで、たくさん見てきたのだ。その経験から、強くイメージすることができるだろう。
氷、氷、氷………。よし、大体行けそうだ。自分の魔力が冷たくなっている感じがする。俺はゆっくりと口を開いた。
『氷弾』
ドンッ!!
俺は目をつぶっていたが、近くから大きな音と地響きが聞こえたので驚いて目を開けた。すると目の前には、大きな氷山があった。
これは………流氷かな? きっとどこからか流れてきたに違いない。それか、空から降ってきたのだろう。うん、きっとそうだ、そうであってくれ!
え………。俺は怒っているように見えていたのか………? 俺はそんなつもりはなく、ただキルの顔が見れないと思ったから少し離れてほしいと思っただけで………。
「ジールには、俺が怒っているように見えたの………?」
「少なくとも俺にはそう見えたッス。殿下はアースに拒絶されたと感じたのかもしれないッスね………。アースにとってもそれは本意ではないッスよね? 兄上は今、アースの魔法を見て別の世界に行っているッス。今のうちに、殿下を連れ戻すッスよ。」
キルが俺に拒絶されたと思ったなんて………、そんなことは絶対にしない! すぐにキルに謝らないと!
「ごめん。ありがとう、ジール。俺、キルを追いかけてくるね。」
「それがいいッスよ。俺はここで待ってるッス。」
俺はジールに頷いて、キルを追いかけた。
――
「キル、待って!!」
俺が叫ぶと、キルは止まってくれた。一瞬止まってくれないかと思ったけど、走ってきた俺を気にかけてくれたように思えた。
「なんだよ………。」
「ごめん、俺………間違えた。キルのことを、拒絶したかったわけじゃないんだ。それを伝えたくて………。」
「じゃあなんで、さっきは怒っていたんだよ。何か気に障るようなことをしたか? 俺、お前には嫌われたくないんだ。だから、何かあるなら言ってほしい………。」
気に障るというか、俺が我慢できなかっただけで………。キルの言動があれだったなんて言えないしな………。俺が勝手に、そう妄想してしまっただけだしな………。だけど、何か理由がないと俺が理由を隠している様に思われてしまい、キルをまた傷つけてしまうかもしれない。何か、理由を………。あ、これならどうだろうか?
「気に障ったわけでも、怒っていたわけでもないんだ。今日は朝からのどが痛くて、もしかして風邪を引いたかなと思っていたんだ。だからさっき、キルの顔が近くにあったからうつしたら行けないと思って、離れてもらおうと思ったんだ。俺の伝え方が悪くて、本当にごめん。キルのことを傷つけてしまったよね………本当にごめん。」
俺がそういうと、キルははっとした表情を浮かべて俺の肩を掴んだ。
「なんで、朝のうちに言わないんだよ! 昨日倒れたのが原因か? 今も具合が悪いなら、すぐに医務室に行こう。」
「あーいや、今は大したことないよ! 昨日キルにもう倒れないと約束したし、あと少しで授業も終わるし本当に大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。さっき傷つけたのは俺なのに………キルは本当に優しいね。」
ごめん、キルにまた嘘をついてしまったよ。キルと離れるころには俺は、どれだけの嘘を重ねているのだろうか………。
「そうか、よかった………。だけど、急変したら俺にすぐに言ってくれ。それに関してはあれだ………、俺が勝手に勘違いしただけだから気にするな。さあ、ジールたちも待っているだろうし、戻ろう。」
「うん、ありがとう。」
――
俺たちは駆け足でジールたちの元へと戻った。俺たち気付いたジールは笑顔で手を振ってくれた。
「二人で戻ってきたッスね! よかったッス!」
ジールがいい人すぎる。あったときから親切だったけど、こういう人が近くにいるとても安心できる。
「ジールのおかげだよ、ありがとう。ところで、サール様はこちら側にまだ戻ってきていないの?」
「ああ、そうっスね………。今呼ぶッス………。」
ジールはそういうと、恍惚そうな表情を浮かべてるサール様の方を揺らした。おそらく、こうして何度も兄をこちら側に引き戻しているのだろう。
「はっ! アース君の素晴らしい魔力にあてられてしまっていたよ! さあ、次は今日の仕上げとして初級魔法を放ってみよう。魔導士の初学院での心構えは覚えているね。」
俺は頷いた。
初学院での魔導士の心得。それは、中級魔法以上の魔法は使ってはいけないことだ。つまり、初学院では初級魔法しか扱えないのだ。体内には魔力が流れる魔力回路という血管みたいなものが存在している。初学院に通う年ではその魔力回路が十分に発達しておらず、中級魔法以上の魔法を使うと魔力回路が壊れてしまうのだ。壊れた魔力回路はほぼ修復不可能で、魔導士の道をあきらめるしかなくなる。だから、初学院ではそもそも中級魔法以上の魔法は教えられていない。
「では、初級魔法を一つはなってみようか。威力や速度、命中率などはこれから鍛えていくから今日の所は発動することを目標にしよう。先ほどアース君の魔力は氷に変わったから、氷との親和性が一番高そうだね。だから今日は、氷の初級魔法を使ってみよう。残念ながら氷魔法を使える人はここにはいないけど、原理は大体同じだから俺が教えるね。」
「はい、よろしくお願いします!」
「では、最初に………魔法はイメージだ。イメージ次第で魔法は君の力になってくれる。だけど、その反面イメージ力が乏しいと、全く役に立たない魔導士に成り下がってしまう。それではイメージしてみて、アース君の魔力が氷になることを。そして、イメージができたらこう詠唱するんだ、「氷弾」と。」
俺は目を閉じて、お腹の手を当てた。先ほど感じた魔力を体内で循環させて、最後に利き腕に集約させて放つイメージにしよう。手から放つことによって、狙いも付けやすくなるだろう。魔力が氷になるイメージか………。こういう時は水分子の動きが遅くなってなど、原理的なことを考えた方が良いのだろうか? うーんでも、そういうことを考えると魔法の発動が遅くなりそうでいやだな………。いったん氷を強くイメージしてやってみよう。前世を通して氷というものは食事の時から冬の季節に至るまで、たくさん見てきたのだ。その経験から、強くイメージすることができるだろう。
氷、氷、氷………。よし、大体行けそうだ。自分の魔力が冷たくなっている感じがする。俺はゆっくりと口を開いた。
『氷弾』
ドンッ!!
俺は目をつぶっていたが、近くから大きな音と地響きが聞こえたので驚いて目を開けた。すると目の前には、大きな氷山があった。
これは………流氷かな? きっとどこからか流れてきたに違いない。それか、空から降ってきたのだろう。うん、きっとそうだ、そうであってくれ!
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