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5羽 爆誕!ハシバミの漫画家

③ハシバミの漫画家が選ぶ道

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銀色狼の力であっという間に冒険都市エングリアの上空に辿り着いた4人。
時計は10時20分を指していた。
銀色狼は着地する場所に少し悩んでから、冒険出版の近くにある公園のトイレの陰を選択し、4人はシュン!と音を立ててそこへ降り立った。
着地が初めてのユデイとルウナは驚き、「わっ!」と短く悲鳴を上げた。
「・・・ここ、公園か?」
ユデイがキョロキョロ辺りを見渡しながらライキに尋ねた。
「うん。
ここなら冒険出版まですぐだし人目も無い。
着衣の乱れを直したらすぐにニールさんの元へ向かおう。
ニールさん、今日は10時半頃が都合いいって話だったから。」
ライキは事前に今日冒険出版に二人を連れて行くことをニール氏宛に伝書鳩を飛ばして伝えていたが、その返事に指定してあった時間が10時半だったのだった。
「でも私とリーネこんな格好だけど・・・失礼じゃないかな・・・?」
ルウナが困ったようにリーネと顔を見合わせながら言った。
「あー・・・そっか。
二人はそのままの格好で飛んで来たもんな・・・。
でももう着替えてる時間は無いし、むしろ冒険都市ならその格好はありなんじゃないのか?
冒険者ギルドの受付の人も猫耳つけてたし、前に冒険出版に来た時も、ちらほら獣耳を着けている社員の人がいたよな?」
ライキはリーネに確認をした。
「あ、うん・・・!
でも肩は隠したほうが良さそうだから、この上にカーディガンを羽織って行こう!
ルウナには私のを貸してあげるね!
ライキ、私の衣装カバン出してくれる?」
ライキは頷くとアイテムボックスからリーネの衣装カバンを取り出し手渡した。
リーネはそこから15歳の誕生日にライキが編んでプレゼントしたアイボリーのニットカーディガンと、もう一着白のレース編みのカーディガンを取り出し、白いほうをルウナに手渡した。
「こっちの白い方でいい?
アイボリーのカーディガンのほうが雷羊らいようコスに合いそうだけど、これは15歳の誕生日にライキが編んでくれたものだから、貸してあげられないの・・・。」
「うん、そんなの当たり前だよ!
この白いのはリーネが編んだの?」
「う、うん・・・編み物の練習でね・・・。
ライキのに比べちゃうと、編み目が不揃いで恥ずかしいけど・・・。」
「そんなことないよ!」
ライキは自分の編んだカーディガンをリーネが今でも大事に着てくれていることを知っていたが、彼女の親友であるルウナにも貸せないのだと言っているのを訊いてやはり嬉しく、ふふっと微笑んだ。
(少しくたびれてきたから来年用にまた新しいのを編んでやろうかな・・・?)
二人がカーディガンに袖を通している間に、ライキは自分の横で緊張からガチガチに固まって、珍しく無口になっている親友ユデイに声をかけた。
「ユデイ、大丈夫か?」
「あ、あぁ・・・。
これから俺の人生を左右する大事な話を訊きに行くんだと思うと心臓が飛び出しそうだ・・・。
俺、うまく喋れるかな・・・?」
「・・・。」
ライキはそんな親友を少しの間無言で見つめると、その肩に手を置き、ニヤリと笑うと声をひそめて言った。
『つか、俺が訊いたのって、俺の力を発動するときお前だけイケなかっただろ?
そっちはもう大丈夫なのかってことなんだけど・・・。』
「・・・あっ!そうだった!!
状況が目まぐるしくてついていくのが精一杯だったから、あれだけ昂ぶってたリビドーがどっかに行っちまってたーーー!!
よし!
帰りは行きのぶんまで気持ち良くなって、一杯射精すぞ!
そのためにも悔いの無いように精一杯やるべきことをやるか!」
「そうそう、ユデイはそれくらい元気じゃないと(笑)
それじゃ、行くぞ!」
二人は軽くクロス当てを交わして、互いのパートナーと手を繋いで冒険出版へと向かうのだった。

「ようこそ冒険出版へ!
ハシバミの画家ユデイくんと、薔薇の蕾ルウナさん!
銀色狼くんと空駒鳥さんはまた会えたね!
冒険出版の冒険王担当編集ニール・エディターです。
よろしく!」
ニールはにこやかに笑うとユデイとルウナに手を差し出した。
「あ、どーも・・・!
フォレストサイド村から来ましたユデイ・ブック・アーティスト・・・通称ハシバミの画家っす!
こっちは俺のつがいのルウナ・ブディックで通称は薔薇の蕾っす!
今日は宜しくお願いします!」
ユデイはニールの手を取ると、大きな声で自分達の紹介をしつつ頭を下げた。
「あはは!
銀色狼くんから元気で明るい子だとは聞いていたけど、予想以上だね!
ユデイくん、君の原稿凄く良かったよ!
これからの色々なことを直接君に話したかったから、我社まで来てくれて助かったよ!
ここで立ち話も何だから、個室に案内するね。
ついてきてくれるかな?」
ニールはそう言うと、4人を引き連れて廊下を進んだ。
「しかし女の子達、素晴らしい格好だね!
まさに冒険都市らしい!
それ、大通りの”Demon Beast”の商品じゃないよね?
あそこのものよりも大層クオリティが高いように見えるから・・・。」
ニールが女子二人を見てそう言った。
「あ、この衣装はルウナが作ったんです!
ルウナのお家は洋服屋さんで、ルウナお裁縫凄く上手だから・・・。」
リーネがそう説明し、ルウナが照れくさそうに頬を染めて会釈した。
「へぇ!ルウナさんが作ったの!
凄いね!
素晴らしい衣装が作れるうえ、こんなに可愛らしいお嬢さんだなんて、Demon Beastの店主のあいつが喉から手が出るくらい欲しがりそうな人材だね(笑)
もしユデイくんと一緒にエングリアに住むことになっても安心だね!」
「えっ・・・!?
いえ・・・そんな・・・・・。」
ルウナは真っ赤になって困ったように汗を飛ばして俯いた。
リーネはそんなルウナの様子に少し不安気に顔を曇らせたが、ライキの手をギュッと握って彼の顔を見上げると、優しく自分を見つめてくれていることに気がついて安堵し、すぐに気持ちを切り替え、顔を上げてニールに尋ねた。
「ニールさん、Demon Beastの店主さんをご存知なんですか?」
「あぁ、あそこの店主とは幼馴染なんだ。
この間彼に会ったら、
「銀色狼と空駒鳥のつがいご本人達がうちの店に来てくれて、銀色狼と空駒鳥なりきりセットの販売を快く承諾してくれたよ!
しかも銀色狼くんは僕と同志だった!」
とか、何のことだかわからないけど、凄く嬉しそうに話していたよ(笑)
良かったら後で顔を出してあげてよ。」
「「はい!」」
ライキとリーネが同時に返事をしたところで目的の場所に辿り着いたようで、ニールは足を止めた。
「この部屋で話をしようか。
どうぞ!」

そこは小さめの会議室になっており、椅子が5脚と少し大きめのテーブルが一つ真ん中に置いてあった。
4人はニールに勧められるままに席についた。
最後にニールが残った椅子に座ると、ユデイの原稿を取り出した。
「さっきも言ったけれど、君の原稿は本当に素晴らしいよ!
冒険王の主な内容は、ご存知の通り冒険をテーマにした小説が中心で、人気のある作品には画家による挿絵が入る。
時々その挿絵画家の特集でイラストが複数枚特集されることもあるね。
その中の掲載陣と比較しても、君の画力はまだ若干の拙さはあるものの、とても魅力的で高水準だ。
画家としてすぐにでも通用するレベルだけど、君の原稿の驚くべき点はそこだけじゃない。
君の作品は今までにない全く新しいジャンルなんだよ。
枠に仕切られた中に状況により変化していく絵が描かれていて、この白いおたまじゃくしのような形の中に、キャラが発しているセリフが入っている。
それによりストーリーがとてもわかりやすく表現されているね。
それに、”クチュクチュ"”ズブズブ”"ドピュッ!"などのいやらしさを掻き立てる効果音・・・。
キャラクターの動作を表現するための流れるような線・・・。
とても素晴らしい閃きだ。
これらすべて、君一人で考えたのかい?」
ニールは真剣な表情でユデイに尋ねた。
「・・・あー・・・それはっすね。
俺一人の閃きじゃない・・・っすかね・・・?
こーいう原稿になった経緯を説明すると、長くなりそーですけど・・・いいっすか?」
ユデイがニールに確認した。
「あぁ、いいとも。
君のことを少しでも多く知りたいからね。
全部聞かせてくれるかい?」
「りょーかいっす。」
ユデイはそう頷くと続けた。
「俺、おとん・・・父親が売れない春画家で、小さい頃から性を扱った絵を見て育ってきたんすよ。
その影響か、俺も小さい頃から絵を描くのが好きで、成長と共にエロいのも描くようになって・・・。
そんで、村のダチにおかずを提供するのがライフワークになっていったんすね。
でも・・・ある時期、俺の1番のダチに色々あって、辛そうで・・・。
オナニーって、男にとってストレス解消になるじゃないっすか。
だから、そいつの気持ちが少しでも楽になればいいなって、俺がそいつにしてやれることってやっぱ、凹んでても興奮出来るぐらいぶっちぎりのおかずを提供してやることかなって・・・。
それで、そいつが喜びそうなネタを追求していくうち、絵だけでは限度を感じたんすよ。
だから、そいつが好きな子に言って欲しそうなセリフを絵の中に描いてみたり、絵も何枚かに分けて、1枚目の少し後の場面を2枚目で表現したり、同じ行為でも別の角度から見た構図を3枚目に描いてみたり、よりオナニーに入り込めるように工夫したんすよね・・・。」
ユデイはそう言ってライキの方を見ると、優しく微笑んで更に続けた。
「そしたらそいつがそのおかずを凄く良かったって褒めてくれたんす!
それがすげー嬉しくて、もっとこの表現を追求してみようって思ったっす!
それからはそいつや、ルウナとつがいになった後はルウナにも意見を貰いつつ、もっと突き詰めて改良に改良を重ねて、ようやく出来上がったのがこの原稿なんす!」
そう言ったユデイの目はキラキラと輝いており、ニールは納得したのか穏やか微笑み頷いた。
「そうか・・・。
君のこの素晴らしい作品は、君が友達を思う気持ちが生んだものだったんだね・・・!」
「えっ、あはは・・・!
そう改めて言われると照れくさいっすけど。
でも、そのキッカケなしにただ描いていても、こういう・・・絵だけじゃない、話も表現するようなもの・・・俺は”漫画”って呼んでるんすけど、こうはなってなかったと思うっすね。」
ユデイはそう言うと照れ隠しで頭を掻きむしった。
「なるほど・・・。
漫画・・・か!
いい言葉だね!
僕たちもその言葉でこの作品を表現させてもらうよ・・・!
君はこの世界で初めての漫画家・・・ハシバミの漫画家だね!」
ニールが柔らかく微笑み、そう言った。
「はは!
ハシバミの漫画家っすか・・・!
どうもっす!」
ユデイは気恥ずかしそうにニシシ!と歯を見せて笑った。
「それでは、ハシバミの漫画家ユデイくん。
君が冒険王に応募した動機・・・それを聞かせてもらえるかい?」
「・・・はいっす!
俺は昔から冒険王の熱烈な読者で、毎月楽しみにしてるっすよ。
そんな大好きな冒険王で新人賞の募集をしているのを見て、俺、絵を描くことで成功したかったから、応募するしかないって思ったんす!
それで何を描くかって考えたとき、やっぱ俺の提供するおかずを喜んでくれたダチの反応がすげー嬉しかったから、フォレストサイド村の俺の周りの連中だけでなく、この国中の性に目覚めた男子たちに、より入り込めるおかずを提供出来たらなって思ったんす!
で、巡礼の旅って、家業持ちだったり家庭の事情だったり、つがいになった奴等みんなが出られるわけじゃないじゃないっすか。
だから、冒険に憧れる気持ちとか、ワクワクする気持ちを漫画を通して表現してみたいなってのもあって、巡礼の旅をするつがいの話にしたんす!
それに世間ではあまり知られる機会のないつがいのリアルな性生活も描けたらなって。
俺も現役のつがいとして、読者に少しでもつがいのことを伝えていけたらって思ってるんす!」
「ありがとう・・・!
君のその考えを訊いて、僕は君と一緒に仕事がしてみたいと改めて強く思ったよ!
これから、宜しくお願いします!」
ニールはそう言うと、ユデイに親愛の証として右腕を差し出した。
ユデイは屈託なく微笑むと、頷いてニールの腕に自分の腕を重ねるのだった。

「それでは、改めて仕事の話をしようか。
君の作品は編集部の総意で、今回の新人賞で一番優れた賞・・・特賞を与えることになったよ!
だけど君はまだ未成年だから、君の原稿を今すぐ冒険王に載せることは出来ない。
だから、ひとまず次の号で君が入選したことの発表だけさせてもらいたいのだけど、それは構わないかい?」
ユデイはルウナと手を取り合い、強く頷いた。
「はいっす!」
「良かった!
じゃあそのように話を進めていくね。
新人賞の報奨金は君の入賞が発表される8月号の発売月・・・7月の末日に支払われるよ。
支払いの手段については銀行振り込みをオススメする。
そういったことも含め、今後の細かな連絡をするためにも、君に今日通話器を渡しておきたいんだ。」
「つ、通話器っすか!?
滅茶苦茶高価だから、フォレストサイドじゃ村長か一部の金持ちの家にしかない、あれっすか!?
そんなものを俺に!?」
ユデイもルウナもライキもリーネも皆驚いて、あんぐりと口を開けた。
「あはは!
だからまぁ、よほど有力な新人でないと支給されないんだけどね(笑)
でも仕事上これがあるとないとでは随分効率が違ってくるからね。
だから遠慮なく受け取って欲しい。」
「は、はいっす!
あ、ありがとうございます・・・!!」
ユデイは汗を沢山飛ばしながら机に額がつくくらい頭を下げた。
「それで、話の続きだけどね。
君のこの原稿を載せるのは、君が成人を迎える来年の2月28日以降になるから、来年3月10日発売の4月号になると思う。
原稿料は、掲載月の末日に支払われ、原稿料は新人は1ベージにつき60ゴールドだよ。
勿論キャリアに応じて上がっていくからね。
で、その記念すべき初掲載の次の号から、連載もお願いしたいんだ。
そのために、早い段階から打ち合わせをしていきたいし、君にすぐにでもエングリアに移り住んで貰いたい。
・・・それは可能だろうか?」
ユデイはその言葉を聞いて、さっきまで嬉しそうに輝いていた表情が瞬く間に固まってしまう。
隣のルウナも同じくショックを受けて、表情が固まった。
ライキとリーネは(やはり・・・)と眉間に皺を寄せて不安気にそれぞれの親友を見た。
「あっ・・・いや・・・
ライキからそういう話があるかもって話は訊いてたんすよ・・・。
でも・・・・・フォレストサイドに居ながら連載することは無理っすか?」
ユデイは真剣な顔でニールに詰め寄った。
「・・・そうだね。
通話器で言葉での打ち合わせは出来るけれど、清書に入る前のチェックでどうしても紙面でのやり取りが必要になる。
でも伝書鳩ではあまりたくさんの紙は運べないし、郵便を使うとフォレストサイドとエングリアとでは距離があるから、その清書前の紙面でのやり取りだけで1週間以上かかってしまう。
それに、清書した原稿がフォレストサイドからエングリアに届くまでにも日数がかかるよね。
そうすると毎月の連載は厳しくなる・・・。
各月連載になるか、もしくは不定期連載か・・・。
でも我誌としては、君ほどの新人には出来れば毎月連載をしてもらいたいんだ。
どうか移住を検討してもらえないだろうか・・・?
勿論君の住居は我社が用意するし、連載作家の手伝いをお願いする代わりに生活費も保証する。
ルウナさん、君が彼と一緒にエングリアに移住するなら、彼の原稿料が入るまでは君の生活費を自分で稼いでもらう必要があるけれど、さっき言っていたDemon Beastとか、他にも君の働き口は沢山あると思うよ?
どうだろうか・・・。
前向きに検討してもらえないかな・・・・・?」
ニールのほうも真剣なようで、眉間に皺を寄せながらユデイに頭を下げた。
「そんな・・・頭を上げてください!
俺も出来ればこの仕事一本でやっていきたいっす。
でも・・・俺の実家の本屋、妹のステラが継ぐって言ってるっすけど、あいつまだ11なんすよね。
おかんは商品の仕入れとかで忙しいし、あいつがジュニアスクールを卒業するまでは、俺が店に出ねーと回らねーっすよ。
ルウナのところだってそーだろ?」
ユデイが隣の彼女に尋ねるとルウナも頷いた。
「うん・・・。
うちは一人っ子だし、跡継ぎは私しかいないから・・・。
私、ジュニアスクールを卒業した後に、フランのミドルスクールに進学したらどうかっていう話が出ていたことがあったんだけど、私は町に出てお勉強をするよりも、フォレストサイドでリーネ達と一緒に過ごしたかったから、進学しなかったの。
その時にパパとママが2~3年くらいなら町に出してやれるって言ってたから、それくらいの期間限定ならエングリアに移住することも可能なんだろうけど・・・。
でも、この場合は永住って話よね?
となると無理・・・かな。」
ユデイはそうだよな・・・と頷いた。
「つーわけなんです。
だから・・・俺は少なくとも妹がジュニアスクールを卒業する来年3月まではフォレストサイドから離れられないし、ルウナのとこも2~3年しかエングリアに住めないっつーことなんで、毎月の連載は無理っすね・・・。」
ユデイはそう言って肩を落とした。
「そうか・・・・・。」
ニールも残念そうに眉を寄せ、俯いた。
そこでライキがリーネと顔を見合わせてから、そっと手を挙げた。
「あの、俺からそのことについての打開策を提案したいのですが、発言しても良いですか?」
「銀色狼くん!
な、なんだい!?」
ニールとユデイ、ルウナが打開策と訊いてぱっと顔を上げてライキを見た。
「はい。
原稿のやり取りに時間さえかからなければ、ユデイはフォレストサイドにいながら毎月連載が持てるんですよね?
なら、俺の使役魔獣をユデイに付ければそれも可能だと思うんです。」
「「「使役魔獣!?」」」
ユデイ、ルウナ、ニールの3名が同時に声を上げた。
「はい。
俺達狩人は魔獣を使役することができるので、それを利用して伝書鳩よりも力があって重い原稿を早く運べる魔獣に原稿をこちらまで運んで貰うんです。
そうすれば、フォレストサイドからエングリアまで2~3時間もあれば原稿を届けることができますよ。」
「た、たったの2~3時間で可能なのかい!?」
ニールが驚いてひっくり返った声を上げた。
「はい。
鳥は道を迂回する必要もないですからね。
伝書鳩でも4時間ほどで文を運べましたから、魔獣のワイルドホークならそれくらい可能な筈です。
使役魔獣は魔石と血の契約できちんと行動を制御していますので、一般の人達を襲うこともありません。」
「そ、そうか・・・そんな手が・・・!
それならフォレストサイドにいながら毎月連載も夢じゃないかもしれない・・・。」
ニールがまだ戸惑った表情でそう言った。
「まじか・・・使役魔獣って・・・すげぇ・・・!
つーか、いいの?
俺のためにそこまでしてもらうの、お前に負担かけてねーか?」
ユデイはそう言ってライキを申し訳無さそうに見た。
「全然!
それでユデイの仕事が上手くいくなら喜んで協力させてくれよ。
つか、さっきの話・・・。
俺が辛かったとき、色々とおかずを工夫してくれてたんだよな・・・?
俺、あの頃すげーそれに救われたから、前にしたお礼だけじゃ足りないと思ったし、漫画家デビューのお祝いも兼ねて使役魔獣をプレゼントさせてくれよ!」
ライキが穏やかに笑って親友に言った。
「・・・ありがとう!
恩に着るぜ!親友!!」
そう言ってライキとユデイはクロス当てを交した。
「あ・・・因みにその魔獣だけど、人を乗せることって出来るのかい?
今後ユデイくんに我社に来てもらう必要がある場合もあるかもしれないから。」
ニールが尋ねた。
「はい。
なるべくデカい個体を使役すれば、ユデイとルウナの二人くらいなら乗せて飛べると思いますよ?」
「本当かい!
それならその問題もクリアだね!
あっ、でもユデイくん一人で毎月の原稿を仕上げるのは大変じゃないかい?
エングリア在住ならアシスタントさんを斡旋出来るけど、流石にフォレストサイドまで斡旋するのは難しいからね・・・。」
ニールの挙げた問題点に対してユデイが笑顔で返事をした。
「それなら何とかなると思うっす!
俺も頑張って早く上手く描けるようになるつもりだし、それでも大変なときは周りに助けてもらうっすから!
ルウナは服のデザイン画とか描いてる関係か、ヒロインの衣装の仕上げとか超上手いし、ライキは手先が器用で飲み込みが早いから、少し教えたら背景も描けるようになって!
見てくださいっすよ!
ここの背景、ライキが描いてくれんすよ!」
ユデイはそう説明して自分の原稿の該当する箇所を指差した。
「へぇ・・・!
これを銀色狼くんが・・・凄いね・・・!
パースもきちんと取れていて、プロのアシスタントさんみたいだ・・・!」
「でしょ!?
うちの妹も文句言いながらもこの原稿を手伝ってくれたんすよ。
特に野郎の胸筋とか腹筋への拘りが半端なくて、ヒーローの裸体を何度ダメ出しされたことか・・・。
まぁおかげで俺が手を抜きがちな男の裸も様になったっすけどね。」
「えっ、君の妹さん確か11歳って・・・。
この原稿結構過激だけど、手伝わしちゃっていいの!?」
ニールが驚いて目を見開いた。
「あはは!全然平気っすよ!
あいつもおとんの仕事見て育ってるんで、そーいうの見た目以上に慣れてるんす(笑)
あいつ、近頃じゃ趣味でハイドにーさん・・・あ、その人、村一の美男って評判のこいつの兄貴なんすけど、(と言ってライキを指差す。)そのハイドにーさんと、その友達の老舗スパの若頭で爽やかイケメンのガロさんの裸の絡みの絵とか描いてて、今のうちからそんな腐っちまって、将来どーなるのか先行きが不安なくらいなんすから(笑)」
「えっ!
ステラ、兄貴とガロさんでそんなの描いてるのか!?」
ライキが冷や汗を垂らしながら突っ込んだ。
「あ、これお前が知ってるってこと、ステラには内緒にしといてな?
乙女の沽券に関わるとか何とかでうるさそーだから(笑)」
「あ、そうだな・・・。
りょーかい。」
ライキが苦笑いしつつ頷いた。
「うふふ!
ステラちゃん、私にその絵を見せてくれたよ?
すっごく上手だし、男の人同士であんなことやこんなことをしてる絵だなんて、すっごく刺激的でドキドキしちゃった・・・!
また新作が描けたら見せてくれるって言ってたから、楽しみにしてるの!」
とルウナが頬を染めて両手を頬に当てた。
「ルウナさぁ・・・。
約一年後にはルウナとステラは姉妹になるんだし、仲良しなのは結構なんだが、ステラに毒されるあまり、
「ユデイなんて普通過ぎて興味なくなっちゃった♡
やっぱり、綺麗な男の人同士の睦み合いをでるのが淑女の楽しみよね!」
とか言い出さねーか心配なんだが・・・」
「大丈夫!
ユデイだって充分普通じゃないから♡」
ルウナが口元に手を当ててクスクスと笑った。
「・・・ちょっ、それ、どー言う意味・・・!?」
ユデイはそう言ってルウナに詰め寄り、少しの間真っ赤になっていたが、今は仕事の話をしていることを思い出して頭を振り、再び顔を上げてニールを見た。
「そんなわけだから、ニールさん。
フォレストサイドには俺の仕事を手伝ってくれるダチとか家族もいるんで、何とかやっていけると思うっす!」
「うん、わかったよ!
じゃあ、エングリアへの移住はなしで、成人後に毎月連載するために準備をしていく方向で、話を進めていこうか!」
「はいっす!
宜しくお願いします!!」
そうしてユデイの元気な声が冒険出版社の冒険王編集フロア中に響き渡るのだった。
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