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五章

08_龍果の魅力を伝えよう⑦

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 山賊から酒の製法を代価に情報を得た俺たちは、追い出された街とやらに向かった。
 これで例の果実は率先的に山賊のおっちゃん達が拾うだろう。

 そのまま食べることもできるだろうが、その先にアルコールを幻視させる事で採集を優先させるって寸法だ。

 坂下さんがベリーソースを痛く気に入ってくれたのもあり、その過程でお酒もできると言ってたので身は潰れててもいい。

 念の為に酒を作る為の水瓶も用意した。
 なるべく茎を取って実だけを回収してくれと念を押した。
 その水瓶の中身は坂下さんの食堂とも繋がっており、いくつか拝借することも出来るのである。
 俺たちは前の村でも築いたコミュニティで入手した素材を村の人達に積極的に造らせ、その一部を坂下さんの料理作りに反映させている。

 俺たちが歩き、彼女が龍果の可能性を広める。
 アリエル達はご飯が豪華になり、従業員もより扱き使える寸法だ。
 飯食わせるだけで働いてくれるんだから安いコストだよなぁ。
 俺たちの世界だとこうは行かねーし。


「見えてきたわね、あれが例の街かしら?」


 整地された道を進んだ先、その街はあった。
 門はがっしりとしており、門番もつけている。
 武力はきっちり確保してるあたり抜かりはない様だ。


「待て、この街には何の用だ! 用なき者は立ち入りを許さん」


 門を越えようとすると、門番がすかさず声をかけてくる。
 じゃあ門を開きっぱなしにすんなや。


「俺たちは旅の料理人です。この街のバザーで食材を仕入れるためにやってきました」

「バザーの客か。売り物はあるのか?」

「こんなものでしたら」


 俺は鶏肉に寄生した龍果を取り出した。
 門番は訝しげに「これは食えるのか?」と尋ねてくる。


「意外とうまいんですよ。見た目さえ気にならなきゃ」

「その見た目が一番気になるんだが……」


 やっぱり気になっちゃうかぁ。
 仕方ないからその料理を作って食わせると。


「通ってよし!」


 案の定通れた。いちいちいちゃもんつけたのは空腹だったからか? いいご身分だなぁと思いつつ、パトロール御苦労さんと頭を下げた。


「で、バザーはどこかな?」

「人の多い場所じゃない?」

「活気のいい場所かぁ」

「向こうに人が流れていきますね」


 お上りさんの如く、周囲をキョロキョロしてたら薫の指摘が入り、委員長と杜若さんのアドバイスに従って屋台を引く。
 道中でどんな商品置いてるんだい? なんて聞かれたので龍果の宣伝をしながらつまみを提供した。
 美味しかったのか、買い付けただろうお酒を数本いただいてしまった。


「バザー、ちょろいな」

「勝手にお店出しちゃって良かったのかしら?」

「特に管轄があるわけじゃないし、通貨もない物々交換だし良いんじゃない?」

「早速鑑定頼むわ」

「……うーん、これは発酵を失敗させて酢になってるわね」

「酢かぁ、じゃあ酸味があるからさっきのキイチゴと合わせてソースかな?」

「失敗品とがっかりせず活かそうとするのが阿久津さんらしいですわね」

「酢も調味料の一つだしな。活かせるもんはなんでも活かすのが俺流だ。さっきの肉を炭火で炙ってオリーブオイルと木苺のソースに酢も追加で、どうかな?」

「あー、これはご飯かなぁ?」

「串に刺した状態でもついつい食べちゃうわね」

「わたくしは串を取っていただいた方が食べやすくて嬉しいですわ。フランスパンに吸わせて頂くのも良さそうです」


 それぞれが意見を言い、ご飯とパンを提供して食べてると声をかけられる。


「うまそうな匂いに引きつられて足を運んできたのだが、見慣れない顔だね」


 現れたのは神官の格好をしたおじさんだ。


「この街には今日初めて入ったんです。良ければ一品作りましょうか?」

「良いのかい? 交換できる者は持ち合わせてないが」

「お客さんの美味しいの言葉がいちばんの報酬ですよ。苦手な食材とかありますか?」

「そうだねぇ、肉を使わない肉料理とかどうだろう?」


 また無理難題を突きつけてきたな。


「雄介、この人」

「ああ、間違いなくこっちを知っての問いかけだ」

「乗らない方がいいんじゃないの?」

「煙に巻くのなら協力しますが?」


 三人の言葉を振り切り、まずは俺にやらせてくれと返した。


「難しい質問ですね。お肉はただでさえ入手が難しいというのに。それを再現しろって?」

「難しいのなら無理にとは言わないよ。最近お肉は厳しくてね。若い時ほど胃を通ってくれない。でも大の肉付きで通しているんだ。先ほどもいただいてきたんだが、二つもいただくのは厳しい」

「じゃあ無理に食べていただかなくたって」


 すると小太りのおじさんは周囲をキョロキョロ見回してから耳打ちしてくる。


「実はこう見えてお忍びでね。次に出て来れるのはいつになるかわからないんだ。そして君は今日きたばかり。バザーこそ開いてるが、宿も置いてないこの街じゃ君たちが止まるのは無理だ。私は非常に食いしん坊でね。そして私は自分の鼻を信じている」


 そこにあったのは利権関係での炙りだしでもなんでもなく、純粋に俺の料理を食いたいと言ってくれる真剣な気持ちがあった。


「肉料理で肉は使わない料理……スープなんかはどうです?」

「私的にはありがたいが、肉の味がしないと評価しないよ?」

「俺は自分にできることをやるだけっす。薫、お湯沸かして。委員長は玉ねぎを四等分、杜若さんはこれ」


 人参とピーラーを渡す。


「承りました」

「雄介、お水入れたよ」

「じゃあ沸かしてくれ」


 ジャガイモを取り出し、芽をくり抜いて爪楊枝を刺して熱湯にドボン。
 氷水を用意して、湯上がったジャガイモを氷水に漬けた。
 鍋に水を張って玉ねぎ、人参を茹で上げていく。

 
「こっからが真骨頂っすよ」


 取り出したるは脈打つ龍果。
 そいつを煮込みながら実と果肉に分けてから合わせた。
 これなら骨付き肉の様な味わいができるだろう。
 そこに醤油と味醂を目分量入れて芯まで火を入れる。
 ジャガイモをその中へ投入。
 鍋蓋を落とし、火を落とす。余熱で芯まで火入れをするのが目的だ。

 スープ皿に盛り付け、ゴロッとした野菜のスープを提供する。


「龍果と夏野菜のスープ仕立てになります。フォークとナイフでどうぞ」

「ほう、このタイプの食事は初めてだ。殆ど野菜丸ごとを味わうスタイルは珍しいが、ここまで火入れがしっかり入ってればハフッハフッ、実に味わい深い。そして野菜に負けず劣らず肉々しいこの塊。しかし作る過程を見ていたけど肉を使っていた形跡は見られなかった。これは一体なんだい?」

「龍果と呼ばれる新種の野菜です。面白いのはその生態系で、茹でるとまるで肉の様な食感になるんです」

「肉なのに野菜というのか。とても珍しい体験をさせてもらった最高の評価をさせてもらうよ。この勲章を認定しよう」

「これは?」

「この街に限り、バザーでいい思いができる特権さ。我々勇者教会は勇者様の築いた食文化の復興に尽力してくれた相手に敬意を払っている。豊かな生活は豊かな食文化によって支えられている。そのためにバザーは一番手っ取り早い布教でね」


 あれ? 前回出会った宣教師と言ってることが違うぞ?


「そんな光栄なもの貰っちゃっていいんですか?」

「その龍果というものは皆に味わってほしい味だった。それだけだよ」

「大司祭様~、どこですか~?」

「おっとまずい、護衛に見つかったら何時間お小言を言われるかわからん。私は向こうに行ったと口車を合わせてくれると嬉しいよ。じゃっ」


 そう言って神官の格好をしたおっちゃんは真逆の方へ身を屈めて小走りした。
 俺たちは護衛と思しき人達におっちゃんの逃げた方向を教えた。なんだか遠くで文句を言われた気がするけど、きっと気のせいだな。


「結局、勇者教会ってなんなのかしら?」

「しらね。一枚岩じゃないことだけは確かだな」

「食いしん坊の集まり?」

「言い得て妙ですわ。わたくし達も人ごとではありませんけど」

「それは今更でしょ?」


 今更でも親しき仲には礼儀ありなんだよ、委員長。
 ま、それ以外のことで頼ってるので委員長に頭あがんないのは俺も同じ。そういう意味では適材適所でいいんじゃね? が俺たちの言い分だ。
 
 

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