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ルーシー⑫
しおりを挟む「…何があったのかな。こんな辺鄙な町まで騎士団来たことなんてあった?ね、ルーシー」
「…」
「…ルーシー?どうしたの」
「……リツさんごめんなさい部屋の外で、待っててもらえませんか……?」
「…わかりました。何かあったらすぐお呼びください」
うつむいたまま、がちゃりという音と、ドアの閉まった音に息をつく。
聞かれたくないわけじゃない。
迎えにきてくれたんだから事情を知っているだろうし。
……でもそのことについて話したことはないし、胸のうちは、知られたくなかった。
「……、はあっ!?騎士団のひとだったの!?しかも、……じゅうじん、」
ーーグレタにだって詳しくは伝えていなかったんだけど、…
「グレタ、声が、「待ってよ…聞いたことある…もしかして別れた理由って…番、とか…?運命…」
うなずけばさらに大きい声で、嘘でしょ!と叫ぶから困った。
「ーー信じらんない…さいってい…さっきの集団にいたの?」
「わかんない…似た髪色のひとは、何人かいた、けど」
だから身体が、動かなかった。
見慣れた黒い騎士服に、防寒用の厚手のオーバーコート。
冬の曇空のような、シルバーグレイの髪色を見た気がしたから。
信じらんない、とグレタはくり返し、ぜったい会わせないと意気込むように言う。
「…どのツラさげて会いに来るわけ?仕事だとしても断ってよ断るでしょふつう。
心配しないでルーシーぜったい会わせないから。レジー様だってゆるすわけない」
グレタは怒り心頭といった感じでぶつぶつ呟いて部屋をぐるぐる歩く。そんな姿を見て、ちょっと気が抜ける。
「…いるかどうかもわからないけどできるならわたしも会いたくないから助かる…それに、…向こうも今さらわたしに会いたくないと思う」
「そんなの当たり前だよ!まともな神経してたら会いに来れるわけないじゃん!……番とか、わかんないけどさ…でもどんな理由だって納得なんかできないじゃん…!」
「……わたしが悪かったんだよ」
「なんで!そんないい子ぶったって相手がつけあがるだけだよ…!」
ちがう。
わたしは、いい子なんかじゃない。
「……家族になって、って言ってくれたの。すごくうれしかった…ほんとに、すごく。……ユラさんと、わたしと、わたしたちの赤ちゃん…家族になれたらどんなにしあわせだろうって思った。
……嘘じゃない。…でも、……でも、」
わたしは、
「…………避妊薬飲んでたの」
誰にも言ってない。
どうして今、グレタに話してるのかわからない。
「べつに悪いことじゃ、「飲んでてよかったってほっとしたの」
「…」
「悲しかった。さみしかった。くやしかったし、傷ついた。ーーでもほっとしたの。」
その事実をひた隠して、自分ばかり傷ついたと、
自分ばかりがかわいそうだとずっと、過ごしていた。
「ずっと一緒にいたいと思ってた。大丈夫だって信じてた。なのにほっとしたの。
……だっていつか、いつか、……いなくなるんじゃないかってどっかで思ってて、
……信じるきることが、できなかった……っ」
だから、会いたくないと思っていた。
知られたくなかった。
わたしは間違っていないと、思いたかった。
「…ユラさんはわたしを信じてた…なのに、」
「ルーシーは悪くない!自分を守ることの何が悪いの!」
こんな醜いわたしを、誰にも、知られたくなかった。
「…子どもがほしいって言ってた…。ルーシーとの子どもがほしいって、わたしはそうだねって笑いながら毎日薬を飲んでた。
…それなのにドレスを着ることを夢見て、
…かわいいだろうなって笑うユラさんを見てた…」
それでもいつかと、思っていたのは嘘じゃない。
でも言えなかった。
不安なら伝えればよかった。言えばよかった。
わたしだけを見てよって、言えばよかった。
わたしは諦めることだけ、受け入れる覚悟をしてた。
「ルーシー…」
こんなどうしようもないわたしを抱きしめてくれるひとがいる。
でもユラさんは?
しあわせでいてほしいと思っている。
でももし今ひとりなら?
わたしは、どうしたらいい?
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