捨てられ従魔の保護施設!

KUZUME

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第5章 あなたが咲かせてくれた花をそれでも愛でたい

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 意外にも、ラーハルトは植物型の魔物の経験値が少なかった。
 加えてやけにやつれた男が置いていったドライアドがどうやら珍しい個体であるらしく、今回はとりあえずツバキが面倒をみることになった。
 しかしツバキですら見たことのない種類だということで、翌日の朝早くにラーハルトはやつれた男を探しに出掛けたのだった。

 『随分小せえドライアドだな。まだ生まれたばっかとかか?』
 「うーん、どうだろ…。ドライアドは一般的に人間大の大きさに成長するから、成体ではないだろうけど…。にしても、幼体にしては…う~ん…。とにかく、こんな手のひら大の鉢植えじゃあ満足に成長出来ないだろうに」
 『フンフンッ』
 「あっ、こら」

 リビングの卓の上に置かれた鉢植えに鼻先を近づけて匂いを嗅ぐサザンカの頭を抑える。と、サザンカの鼻息がくすぐったかったのか、それまで身動ぎもせずに眠り続けていたドライアドの瞼がピクピクと動き、そしてゆっくりと持ち上げられた。

 『…』
 「あ、起きた」
 『……ぃ』
 「ん?」
 『狭い!!!』
 「っ!?」

 まるで何かの虫の卵のように絡まり丸まっていた蔦がシュルシュルと音をたてて解けていく。そして緑の葉の下から、ふわぁ、と欠伸をしながらすらりと伸びた四肢を広げて鉢植えの土の上で立ち上がったのは、どう見ても。

 「…あれ!?成体!?」
 『なんだぁ?子供のなりじゃねえな?』
 「成体…だけど、これは…」
 『…ミニサイズ、だな』

 まるで人形のように。手のひらに乗るくらいの大きさのドライアドの成体だった。

 『狭い狭いせまーいっ!!!このボクをこんな小さな鉢植えなんかにとどめおくだなんてっ!全く末恐ろしいよっ!そんなにこの美しいボクを独り占めしたいのかいっ!?ああっ!分からなくもない…分からなくもないよっ!でもしかしだけれどもっ、ボクはもっと大きな舞台で羽ばたきたいのさ!』
 「え、」
 『というか、そこの獣!その生温かい吐息を吹き掛けるのはやめてくれないか!?このボクが食べてしまいたいほど魅力的かつ蠱惑的なのは十分承知しているともっ!けれど、けれどだよ!このボクが食べられてしまったならば、ボクの美しさが失われることに涙する者達は果たしてどれだけ多いのだろうか…っ!?ああっ!罪!ボクってばなんて罪なドライアドなのだろうか…っ!』
 『…』

 ぱちりと目を開くや否や、ぺらぺらぺらぺらと1人喋り続けるドライアドをツバキもサザンカもただ言葉もなく凝視した。



♦︎



 早い段階でドライアドの言葉を右から左へ聞き流していたツバキだったが、途中からとにかくお腹が空いた!太陽光を!太陽光をこのボクの美しくも繊細な葉に浴びさせておくれ!!と煩く要求され、それを無視出来ずに小さな植木鉢とその中に鎮座するドライアドを手に庭に出てきた。

 『うーん、ちょっとここは陽光が燦々と降り注ぎ過ぎているね!まるで上等な絹糸のようなボクの髪が傷んでしまいかねない!もうちょっと直射日光が当たらない所へ移動したまえ!』
 「…ここ?」
 『日陰過ぎるね!お腹と背中がくっついてしまうね!もう少し強く陽光を当ててくれたまえ!!』
 「…ここ?」
 『いいだろう!さあ!存分に鑑賞するがいい!陽の光を浴び、天上から降りたもう天使の如く美しく繊細な彫刻のように完璧な造形美を兼ね備えたボクを!このボクを!!!』

 大きく葉を広げポーズを決めたドライアドがパチン!とツバキへウィンクを飛ばす。
 ひと時も止まることなく喋り続ける手の中のドライアドの鉢植えを、ツバキはぎゅっと割らんばかりに渾身の力を込めて握り締める。

 「ラーハルト早く帰ってきて…!!」

 とりあえず早々に自分だけ逃げたサザンカは絞める、とツバキは心の中で決めた。
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