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159 彼と大司教
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王都に入り一旦大公邸で一休み。とは言え今回もメインの滞在は王城の中だ。これはあれだ。警備上の問題でってやつ。仕方ない…。
そして今僕らは王宮仕様に着替えている訳なんだけど…
「ナッツ!いい加減大人しくして!王宮に行くんだから謁見の間にはきちんとした格好していかないと。ほら、挨拶も覚えて。いい?リッターホルムのつもりで自由気ままにしてはいけないよ?」
「ええ~、ヤダヤダ~、もうヤダ~!何この窮屈な服、シェフは洗いざらしのシャツが僕には一番似合うって言ってくれたのに~!」
「しょうがないじゃん!王子がナッツをご指名なんだから…。バナナとチョコのパウンドケーキが食べたいんだって!」
「アッシュだって作れるじゃない~」
「アッシュは私のパートナーだ。公爵夫人が王宮で厨房に立ち入ることなど出来ないよ」
王子の無茶なリクエストで今回の王都へは僕とユーリとノールさん。そしてナッツとサーダさんが特別ゲストで一日だけ招聘された。
ナッツのバナナデザートとリッターホルムで御馳走したシェフ渾身のおフランス料理が大層お気に召したらしい。うーん…グルメ王子め。
そこでサーダさんには『5つ星フレンチ 再現レシピ』あの中から僕が行ってみたかったあの店のフルコースディナーメニューをきっちり叩き込んだ。王宮のシェフを唸らせてやりたい。何しろあそこのシェフは出自が農家の僕を見下してくるからうっとうしいのだ。
フルーツトマトとカリフラワーのムースに始まってフォアグラのテリーヌ、川魚の臭みを抜くのは大変だったがたくさんの香草とブールブランで上品な一品に仕上げ切った。とろとろのオニオンスープは黄金色に輝き、豚肉のロティには冬野菜を添えグレービーソースを纏わせている…。
後はナッツの手によるバナナクリームのクレームブリュレ。完璧だ…。
サーダさんはそれなりに喜んでいるのだが、ナッツがちょっと…
「礼儀とか僕わかんないもん。ヤダ~!」
「大丈夫だって。王さまは大公だし王子はアレだし。だいたいで。」
「ナッツは北の伯爵家にいたんでしょう?最低限のマナーは身についているんじゃないの?」
「僕はシェフに雇われたシェフのお手伝いだったもん。伯爵様なんかほんとは僕の旦那様じゃない。シェフの為に大人しくしてたけど~」
「そうだったんだ…」
そうか…、サーダさんは自分のお給金からナッツにお小遣いをあげて…そう…、そうだったのか…。
そう思うとナッツの一途な想いの成就がますます以て嬉しいよ…。
「ナッツ、僕もそうだったけど平民が王城に入るなんて簡単じゃない。名誉なことだし良い記念になるよ。サーダさんの為に頑張ろう!」
「そ…そっか、そうだね~。じゃぁ昼間は我慢する。良いよね、夜はどうせ脱ぐんだし…えへ」
あ…そう…
そして今やすっかり慣れた王城へと到着したのだ。
ちなみに大公の王都邸は大公が大公じゃなくなっちゃったから、王城に連れて行った一部の使用人を除いてまるごとユーリへ受け継がれた。これからはあそここそが公爵家王都邸だ。
ナッツたちは基本あっちに滞在する。実は他にも計画があるのだ。奥様として。
「ミーミル!おお!ミーミルよ!良く来て下された。お待ち申し上げておりましたぞ。さぁさぁこちらに。神殿へはいつ来られるのですかな?」
まさかの大司教自らお出迎え。
「教授に連絡を取ったらすぐにでも。それにしても驚きました。ダインの剣に共鳴したって本当ですか?」
「ええ。教授も驚いておられました。そういえば…、リッターホルムの教会に祭司は到着しましたでしょうか?冬になる前に入領するよう通達を出しておいたのですが…」
「来たよ、来ました!ヴェストさんのお兄さん!スヴェンさん!えぇー?大司教様が指名してくれたんですか?嬉しいなぁ」
「おおっ!お喜びいただけたようで何よりです。本人も初の教区がリッターホルムで光栄だと申しておりました」
そうこうしているうちに謁見の間に到着。
大公に会うのに謁見の間だなんて仰々しいけど一応人の目があるからね。人払いするまでは形だけ。それでもかなりカジュアルだけど。
「よく来た、二人とも息災か?」
「ええ大叔父上。今回元老院に引き合わせて頂けるとの事、ご配慮嬉しく思います」
「もう構わんだろう。前王による洗脳の影響は徐々に抜けてきておる。お前も公爵家の当主として政に関わって行かねばな」
「ユーリ頑張って!領地の事は心配いらないよ。甜菜もトウモロコシも順調だしカレッジも病院も形になって来たしようやく祭司も到着した、文句なし絶好調だよ。一点だけを除いてね」
「あれか」
「そう、あれだよ」
記録書の記述を知ってる大司教は問題ない。威風を備えた大公の姿に張り詰めていた気が抜けたのか、僕は魔女の動向についポロリと愚痴をこぼした。
「動きがこう…緩慢なんだよね。ユーリはそんなものだって言うけどまどろっこしいよ。何か仕掛けて来ないかな。事が進まない」
「しかけ…、そう軽々しく言うでない。それとも何か策でもあると言うのか?」
「無くは無いよ。けど情報不足だ。その情報すら動きが無いと得られない」
『兵法三十六計に学ぶ処世術』あそこには様々な戦術が分かり易く書かれていた。
だがいずれにしても相手の能力と戦力が把握できなけばその効果は半減する…。
何か動きがあれば…動きさえあればそこから掴めるものがある。それも御者の事件のような漫然としたものでなくもっと敵意をむき出しにした…
「アッシュ、君の事なら誰より分かってる。君は見かけほどおとなしくないってこともね。だけど無茶をするのはよしてほしい」
「見かけが大人しかったことなんかあったっけ。」
「いいかアッシュよ、決して軽率に動くでないぞ。お前は我々の切り札なのだ」
「ミーミルよ。我らはあなたを二度と失う訳にはいきませぬ。有事の際は必ずお声がけを」
「心配性だなぁ三人とも。けど大丈夫。じっくり様子を見るのは得意なんだ。でもここぞと思ったら僕は躊躇しない。トレードはタイミングが重要なんだ。心配しないで、伊達や酔狂で何十億も稼いでないよ。」
そう。僕が不得意だったのは自己管理だけだ。何より肝心な、自己の管理だけ…
そして今僕らは王宮仕様に着替えている訳なんだけど…
「ナッツ!いい加減大人しくして!王宮に行くんだから謁見の間にはきちんとした格好していかないと。ほら、挨拶も覚えて。いい?リッターホルムのつもりで自由気ままにしてはいけないよ?」
「ええ~、ヤダヤダ~、もうヤダ~!何この窮屈な服、シェフは洗いざらしのシャツが僕には一番似合うって言ってくれたのに~!」
「しょうがないじゃん!王子がナッツをご指名なんだから…。バナナとチョコのパウンドケーキが食べたいんだって!」
「アッシュだって作れるじゃない~」
「アッシュは私のパートナーだ。公爵夫人が王宮で厨房に立ち入ることなど出来ないよ」
王子の無茶なリクエストで今回の王都へは僕とユーリとノールさん。そしてナッツとサーダさんが特別ゲストで一日だけ招聘された。
ナッツのバナナデザートとリッターホルムで御馳走したシェフ渾身のおフランス料理が大層お気に召したらしい。うーん…グルメ王子め。
そこでサーダさんには『5つ星フレンチ 再現レシピ』あの中から僕が行ってみたかったあの店のフルコースディナーメニューをきっちり叩き込んだ。王宮のシェフを唸らせてやりたい。何しろあそこのシェフは出自が農家の僕を見下してくるからうっとうしいのだ。
フルーツトマトとカリフラワーのムースに始まってフォアグラのテリーヌ、川魚の臭みを抜くのは大変だったがたくさんの香草とブールブランで上品な一品に仕上げ切った。とろとろのオニオンスープは黄金色に輝き、豚肉のロティには冬野菜を添えグレービーソースを纏わせている…。
後はナッツの手によるバナナクリームのクレームブリュレ。完璧だ…。
サーダさんはそれなりに喜んでいるのだが、ナッツがちょっと…
「礼儀とか僕わかんないもん。ヤダ~!」
「大丈夫だって。王さまは大公だし王子はアレだし。だいたいで。」
「ナッツは北の伯爵家にいたんでしょう?最低限のマナーは身についているんじゃないの?」
「僕はシェフに雇われたシェフのお手伝いだったもん。伯爵様なんかほんとは僕の旦那様じゃない。シェフの為に大人しくしてたけど~」
「そうだったんだ…」
そうか…、サーダさんは自分のお給金からナッツにお小遣いをあげて…そう…、そうだったのか…。
そう思うとナッツの一途な想いの成就がますます以て嬉しいよ…。
「ナッツ、僕もそうだったけど平民が王城に入るなんて簡単じゃない。名誉なことだし良い記念になるよ。サーダさんの為に頑張ろう!」
「そ…そっか、そうだね~。じゃぁ昼間は我慢する。良いよね、夜はどうせ脱ぐんだし…えへ」
あ…そう…
そして今やすっかり慣れた王城へと到着したのだ。
ちなみに大公の王都邸は大公が大公じゃなくなっちゃったから、王城に連れて行った一部の使用人を除いてまるごとユーリへ受け継がれた。これからはあそここそが公爵家王都邸だ。
ナッツたちは基本あっちに滞在する。実は他にも計画があるのだ。奥様として。
「ミーミル!おお!ミーミルよ!良く来て下された。お待ち申し上げておりましたぞ。さぁさぁこちらに。神殿へはいつ来られるのですかな?」
まさかの大司教自らお出迎え。
「教授に連絡を取ったらすぐにでも。それにしても驚きました。ダインの剣に共鳴したって本当ですか?」
「ええ。教授も驚いておられました。そういえば…、リッターホルムの教会に祭司は到着しましたでしょうか?冬になる前に入領するよう通達を出しておいたのですが…」
「来たよ、来ました!ヴェストさんのお兄さん!スヴェンさん!えぇー?大司教様が指名してくれたんですか?嬉しいなぁ」
「おおっ!お喜びいただけたようで何よりです。本人も初の教区がリッターホルムで光栄だと申しておりました」
そうこうしているうちに謁見の間に到着。
大公に会うのに謁見の間だなんて仰々しいけど一応人の目があるからね。人払いするまでは形だけ。それでもかなりカジュアルだけど。
「よく来た、二人とも息災か?」
「ええ大叔父上。今回元老院に引き合わせて頂けるとの事、ご配慮嬉しく思います」
「もう構わんだろう。前王による洗脳の影響は徐々に抜けてきておる。お前も公爵家の当主として政に関わって行かねばな」
「ユーリ頑張って!領地の事は心配いらないよ。甜菜もトウモロコシも順調だしカレッジも病院も形になって来たしようやく祭司も到着した、文句なし絶好調だよ。一点だけを除いてね」
「あれか」
「そう、あれだよ」
記録書の記述を知ってる大司教は問題ない。威風を備えた大公の姿に張り詰めていた気が抜けたのか、僕は魔女の動向についポロリと愚痴をこぼした。
「動きがこう…緩慢なんだよね。ユーリはそんなものだって言うけどまどろっこしいよ。何か仕掛けて来ないかな。事が進まない」
「しかけ…、そう軽々しく言うでない。それとも何か策でもあると言うのか?」
「無くは無いよ。けど情報不足だ。その情報すら動きが無いと得られない」
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だがいずれにしても相手の能力と戦力が把握できなけばその効果は半減する…。
何か動きがあれば…動きさえあればそこから掴めるものがある。それも御者の事件のような漫然としたものでなくもっと敵意をむき出しにした…
「アッシュ、君の事なら誰より分かってる。君は見かけほどおとなしくないってこともね。だけど無茶をするのはよしてほしい」
「見かけが大人しかったことなんかあったっけ。」
「いいかアッシュよ、決して軽率に動くでないぞ。お前は我々の切り札なのだ」
「ミーミルよ。我らはあなたを二度と失う訳にはいきませぬ。有事の際は必ずお声がけを」
「心配性だなぁ三人とも。けど大丈夫。じっくり様子を見るのは得意なんだ。でもここぞと思ったら僕は躊躇しない。トレードはタイミングが重要なんだ。心配しないで、伊達や酔狂で何十億も稼いでないよ。」
そう。僕が不得意だったのは自己管理だけだ。何より肝心な、自己の管理だけ…
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