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番外編 バーガンディの日常
アベニアの冒険
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楽しかった海辺のバカンスも終わりを告げ、今日の午後にはここを発つ。
イカ焼きも食べた。ビーチバレーもした。屋台も回ったし、イケナイこともした。
マカフィーさんとジョッシュさんの新作フォトもたくさん撮ったし、グラナダ様とアベニアの秘蔵写真もたくさん、…んん?アベニアはどこ?
「グラナダ様、アベニアとラフ見かけませんでしたか?」
「朝食後はそのあたりでウロウロしておったが、…どうした、おらぬのか?」
「ん、んー…ステラさん知らない?」
「あらまだお帰りじゃありませんか?アベニア様がどうしてもトマスさんに貝殻を持ち帰るっておっしゃって…、子供二人じゃだめだからってローラン様が目の前の砂浜へ付いて行かれましたよ。」
「え、じゃぁ3人ともまだって事?ミランも一緒?ちょ、待って。マカフィーさん呼んでくれる?」
マカフィーさんとジョッシュさんに帰り支度はいいからと、大急ぎで探しに出てもらう。
ここはこのフローアミで一番の高級宿。プライベートビーチのような海岸で、ましてや元兵士のローランさんが付いていて、簡単に人さらいなどに遭うはずがない…。だから心配はいらない…事にはならない。
「アデルよ。ローランが付いておるのなら奴の魔力を探索は出来ぬか?お前は索敵が使えたであろう。」
「あっ!そう、そうだよ。ローランさん…の魔力…だー!知らないし!」
「落ちつけアデル。周囲1~2マイロでAレベルの索敵をかけよ。そこに引っかかるレベルの魔力持ちなどそうは多くない。あれはバーガンディの兵だった男だ。ぎりぎりだったとは言え、それなりの魔力を保有しておる。」
「そ、そうだね。ああ…もう…」
「アベニア様ー!ああ、そっちに行かないでー!」
「はふ、はへ、あ、アベニアさま…待って…」
「はやく、はやく!はやくしないとなくなっちゃう!」
「アベニア様、それは掴めませんー!あきらめてー!」
「ひへ…ふへ…ま、待って…」
突き出た地形の奥、人気のない隠された入江のそのまた向こうに7色の光が消えていく。
空に浮かんだ虹を見つけたアベニア様はわき目も降らずに走り出す。虹をその手に掴もうと。
驚いて追いかける俺と、その後に続くフラッフィ。身軽で俊敏なアベニア様は足場の悪い岩場も物ともせず、ちょこまかと動いて思いのほか捕まらない。
「ほらあれ、あともうちょっと」
「うう…さすが閣下のお子、機動力が…」
「ぜーぜー…」
さすがの俺もミランを背中に背負ったままじゃ好き勝手には走れない。極力背中が揺れないように抑えて走るのは至難の業だ。そうじゃなきゃ3歳児に追いつけないなんて…俺の名誉にかけてこんなことあり得ない!俺はバーガンディでも身軽さには定評があったのに!
「あとすこし…」
「危なーいっ!」
「アベニアさまーっ!」
突如現れたのはアデル様。姿が視界に入った瞬間に転移で飛んで来てくれた。
「こらっ!アベニア!何やってんの!皆に迷惑かけちゃダメでしょ!」
「ひくっ、かあさま…」
「見てごらん。ローランさんの背中にはミラン君が居るんだよ?何かあったらどうするの?ラフだってもうヘロヘロだよっ」
「ううう…わぁ~ん」
号泣するアベニア様にオロオロするフラッフィ。アデル様はおかんむりだ。
「アデル様、そんなに怒らないであげてください。ミランなら大丈夫です。ほら、ぐっすり眠って目も覚ましてない。」
「ホントだ…大物になるねミランは…。ふぅ、ごめんなさいローランさん。」
虹を見つけて駆けだしたこと、捕まえようとしたことを説明すると、アデル様は諭すようにアベニア様に向き合われる。
虹は捕まえられない事、近くに見えても近くない事、アベニア様にも理解できるよう優しい言葉でお話になる。
普段突拍子もないことばかりしているけど…そうか…ちゃんと母親なんだな。そうだ!
「アデル様、確か属性光ですよね?」
「え、うん。回復特化だけど…」
「でも光を放つことはできますね?」
俺は背中のミランを胸の前に抱えなおした。そうして自分の魔力をミランを通して循環させる。
「あっ、あめがふってきた」
「この場所だけですよ。アデル様、光反射させてもらっていいですか?」
「あっ、そうか!」
局地的な雨上がり…そうして小さな虹がかかる。
「ん?ローランさん属性土じゃありませんでした?」
「どうもミランが水みたいで。トールキン様の属性しっかり受け継いできて。この子が生まれたとき、部屋の中が水浸しになったんですよ。魔力の大きさも父親譲りです。」
「そっか、トールキンお兄様の…すごいやミラン!前途有望だね!」
大喜びのアベニア様。良かった。上手くいって。
「アベニア様、どうしてそんなに虹を捕まえたかったんです?皆に心配かける事、ほんとは分かっていたでしょう?」
「だって…」
「だって、どうしました?」
「だってラフにあげたかったの。それにミランとグレンにみせたかったの。ミランとグレンねてたから…」
アデル様がウルウルしてる。フラッフィはとっくに滂沱の涙だ。
こうしてバーガンディ次期領主様の初めての冒険は終わりを告げた。そして俺も楽しかった初めての海に別れを告げてカマーフィールドへの家路を急ぐのだ。
海辺の休暇は楽しかったけどもう充分漫喫したから、一日も早く帰りたい。
俺が居ないとすぐに無理する愛しい旦那様の元へと……
イカ焼きも食べた。ビーチバレーもした。屋台も回ったし、イケナイこともした。
マカフィーさんとジョッシュさんの新作フォトもたくさん撮ったし、グラナダ様とアベニアの秘蔵写真もたくさん、…んん?アベニアはどこ?
「グラナダ様、アベニアとラフ見かけませんでしたか?」
「朝食後はそのあたりでウロウロしておったが、…どうした、おらぬのか?」
「ん、んー…ステラさん知らない?」
「あらまだお帰りじゃありませんか?アベニア様がどうしてもトマスさんに貝殻を持ち帰るっておっしゃって…、子供二人じゃだめだからってローラン様が目の前の砂浜へ付いて行かれましたよ。」
「え、じゃぁ3人ともまだって事?ミランも一緒?ちょ、待って。マカフィーさん呼んでくれる?」
マカフィーさんとジョッシュさんに帰り支度はいいからと、大急ぎで探しに出てもらう。
ここはこのフローアミで一番の高級宿。プライベートビーチのような海岸で、ましてや元兵士のローランさんが付いていて、簡単に人さらいなどに遭うはずがない…。だから心配はいらない…事にはならない。
「アデルよ。ローランが付いておるのなら奴の魔力を探索は出来ぬか?お前は索敵が使えたであろう。」
「あっ!そう、そうだよ。ローランさん…の魔力…だー!知らないし!」
「落ちつけアデル。周囲1~2マイロでAレベルの索敵をかけよ。そこに引っかかるレベルの魔力持ちなどそうは多くない。あれはバーガンディの兵だった男だ。ぎりぎりだったとは言え、それなりの魔力を保有しておる。」
「そ、そうだね。ああ…もう…」
「アベニア様ー!ああ、そっちに行かないでー!」
「はふ、はへ、あ、アベニアさま…待って…」
「はやく、はやく!はやくしないとなくなっちゃう!」
「アベニア様、それは掴めませんー!あきらめてー!」
「ひへ…ふへ…ま、待って…」
突き出た地形の奥、人気のない隠された入江のそのまた向こうに7色の光が消えていく。
空に浮かんだ虹を見つけたアベニア様はわき目も降らずに走り出す。虹をその手に掴もうと。
驚いて追いかける俺と、その後に続くフラッフィ。身軽で俊敏なアベニア様は足場の悪い岩場も物ともせず、ちょこまかと動いて思いのほか捕まらない。
「ほらあれ、あともうちょっと」
「うう…さすが閣下のお子、機動力が…」
「ぜーぜー…」
さすがの俺もミランを背中に背負ったままじゃ好き勝手には走れない。極力背中が揺れないように抑えて走るのは至難の業だ。そうじゃなきゃ3歳児に追いつけないなんて…俺の名誉にかけてこんなことあり得ない!俺はバーガンディでも身軽さには定評があったのに!
「あとすこし…」
「危なーいっ!」
「アベニアさまーっ!」
突如現れたのはアデル様。姿が視界に入った瞬間に転移で飛んで来てくれた。
「こらっ!アベニア!何やってんの!皆に迷惑かけちゃダメでしょ!」
「ひくっ、かあさま…」
「見てごらん。ローランさんの背中にはミラン君が居るんだよ?何かあったらどうするの?ラフだってもうヘロヘロだよっ」
「ううう…わぁ~ん」
号泣するアベニア様にオロオロするフラッフィ。アデル様はおかんむりだ。
「アデル様、そんなに怒らないであげてください。ミランなら大丈夫です。ほら、ぐっすり眠って目も覚ましてない。」
「ホントだ…大物になるねミランは…。ふぅ、ごめんなさいローランさん。」
虹を見つけて駆けだしたこと、捕まえようとしたことを説明すると、アデル様は諭すようにアベニア様に向き合われる。
虹は捕まえられない事、近くに見えても近くない事、アベニア様にも理解できるよう優しい言葉でお話になる。
普段突拍子もないことばかりしているけど…そうか…ちゃんと母親なんだな。そうだ!
「アデル様、確か属性光ですよね?」
「え、うん。回復特化だけど…」
「でも光を放つことはできますね?」
俺は背中のミランを胸の前に抱えなおした。そうして自分の魔力をミランを通して循環させる。
「あっ、あめがふってきた」
「この場所だけですよ。アデル様、光反射させてもらっていいですか?」
「あっ、そうか!」
局地的な雨上がり…そうして小さな虹がかかる。
「ん?ローランさん属性土じゃありませんでした?」
「どうもミランが水みたいで。トールキン様の属性しっかり受け継いできて。この子が生まれたとき、部屋の中が水浸しになったんですよ。魔力の大きさも父親譲りです。」
「そっか、トールキンお兄様の…すごいやミラン!前途有望だね!」
大喜びのアベニア様。良かった。上手くいって。
「アベニア様、どうしてそんなに虹を捕まえたかったんです?皆に心配かける事、ほんとは分かっていたでしょう?」
「だって…」
「だって、どうしました?」
「だってラフにあげたかったの。それにミランとグレンにみせたかったの。ミランとグレンねてたから…」
アデル様がウルウルしてる。フラッフィはとっくに滂沱の涙だ。
こうしてバーガンディ次期領主様の初めての冒険は終わりを告げた。そして俺も楽しかった初めての海に別れを告げてカマーフィールドへの家路を急ぐのだ。
海辺の休暇は楽しかったけどもう充分漫喫したから、一日も早く帰りたい。
俺が居ないとすぐに無理する愛しい旦那様の元へと……
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