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4羽 冒険都市エングリアにて

⑨─追記〈金獅子とドSなメイドさん①〉─

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銀色狼と空駒鳥のつがいが奇跡の退治屋の二人と共にエングリアを飛び立った翌朝──。
金雀枝えにしだ亭の一室で、ニュースペーパーのシルバーファングウルフ退治達成の記事を見て、金獅子ことレオンハルト・ナイト・アデルバートミスティルナイトが金の髪をかきあげて呟いた。
「銀色狼・・・今月の残りはフォレストサイド村で家業に費やし、また来月エングリアに仕事を取りに来る予定なのか・・・。」
「・・・銀色狼さんが気になりますか?
レオン様。」
白米に納豆、卵焼き、味噌汁という和食の朝食プレートを彼の目の前に置きながら彼のメイドのモニカが言った。
「誰があんな童貞狼・・・!
ダルダンテ様の言いつけだから仕方無く動向を気にしているだけだ!
僕が気になるのはリーネちゃんだよ。
あいつに与えておくには勿体ない美味しそうな子だからね♡」
レオンは納豆にネギを入れて箸でぐるぐるとかき混ぜながら言った。
「確かにリーネさんは可愛らしい方でしたわね。
見た目だけではなくて、なんと申しますか、本質的なものがレオン様と同質で・・・。
昨日調理場でお会いしたとき、実のところ、ベッドにお誘いして性的に虐めて啼かせてみたくなってしまって、ゾクゾクしちゃいました♡
ウフフ・・・私、女の子もいける口なのでしょうか?
銀色狼さんが穏やかな表情を浮かべながらも、ずっと私を警戒されていましたので、何も出来ませんでしたけど・・・。」
モニカも彼の向かいに座ると、いただきますと手を合わせてから朝食に手を付け始めた。
「あぁ・・・昨日リーネちゃんにソイソースと交換でコカトリスの卵を貰ったんだよな?
あれは大層美味かった・・・♥
なぜその時にすぐ僕を呼ばなかった?
コカトリスの卵のお礼のついでに口説き落とすチャンスだったかもしれないのに・・・。」
レオンは卵焼きにソイソースを数滴垂らしながら尋ねた。
「それは・・・レオン様を呼んだりしたら、銀色狼さんとまた斬り合いになるかもしれませんし、何よりもリーネさんが私に向けてくださっている可愛い笑顔が、みるみると恐怖の色に染まってしまうではありませんか!
そんなのとても耐えられませんわ♥」
「・・・・・。
モニカ、お前・・・随分と彼女を気に入ったみたいだな・・・。
まぁいい・・・。
あの空色の石のペンダント・・・おそらく向こうの神が彼女に授けたものだろうが、彼女が警戒心を持っている相手を弾くものらしい・・・。
あれは計画の邪魔になりそうだ。
だが、お前が彼女と親しくしていれば、僕への警戒心も薄れるかもしれないからな・・・。」
レオンは口角を上げながら納豆ご飯をかきこんだ。
「・・・・・そんなにエカテリーナ様とルーカス様に復讐がしたいのですか?
地位など無くても、レオン様には色んな未来の可能性がありますわ。
折角自由になられたのですから、剣の道と色事以外にも、何か好きになれるものや、夢中になれることを探してこの国を旅をするのも良いとは思いませんか?」
「・・・うるさいぞモニカ。
ただのメイド無勢がお説教か?
お前は僕の姉か何かにでもなったつもりなのか?」
レオンは眉を寄せ、お味噌汁のお椀を置いた。
「あら、私、まだメイドの格好をしておりますけれど、レオン様からお給金を頂いているわけでもありませんし、地位を失った今のレオン様とは対等な関係の筈ですよ?
それに・・・姉のつもりでしたら、レオン様から夜伽を求められましても、流石にお相手は致しませんわね。
まぁ、手のかかる弟・・・みたいな気持ちは幾らかはありますけど・・・くすくす!」
モニカは口元に手を当てて楽しそうに笑った。
「・・・・・くっ・・・手のかかる弟・・・だと・・・!?
この僕が・・・・・!?」
レオンは悔しそうにグッと拳を握りしめた。
「さぁ、冗談はこのくらいにして。
レオン様は今日から貴族令嬢の護衛任務なんですから、今はそのことをお考えくださいませ。」
「・・・あぁ、そうだった。
貴族令嬢っていうから綺麗なレディをエスコート出来ると思ったのに、まだ10歳の子供じゃないか。
全くやる気にならないな。」
レオンはため息をついてから再び食事を再開した。
「あら?ヤル気との間違いでは?
貴族令嬢になんて手を出されたら面倒ですので、お相手がレオン様の対象外の方で良かったですわ。」
モニカは綺麗な所作で箸を運びながら言った。
「ふん!
・・・まぁ、小さなお嬢様がボラントへ帰郷するお供なんて本来なら願い下げだが、向こうは僕の見た目を大層気に入ったようだし、雇われ冒険者にしては待遇も良い・・・。
彼女の侍女にも何人か美味しそうなのがいたしな♡」
レオンはペロッと舌舐めずりをしてからソイソースの染みた卵焼きを口に運ぶ。
「あら・・・夜のお相手でしたらレオン様には私がいますでしょうに。」
「だから、お前と僕とでは性的趣向が違いすぎるんだよ!」
「そうでしょうか?
あんなに喘いで沢山出された翌日では説得力がございませんわね。」
モニカが頬を染めて含み笑いをした。
レオンはギクッ!と身体を跳ねさせて、冷や汗をかき視線を逸らしながら味噌汁をすすった。
「レオン様はプライドがお高くて、支配する側に憧れてらっしゃる割には、心底では支配されるのを望まれるドMですから、色々と心の葛藤が大変そうですわね?
そこを見透かされたり、他の殿方と比較される事が耐えられない・・・だから処女の女の子を好まれるのでしょう?
そして、彼女たちとの夜は、レオン様の本来の性癖を満たすものではなく、理想の自分に見せようと無理をなされてるものですから、途中で中折れしそうになって、微妙な硬さのままダラダラと挿入をする羽目になるのです。
無理をなさらず、素直になられるのが一番ですわよ♥
ドMで可愛らしいレオン様♥
くすくすくす・・・!」
「・・・・・くっそっ・・・!
僕はドMじゃないと言っているだろう!?
・・・・・笑うな!!」
モニカはまだ笑いが止まらないのかお腹を抱えて笑っている。
レオンは諦めたようにため息をついて、話題を変えた。
「・・・そういえば、あのお嬢様、ボランドに行くのにフォレストサイドを経由して、最近リニューアルされた老舗のスパに入って行きたいと言っていたな・・・。
銀色狼が住む村・・・この目で直接見ておくのも良いだろう。
フフッ・・・さっさと食って、仕事に行くぞ、モニカ。」
レオンはご馳走さまと手を合わせ、食べ終えたプレートをモニカに渡しながら言った。
「動機はともかくとして、お仕事をやる気になってくださって良かったですわ。
ですが、やっぱりリーネさんではなく、真っ先に頭に浮かぶのは銀色狼さんですのね(笑)」
モニカはそう笑いながら自分も食事を終えて手を合わせ、手早く簡易キッチンで食器を洗い始めた。
「だから違うと言っているだろう!」
「あら、そうですの?残念ですわ・・・。
銀色狼さんとレオン様のカップリングは大変絵になりそうですのに・・・。
仮にそうなりますと、うふふ・・・きっとレオン様が受け入れる側ですわね!
銀色狼さんの股間のものが、レオン様の艶姿で反応されるかどうかが最大の難関ですけど・・・!」
「お前っ・・・なんておぞましい妄想を・・・!!
気持ち悪い!!やめろやめろやめろ!!!」
レオンは青ざめ耳に手を当ててると何度も頭を振った。
「くすくすくす!
レオン様のこの反応・・・堪りませんわね♥
こうして時々でも素のレオン様を見せていただけるのですから、アデルバート神国を追われたレオン様について来て良かったというものです♪
だからこれからも沢山弄らせて下さいませね?
・・・私だけは何処までも付いて参りますから・・・。」
モニカは穏やかに笑いながら洗い終えた食器をアイテムボックスの魔石がついたカバンに片付けた。
「・・・・・・・。」
レオンは言い返す言葉がないのか、真っ赤になって額に手を当てた。
「お待たせしました。
そろそろ参りましょうか、レオン様。」
「・・・あぁ。」
バタン──。
そして朝日の差し込む金雀枝えにしだ亭の一室から、誰も居なくなるのだった。
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