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「オーディアル公?」
一瞬で、頭がクリアになった。呆けてる場合ではない。そもそも、総大将が働いているのに、負傷したわけでもない私がぐうすか眠り込んでいるなんて、本来ならあり得ない。さらに、副官の膝に乗って。何をやっているんだ、私は。
あわてて膝から滑り降りようとしたものの、からだに回されたオルギールの腕にすぐさま力がこめられ、他愛もなく阻止された。でも!と、抗議するつもりでオルギールを見上げると、
「------公にはおとどまり頂け。准将閣下は今目覚められたばかりだ」
部屋の外に向かって、彼は言った。
いやしかし、でも、と、口ごもる声とざわめきが伝わってくる。扉のこちら側からでも、兵士の焦りが想像できるほどのうろたえようだ。
「そこにいるのか、オルギール」
オーディアル公のひときわ大きな声が聞こえた。
今にも、入るぞ、と部屋へ乱入されそうで、どきどきする。レオン様とイチャイチャしているところを見られるのだって恥ずかしいのに、オルギールとだなんて、色々問題が!
まずいって!!と、オルギールに目で訴えかけても、彼はどこ吹く風だった。
私を落ち着かせるためか、ゆっくりと大きな手で髪を梳き、頭を撫でている。
「なぜ、姫の部屋にお前がいる」
「侍女も連れず、ご不自由な身。副官の私がおそばで御用を務めさせて頂いております」
この程度、彼にとっては減らず口とも言えないレベルらしい。
平然と言い返し、
「リヴェア様が身支度を整えられるまで、次の間にてしばしお待ちを」
「…わかった」
わずかな沈黙ののち、オーディアル公は不承不承、といった様子で答えた。
そういえば、部屋には内鍵がついているから乱入は無理だけれど、さすがに公爵様は野獣ではなかったようだ。
公爵閣下、どうぞこちらへ、と安堵を隠そうともせず、歩哨が言うのが聞こえる。
「オルギール。姫の身支度が済むまで、お前は俺の話し相手をしろ」
部屋の前から遠ざかる足音とともに、オーディアル公はしつこく言い募っている。
「姫の身支度までお前が手伝うなど許さんぞ」
すぐ来いよ!とオーディアル公は声を張り上げて念押しした。
「…あのお方も、まったく大人気(おとなげ)ない」
オルギールは肩をすくめると、私を抱えたまま立ち上がり、寝台に座らせ、額にダメ押しのくちづけをひとつ落とした。
このひとも、いまひとつ大人気ないような。
思うところはあるのだけれど、隣の部屋に公爵が入ったらしい物音がしているし、あまりここで二人で話を続けるのは得策ではない。
おとなしくしている間に、私を下ろしたオルギールは、部屋の隅の私の長持からささっと着替え一式を出して、寝台に置いてくれた。
「------おひとりで着替えられるものだと思いますが」
「大丈夫。ありがとう、オルギール」
「総大将閣下がわざわざ来ておられるものを、無碍には出来ますまい。…次の間で、お待ちしております」
「急いで行くから、公にお詫びをお伝えしておいてね」
「どうせ、リヴェア様の顔を見に来られたのですよ。そして、できれば夕食を共に、と」
お詫びは不要です。では、のちほど。
オルギールは容赦なく言い切って、一礼して去っていった。
…さっきまで私の顔を舐め回していたひとと同一人物とは思えないほどのクールさだが、なんとなくわかったことがある。
オルギールは万能のひと。全てにおいて、突き抜けているのだ。
軍人として、政治家として。そして、ひとを甘やかすことにおいても。
昨晩、私が意識を飛ばしたあと、髪もからだも全て綺麗にお世話してくれたらしく、唾液まみれの顔とは裏腹に、全身、とてもさっぱりとしている。
べたべたしている顔を寝台の掛け布で拭いてから、ローブを脱いで、私は用意してもらった衣服を身に着けた。
------下着まで準備されているのには赤面するしかなかったけれど。
一瞬で、頭がクリアになった。呆けてる場合ではない。そもそも、総大将が働いているのに、負傷したわけでもない私がぐうすか眠り込んでいるなんて、本来ならあり得ない。さらに、副官の膝に乗って。何をやっているんだ、私は。
あわてて膝から滑り降りようとしたものの、からだに回されたオルギールの腕にすぐさま力がこめられ、他愛もなく阻止された。でも!と、抗議するつもりでオルギールを見上げると、
「------公にはおとどまり頂け。准将閣下は今目覚められたばかりだ」
部屋の外に向かって、彼は言った。
いやしかし、でも、と、口ごもる声とざわめきが伝わってくる。扉のこちら側からでも、兵士の焦りが想像できるほどのうろたえようだ。
「そこにいるのか、オルギール」
オーディアル公のひときわ大きな声が聞こえた。
今にも、入るぞ、と部屋へ乱入されそうで、どきどきする。レオン様とイチャイチャしているところを見られるのだって恥ずかしいのに、オルギールとだなんて、色々問題が!
まずいって!!と、オルギールに目で訴えかけても、彼はどこ吹く風だった。
私を落ち着かせるためか、ゆっくりと大きな手で髪を梳き、頭を撫でている。
「なぜ、姫の部屋にお前がいる」
「侍女も連れず、ご不自由な身。副官の私がおそばで御用を務めさせて頂いております」
この程度、彼にとっては減らず口とも言えないレベルらしい。
平然と言い返し、
「リヴェア様が身支度を整えられるまで、次の間にてしばしお待ちを」
「…わかった」
わずかな沈黙ののち、オーディアル公は不承不承、といった様子で答えた。
そういえば、部屋には内鍵がついているから乱入は無理だけれど、さすがに公爵様は野獣ではなかったようだ。
公爵閣下、どうぞこちらへ、と安堵を隠そうともせず、歩哨が言うのが聞こえる。
「オルギール。姫の身支度が済むまで、お前は俺の話し相手をしろ」
部屋の前から遠ざかる足音とともに、オーディアル公はしつこく言い募っている。
「姫の身支度までお前が手伝うなど許さんぞ」
すぐ来いよ!とオーディアル公は声を張り上げて念押しした。
「…あのお方も、まったく大人気(おとなげ)ない」
オルギールは肩をすくめると、私を抱えたまま立ち上がり、寝台に座らせ、額にダメ押しのくちづけをひとつ落とした。
このひとも、いまひとつ大人気ないような。
思うところはあるのだけれど、隣の部屋に公爵が入ったらしい物音がしているし、あまりここで二人で話を続けるのは得策ではない。
おとなしくしている間に、私を下ろしたオルギールは、部屋の隅の私の長持からささっと着替え一式を出して、寝台に置いてくれた。
「------おひとりで着替えられるものだと思いますが」
「大丈夫。ありがとう、オルギール」
「総大将閣下がわざわざ来ておられるものを、無碍には出来ますまい。…次の間で、お待ちしております」
「急いで行くから、公にお詫びをお伝えしておいてね」
「どうせ、リヴェア様の顔を見に来られたのですよ。そして、できれば夕食を共に、と」
お詫びは不要です。では、のちほど。
オルギールは容赦なく言い切って、一礼して去っていった。
…さっきまで私の顔を舐め回していたひとと同一人物とは思えないほどのクールさだが、なんとなくわかったことがある。
オルギールは万能のひと。全てにおいて、突き抜けているのだ。
軍人として、政治家として。そして、ひとを甘やかすことにおいても。
昨晩、私が意識を飛ばしたあと、髪もからだも全て綺麗にお世話してくれたらしく、唾液まみれの顔とは裏腹に、全身、とてもさっぱりとしている。
べたべたしている顔を寝台の掛け布で拭いてから、ローブを脱いで、私は用意してもらった衣服を身に着けた。
------下着まで準備されているのには赤面するしかなかったけれど。
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