上 下
23 / 57
5羽 爆誕!ハシバミの漫画家

⑥寵愛の力が終わるとき

しおりを挟む
エングリアから帰宅した日の晩。
銀色狼と空駒鳥のつがいはフォレストサイド村の自宅からその日3回目の空へと昇っていた。
そしてライキは数時間前、父ゲイルにユデイに使役魔獣をプレゼントする件を話した際に言われたことを振り返りながら、女神フェリシアに相談を持ちかけていた。
「それでフェリシア様。
狩人が魔獣を使役するには”従属の魔石”が必要なんですけど、とても貴重な魔石なので、中級以上の狩人1人につき2つまでと持てる数に限りがあるんです。
でも俺にはフェリシア様から授かった移動の力がありますし、兄貴みたいに海の生き物を食材として欲しいわけでもないから、今のところ特に使役魔獣を必要としていません。
だから、ユデイに運搬用としてワイルドホークを、それとは別に、安全に移動出来る手段として必要とあらばもう1体魔獣をプレゼントしてもいいかなと思って、従属の魔石を管理している父さんに、そういう用途で2つ欲しいとお願いしたんですけど、父さんにユデイにプレゼントするのはワイルドホーク1体にしておけと言われて、2つ目の魔石は貰えなかったんです。」
「あら、それはどうしてかしら?」
フェリシアの優しい声が空から降ってくる。
ライキは寄り添うリーネの肩を抱いたまま、少し戸惑いつつ答えた。
「・・・フェリシア様には少し言いにくいことなんですけど・・・。
父さんは、俺達の寵愛の力が永遠に続くかはわからないからだと言いました。
もしも寵愛の力がつがいの時期限定のものだとしたら、俺が成人してその力を失ったとき、空を移動する手段を失ってしまうことになります。
それは狩人として高みを目指す者には致命的です。
大物の魔獣とやり合うときに不利になるし、矢で落とせない硬い羽根を持つ魔獣の相手も出来なくなりますから・・・。
だから、ユデイにプレゼントした残りのもう1つの従属の魔石は、自分のために取っておくように、とのことでした。」
「ゲイルがあなたのことを思っての言葉なのね。
彼らしいわ・・・。」
「はい・・・。
それで、ユデイにプレゼントするつもりのワイルドホークなんですけど、奴らは運搬用としては問題なく機能すると思うのですが、ユデイとルウナを乗せて飛ぶとなると話は違ってきます。
奴らは力持ちで早く飛べるけど、頭が悪い魔獣なので、乗せている二人の安全性に配慮出来るのか・・・俺はそこが心配だったんですけど、父さんに別の危険性も指摘されまして・・・。」
「別の危険性?」
「はい。
使役する者の強さにより、従属の魔石から魔獣が受ける恩恵も変わってくるんですけど、例えばワイルドホークがユデイとルウナを乗せて移動しているときに、もしもワイルドホークより強いワイバーンなんかに襲われでもしたら、ユデイとルウナを危険に晒してしまいます。
そんなとき、ワイルドホークを使役している人間が強ければ、その従属の魔石に込められた血に恐れ、ワイルドホークより格上のワイバーンであっても手出しができなくなる、というわけです。
でも一般人のユデイの血で使役するとなると、その恩恵はほぼ皆無となります。
外敵の少ない強い魔獣を最初から使役すれば、使役する者の血の恩恵が無くとも移動中の危険は減るのでしょうが、強い魔獣程頭がいいので、目くらましは通用しなくなります・・・。」
「私レベルのミラージュの魔法じゃきっと騙せないよね・・・。」
リーネがあはは・・・と頭に手を当てて苦笑いをした。
「だから、ワイルドホークで二人が安全に移動できる手段、もしくはワイルドホークじゃなくてもいいので、月に一度程度ユデイとルウナがエングリアまで短時間で行き来できるすべが何かあればいいなと思って、そのことをフェリシア様に相談したくて・・・・・。」
ライキはそう言うと、まだ何か物言いたげに少し視線を泳がせた後、口を閉じた。
すると、
「フェリシア様。
我が弟子は寵愛の力がつがいの時期限定のものであるかどうか・・・そのことについても貴方に確認がしたいようですよ?」
ライキの心の声を観たらしく、ヴィセルテの声が空から降ってきた。
「師匠・・・!」
「こんばんは。
言いたいことを我慢するなんて、貴方らしくないですね?
どうせ私には隠し事が出来ないのだから、この機会に訊いてしまうのが良いですよ?」
ヴィセルテがそう言った。
「・・・はい、わかりました・・・。
俺はいいんです。
もしも移動の力がなくなっても、父さんが言ったように従属の魔石があれば、使役魔獣に乗って空を飛ぶことが出来る。
移動の力を戦闘に応用できなくなったら今より弱くなってしまうだろうけど、ダルダンテと決着がつくまでこの力があればそれでいい。
後は父さんや引退前の兄貴みたいに、人の持てる力だけで狩人としての高みを目指します。
でもリーネは・・・。」
ライキはそう言うと、心配そうに眉をひそめて隣の彼女を見た。
「・・・私は・・・
もしも神秘の薬の力がなくなったら、コカトリスの卵の殻があっても、きっと石化解除薬は作れなくなると思います・・・。
それに、今後助けてあげたい人が現れたときに、薬師として出来ることが減ってしまう・・・。
それが心配です・・・。
でも、この力に終わりがあるのなら、それがいつなのか、事前に知っておきたいです・・・。
終わるとわかっているのなら、今のうちから出来る対処もあるかも知れないでしょ・・・?
・・・だからフェリシア様・・・・・言いにくいことかと思いますが、私達のために・・・どうか話してもらえますか・・・?」
リーネの言葉にフェリシアは沈黙した。
「・・・彼らはもう知るべきだと思う。
知った上でどうするか、その判断を二人に委ねればいい。
・・・大丈夫。
彼らの未来に明るい光が差しているのが確かに僕には見えるのだから・・・。」
ヴィセルテがそう諭した後、フェリシアはようやく決意したようで、穏やかな中に真剣さを含んだ声が一呼吸置いてから降りてきた。
「わかったわ。
このことを話せば二人に嫌われてしまうかもしれないし、私も自分の至らなさを責めてしまいそうで・・・・・。
・・・そして何よりも、目を逸らしていたい現実に向き合わなくてはいけないから・・・だから、ずっと言えなかった・・・・・。
でも・・・あなた達は私の特別大切な子だもの・・・。
だからこそ、正直なところを全てお話しましょう・・・・・!」
そして、星瞬くラピスラズリのような美しい夜空の中、女神フェリシアは語り始めた。

「私の寵愛の力は、寵愛の対象へのトキメキ度が大きく影響するわ。
特に二人の寵愛の力は、ヴィーとは違ってオーガズムに達するという発動条件がついている。
だから尚更、私のトキメキ度が二人に強く影響するのよ・・・。」
「・・・えっと、私達がその・・・オーガズムに達することと、フェリシア様のトキメキに、一体どういう関係が・・・?」
フェリシアに性行為を見られていることを知らないリーネにはフェリシアが言わんとしていることが想像出来なかったらしく、首を傾げてフェリシアに尋ねた。
「・・・それを説明するには、私の人には言い辛い恥ずかしい趣味嗜好の話をしなければならないし、それを聞けばリーネは衝撃を受けて気を失ってしまうかもしれない・・・・・。
・・・でも、寵愛の力についてきちんと理解してもらうには、そこの説明は必要不可欠だと思うから・・・・・話すわね・・・・・。」
フェリシアは少し言葉をつまらせながら、続きを語った。
「ライキはヴィーから聞いて知っていると思うけど、私、二人が・・・その・・・エッチなことをしているところを見るのが生き甲斐なの・・・・・。
仕事の休憩時間や就寝前・・・暇を見つけてはそれを見て、興奮したり、癒やされたり、ドキドキ・ワクワクしたりして・・・。
もうそれはそれは楽しくてたまらないの・・・・・!」
「えっ・・・・・ええっ!!??
それじゃあ今までずっとフェリシア様に、裸とかライキと恥ずかしいことをしてるところ・・・あれもこれもそれも何もかも全部、見られてたってことですか・・・・・!!??」
リーネは案の定目を回しそうなほど困惑して汗を沢山飛ばした。
「そ・・・そういうことよ・・・・・。
あなたの反応は最もだけど、これからが大切なところだから、何とか最後まで気を失わないでいてくれるかしら?」
「は・・・い・・・。」
リーネは茹でダコのように真っ赤な顔をしながらも、ライキに支えられ何とか頷いた。
それを見てフェリシアはホッとため息をつき、続けた。
「・・・私、今まで小説や漫画、ドラマや映画にアニメ・・・様々なメディアにおいて、色々な恋愛物語を観てきたのだけれど、どの作品でもヒーローとヒロインの恋の駆け引きとか、少しづつ関係性が発展していく様とか、特に・・・最後までいかないギリギリのラブシーン・・・!
それを見るのがとても楽しいのよ・・・!
でも、二人が無事に結ばれた以降の展開は、悲しいくらいに急速に熱が冷めていってしまう・・・そういう性質なの・・・。」
(何のことだろう?
小説はわかる・・・。
けど、漫画ってユデイが描いて冒険出版で認められた原稿のことか?
ドラマや映画にアニメ・・・ってなんだろう・・・?)
ライキとリーネがフェリシアの言葉に首を傾げたので、ヴィセルテが補足を加えた。
「天界と下界では文明レベルが異なりますからね。
フェリシア様は天界では一般的な娯楽の話をなされているのです。
貴方方あなたがたにわかりやすく言うならば、恋愛小説、そして下界で貴方達の友人であるユデイさんが初めて考えついた”漫画”で恋愛物語が書かれたもの・・・そういった娯楽の品が、天界では様々な形式で普及しているのですよ。
それらの恋愛物語を見ても、ヒーローとヒロインが最後まで結ばれると、その先の展開への興味が急速に薄れてしまう、とフェリシア様は仰っているのです。」
「ありがとうございます・・・!
仰りたいことがわかりました。」
ライキはそう言って姿の見えない師に頭を下げた。
「私の説明だけじゃわかりづらくてごめんなさい!
つまりはそれらの恋愛物語と同じように、私にとって特別お気に入りの二人であるライキとリーネが、様々な経験をしながら親密度を深めていって、つがいという誓約の元、最後まで結ばることが出来ないながらも身体を重ねて、そして遂に成人し、結ばれるその瞬間・・・・・!
我慢に我慢を重ねたライキがリーネのすべてを知り、とてつもない快楽と満足感を味わいながらリーネのナカに存分に射精し、リーネもライキに身体と心のすべてを開き、彼の激しく焼け付くような情欲を芯から受け止めて、とろけるような一体感と共に天にも昇る快楽を知る・・・・・!!
その瞬間こそが、私にとってのトキメキのピークであって、最高のクライマックスなの・・・!!!」
フェリシアが早口で捲し立てるように語る内容を想像したライキは真っ赤になりゴクッと生唾を飲み、リーネは再び茹でダコ状態になり頭から蒸気を立ち昇らせた。
「だけど・・・二人が結ばれて以降は、私のトキメキがどうなるのかわからない・・・・・。
二人のことは特別大好きだから、二人が結ばれたからといって、すぐに熱が冷めるなんてことはないだろうけど・・・。
それでも、少しずつ熱が冷め、二人への気持ちがトキメキから親愛へ・・・燃えるような熱いキュンキュンする気持ちから、暖かく見守りたい優しい気持ちへと次第と変化していくと思うわ・・・・・。
そうなると、二人への寵愛の力は働くなってしまう・・・・・。」
「「・・・・・。」」 
ライキとリーネは眉間にシワを寄せ、黙り込んでしまった。
「だけど、一つだけ寵愛の力を永遠に残す方法があるわ。
ヴィーのように神使として私の眷属に加わるの・・・。」
「「俺(私)達が神使に・・・!?」」
二人が同時に声を上げた。
「えぇ・・・。
そもそも私達土地神の寵愛の力とは、神使候補の子に与えるものなの。
でも私の場合はあなた達を神使にするために寵愛を与えたというよりも、寵愛の力を与えた子は沢山の民の中から優先的に様子を見ることが出来るから、そのために寵愛を与えた部分が大きいの。
ダルダンテも監視と束縛が目的で寵愛を使っているのは私と似ているけれど、相手に特別な能力を一切付与しない代わりに、一度印をつけた相手の子孫であれば数の制限なしで新たに印を付け続けることが出来るようね。
だけど、それでも本質は同じ力なの。
だから私の寵愛の印を持つあなた達が望めば神使になることができるわ。
でも未成年は神使に出来ないから、二人が神使になるのなら成人してすぐ・・・二人が初めて結ばれた直後の、一番私の二人へのトキメキが強くなっているタイミングがベストね。
でもそうしたら、あなた達は大切な家族と友達とは別の世界の住人になるから、その場でお別れすることになる・・・。
時々下界まで家族や友達に会いに行くことは出来るけど、天界と下界では時の流れ方が違うから、あなた達の大切な人達があっという間に老いて亡くなってしまうのを見送る辛さを経験することになるでしょう・・・。
その代わり、この国の民で既に亡くなっている善良な人達・・・例えばマールやクーヤには、その魂が生まれ変わりを果たすまでは何時いつでも会いに行けるわ・・・!」
「おばあちゃんとおじいちゃんに・・・?」
リーネがハッとして顔を上げた。
「えぇ。
ただしダルダンテに国籍を置いたまま亡くなったあなたのご両親の魂は、同じ天界でもダルダンテの領域に縛られているでしょうから、会わせてあげられないわ・・・。」
「・・・そうですか・・・。」
リーネはしゅん・・・と肩を落として俯いた。
そんな彼女をそっと抱き寄せてから、ライキが尋ねた。
「・・・あの・・・それらの話をまとめると、神使になれば俺達はフェリシア様や師匠みたいに不老不死になり、更に亡くなった人みたいに肉体を失い魂だけの存在になる・・・ということですか・・・?」
「いいえ、私達神と神使は死者の魂達と同じ天界の住人でありながらも、肉体を持っていて超常的な力を扱える死者とはまた別の存在・・・”神族”になるの。
それに私達神族は不老ではあるけれど、不死ではないわ。
天界には病というものがないし老いることも無いから、誰かに殺されて命が尽きない限りは永遠を生きていくことになるけれどね・・・。
そして神使になった地点であなた達は輪廻の輪から外れてしまうから、いくら愛し合っても子を成すことは出来なくなる・・・。
それがお父様が定めた天界でのルールなのよ・・・・・。
でも、我が国の英雄ヘイズ・ハントの血は既にあなたのお兄さんが繋いでくれている。
だからライキ・・・あなたは血を繋ぎにくいハント家でありながらも、リーネと共に私の眷属に加わり、神使として私達と共に天界で人間たちの行く末を見守って暮らすという選択も可能なの・・・。
ライキ・・・5英雄の一人であるヘイズ・ハントの血を引くあなたは、やがて師であるヴィーを超え、屈指の武力を誇る神使となるでしょう。
リーネ・・・あなたは神秘の薬の力に加え、の血も引いている・・・。
私の口からはこれ以上言えないけれど、もしかしたら長い時間をかければライキ以上の神使に成長を遂げるかもしれないわ・・・。
魔王の復活をそう遠くない未来に控えた今、頼もしい神使が同時に二人も誕生するのは正直とても助かるし、なによりも大好きな二人とこれからもずっと一緒にいられるようになるの・・・・・!
でも・・・でもね・・・・・?
二人から大切な未来を奪ってまで神使にしたくはないの・・・・・・・。
たけど・・・・・二人が人のままでいることを選べば、さっきも言ったように二人が成人して結ばれた地点から、段々と寵愛の力は薄れていくと思う・・・・・。
そして、ライキが射精しても空に導かれなくなった時・・・・・私は遂に二人とお別れをすることになってしまう・・・・・。
こうしてあなた達とお話をすることも、天界に招いてお喋りすることも出来なくなってしまうから・・・・・。
私は・・・それがとても悲しくて寂しくて・・・まだ上手く・・・っ・・・その時が来ることに・・・・・ひっく・・・・・向き合えていないのよ・・・・・・・!!」
二人には姿が見えなくても、フェリシアが今どんな顔でそれを語っているのか想像は容易かった。
だが、ライキとリーネにはそんなフェリシアに対してかける言葉が見つけられずにいた。
(フェリシア様・・・泣いている・・・・・
・・・フェリシア様も俺達と別れることになるのは辛いのか・・・・・。
そんなにも俺らを愛してくれて、とてもありがたくて嬉しく思う・・・・・。
だけど・・・・・。)
ライキの心の声のその先を、ヴィセルテが声に出して代弁した。
「”人として幸せになる道か、神使となり人々を助ける道か・・・。
そのどちらか一方を選ぶだなんて、リーネには酷な選択だ・・・。
例え人のままでいたとしても、リーネだけでも寵愛の力を残してはあげることは出来ないのか・・・?”」
ライキは師の言葉にハッとして顔を上げた。
「ライキさん、貴方は今そう思いましたね?
最もな意見です。
人からすれば神という存在は、人知を超えた強大な力を持つ、全知全能のように思えるでしょう。
ですが、実際の所土地神なんて、創造神様の作られた世界のうちのごく一部の土地の管理を任されただけのただの中間管理職・・・。
あなた達にわかりやすく例えるならば、そうですね・・・。
狩人の社会で言うところのゲイル氏が創造神様だとすると、フェリシア様はライキさん、貴方の立ち位置になります。
寵愛の力は仕事を補佐する者を土地神が自ら選ぶために、創造神様が各土地神に分け与えた力です。
ですが、無尽蔵に気に入った民に与えられるものでもなく、狩人の従属の魔石と同じく、寵愛を与えられる数には土地神の位に応じた限りがあるのです。
以前にもお話しましたが、フェリシア様が寵愛の力を与えられるのは、この国の生まれてばかりの民からたった一人のみ・・・。
しかも、フェリシア様が強いトキメキを感じる民でなければ与えることが出来ないのです。
貴方達は例外で、オーガズムという発動条件をつけることで二人同時に与えることが出来ましたが・・・。
ですから、ダルダンテ神以外の他の土地神様・・・アデルバート神様やセラフィア神様は、寵愛を与えた民が神使になることを望まなかった・もしくは不適切であると判断なされた地点で寵愛の力を奪い、別の民に寵愛を移されているようです。
フェリシア様はお優しい方なので、民本人がそれを望まない限りはそのようなことは絶対になさらないでしょう。
ですが、寵愛の力は人の身には余るものなので、長く下界にその力が留まることのないよう、創造神様がフェリシア様の特性を理解なさった上で、そのように調整されてからお与えになられたのでしょう・・・。
ですから、そのことはフェリシア様にはどうすることもできないのです・・・。
・・・どうかフェリシア様のことを無力だなんて・・・責めないであげてくださいね?
とても頑張り屋さんで、民のことを深く愛し、彼らの幸せばかりを考えている神様なんですから・・・・・。」
「わかっています!
でも・・・・・すみません・・・・・。
俺、リーネがそのことで苦しむ姿を見たくなかったから・・・・・つい・・・・・。」
「・・・・・ライキ・・・・・。」
リーネはライキにそっと頬を寄せると目を閉じ、少しの間考えた後にまた目を開けた。
その空色の瞳には、彼女が何かを決意したときの、強い意思を秘めた強い光を宿していた。
そしてリーネはギュッとライキの手を強く握りながらこう言った。
「フェリシア様・・・この力に終わりがあることを教えてくださりありがとうございます・・・!
そして、そんな貴重な力を私達に与えてくださって・・・私達のことをこんなに好きになってくださって、ありがとうございます・・・!
フェリシア様の寵愛にお応えして神使になるかどうかはまだお答えできませんけど・・・。
どちらの道を選んでも後悔しないよう、自分ができる努力を沢山してみます!
そして、巡礼の旅をしながら、ライキと一緒に考えてみます!
成人したあとの未来のことを・・・!」
「ありがとう・・・リーネ・・・。
っ・・・あなたは本当に・・・優しくて、強い子ね・・・・・!」
フェリシアはそう言った後、空の向こうで暫く泣いているようだった。
そして暫くすると、少し落ち着きを取り戻したフェリシアがまた言葉を降らせた。
「・・・あなた達は成人して祝福を受けたら、ダルダンテと決着をつけて結婚する・・・以前にそう言ったわね・・・?
今もそのために巡礼の旅をしているし、二人には大切な家族と友達がいる・・・。
だからきっと、私が今言った神使となる道を、あなた達が選択することはないのでしょう・・・。
でも・・・もしも二人の気持ちが変わって私達側でいたいと願うなら、私達は歓迎するわ・・・!
勿論二人がこのまま人として生きることを望んでも、二人の幸せを心より祈り、大いなる祝福を与えると約束する・・・!
あなた達と寵愛の力で繋がれなくなるのは寂しいけれど、私の傍にはヴィーがいてくれるもの・・・!
二人で一緒に、いつでも空からあなた達のことを見守ることが出来る・・・!
あなた達に直接干渉は出来ないけれど、何か困ったことがあったときにはヴィーを通して力を貸すことも出来るわ!
だから・・・あなた達はこれから巡礼の旅を続ける中で色んなことを見て、知って、触れて、心を動かして・・・そして、悔いのない決断をしてほしい・・・!
人として生きるのか、神使として生きるのか・・・どちらにしても、私は二人の一番幸せな姿を見ていたいわ・・・!
だって二人は私にとって、特別に大切な・・・愛おしくてたまらない子供達なんですもの・・・・・!!!」
フェリシアの想いを形にするかのように、ラピスラズリのような星空にキラキラと流星が降り注いだ。
銀色狼と空駒鳥のつがいはその神秘的な光景を全身で感じるように見渡し、お互いの視線がぶつかると、柔らかく微笑み合った。
「・・・わかりました。
二人でよく考えて、巡礼の旅が終わるまでには答えを出します・・・!」
ライキはリーネと強く手を繋ぎ、空の向こうのフェリシアに向けてそう伝えるのだった。

「・・・随分と脱線しちゃったけど、本題はあなた達の親友のつがいが安全に移動できるための手段についてだったわね・・・?」
フェリシアがクスクスと笑いながら切り出した。
「私は彼等にワイルドホークでの危険な飛行をさせるよりも、いっそのこと教会のゲート・・・転送装置を使わしてあげれば良いんじゃないかって思うんだけど、それだと神官たちがうるさいかしら?」
フェリシアはそう言って隣の神使であり夫でもある彼に確認を求めた。
「あぁ・・・うるさいでしょうね。
神官でも特に位の高い者しかゲートの使用権限がありませんから。
それをただの一般人に安安やすやすと与えては、反感を食うこと間違いなしでしょう。」
「やっぱり俺の移動の力で連れて行くしかないのか・・・?」
ライキが眉をひそめて呟いた。
「貴方達には巡礼の旅も家業もあるのですから、彼らがエングリアに用がある度に移動の力で連れて行くというのはなかなか負担が大きいでしょう・・・?
それに、いずれ移動の力が使えなくなってしまう・・・もしくは神使になって下界を去ることになるのです。
ならば尚更、彼らだけで行える別の移動手段が必要です。」
ヴィセルテが言った。
ライキは(そうだよな・・・)と頷くと、顎に手を当てて何か良い方法は無いかと考え始めた。
リーネも同様に眉をひそめて真剣に考えた。
「・・・そういえば、ハシバミの画家ユデイは、下界初の漫画家になるのよね・・・!
それに、薔薇の蕾ルウナは素晴らしい萌え・・・い、いえ、素敵な衣装を発案できるデザイナー・・・!
二人とも素晴らしい才能がある若者だわ!」
突然フェリシアが弾んだ声でそう言った。
「えぇ、そうですね。」
ヴィセルテが相槌を打つ。
「それなら、私から二人を国を大いに発展させていく才能あふれる名誉国民として表彰し、彼らの活動の援助を名目として、月に一度フォレストサイド↔エングリアの区間でのみ、教会ゲートの使用権限を与えるというのはどうかしら!?
それなら安全にエングリアへおもむけるでしょう!
どうかしら、ヴィー。」
フェリシアは我ながら良い閃きだと言わんばかりの高いテンションで、隣の神使であり夫である彼に意見を求めた。
「えぇ、そういう名目ならなんとか神官たちを納得させられるでしょう。
ゲートの使用頻度も低めですし、フォレストサイドとエングリア教会の神官長はどちらも人格者ですから、彼らが下っ端神官や信者から余計なやっかみを食うこともないでしょうし。」
「「流石フェリシア様!」」
ライキとリーネが手を取り合い、嬉しそうに表情を弾ませた。
「よし、決まりね!
それで手を打ちましょう!!」

そうしてハシバミの画家改めハシバミの漫画家ユデイ・ブック・アーティストと、そのつがいである薔薇の蕾ことルウナ・ブディックの二人は、才能溢れる名誉国民として翌日教会にて表彰を受けることになるのだった。
二人が突然の事態に大層驚いて、腰を抜かしたのは言うまでもないだろう。
しおりを挟む

処理中です...