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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

388.お爺ちゃんと後任ライダー4

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「お疲れ様、スズキさん」

「|◉〻◉)あれ、木登りの方はもう良いんです?」

「無事スキルの獲得を確認しましたよ姉弟子。それと僕に向けてのエール、バッチリ受け取りました」

「|◉〻◉)ふふふ。実は対抗意識を燃やして歌を歌ってただけなんですけどね~」


 あくまでも自分の意思はそちらにあると言いたげにスズキさんは微笑んだ。
 そうではないと理解してると言うのに、この人は変なところで頑固なんだから。


「もう一度あの場所へチャレンジしに行きたいんです。姉弟子も僕が無事に壁を登り切るのを見守っててくださいね!」

「|◉〻◉)良いでしょう、僕が弟弟子の成功を見守ります」

「では私は弟子達が頑張ってるところをカメラに映そうかな?」

「|ー〻ー)そうやってすぐ茶化すんですからもう」

「師匠なりの優しさですよ。師匠は同時にこうも言ってくれてるんです。自分の力で乗り越えなければ成功はないと。だからここから先は師匠のアドバイスなしで進もうと思うんです」

「|◉〻◉)成る程。成長しましたね弟弟子。姉弟子は嬉しいですよ」


 よくわかってないと言う顔でそう言ってのけるスズキさん。
 しろろん氏も満足げに頷いている。
 別に茶化してるわけでもないんだけどね。
 こうやって記録に残すことで当時を振り返れる良い機会だと思ったんだ。
 もし私にも師匠がいたら、こうやって記録に残してくれたら良いのにって思ったからね。

 一度親をやればわかるが、こんな時もあったなと思い出を振り返るのに写真てすごく便利なんだよ。
 今はまだ駆け出し探索者のしろろん氏。
 そんな彼が後々どんな探索者のなれるかは私の知るところではない。

 ただ、私が師として関わるからにはどのように育って欲しいかを見守るくらいはして良いはずだ。
 今までと違うのは教えて欲しいと請い願われてる内容の有無。

 身内からのお願いに付き合うのとは違い、今回はそれとなく話題を振ってヒントを与えるだけしか関与しない。
 今までとの違いは私が先人きって手本を見せないことにある。

 自分が教える側になって初めて見せた行動だ。
 今までは新規としての振る舞いで何が正解か分からずだったけど、今はもう新人と言っても通用しない立場にあるからね。

 名前も売れてしまったし、どこに行っても時の人で通ってしまう。思えば遠くへ来たものだよ。

 そんな風に思えるほどの冒険を確かにしてきた。
 周囲に散々迷惑もかけてきたからね。
 良い加減自覚くらいするさ。
 同時に周囲から教えてもらえる事も少なかった。

 それだけ突拍子もないことをしてる自覚があったもの。

 でも、それでも。
 私のファンで居てくれる。
 私の師事を仰ぎたい。
 直接そう私に乞い願う人はしろろん氏が初めてだ。

 掲示板でそう言う声をかけてくる人はたくさんいた。
 でも直接私の都合に合わせて連絡を自ら取ってくる人はしろろん氏意外で皆無なのも事実。
 同じ魔導書に選ばれた以外にも気に入ったところはそういう類似点。

 もちろんパープルの同級生という偶然もあるが、そういう親近感が私が今回彼の言葉を受け取った意味合いも含まれていた。
 彼は私からの教えを乞うのにとても紳士的なのだ。

 身内や第三者からの教えは基本的に情報の開示を求められる。
 けどしろろん氏はそれを良しとしない。
 彼は基本的に独学で自らの成長を伸ばすのを望んだ。

 かつての私がそうであったように、独自の進化を望んでいるのだ。

 そんな彼が私のヒントをきっかけに成長していく様を見るのは嬉しいのだ。
 かつての私は自分と同じ志を持つライバルは居ないものかと憂いたが、そこにどざえもんさんという己の道を貫く同志を見つけた。

 そんなきっかけで自分の考えは特別おかしいものだと疑わなくなった。
 もっと自由で良いのだと確信が持てた。
 自由に振る舞えば振る舞うほど、周囲に迷惑をかけていくけど、巻き込まれた彼らは自ら首を突っ込んできた者達だ。
 だからそこまで遠慮はしなかった。

 パシャリ、パシャリ。

 連続でシャッターを切る。
 今までのスクリーンショットでは味気ない行動も、実際にアイテムがあるのとないのとでは趣から変わってくる。
 弟子の成長をこの目に収めると同時に、それを思い出として胸に仕舞い込んでいくのだ。

 最初は垂直移動に手こずっていたしろろん氏が、努力の結果ついには壁を登りきり、その頂上でゴミをポイント化していた光景をスズキさんと一緒に喜んだ。
 彼女も姉弟子としてズルなく挑戦しようと息巻いている。

 最初こそ路面を凍らせてスケートの如く滑っていた彼女も、今ではわっせわっせと地上を走って心肺に負担をかけていた。
 持久力を鍛えようと弟弟子を通じて感じ取ったらしい。
 姉弟子として格好つけたかっただけかもしれないけど、これもまた成長だ。

 このように影響を与える人物ってスズキさんからしてみたらクトゥルフさんか私以外では初めてなんじゃないの?
 どれだけ多くの時間を過ごしても、ジキンさんや探偵さんに一切靡かなかった彼女が、新人の頑張りにこうして共感している事実。

 そしてどれだけ成長しようと、まだ成長の余地はあるのだ。
 カメラを構えて頑張る若者を写している私もまた、まだまだ頑張れると元気を与えてもらえた気持ちだ。

 実は心のどこかで休息を求めていたのかもしれない。
 海底や天上世界の冒険、そしてドリームランド。
 誰もが体験した事もない世界での活躍でどこか満足していた私は確かにいたのだ。

 でも、


「師匠ー! 今回は僕の勝ちですね!」


 こうやって後からやってきて私を追い抜く輩が出てくると考え方も変わる者だ。ああ、負けてられないと。
 もう前を歩く必要はないとどこか後ろ向きに考えていた自分の頬を張り付けたくなる。
 まだまだ自分は満足できる境地に至れてないぞと、心の奥底で思い至るのだ。


「|◉〻◉)ふふふ、ハヤテさんらしくないですね。弟子に花を持たせるなんて」

「それどういう意味?」

「|◉〻◉)だっていつもだったら年甲斐もなく我先にとトップを頂くでしょう? だかららしくないなって」

「ひどい言いがかりだ」


 こうやって時々お茶を濁してくれる彼女がいるからこそ、ここまで腐らずやってこれた。
 もし私の周りに彼女がいなければ、とっくの昔に重責に押しつぶされていただろう。
 私は昔から責任感の強い男だった。

 それ故に意地っ張りで、妻や娘の前で弱みを見せるのを嫌って拠り所である家族と距離を置いた事もある。
 会社から転勤を言い渡されたとき、家族と引き離されるのを呪いもしたが、同時に弱い自分を見せなくて済むとホッとした時もあった。

 心の中にはいつも家族がいてくれる。
 それは本当だけど、同時にそのプレッシャーに押し潰されそうにもなってもいた。
 唯一の癒しが私に優しい由香里ぐらいで、その裏に思惑があろうと目を瞑ったものだ。

 だからゲーム内でも色々と厄介ごとを引き受けてしまったが、そんな時に彼女と出会う。

 普段は引きこもり体質なのに、いざと言うときは前に出て私を庇ってくれる。ちょっとヘンテコな魚人種の女性。

 それがNPCだと聞かされた時は仰天したと同時に技術の進歩に驚かされたけど、その実態を知ると同時にますます興味を惹かれたんだ。

 彼女の存在が私の精神の負担を減らしてくれていたのは他ならぬ事実である。
 普段がポンコツだから無碍に扱っているし、本人もそれを嫌がらないからどんどんと調子に乗っていた。


「でも、スズキさんと出会えて毎日が楽しかったよ。ありがとうね?」

「|◉〻◉)ちょ、なんですかいきなり。プロポーズ?」

「お互い既婚者でしょう? これはフレンドとしての挨拶のようなもんですよ」

「|◉〻◉)ホッ、良かった。クトゥルフ様に言い訳を考えなきゃいけないとこでした」

「クトゥルフさん、君にべったりだもんね」

「|◉〻◉)ふふふ、僕は魅力的ですからね。罪な女です」


 すぐ調子に乗るのもまた彼女の魅力だ。
 うちの妻だと現実的だもんね。実際に奥さんにもらったら大変そうだとクトゥルフさんには同情を覚えてる。
 だからこうも謎の親近感を得るのかと変な気持ちを覚えていた。


「師匠、次の課題に向かいましょう」

「そうだね。私のビルドだと素潜り、木登りときたら次は登山だな」

「壁登りとの違いは?」

「大自然という環境は時として我々の想像を超えてくるものだよ。人工物じゃないから、まず壁と違って垂直ではない。そこを制覇してこそスキルアップの道があると私は考える」

「なるほど!」

「そして、そういう場所こそ取り逃したお宝が眠っているもんさ。本職のどざえもんさんだってこの広い世界を探索しきれていない」

「どざえもん……確か地下ルート開拓者でしたっけ?」

「そう、私がライバルとして認めた男の一人さ。同時にクラメンでもある」

「クランですか……僕はまだ何も成し遂げてないので入るのにいささか勇気は入りますが」

「どこか入りたいところはあるの? うちは枠がいっぱいだから席は空いてないけど。しろろん氏が望むならいつでも席は開けられるよ? もちちん誰かを追放するんじゃなくてランクアップするだけだけど」

「そこまでしていただかなくて結構ですよ。僕はまだどこかにお世話になれるほど強くないですし、それに……」

「それに?」

「クランに入るとそのまま甘えてしまいそうで、成長が止まってしまうのではないかという不安もあります。今はまだ、自分の限界も知らないので、楽しみは後に取っておこうかと」

「そうか。ならいつでも連絡を待ってるよ。私は既に君を気に入ってるからね。スズキさんも随分と懐いてるし、パープルの同級生という点でもうちのクラメンが断る事はないだろう。と言うか、クラメンの殆どが私の身内やご近所さんなんだ。どざえもんさんみたいなイレギュラーも居るけど、だいたいが私のお気に入りだよ。なのでしろろん氏も遠慮せずに来てもらっても構わないよ?」

「そんなメンツ、余計萎縮しちゃいますよ!」

「|◉〻◉)ちなみに僕も在籍してますよ」

「姉弟子まで!?」

「|◉〻◉)初期メンバーです」


 スズキさんはどこか得意げに胸を張った。
 人型の彼女であってもその太々しいドヤ顔は様になっている。


「さすが姉弟子です。でも今はごめんなさい。僕にはまだやるべきことがある」

「もちろん無理にとは言いません。けど行くべき時になったら声をかけてくださいね? あ、フレンド申請大丈夫ですか?」

「それは勿論構いませんよ」

「|◉〻◉)じゃあ僕も」

「あっはっは、姉弟子まで僕のことが心配ですか?」

「|◉〻◉)姉弟子としてはハヤテさんみたくなってほしくないと言うか」


 ちょっとそれどう言う意味です?
 ジトリと睨んだら、やべッと言う顔をして視線を逸らした。
 全く、一言余計なんだから。

 でも、そうやってヘイト取りをしてくれるからこそストレスがたまらずに済んでいる。
 ガス抜きが巧みだからこそパーティの雰囲気が悪くならずに安定するのだ。

 正直、空の攻略がうまくいったのは彼女の助力があったからこそ。
 私やジキンさんを見ればわかるように、いつも衝突を繰り返してる相手と一緒にいると不信感が強まるからね。
 でもそこにうまいこと緩衝材として入ってくれるからこそ場が持ち直すのだ。

 今回の修行の場も私としろろん氏の一対一じゃ正直場が持たなかったところがある。

 持つべきものと持たざる者。その違いにどれだけ多くの者が悩まされ続けてきただろうか?

 教える側がそう思わずとも、学ぶ側が少しでも疑問を抱けば関係性はあっけなく壊れるものだ。

 そんな場所に単身入り込んで場を繋ぐ才能。
 実際どこまで計算してやってるかわからないけど。
 なんだったら全部天然で計算すらないのかもしれないけど、それでもクトゥルフさんをずっと支え続けてきた手腕を垣間見て私はスズキさんに頭が上がらない想いに至るのだ。

 普段茶化しているけどその実聡明で思慮深い。
 そう思わせないような立ち回りにどれだけ周囲の者が騙されてきたか定かではない。

 そして今回新しく割って入った相手も、彼女の掌の上で転がされ続けるのだ。


「スズキさん」

「|◉〻◉)はい、なんですか?」

「しろろん氏をよろしくね?」

「|ー〻ー)それは僕じゃなくお姉ちゃんに言う言葉ですよ。僕はほら、ハヤテさんの専属なところがあるじゃないですか?」


 まるで私によって変えられてしまった。その責任を取れと訴える二つの瞳に咎められ、私はため息を吐きながらかぶりを振るう。
 彼女もまた私の被害者のように振る舞うか。


「姉弟子のお姉さんですか?」

「そ。この人の一族、もとい種族はクトゥルフさんに代々仕える家系だから。なので彼女の姉妹のどれかが君の幻影になる可能性が大だ」

「え、じゃあ姉弟子って?」

「私の専属だね」

「|◉〻◉)いえーい、ドッキリ大成功!」


 どこから取り出したのか、それっぽいプラカードを取り出したスズキさんが決めポーズと共にしろろん氏の前で茶番を披露する。
 言い渡されたしろろん氏も、覚悟はしてたと言わんばかりに疑問を口にしていた。


「……色々腑に落ちない点もありますけど、僕に接触してきた時点でなんとなく想像していました」

「あ、やっぱりおかしいと思ってたんだ?」

「ええ、掲示板をどれだけ探っても姉弟子の種族に辿り着けませんでしたから。だからこっちの関係者かなって」


 腰に巻かれたベルトを摩り、そう零す。
 なんか最初っからバレてたみたいだね。
 それでも姉弟子と慕ってくれたあたりは好感が持てる。


「|◉〻◉)僕のこと嫌いになりました?」

「事実は小説より奇なりと言うように、僕は気にしてませんよ。それにどんな理由があろうと推しを変えるつもりはありません。姉弟子は姉弟子ですよ」

「|◉〻◉)弟弟子よ、姉弟子は嬉しいです!」

「はい、弟子同士の絆が保てたところで先に行くよ。準備はいい?」

「はい!」

「|◉〻◉)ノはーい!」


 一向は一路ファストリアを離れてセカンドルナへ。
 適度なネタバラシをしつつ、彼の侵食度増加も手伝っていく。
 
 私が彼の師として教えるのは何もスキルの成長だけではないのだ。
 同じ神格を讃える同志としての素質を高める為の試練もまた同時にこなしていく。
 その中でもスズキさんの存在はちょうど良い怪異。

 影の中から現れるホラー現象や、中身の人間離れしたAPPの高さは幻影の特徴と酷似している。
 この手のネタは早いうちにバラした方が心の負担が軽くなっていいのだ。
 特に彼女はサプライズを組みたがるから何度ドッキリさせられたか分かったもんじゃないし。


 そして過酷な山登り体験は夕方近くまで行われ、その日は現地で解散。
 また時間を合わせて会おうと言うことになった。

 そんな忙しない日々を過ごしていく中で、しろろん氏を除く10名がまたドリームランドに導かれたみたいだった。

 前回抜けた三名分の穴埋めが済めば良いだけだから前回より開催スパンがだいぶ短いように思う。

 同時に公式サイトに各自プレイヤー視点の生配信が開始された。
 前回は終わってからのアーカイブ化だった筈だけど二回目からは生配信で追えるみたいだね。
 掲示板の方でもその話題で持ちきりのようだった。

 しろろん氏はまだ見ぬライバル達の活躍には目もくれず、己のスキルに磨きをかけていた。
 それでいい。今のうちから誰かとどれほど差があるかなど気にするのも馬鹿らしい。

 どうせ自分にできることなんて大してない。
 多くを望まず、やれることだけをやればいい。
 私と同じように。

 一生懸命に前を向くしろろん氏に感化され、私もまた配信を覗く手を止め弟子の成長を見守った。
 スズキさんも一緒に登山にチャレンジしてるように、私もまた自分の限界に挑戦したくなったのだ。

 スキルを使わずに独力で何処までやれるだろうか?
 一人の人間の行動に感化されるのは何も同じライバルだけではなく、教え導く側の私もまた同じだった。
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