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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

387.お爺ちゃんと後任ライダー3

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 黄金郷の景色を一通り見終わった後、ついでとばかりにゴミ拾いクエストも受けておく。
 何故かと言われたらそちらにも図書館があるが、図書館すらついででロッククライミングに挑戦してみないか? という話題振りができるからだ。

 VRは気持ち一つで全身運動が出来る。
 そしてこっちのクエストにはスズキさんを誘ったこともなかったなと思い出したからだ。


「師匠、このクエストって奥深いですね。ゴミを拾うという単純作業の中にいくつものメッセージが隠されている。師匠の冒険もこうやって始まったんだなって思うとどうしてこのクエストに引き込まれていったのかわかる気がします」


 しろろん氏はそう言ってくれるけどね、実は孫にいい顔をする為のお小遣い稼ぎをできる場所がここしかなかっただけなんだよね。
 もし私が攻撃手段を手に入れていたらきっと見向きもしなかっただろう。でもそれは敢えて口にしない。
 今のしろろん氏には必要のない言葉だから。


「|◉〻◉)こんなところもあったんですねぇ、この街」

「スズキさんも連れてきたかったけど、その時君はまだ陸上を歩けなかったからね」

「|ー〻ー)ですね~」


 そう言いながら私達の走る速度に追いつけているのはさすがというべきか。いや、よく見ると走ってはいないな。
 足元に氷制作で地面をコーティングしてその上をスケートの如く滑ってるだけだった。


「スズキさん、ズルはいけないよ?」

「|◉〻◉)あ、バレました? でも僕の場合は肺呼吸を覚えてもスタミナがないのですぐに息が上がるんです。水中ならまだこれくらいの速度を保てるんですけどねー。なので見逃してくれると嬉しいです。あそれ! ほい、ほい!」


 そう言いながらクルクルとポーズを決めて回っていく。
 ふざけているように見えてしっかりゴミも拾ってるあたりは流石だ。
 以前誘った女子プレイヤーより役に立ってるよ。

 そうこうしてるうちに目的の壁上探索地点へと辿り着く。
 ここの図書館への道筋はほぼランダムだから、行くまでにこういった場所を多く通る必要があった。

 結局図書館への道を教えてるんだけど、受け取り方を変えただけでしろろん氏の表情はどんどんと明るくなっていく。
 本人の望んだスキルが手に入る。
 欲しかったスキルの派生先が増えていく。

 そういうのってゲームの醍醐味だよね。
 当時足掻いていた私もそうだったなと感傷に浸りながら、どのように壁を登るかをレクチャーしていく。
 この手の運動は五体が満足じゃないとまずやれない事だ。
 立って歩く、泳ぐ、登る。

 しろろん氏が望んでやまなかった行動への第一歩は、うまくいかないまま時間だけが経過していく。
 泳ぐのは水の中、浮力というサポートがあってこそ。
 けどここには何もなく、重力という縛りがしろろん氏を苦しめ続ける。


「師匠、お時間を取らせて申し訳ありません」

「良いんだよ。私だって初見の時は諦めた程だ。それくらいこの高さと垂直具合は人を絶望させるのには十分だ」

「そうなんですか?」

「うん。最初は低い高さの木登りから着手するべきだったかな?」

「|◉〻◉)そんな都合のいい場所があるんですか?」

「あるよ、町の至る所に」

「それ、まさか街路樹とかじゃないですよね?」

「そのまさかだよ。壁ほど一急勾配ではなく、木の枝などのとっかかりもある初心者向けの場所だと私は思ってるけど」

「じゃあそっちに行きます!」

「よし、じゃあこのクエストはリタイアするよ。クエストに限りリタイアすればスタート地点に戻れるからね。歩いて帰る必要は実はないんだ」

「|◉〻◉)まるでチュートリアルみたいですね」

「アザトースさん曰く、ここの世界はドリームランドに行く前のチュートリアルだと言ってたからね。あながち間違いじゃないよ」

「|ー〻ー)あー、納得です」

「僕がこれから向かう場所ですか」


 ヨーヨーをその手に握りしめ、しろろん氏が瞳に力を込める。
 まだいくと決まったわけでもないのに、やる気満々だねぇ。
 ライダーは参加資格があるだけで全員がエントリーされるわけじゃないからね。なので今から意気込むのは少し早いよ?


「さて、ファストリアの街に帰ってきたわけだけど、少し休憩でもしようか。STもそろそろ尽きてきた頃だろう?」


 そのゲージが消えて久しい私は余裕綽々だが、しろろん氏は明らかに息が上がっていて。
 スキルを得られた興奮で前のめりになるすぎて体が疲れてる状態にあるのを脳が理解したくなかったようだ。
 私もその気があったが、そういう時に限って周囲から援護射撃をもらったものだ。

 今は私が引率者。なので責任は私に付き纏う。


「|◉〻◉)わー、僕地上のお店利用するの初めてです」

「いつもアイドル巡業できてるのに?」

「姉弟子はアイドル活動もしてるのですか?」

「そうなんだよ、普段はこの着ぐるみ姿だけど、中身があるんだよ。弟弟子に見せてあげたら?」

「着ぐるみ?」

「|◉〻◉)そうですねー、CD買ってくれたらいいですよ」


 どこまでも商売につなげるな、この人は。
 けど中の姿を見せないでCDを買えはハードル上げすぎじゃないかな?
 というかどう見ても魚人の皮膚そのもののボディを着ぐるみ扱いする私に、しろろん氏は何言ってんだこいつって顔をする。
 気持ちはわかるよ。でも脱ぐと本当にぬいぐるみみたいになるんだから仕方ないじゃない。

 そしてスズキさんは自らのエラに手を突っ込んでゴソゴソすると、何枚かのCDをテーブルの上に差し出した。
 それを見てしろろん氏が驚きの声を上げた。


「あ、RU☆RU☆I☆E☆じゃないですか! 良いですよね、僕CD持ってますよ! 姉弟子、まさかこのアイドルユニットの中に?」

「|◉〻◉)居ます」

「それはお見それしました。誰だろう? みんなそれぞれ特徴があるからなー。リリーちゃんじゃないだろうし」


 速攻でリストから外されてるのにニマニマしてるよこの子。
 もしやドッキリ大成功ぐらいに思ってるのかな?
 しろろん氏が降参を言い渡し、スズキさんはドヤりながら着ぐるみを脱ぎ始める。
 まさか背鰭にチャックがあるとは思わなかったのか、その場所から姿を表した真の姿にしろろん氏は驚愕に目を剥いた。


「え、リリーちゃん!?」

「|◉〻◉)ふふふ、驚きましたか? 弟弟子よ」

「師匠、知ってて黙ってたんですか?」


 それはどっちの意味でだろう?
 君がRU☆RU☆I☆E☆の追っかけをやっていた事かな?
 それとも中身がいると知ってて適当な対応をしていたことかな?
 どちらにせよ良い感情は向けられては居ないようだ。


「確かに私はスズキさんの中身がリリーであると知っていた。でもだからって普段通りの扱いを変えるわけじゃないよ。スズキさんは見ての通りとてもユニークな性格をしている。アイドルをしていたってその本質は変わらないよ。でも君はアイドルのリリーを基本としてスズキさんを見ようとした。それはある意味で区別だ。本質を見失ってはいけないよ。リリーはアイドルである前にスズキさんという一面も持っている。どちらかを特別視するのは良くない」

「はっ」

「これは君にも言えることだけどね。せっかくできた友達が君の生まれついたものの病気で接し方を変えてきたらどう思う? 君はこれが自分だから普通に接して欲しいと思っても、相手は君を病人のように扱ってくる。そんな時、君は何を考えるだろう?」

「確かに、そうですね。僕がリリーちゃんを望む一方で姉弟子には姉弟子としての生き方がある。僕の一方的な願いだけで縛り付けるわけにはいきません。僕が間違っていました」

「うん。そこが分かれば大丈夫。ちなみにスズキさんにアイドルをやってみないかと持ちかけたのは私なんだ。本人は自分なんかがアイドルになれるのかって疑ってたけど、やってみたら案外ウケが良くてね」

「え、RU☆RU☆I☆E☆のプロデューサーって師匠だったんですか!?」

「うん。知らなかった? 歌や踊りはスズキさん達が頑張って考えてくれたりしてるからね。お金を出して舞台を整えるのは私がやってるんだ。このゲーム内ではアイドルといっても千差万別。歌って踊る以外にもその容姿を生かしてゲーム実況する道もある。プロデュース業はその子がどんなものを得意とするかを見極めて舞台を用意することだと私は思ってるよ。稼ぎなんて二の次さ。肝心なのは舞台に立つ子達が輝くこと。好きでもないことを強要させたりはしてないよ。だから彼女達は舞台の上でいっそう輝くのさ」

「わかる気がします。リリーちゃんもミレディちゃんも、ジーク様も乙姫様もみんな生き生きしてますから。落ち込んだ時にその姿を目にすると元気をもらえるんです」

「良かったじゃない、スズキさん。この人生粋の追っかけだよ?」

「|◉〻◉)ふへへ。ありがとうございます」


 この子も素直に受け止めない子だね。
 いや、こっちが素だったかな?


 ドリンクバーで一息つくなり、早速木登りしようと息巻くしろろん氏。
 だがやはりというか道ゆく人の視線は集まるわけで。


「視線が気になります、師匠」

「そりゃ目立つからね。私も当時のフレンドさんに正気を疑われましたもん」

「そりゃそうですよ。登りやすくったって登ったからって何かがもらえるわけじゃ……」


 そんなやり取りを繰り返すうち、彼にだけ伝わるメッセージが頭に響いたようだった。


「あ、なんかスキル生えました。垂直運動?」

「やっぱり貰えたんだ、それ?」

「あ、師匠ももらったんですか?」

「うん。人からの視線は気になるけどね。やってよかったでしょ?」

「たしかにそうですね。それに姉弟子もゲリラライブを開いて注意を散らしてくれてたようですし」

「ちょっと目を話した隙に何やってんだか」

「でも、僕としてはこれ以上の応援歌もないですよ」

「彼女らしいか」

「はい」


 最初こそしろろん氏に注がれていた視線も、いつのまにか突如始まったストリートミュージックによって全て掻っ攫われてしまう。スズキさんなりの応援も兼ねての活動に気を良くしたしろろん氏が木登りから派生スキルを手に入れる頃にはすっかり人垣がスズキさんを中心に広がっていた。

 普段おっちょこちょいな彼女を知る人物は案外少ない。
 スズキさん=リリーであると認知されていないのもあるからね。

 RU☆RU☆I☆E☆のリリーとしての知名度は今や知らない人はいないくらいのものだ。
 ハーフマリナーの薬のお陰で、冒涜的な歌詞が混ざっていても普通に聴けてしまうのも人気に拍車をかけているのかもしれない。


「さて、ここでやることも終わったし、姉弟子を迎えに行こうか」

「もう少し、聞いてても良いですか?」

「そうだね。君のための応援歌だ。彼女の想い、素直に受け取っておこう」

「はい、ありがとうございます。師匠」
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