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6.-11

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 長い、淫靡な夢をくりかえし見ているような心地で、私は眠り続けていたらしい。

 いつから気絶したのか記憶がない。だから、頬に触れるひんやりとした感触で目を覚ました時には、まだ行為の続きかと思って、一瞬身構えたのだけれど。

 「------お目覚めですか」

 強張らせたからだを解すような、とても優しい、穏やかなテノール。
 そうっと目を開ければ、私の顔のすぐそばに零れ落ちるように輝く純銀の髪と、ぼんやり顔の私を映す、気づかわし気な紫水晶の瞳。

 「・・・オルギール・・・?」

 声らしい声は出せない。喘ぎ、啼き続けた喉からは掠れた囁き声がやっとだ。
 けれど、もちろんそこは地獄耳のオルギール。十分、聞き取ることができたらしく、無理に話さなくてよろしいのですよ、と私の頬を撫でながら言ってくれた。 
 ひんやり、すべすべで、労わるような手がとても気持ちがいい。
 うっとりするような感触に思わず目を細めていると、やがて手が遠ざかる気配があって、かわりに、湿った、柔らかいものが頬に触れた。

 付き合い始めの恋人同士がするような、軽やかで甘々のくちづけ。
 それが顔中に降ってくるのを、何この距離感、と思いながらも諦めの境地でおとなしく受ける。
 決して嫌じゃなくなってきているのは絶対に内緒だ。

 ぼうっとしながら、私を甘やかすオルギールを眺めていると。

 油断した。
 ・・・いや、油断しなくても、今日の私では何もできなかったけれど。

 キスの雨が降る間に、いつの間にか肌掛けがめくられ、寝衣の胸元のリボンがほとんど音もたてず解かれて。

 胸がすうすうして、我に返った。
 胸元が、全開。------諸々の痕も生々しい。

 「!・・・オルギールっ」
 「・・・これは、ひどい」

 私の掠れた抵抗の声は、オルギールの冷静な声によってねじ伏せられた。

 くちづけをやめた彼は、わずかに眉を顰め、実験体を見る科学者のような冷徹な目で、私のあられもない、悲惨なからだを見下ろしている。

 「お願い、見ないで・・・」
 「出陣前というのに、閣下は何ということを」

 毎度のことだけれど私の抵抗はまるっと無視して、オルギールは嘆息しつつ呟き、それから徐にするするっ、と思い切りよく残りの寝衣を剥ぎ取ってしまった!

 「ちょ、っと!!・・・」

 喉も痛いけれど今度は驚き過ぎて声が出ない。
 体を隠そうとしても全身がきしむように痛くて、寝返りひとつままならない。
 それでも、抗議せずにはいられない。そもそも、気絶した後レオン様が私を清めて寝衣をきせてくれたのだろうけれど、さすがに下着はナシ。寝衣を脱がされたら何かとお馴染み感の出てきたマッパなのだ。諸々の痕跡だらけのからだを観察される私の身にもなってほしい。

 「・・・何するのオルギール、」
 「私は、医師でもあるのですよ」

 私のからだに覆いかぶさるようにしながら、オルギールは淡々と言った。
 そっと、痕や傷を確かめるように、ひんやりとした手であちこちに触れる。
 外気にふれた温度差による刺激と、オルギールの視線が恥ずかしくて、嫌なのに胸の頂きが硬く、尖ってくるのがわかる。
 今更、医師と言われても驚かない。オルギールは万能のひとなのだから。それよりも、

 「・・・医師でもヤダ」
 「熱がありますね。かなり高い。・・・それに、お体にこれだけの痕があるとなると」

 常々、私の抵抗を意に介さないが、今日のオルギールはそれに拍車がかかっている。
 しばらく私の全裸(前面)を観察、ではなく診察したのちに、オルギールは一人頷いて立ちあがり、寝台の傍の飾り戸棚へと手を伸ばした。

 言っておくが、ここは私の寝室である。レオン様は私をお世話した後、私専用の寝室に運んだようだ。共用の寝台がぐちゃぐちゃになったからか、今晩からは一緒に寝たくないのか、気遣いかは知らないけれど。
 そこを、勝手知ったる様子で、このえっちな医師、もといオルギールは戸棚を開け、中を覗き込んでいる。
 ありました、と呟いて、何かを取り出し、またこちらへ戻ってくる。
 
 この間、ずっと私はマッパでじっと待機、という恥辱に耐えていた。
 このところずっと毎晩のようにレオン様に熱烈に抱かれ、もともと鍛え上げた私のからだとはいえ、ここまでえっちな方向で酷使したのは初めてのことで、相当なダメージを受けているようだ。本当に、身動きがとれない。逃げられない。

 このひとは医師。私は患者。
 脳内で唱えて羞恥に悶えていると。

 「・・・これを、すぐに塗ったほうがいいでしょう」

 戻ったオルギールの手には、薄紅色の細首の綺麗な瓶があった。
 凝った花の形の蓋をすぽん、と抜くと、バラのような華やかで優しい香りが広がる。薔薇の中でも、野薔薇かな?派手すぎない、とても好ましい香り。

 わずかな間、自分の恥ずかしい恰好を忘れて香気を楽しんでいたので、オルギールがとんでもないことをしようとしているのにまったく気づかなかった。
 
 失礼、と全然失礼とも思っていない口調で一声かけてから、オルギールはなんと私の寝台に乗り込み、呆然とする私の両足首を掴むと、がばっ!と左右に拡げたのだ。

 御開帳!・・・って、もう、冗談ではない!こんな破廉恥な医師はいない!

 「!!!オルギールっ!・・・」
 「ああ、やはりこちらはもっとひどい」

 開いた足のあいだに身を置いて、足を閉じられなくしたまま、オルギールは私のそこをじいいっ、と見つめている。
 
 「オルギール、いや、医師でも反則」
 「肌の外傷は、まだしもですが。・・・こちらは、早めに治療しないと感染症の危険がありますから、私が塗って差し上げましょう」

 なんですと!
 オルギールが私の中に指を・・・?

 高熱がさらに上がった、と思う。水銀計があったら、メモリを振り切りそうだ。
 からだが動かないから、私は目線で必死で訴えた。 

 「ヤダヤダヤダ、嫌」
 「私は医師ですよ。・・・大切な御身、出陣は明後日。手当は早くしなければ」
 「ヤダ、自分で後でやる、絶対ヤダ」
 「リヴェア様。・・・後でやる、というセリフを言うひとは」

 美しい瓶を傾け、左手の指にたっぷりと油薬を纏わせながら、オルギールはそれは美しく微笑んだ。
 この光景、この状況は笑むところではない。ぜったいに、ない。このエロ医者め!

 「後で、というひとは後でやらないんですよ。大概は。・・・だから今すぐ、やって差し上げなくては」
 「あんっ!」

 掠れた声をあげて、私はからだを震わせた。
 オルギールの指が、私の中に------たぶん、赤く、腫れあがっているところに入ってきたのだ。
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