君との怪異に僕は溺れる

箕田 悠

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第一章「代償」

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「僕もお腹空いてきちゃったからさ、遠慮しないでよ」

 そう言って僕が腕を引いて早足になると、泰明も「分かった分かった」と言ってやっといつも感じに戻っていく。

 内心でホッとする一方で、僕の頭の中は別のことでいっぱいだった。

 除霊するのに本当にキスは必要だったのだろうか。今まで見てきた除霊方法の中で、そんなの見たことがない。

 それに僕は仕方がないとしても、神近くんは嫌じゃなかったのだろうか。除霊する人みんなにそんな事しているのならば、何人もの人とキスを交わしているという事になる。好みの相手ならまだしも、嫌いな相手でもせざるを得ない状況の時はどうするのだろうか。

 僕は気になって仕方がなくなってしまう。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。今までにないすごい経験を僕はしたのだと、今更になって心が沸き立ってしまう。

 なにより真相を確かめるためには、本人に直接聞いた方が早い。それにあそこは盛り塩もあって安全だ。

 問題は泰明は連れていけないということ。この二人は謂わば水と油のように相容れない。今日の状態から見ても、二人は顔を合わせないほうが良さそうだ。

 僕一人で明日もまたあの部屋に行ってみようと心に決め、泰明には心の中で「ごめん」と謝った。

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