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17話 義母の訪れ
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公爵家の人々との晩餐の時間をとても友好的に過ごせた翌日。
公爵家の方々は朝食は私室で摂られる事が多いとの事で、私も朝食は一人私室で食べた。
同じ屋敷内に居るのに、食事が別々なのは家族としてなら寂しいが―――
突然婚約者として公爵家に招待を受け花嫁修業として滞在したのもまだ間もない私は、そこまで寂しさを感じなかった。
唯一血の繋がりのある父を考えると辛い。
まだ婚約の身の私は、この屋敷ではまだ他人だ。
とても友好的な義理の両親で一先ず安心ではあるが、まだ慣れないうちは朝食を私室でひとりで摂るというのはプレッシャーがなく有難いかもしれないな。
午前中、いつものようにライアンさんによって詳しい公爵家の歴史を学ぶ。
今日の分の歴史を学ぶ時間を終え、退室しようとする私に、ライアンさんから突然、「本日はこれから昼過ぎまでは何もしなくてもいい自由時間になりますので」と初めて言われた。
あ、そうなんだ。
じゃあ好きな小説でも読もうと、図書館から数点選んで借りて私室へと戻った。
読み始めてすぐ扉がノックされる。
対応したレイチェルが「奥様がいらっしゃいました」と私に告げる。
二人掛けソファーに座り少し緩んだ姿勢で読書をしていた私は、ピシっと固まる。
えっ…奥様!?
慌てて起き上がると、立ち上がってドレスの乱れをレイチェルに素早く整えて貰うと、公爵夫人に入室して貰うようにレイチェルに伝えた。
三十秒ほどお待たせてしてしまったかな…
即座に開けないと失礼だったかな…
モヤモヤとしつつ、華やかな美女の公爵夫人の入室を待った。
「突然来てしまって、ごめんなさいね」
入室して開口一番柔らかな声で公爵夫人に謝罪される。
「とんでもありません、すぐに入室させられず申し訳ありませんでした。少しばかりくつろぎ過ぎていたようで、ドレスが乱れてしまって……」
本当はこんな詳細に言わないでいいのだろうけど、緊張感で余計な事をペラペラ話してしまった。
「うふふ、素直な方なのね。プルちゃんは」
昨夜の晩餐でちゃん付けで呼ばせて欲しいと請われ、一も二も無く頷いた私、その呼び名で早速呼ばれて、慣れぬ呼び名にちょっぴり照れてしまう。
公爵夫人の事はお義母様と呼ぶように言われたけれど……
言わないとダメでしょうか…
「お、お義母様、本日はどのような御用件で……」
「早速呼んでくれるのね、嬉しいわ」
扉前に居たはずの公爵夫人が、全く足音も立てずに素早くスススと距離を詰めていきなり目の前に来た。
ポカンとするプルメリアの両手をすくうと、ギュっと夫人の両手で握りしめられた。
「今日はね、娘になるプルちゃんの為の衣装をたくさん仕立てる為に、公爵家専属の御針子たちを呼んでいるのよ。詳細なサイズを計ろうと思ってるの」
あ! そうか、うちそんなに裕福じゃなかったから衣装にお金なんてかけてないもんね。
公爵家の嫡男の婚約者に相応しい衣装なんて当然のこと一着もない。
控えめな嫁として振る舞うなら「いえ…そんな!」の一言でも言わなければならないのかもしれないが、公爵家に恥を掻かせそうな衣装しか所持してない身でそんな健気アピールはただのポーズでしかない。
男性とのデートでの食事の支払いで、とりあえず隣に財布だけは出して待ってるだけのようなものだ。
「お義母様、有り難うございます」
素直が一番。
それが正解だったのか、夫人は良く出来ましたとでもいうように頭を撫でてくれた。
デビュタントを済ませた令嬢としては子供扱いされるのは恥ずかしい事なのかもしれないけれど、こんな美女に頭を撫でられるのは、ちょっぴり嬉しい。
「すぐに用意出来るのは既製品になってしまうから、しばらくはそれで我慢して貰う事になるのだけれど、すぐにたくさん仕立たドレスを用意させますからね。
プルちゃんも好きな衣装があれば、枚数なんて気にせずたくさん甘えてね」
と仰ってくれた。
(流石とんでもない財を持つ公爵家、太っ腹だー…)
それからすぐに公爵家専属お針子たちがやってきた。
顎から肩までの首の長さ、肩幅、デコルテと胸の谷間までの長さ( えっ、それ要る?)、胸囲、肩から手首、そしてウエストから少しずつずらしての腰周りを何度も細かく計られ、手のサイズと足首のサイズ、足のサイズまで。
こんなとこ計る…? って感じで細かく計られ、その間ジッとしていなければならなかった私は既に虫の息だった。
その後、既製品のドレスを何十着…? もう虫の息だったので言われるがままに脱いだり着たりを繰り返す。
私が好きなのはどれかと問われても、もう朦朧としていたので全てお義母様のお任せにしておいた。
色々着させて脱がせを繰り返すのは、似合う似合わないがあるのかと思って頑張って脱ぎ着していたのだけれど―――
お義母様の「では、全部頂くわ」の言葉に、プルメリアは唖然としたのだった。
脱ぎ着しなくても良かったのでは…?
いやいや、その前に仕立てたドレスもかなりの量だったのに…?
ぐるぐる色んな事が頭に浮かんだけど、私が意見出来る相手ではないと思い、思考するのを止めたのだった。
「ちょっと張り切り過ぎちゃったわ…ごめんなさいね、プルちゃん。疲れたでしょう? 今から甘い物を用意させるわね。お茶にしましょう」
夫人の張り切りでぐったりした私の今日の午後の予定は、有難い事に全てキャンセルになった。
スパルタに近い講師相手の所作やマナーやダンスなどのレッスンなど頑張れる気がしない。
テーブルに可愛くセッティングされたスイーツたち。
それを一つ一つしっかりと味わいながら口にし、凄く美味しいお茶を飲む。
幸せってこんな味がするんだ…と、甘さを噛みしめていると――――
「公爵夫人の仕事って、社交以外にもお役目があるのだけれど、もう訊きけたかしら?」
と、お義母様。
唐突ですねお義母様!
「はい。お聞きしました。クリスティアン様のお仕事を見て嫉妬をする演技をするという…のが、私のお仕事ですよね?」
こう淡々と語ってみれば、何ともフザケたお仕事内容な気がしないでもない。
「……そのお仕事は誰に指示されたの?」
突然お義母様の空気が冷たくなった気がする。ついでに表情が無くなっている。
とても怖い。
「クリスティアン様です…」
取り敢えず訊かれた事に応えた。
「そう………まぁいいわ。そんな仕事無い気がしたけれど、クリスティアンに訊かなければいけないわね」
にーっこり笑ったお義母様は、とっても怖かった。
公爵家の方々は朝食は私室で摂られる事が多いとの事で、私も朝食は一人私室で食べた。
同じ屋敷内に居るのに、食事が別々なのは家族としてなら寂しいが―――
突然婚約者として公爵家に招待を受け花嫁修業として滞在したのもまだ間もない私は、そこまで寂しさを感じなかった。
唯一血の繋がりのある父を考えると辛い。
まだ婚約の身の私は、この屋敷ではまだ他人だ。
とても友好的な義理の両親で一先ず安心ではあるが、まだ慣れないうちは朝食を私室でひとりで摂るというのはプレッシャーがなく有難いかもしれないな。
午前中、いつものようにライアンさんによって詳しい公爵家の歴史を学ぶ。
今日の分の歴史を学ぶ時間を終え、退室しようとする私に、ライアンさんから突然、「本日はこれから昼過ぎまでは何もしなくてもいい自由時間になりますので」と初めて言われた。
あ、そうなんだ。
じゃあ好きな小説でも読もうと、図書館から数点選んで借りて私室へと戻った。
読み始めてすぐ扉がノックされる。
対応したレイチェルが「奥様がいらっしゃいました」と私に告げる。
二人掛けソファーに座り少し緩んだ姿勢で読書をしていた私は、ピシっと固まる。
えっ…奥様!?
慌てて起き上がると、立ち上がってドレスの乱れをレイチェルに素早く整えて貰うと、公爵夫人に入室して貰うようにレイチェルに伝えた。
三十秒ほどお待たせてしてしまったかな…
即座に開けないと失礼だったかな…
モヤモヤとしつつ、華やかな美女の公爵夫人の入室を待った。
「突然来てしまって、ごめんなさいね」
入室して開口一番柔らかな声で公爵夫人に謝罪される。
「とんでもありません、すぐに入室させられず申し訳ありませんでした。少しばかりくつろぎ過ぎていたようで、ドレスが乱れてしまって……」
本当はこんな詳細に言わないでいいのだろうけど、緊張感で余計な事をペラペラ話してしまった。
「うふふ、素直な方なのね。プルちゃんは」
昨夜の晩餐でちゃん付けで呼ばせて欲しいと請われ、一も二も無く頷いた私、その呼び名で早速呼ばれて、慣れぬ呼び名にちょっぴり照れてしまう。
公爵夫人の事はお義母様と呼ぶように言われたけれど……
言わないとダメでしょうか…
「お、お義母様、本日はどのような御用件で……」
「早速呼んでくれるのね、嬉しいわ」
扉前に居たはずの公爵夫人が、全く足音も立てずに素早くスススと距離を詰めていきなり目の前に来た。
ポカンとするプルメリアの両手をすくうと、ギュっと夫人の両手で握りしめられた。
「今日はね、娘になるプルちゃんの為の衣装をたくさん仕立てる為に、公爵家専属の御針子たちを呼んでいるのよ。詳細なサイズを計ろうと思ってるの」
あ! そうか、うちそんなに裕福じゃなかったから衣装にお金なんてかけてないもんね。
公爵家の嫡男の婚約者に相応しい衣装なんて当然のこと一着もない。
控えめな嫁として振る舞うなら「いえ…そんな!」の一言でも言わなければならないのかもしれないが、公爵家に恥を掻かせそうな衣装しか所持してない身でそんな健気アピールはただのポーズでしかない。
男性とのデートでの食事の支払いで、とりあえず隣に財布だけは出して待ってるだけのようなものだ。
「お義母様、有り難うございます」
素直が一番。
それが正解だったのか、夫人は良く出来ましたとでもいうように頭を撫でてくれた。
デビュタントを済ませた令嬢としては子供扱いされるのは恥ずかしい事なのかもしれないけれど、こんな美女に頭を撫でられるのは、ちょっぴり嬉しい。
「すぐに用意出来るのは既製品になってしまうから、しばらくはそれで我慢して貰う事になるのだけれど、すぐにたくさん仕立たドレスを用意させますからね。
プルちゃんも好きな衣装があれば、枚数なんて気にせずたくさん甘えてね」
と仰ってくれた。
(流石とんでもない財を持つ公爵家、太っ腹だー…)
それからすぐに公爵家専属お針子たちがやってきた。
顎から肩までの首の長さ、肩幅、デコルテと胸の谷間までの長さ( えっ、それ要る?)、胸囲、肩から手首、そしてウエストから少しずつずらしての腰周りを何度も細かく計られ、手のサイズと足首のサイズ、足のサイズまで。
こんなとこ計る…? って感じで細かく計られ、その間ジッとしていなければならなかった私は既に虫の息だった。
その後、既製品のドレスを何十着…? もう虫の息だったので言われるがままに脱いだり着たりを繰り返す。
私が好きなのはどれかと問われても、もう朦朧としていたので全てお義母様のお任せにしておいた。
色々着させて脱がせを繰り返すのは、似合う似合わないがあるのかと思って頑張って脱ぎ着していたのだけれど―――
お義母様の「では、全部頂くわ」の言葉に、プルメリアは唖然としたのだった。
脱ぎ着しなくても良かったのでは…?
いやいや、その前に仕立てたドレスもかなりの量だったのに…?
ぐるぐる色んな事が頭に浮かんだけど、私が意見出来る相手ではないと思い、思考するのを止めたのだった。
「ちょっと張り切り過ぎちゃったわ…ごめんなさいね、プルちゃん。疲れたでしょう? 今から甘い物を用意させるわね。お茶にしましょう」
夫人の張り切りでぐったりした私の今日の午後の予定は、有難い事に全てキャンセルになった。
スパルタに近い講師相手の所作やマナーやダンスなどのレッスンなど頑張れる気がしない。
テーブルに可愛くセッティングされたスイーツたち。
それを一つ一つしっかりと味わいながら口にし、凄く美味しいお茶を飲む。
幸せってこんな味がするんだ…と、甘さを噛みしめていると――――
「公爵夫人の仕事って、社交以外にもお役目があるのだけれど、もう訊きけたかしら?」
と、お義母様。
唐突ですねお義母様!
「はい。お聞きしました。クリスティアン様のお仕事を見て嫉妬をする演技をするという…のが、私のお仕事ですよね?」
こう淡々と語ってみれば、何ともフザケたお仕事内容な気がしないでもない。
「……そのお仕事は誰に指示されたの?」
突然お義母様の空気が冷たくなった気がする。ついでに表情が無くなっている。
とても怖い。
「クリスティアン様です…」
取り敢えず訊かれた事に応えた。
「そう………まぁいいわ。そんな仕事無い気がしたけれど、クリスティアンに訊かなければいけないわね」
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