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第5章 あなたが咲かせてくれた花をそれでも愛でたい
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すっかり陽の落ちた夜の手前。コンコンコンコン!と保護施設の扉が叩かれた。
従魔達の餌を配って回っているツバキに変わり、ラーハルトが「はーい!」と返事をしながらパタパタと玄関へ向かう。
コンコン!
コンコンコンコン!!
コンコンコンコンゴンゴンゴンゴン!!!
「はいはいはいはいっ!今出ますよ!!そんなに叩かなくて、もぉぉおおお!?!?」
扉が揺れるほど激しくノックを繰り返す来訪者に若干苛立ちつつもガラリ!と勢いよく引き戸を開ける。そしてそこに立つ人物を見るなりラーハルトは思わず悲鳴に近い声をあげた。
「ひっ!きゅ、吸血鬼…っ!?」
頬は痩け、青白い顔をした男が月明かりに照らされてヌボォ…と保護施設の玄関に立ち尽くしていた。
♦︎
「すみませんでした…失礼なことを口走ってしまって…」
「いえ…こちらこそ…紛らわしい風貌と時間に…失礼しました…」
ラーハルトの悲鳴に対して慌てて人間です!と訂正したのは、随分と顔色の悪い人間の男性だった。男はまず遅い時間の来訪を詫びてから、それでもどうしても保護施設に急用があったのだと訴え、応接室に通されることになった。
「あのー…顔色が優れないみたいですけど、大丈夫ですか?」
「ああ…ただの寝不足と…疲労と…ストレスによる精神衰弱ですので…お気になさらず…」
「あの、本当に用事があるの保護施設であってます?医療所じゃないですようち」
「あ、大丈夫です…すみません…あの、本当に…こちらで全て…解決するって…教えていただきまして…」
「うちで解決…ってことは、貴方は従魔術師なんですか?」
「いえ…私は従魔術師では…ないのですが…。実は、ちょっと前に…従魔術師でなくても飼育出来ると…店である魔物を…買いまして…」
「え?」
そう言って、男が震える手で自身の懐から何かを取り出す。
男の骨張った手のひらにすっぽりと収まるくらいの大きさのそれは──
♦︎
「鉢植え?」
ラーハルトから渡された鉢植えを受け取ったツバキが片手でサザンカにブラシがけをしてやりながらしげしげと眺める。
「何が植わってるの?これ。その人何か言ってた?」
小さめな鉢植えには、ツヤツヤとした緑の葉をつけた何かの植物が幾重にも蔓を絡み付かせて、まるでひとつの大きな玉のようになっている。
「なんでもペット屋を名乗る人物から、植え替えの必要もなく、水だけあげてればお手軽に飼えますよって言われて買ったそうなんですけど…こいつのせいでノイローゼになったと俺に手渡すなり逃げるように出て行っちゃって…」
「…まぁ、この形状を見るに、あれよね」
「やっぱり、あれですよね。こんなに小さい鉢植えに収まってるのなんて見たことないですけど」
ツバキとラーハルトは目を見合わせると、せーので口を開く。
「「ドライアド」」
大きな葉をそろりと指先で摘んでどけてやると、その下には蔦に埋もれるようにしてスヤスヤと寝息をたてる美しいドライアドの顔があった。
従魔達の餌を配って回っているツバキに変わり、ラーハルトが「はーい!」と返事をしながらパタパタと玄関へ向かう。
コンコン!
コンコンコンコン!!
コンコンコンコンゴンゴンゴンゴン!!!
「はいはいはいはいっ!今出ますよ!!そんなに叩かなくて、もぉぉおおお!?!?」
扉が揺れるほど激しくノックを繰り返す来訪者に若干苛立ちつつもガラリ!と勢いよく引き戸を開ける。そしてそこに立つ人物を見るなりラーハルトは思わず悲鳴に近い声をあげた。
「ひっ!きゅ、吸血鬼…っ!?」
頬は痩け、青白い顔をした男が月明かりに照らされてヌボォ…と保護施設の玄関に立ち尽くしていた。
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「すみませんでした…失礼なことを口走ってしまって…」
「いえ…こちらこそ…紛らわしい風貌と時間に…失礼しました…」
ラーハルトの悲鳴に対して慌てて人間です!と訂正したのは、随分と顔色の悪い人間の男性だった。男はまず遅い時間の来訪を詫びてから、それでもどうしても保護施設に急用があったのだと訴え、応接室に通されることになった。
「あのー…顔色が優れないみたいですけど、大丈夫ですか?」
「ああ…ただの寝不足と…疲労と…ストレスによる精神衰弱ですので…お気になさらず…」
「あの、本当に用事があるの保護施設であってます?医療所じゃないですようち」
「あ、大丈夫です…すみません…あの、本当に…こちらで全て…解決するって…教えていただきまして…」
「うちで解決…ってことは、貴方は従魔術師なんですか?」
「いえ…私は従魔術師では…ないのですが…。実は、ちょっと前に…従魔術師でなくても飼育出来ると…店である魔物を…買いまして…」
「え?」
そう言って、男が震える手で自身の懐から何かを取り出す。
男の骨張った手のひらにすっぽりと収まるくらいの大きさのそれは──
♦︎
「鉢植え?」
ラーハルトから渡された鉢植えを受け取ったツバキが片手でサザンカにブラシがけをしてやりながらしげしげと眺める。
「何が植わってるの?これ。その人何か言ってた?」
小さめな鉢植えには、ツヤツヤとした緑の葉をつけた何かの植物が幾重にも蔓を絡み付かせて、まるでひとつの大きな玉のようになっている。
「なんでもペット屋を名乗る人物から、植え替えの必要もなく、水だけあげてればお手軽に飼えますよって言われて買ったそうなんですけど…こいつのせいでノイローゼになったと俺に手渡すなり逃げるように出て行っちゃって…」
「…まぁ、この形状を見るに、あれよね」
「やっぱり、あれですよね。こんなに小さい鉢植えに収まってるのなんて見たことないですけど」
ツバキとラーハルトは目を見合わせると、せーので口を開く。
「「ドライアド」」
大きな葉をそろりと指先で摘んでどけてやると、その下には蔦に埋もれるようにしてスヤスヤと寝息をたてる美しいドライアドの顔があった。
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