溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)

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7.-53

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 私がひとりで町へ飛び出したこと。心配ではあったが、「影」をつけているからよかろうと考えたこと、その間に、部下である隊長に遭遇し、そのまま二人で町を散策し、どうやらその間に、彼に対してまず最初に「リア」呼びを許したらしいこと。

 「──たまたま、リヴェア様がおひとりでおられたときだけ、護衛代わりに傍にいたに過ぎない隊長だけが許された呼称、というのも、いかがなものかと思いまして」

 場合によりけりではありますが、私もそのようにお呼びすることになりました、と、オルギールは通常の業務報告みたいに感情を込めずに語った。

 ……いかがなものかと、だって!お呼びすることに「なりました」だって!?

 私はレオン様の肩に顔を埋めたまま毒づいた。無論、声には出さずに。

 どの口が叩くか、オルギール!
 アルフに対してか、贈り物を受け取った私に対してかよくわからないけれど、物凄く気分を害したらしく、お仕置き的なイヤらしいことをさんざんやりまくったその次の朝のことだ。今度は打って変わってでろでろに私を甘やかし、マッパで私を抱きかかえ、顔中にちゅうの雨を降らせながら、強引に自分にも「リア」と呼ばせろと迫ったのだ。
 忘れたとは言わせない。

 あとで文句を言おう。

 私はそう拳を固めつつ、黙って聞いているレオン様の反応を待った。

 「──なるほど」

 沈黙が長すぎて、私が心配になるくらい時間がたってから、レオン様はとりあえずひとこと、呟いた。

 「隊長、という男はどんな奴だ」
 「アルフ・ド・リリー。別動隊の隊長です」
 「……ああ。……あの男か」

 レオン様はかるく頷いて、皮肉気に鼻を鳴らした。

 「黒髪、紅い瞳。女癖の悪い男ではなかったか」
 「仰せのとおり」

 妙なところで、レオン様とオルギールが頷きあっている。
 どうやら、三公爵様方全て、痴話喧嘩のあれこれをご存じの様子。
 アルフ。あなた、どれだけ悪さをしてきたのですか……

 「そのような男が、身の程知らずにも、リヴェア様に懸想しているようです」
 「リヴェアに、あの男が」

 しれっと、オルギールは言わなくてもいいことを言った。
 もちろん、レオン様がスルーするはずはない。

 ぐ、と私の腰に回した手にまた力が加わる。
 まだ、顔を上げる勇気はない。いつも私を甘やかしてくれるレオン様がいきなり無表情になる瞬間は、実はオルギールの氷の礫並みに恐ろしいのだ。
 経験則上、今たぶんそうなっていると思う。

 「リヴェアは、自分に懸想している男と町を散策していた、と」
 「はい」
 「その男に、リア、と呼ばせたと」
 「はい」
 「男はさぞ嬉しかっただろうよ」
 「私がお迎えに参りましたとき。蕩けんばかりの顔をしてリヴェア様を口説いていましたよ」
 「ほう。……なんと?」
 「ちょっと待った!!」

 私はここで思わず顔を上げてしまった。

 平然と私を窮地に追い込むオルギール。
 真上を見れば、金色の瞳が鷹のように鋭いレオン様。
 二人が、それぞれの表情で私を見つめている。夢見が悪くなりそうな光景だ。
 けれど、怯んではならない。
 このままでは、私がタラシに誑かされる馬鹿女のようではないか。

 「リーヴァ、そんな大声をあげなくても」

 眼光は鋭いままだけれど、いくぶん身に纏う空気を和らげて、レオン様は言った。
 くすり、と笑いながら、私の額や頬に張り付いた髪を丁寧に耳にかけてくれる。

 「綺麗な肌に、髪や俺の甲冑の痕がついてるぞ」
 「レオン様、私、口説かれてなどおりません」

 レオン様の甘い仕草に騙されてはいけない。この話題は終わったわけではない。釘を、それもふっとい五寸釘を刺さなくては!

 「町を一人で歩くのは不用心だ、ということになり、隊長が共に来ると言っただけです!」
 「きっかけはそうなんだろう」

 ひょい、と、レオン様は膝の上で私を抱えなおした。
 そして、がっしりと私の腰を力強い両腕であらためて囲い込む。

 「それは構わない。というより、それは仕方がないと思う。俺が問いたいのは、リーヴァ」

 レオン様は私を覗き込んだ。

 「リア、と呼ばせたのは君が望んだからか?」
 「そうです」
 
 私は胸を張って答えた。だって、何一つ恥じることはない。

 「他に供も連れず散策しているときに、閣下、だの、姫、だのと言われてはまずいでしょう?」
 「まあな」

 一応、レオン様は同意してくれた。

 「それで、私から言ったのです。リヴェア、のさいしょとさいごをとってリ、ア。その時だけで終わる呼び名と思いましたし、さしたる意味合いもありません」
 「……君はそのつもりでも、な」

 レオン様は、今度は同意してくれなかった。
 そして、曖昧な目つきで私を見下ろし、

 「いっそ、まったく関係ない偽名にすべきだった」

 と、言う。

 ……そんなこと言われても。

 「自らを愛称で呼ばせるなど。それも、女癖が悪く、君に入れあげている男に。いかにも不用意で考え無しな君のやりそうなことだ」
 「レオン様!」

 なんてひどい言われよう!結局、私が悪いのですか!?

 「そんなこと、心外ですわ!!愛称、とか、考えすぎなのです!」
 「……で、オルギール」

 レオン様はきゃんきゃん喚く私をよそに、黙って佇むオルギールに話を振った。

 「はい、レオン様」
 「リリー隊長はなんと言ってリヴェアを口説いてたんだ?」
 「喰っちまいたいくらい可愛い、と」
 「オルギール!!」

 物凄く恥ずかしいことを、相変わらずの口調でオルギールは言った。
 私が悲鳴のような声を上げても、眉ひと筋も動かさない。

 「やだやだやだ!!」
 「頬を赤らめて、目を逸らして、菓子を次々に口にして。……恐らく、その少し前から口説かれていたのでしょう」
 「ほう……」
 「確かに、それはもう男をその気にさせる、と申しますか、煽るお顔で。あの男、そんな顔、むやみにみせるな、とまで言っておりましたから。……無自覚でいらっしゃるところが手に負えませんね」
 「なによ、意地悪オルギール!!」

 次々に繰り出される問題発言。
 まあ、百歩譲って概ね事実だったかもしれないが、いちいちオルギールの冷静な見解は不要だろう。

 レオン様の膝の上で拘束されたまま、何とも締まらない体勢ではあるけれど、私はオルギールを弾劾した。
 
 「私がのんびりしていたところを、いきなり強襲して。勝手なことばかり言わないで!」
 「のんびり、楽しんでいたのか、リーヴァ」

 レオン様から思い切り横やりが入った。

 「自分に懸想している男と、のんびり?……そこへ、副官が迎えに来たのを‘強襲’と?」

 ……なんか、雲行きが怪しくありませんか。
 さっきまでレオン様VSオルギール、だったのに、なぜ、私が標的に。

 ふるり、と思わず身震いしたけれど、今回はレオン様のフォローは入らなかった。
 
 「楽しかったようだな、街歩きは。……黒髪に赤い瞳。思い出した。名うての遊び人が、最近はずいぶん鳴りを潜めているとか。俺の恋人に入れあげているとはな」
 「ちょっと、レオン様、そういう仰りようは」
 「リヴェア様に自分の髪と瞳の色の装身具まで贈っていましたからね」
 「ふん。ぞっこんだな」
 「オルギール!!」

 あんまりだ。ひどすぎる。このタイミングでアルフにもらったもののことまで。
 
 「オルギール、どうして意地悪ばかり言うの!?」
 「嘘はついておりません」

 しゃあしゃあと、オルギールは言った。
 その顔が、話し方が、更に腹が立って仕方がない。

 「ほんとならいい、ってもんじゃないわよ!」
 「本当なんだな」

 レオン様が打たなくてもよい相槌を打った。
 私は慌てて口を噤む。

 このひとたちの前でモノを言うとろくなことがない。
 わかってはいても反論してみたけれど、やっぱり駄目だった。

 「その男のことは、心しておこう。アルフ・ド・リリー隊長か」

 レオン様はあらためてその名を噛みしめるように呟き、頷いた。

 彼はからだ中に怪我を負うほどの激戦を重ね、お手柄だったし、お金、貸してくれたし(そういえばお土産を渡す話をしたかったのに)、何も悪いことはしていないのに。
 よほど、素行が悪かったらしいけれど、見たところ彼なりに改心しているみたいなのに。
 そもそも、オルギールはアルフのことを悪く言いすぎる。なんだってそんなにアルフのこととなると目くじらを立てるのだろう。

 ジト目でオルギールを睨んでやったけれど、当然のことながら氷の魔王は私の目線など蚊が飛んだほどにも感じないに違いない。
 それどころか、わざわざ私に紫色の瞳を向けて、優し気にわずかに目を細めると、そんなお顔をされても可愛らしいだけですよ、などとぬかした。

 「……で、レオン様。リヴェア様について、もう一つご報告すべきことがございまして」
 「聞こう」

 オルギールの目線、発言に、一瞬毒気を抜かれかけたけれど、そこはやはりオルギールはオルギール。
 ひとたび「報告」という名の「告げ口」を始めると、完了するまで手を緩めないようだった。

 ──国籍不明の軍との対峙。選択した陣形、戦いぶり。狂兵の出現。結果としては、味方の圧勝。
 無駄な言葉は全くなく、簡潔、的確な報告は、あらゆる「報告」のお手本のようではあったけれど、主旨と結論に甚だ問題があった。
 それは、つまり。

 「離脱をお勧めしてもお聞き入れなく、やむなく私が無理にお連れした次第です」
 「ふん。……指揮官としての責任感はあっぱれだが」
 「御身のご無事こそが味方のためにもなるとの自覚にかけるご様子」
 「なるほど」
 
  とても、不穏な感じになってきた。身の危険、とでも言おうか。
 
 「……仕置きが必要か」
 「仰せのとおり」
 「はあ!?お仕置き!?」

 そんな、無体な!

 愕然としてレオン様とオルギールを交互に眺めると。
 金色と紫色。二色、二対の瞳が私を見下ろしていた。

 ……捕食者の如き色を湛えて。
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