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2章 お爺ちゃんとクラン

074.お爺ちゃん、孫世代の問題に直面する

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「実は怪しい場所はここ以外にもいろいろあるんだ。過去に検証班が挙げたデータでは、状況証拠がなさすぎて探索は中断になったの」

「ふむ。証拠がないという割にいろいろあると言うのは妙だね」

「掲示板ではどこかのクランが情報を抜いていたけど秘匿してて、用が無くなったから開示していると噂が立ちました。掲示板で言われてる事なんで、ほとんどが憶測の域を出ず、なんの信憑性もありませんが」


 マリンに次いでユーノ君が言葉を付け加える。


「サクラ君はどう思う?」

「僕ですか? 僕はユーノちゃんと同じことを思ってました」


 ふむ。孫にも言えることだけど、今の子たちは自主性がないのだろうか? いや、マリンに全くないとは言わないけど、興味の外のことには目を背けてばかりいて失敗を恐れる様な意識が働いている様に思う。
 ここは乗り掛かった船だ。私が手本を見せようか。


「そうだね、取り敢えずは考えるのは一旦やめにして、体を動かそう。マリン、他の情報源の場所を教えてくれるか?」

「うん、だったらブログにまとめ記事があるからそこで……」


 そう言ってマリンはせっかく現場に赴いているのにメニューを開いてブログと睨めっこしてしまう。
 それって実にもったいない事だよ?
 外に遊びに来てるのに、ずっとパソコンの画面に張り付いていた当時の子供達を思い出す。
 私の様なアウトドア派は珍しかったからね。主流はインドア派だったから肩身の狭い思いをしたものだ。


「マリン、せっかく現場に来ているんだ。どうせだったら自分の目で見てみたい。この際、諦めてしまった人のまとめ記事なんて余計な思考を入れてしまうことになる。どうせなら自分で見て確かめて、そこから答えを導き出したいんだ」


 私の言葉にマリンはハッとした。
 そしてすぐに自分の目的を思い出す。
 今日一緒に遊ぶ約束をしておいて、過去の情報を引っ張り出して済まそうとする自分の愚かしさを恥じ、苦笑いする。

 今の世代の特徴ともいうべきか、簡単に検索する機能が付いたからか、知識を蓄えるよりも誰かの調べ上げた情報を見つけることに趣を置く世代特有のやりとりに私は非常に嘆かわしく感じてしまうのだ。

 それは冒険ではない。知った気になっただけで、次の日になれば忘れてしまう情報の一つだ。
 彼らにあるのは知識ではなく、検索技術のみ。
 過去の偉大なる先人の知識を我が物顔で披露し、悦に浸っている。
 そんな彼らが可哀相だと、旧世代の私は思ってしまうのだ。

 世代が違う、考え方が違うで見過ごしてきた歴史を今こそ見直すべきではないのかと、彼らに教えてみせよう。
 知識に無駄なことなんて何一つない。一見無駄に見える知識だって、そこに至るまでにたくさんの努力を積み重ねて昇華されたものだ。
 それを有用か無用かの取り捨て選択で過去に埋没させていく彼らに私は危機意識を覚えていた。


「そっか。じゃあ、案内するね?」

「頼むよ」

「ユーノちゃん、アキカゼさんて……」

「サクラ君の思ってる通り。すごく融通が利かないの」

「あはは。でも、だからこそかな? ──マリンちゃんがあんなにも楽しそうにしてるのは」


 後ろの方で何やらサクラ君とユーノ君が話している。
 少し悪口も聞こえたが、その割には仲睦まじい笑い声も聞こえてくる。
 気のせいか、と思いつつも力を込めて手を引くマリン。
 スタミナは大丈夫なのかと心配したが、杞憂だった。


「ここだよ!」


 連れてこられたのは少し戻って[ダンジョン・枯れた金鉱山B1]ここは鉱脈よろしく入り組んだ一本道の一つが次の階層につながっており、そのほとんどが行き止まりになっている。

 [ダンジョン・枯れた金鉱山B2]は中央の柱部分を覆う様な空間が広がっているばかりで何もなかったが、孫曰くこのダンジョンは全部で5階層まであると言っていた。
 つまりその階層ごとの仕掛けがあると私は踏んでいる。

 連れてこられたのは行き止まりであるはずの一つ。
 そこには古代文字で何かが記されていた。
 過去の人達は古代イベントを消化していなかっただろうから、ここで詰まったんだな。


「これは、古代文字だね」

「読める?」

「一応読めるには読めるが、虫食いが酷くて全部は読み取れない。どれ、スクリーンショットで情報提供をしようか。さっきと同様にメール添付で送るよ?」
 
「ありがとう!」


 孫は喜びの声を上げる。
 というよりは私のやることに対して過剰に喜ぶのだ。
 こういうところは娘とそっくりだな。


「──の声を聞け、ですか?」

「うん。むしろ意図的に虫食いにした様な形跡が見られるね。ここに当てはまる言葉は何だと思う?」


 ユーノ君の困惑に私は問いかける。


「わかりません、ごめんなさい」

「あてずっぽうでもいいよ。別にこれはテストでも無いんだ。間違えたからって非難されるものではない」

「そうですけど、なかなか自分の中からは出てこなくて」


 意気消沈としてしまったユーノ君。
 これが今の世代の抱える問題点だね。
 過去の情報から一切自分の意見を持ち出せないことこそが、ゲームからの問いかけを無理難題にしてしまっている。
 高年齢までを対象にしてるのはこういうことか。今の世代だけでは解き明かせない謎が仕掛けられている。


「もしかして、風?」


 そんな折、孫が難しい顔をして腕を組んでいた状態で何かを呟いた。


「どうしてそう思ったのかな?」

「うん。だってダンジョンて基本的に地下なんだ。だから風が吹くのって珍しいの。だからこそ怪しいスポットの一つに入れたんだ。それにさっき聞いた風って、普通の風とどこか様子がおかしかったし」

「お見事。私も風について考えを巡らせていたよ」

「やった!」

「でも正解であるとは限らない」

「えー、これで正解でいいじゃん」

「まだ答えは明確に出てないんだよ? マリンはすぐに答えに繋げようとするけど、それは些か早計に思う」

「よくわかんない!」


 ぶー垂れる孫の頭をポンポンと軽く叩く。
 

「この問いかけを解いたからと言って、何かお得情報が見つかる訳ではない。でもきっとそれでいいんだ。これですらとある場所へ通じるための仕掛けの一つであるかもしれないからだ」

「うん……お爺ちゃんならそこまで辿り着けるよ」


 くすぐったそうにしながら孫は私の手を置かれた感触を確かめている。私は彼女がこれからどんな成長を遂げるのか少し楽しみになった。
 そう思ったところでサクラ君が何やら物申した気に意見をしてくる。


「僭越ながらアキカゼさん」

「なんだい、サクラ君」

「ああ、いいえ。身内とはいえ些か距離が近すぎるのではと申しますか……」

「ああ、申し訳ない。どうもリアルでの距離感が抜けなくてね」

「リアルでもそういう……」

「サクラ君! その言い方はお爺ちゃんに失礼だよ?」

「ごめん、マリンちゃん。そういった意味じゃなくて」


 食ってかかる孫に、平謝りするサクラ君。
 いいや、悪いのは私だな。
 ここはリアルと違ってアバターを操っている世界観だ。
 比べて孫はその世界で一定数の人気を誇っている。
 見た目こそ若い私がその彼女とこうして向き合っている限り、彼の様に孫に好意を抱いている人物は気が気じゃいられないだろう。


「済まないねサクラ君。今後気をつけるよ」

「お爺ちゃん?」

「マリン。以前にも言ったけど、リアルとゲームの中では人の価値観は大きく変わるんだ。今回はそれを配慮せずにリアルと同義に捉えてしまった私が悪い。身内の時だけならともかく、今回は少し特殊だ。サクラ君にまでそれを強制することはできないよ」

「私は全然平気なのにぃ……」

「中にはそう思わない人もいるって事だよ。それにサクラ君の言葉で気付かされた。彼には純粋に感謝しているよ」

「そういう事なら、ごめんねサクラ君。さっきは怒鳴っちゃったりして」

「ううん、マリンちゃんがアキカゼさんをそういう目で見てないって知ってるけど、でもやっぱり見てて辛かったから。僕からもごめん」


 互いに頭を下げあって、喧嘩両成敗かな?


「それじゃあお互いに誤解も解けた事だし、もう一度さっきの場所に戻って真意を探ろうか」

「うん」

「「はい」」


 誤解も解けたからか、先ほどまでよりサクラ君の態度は軟化した様に思えた。
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