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2章 お爺ちゃんとクラン

073.お爺ちゃんとダンジョン探索

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 ログインし、待ち合わせ場所に向かうと孫のマリンが出迎えてくれる。


「お爺ちゃん、こっちこっち!」


 片手をブンブンと振って、私以外の注目も集めてしまってる事に、周囲に会釈しながら合流し、喫茶店の中へと案内される。
 席にはフレンドのユーノ君ともう一人が談笑しながらドリンクを口にしていた。


「遅れてしまい申し訳ない」

「あ、アキカゼさん。別に、全然待ってないですから!」


 ユーノ君がその場で私の方に向き、困った様に眉を寄せる。
 席に対面する形でもう一人の少年が会釈をする。


「君とは初めましてかな? 私はマリンの祖父にあたるアキカゼ・ハヤテだ。今日は一緒にダンジョンに入ってくれるんだろうか?」

「アキカゼ・ハヤテ……もしやあの?」

「あ、こーらー! お爺ちゃんについて詮索するの禁止って言ったでしょ!」

「ごめんごめん、マリンちゃん」


 孫に怒られて謝り通す少年。この時点で完全に力関係ははっきりしたね。それとも惚れた弱みでうまく言い返せないのか、平謝りで事なきを得ている感じに見えた。陰ながら応援してやろう。
 頑張れよ、少年。うちの孫は異性に対して厳しいんだ。


「見苦しい場所を見せて申し訳ないです、僕はサクラ。一応中堅の戦闘クラン『猛獣の牙』に所属してる魔術師です。専門は攻撃よりも補助に特化してるので、ユーノちゃんと競合する事はないですね」


 そう言ってサクラ君は頭の上に乗せた狐耳をピコピコと動かした。
 それ以外は人間の造形だ。つまり娘と同じハーフビースト。


「サクラ君は私と同じクラスの子なの! 男の子だけど、ゲームの中では関係ないし、私が動きやすい様に状況を作ってくれるんだよ! 今回はダンジョンアタックと言うことで中衛を担ってくれる事になったの」

「そうだったんだね。私は戦闘ができないからね。孫から聞いたかな? スキルは全てパッシヴに振ってしまったと」

「聞いています。だから僕が誘われたのだと」

「ならば頼りにさせてもらっても良いかな?」

「はい!」


 元気いっぱいの声を聞き、私達はドリンクを飲み終えたらセカンドルナを発つ。

 外に出る際、くま君が一緒についてきてくれようとしたが、周囲を怖がらせてしまうので今回は丁重にお断りしておいた。
 私だけならばともかく、今は孫もユーノ君も、そのお友達もいる。
 渋々と引き下がる姿には哀愁がこもっていてなんだか悪い事をしてしまったなと思うこともあるが、何よりもその圧迫感から解放された事を私は喜んでいた。ごめんよくま君。
 君は非常に心強い反面、心臓に悪いんだ。できれば二度と一緒に居たくないと思ってしまうのは私だけではないと思う。

 道中はマリンが元気いっぱいに暴れ回ってるだけで戦闘が終了してしまう。スクリーンショットを撮る余裕すらない。
 けれどそれこそが日常動作なのだろうね。
 なんて事のない様に振る舞う孫を微笑ましく思いながらその後ろ姿を追う。

 歩く事十数分。
 数回の戦闘を経て、私達四人は改めてパーティを組み直してダンジョンに入ることになる。
 何故かパーティリーダーは私になった。
 今日の主役はマリンなのに、付き添いの私がでしゃばってしまって良いものか。悩みながらも引き受け、何かそれっぽい言葉を掲げて第一歩を踏み入れた。


[ダンジョン/枯れた金鉱山B1]


 フィールドとは違う、饐えた匂いが周囲に漂い始める。
 土の匂いが濃く浮き上がり、埃っぽさが際立つ。
 足元は滑り、石畳の上には根が張り、鉱山であったのは随分と昔。
 今や自然の脅威に侵されてしまっているといった感じか?


「ここがダンジョンか。しかし名前から察するに、以前まで金が採れていたのかな?」

「産出されたって話は聞かないけどね。でもエネミーを倒すと稀に鉱石がドロップすることがあるんだ。駆け出し冒険者にとっては貴重な資金源になってるね。私はもう卒業したけどね?」

「ふぅん。なるほど、生産側と探索者側で上手く手を取り合っているんだね。だからこその発展か」

「なんの話?」

「いや、銀鉱石のみでどうしてあそこまでセカンドルナの街が発展したのか謎でね。けれどこういったダンジョンという存在があるからこその発展ならば合点がいくと思ったんだ」

「よくわかんない」

「そうか、マリンには少し難しかったかな?」

「それよりも早速怪しいところ見つけようよ!」

「あ、これ!」


 ダッと駆け出したマリンに手を引かれ、私は体制を崩しながらもなんとかその速度についていく。そのすぐ後をサクラ君、最後尾をユーノ君が追い、私達はB2に進む。


「私が当たりをつけたのはここ。耳を済ませてみて、何か空気の音がするでしょ?」


 言われた通りに耳を済ませると、確かにどこからか空気の流れていく音が聞こえてくる。
 しかし周囲にそれらしきものは一切見当たらず、首をひねるだけに留めたらしい。
 そこで私に出番という事だろうか?
 マリンはあの切り立った崖上が怪しいと指摘した。
 残念ながらそこに至るまで勢いをつけてジャンプした程度では届かないらしく、もう少し飛距離を稼げれば届くかもしれないが、この薄暗さと足場の悪さではそれもままならないという。


「分かった。早速確かめてみようか」

「何か見つけたら教えてね?」

「勿論だよ。今日の私はマリンの付き添いに来てるんだからね」

「うん!」


 さて、孫のためにも頑張りますかね。
 岩に手を当て、垂直の崖を登っていく。
 距離にして6メートルの高さを約1分かけて上り切り、少し開けた場所にカンテラを置く。
 天井付近は光源はなく、手探りのみで開けた場所だと判明したからだ。眩しい明かりに目を眩ませるが、次第に目が慣れていき、その場所に視線を落とす。
 しかしそれらしき仕掛けの様なものは見つからない。
 ハズレかと見切りをつけて降りようとした時だった。

 ───ヒュオッ、オオォオ────オォッ!

 頬に触れる風が真正面から吹き付けた。
 途切れ途切れに流れては、何かを訴えかける様にしてながれていく。
 これを数分おきに繰り返し、ようやくその意図に気づく。
 ああ、これ自体が仕掛けなのか。

 マリンはここに何かがあると思っている様だが、違う、そうじゃない。これは仕掛けの一部なんだ。
 きっとどこかにこの仕掛けに対しての問いかけ文と、答え合わせをする場所があるだろうと当たりをつけてマリンの場所へと戻った。


「何かあった?」

「残念ながら何も見つからなかったよ。一応撮影したので全員にメール添付で送ろう。こんなに薄暗いんじゃこの場で現物を見せてもよくわからないだろうし、ファイルを開いてギャラリーで見た方が彩度がよくわかるだろうしね」

「うん、そうだね」

「流石アキカゼさんです」

「お心遣い感謝します」


 素直に受け止める孫と、感激するユーノ君。サクラ君に至っては、そこまで配慮するのかと困惑気味だ。
 どうも私のやり方は一般的ではないらしい。
 こういった探索業務は全員で会話を弾ませて、それぞれ意見を出し合うものだと思うんだけど、他のプレイヤーは違うんだろうか?


「さて、ここで私から質問がある」

「何?」

「このフロア、もしくは違う階層に謎のオブジェクト、または謎掛けの様なフレーバーアイテムに類するものはあったかな?」

「あ、そういえば」


 孫には心当たりがあった様だ。
 私はやはりこのダンジョンには特別な仕掛けがあるのだと察し、彼女の次の言葉を待った。
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