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 オルギールの少し体温の低い指が、つぷり、と差し込まれた。
 一本、二本、そして三本。
 すこし、蠢かせては、すい、と抜く。抜いて、柔襞をゆっくりと撫でる。
 香りのよい油薬のせいで、滑りがいい。
 決して、暴力的にはならない、優雅と表現したくなるほどの滑らかな動き。
 それを、延々と繰り返される。・・・延々、というほどではなかったのかもしれないけれど、そのくらい長く感じて・・・だんだん、もどかしくさえなってしまう、巧妙に動く指。

 本気を出してもオルギールに何一つかなわない私が、今日のこの状態で逃げられるはずがない。だから、エロ医者の気が済むまで「処置」されればいいのだろう、と腹をくくってマグロと化していたのだけれど、それは甘かった。
 早い話が、私のソコの「入り口付近」だけを、浅く広く油薬を使って撫でまわしているわけで、だんだん妙な感覚が生まれてきてしまったのだ。
 目を閉じるとかえって感覚が鋭敏になるから、斜め下に目線を逸らして、必死で平静を保とうとしていたのに、なぜ。

 「!?くぅ、・・・・・・」

 思わず、声をあげてしまった。
 不幸中の幸い、というべきか(幸い、という表現には抵抗があるが)、のどが腫れあがっているから大した声はでなかったけれど。
 それまでゆるやかに浅いところまでしか触れなかったオルギールの指が、一気に奥深く、侵入してきたのだ。

 くちゅ、と、濡れた音がした。

 オルギールの「処置」に反応している証だ。
 とっさに、知られたくなくて腰を揺らしたけれど、オルギールが気づかないはずはない。

 「濡れてますね」

 イヤになるほど冷静に、オルギールは言った。

 「・・・そんなふうに触るからよ」

 私は、恥ずかしいのを隠すために、わざとつっけんどんに言った。
 その間も、胎内の奥深く、オルギールの長い指の付け根まで埋められ、ゆっくりと動かされる。
 水音が高くなる。息が上がりそうになるのをこらえるのに必死だ。

 「もうおくすり、塗り終わったでしょう?早く、ぬい、!・・・ああん!」

 最後まで言うことはできなかった。
 ゆるやかだった指の動きが、明確な意思を持ち始めたのがわかる。
 くちゅ、ぐちゅ、と音を立てて、オルギールの指が中を探索するように擦り上げる。
 顔を背けても、先回りしたオルギールの顔が、既にそこにあった。
 通常ならあり得ない、熱っぽく光る------有体に言えば、情欲に濡れた紫の瞳が私を見下ろしている。
 目が合うと、オルギールは妖艶に微笑んだ。何かと「氷の」という二つ名のつく彼なのに、今の姿は禍々しいほどなまめかしくて、淫魔のようだ。
 
 「・・・こんなふうになってしまったら、薬の効果が半減しますね」

 じゅぽっ!とオルギールはわざとのように大きな音をたてて指を引き抜くと、濡れて光る指でまず私の唇をなぞり、そしてさらにその指を自分の唇にあてがう。

 「!?」

 信じられない光景に目を剥いた私に見せつけるようにしながら、オルギールは赤い舌を自らの指に這わせ、ゆっくりと舐めとった。

 「・・・あなたの蜜の味がします」
 
 自分の指を丹念に舐め回し、しゃぶり、私から目線を外さずにオルギールは言った。
 そんなの、当然だ!いちいち報告しなくてもいいのに!
 ・・・って、言葉も出ないほど衝撃を受けていたけれど。

 「あまいですね・・・あなたの零すものは」

 油薬は口にしても大丈夫なのですが、無味なんですよ、とオルギールは続けた。

 「涙も、これも。・・・何もかも、甘い。・・・媚薬のように」

 絶対に甘くない。味覚異常だ。
 そんなに嬉しそうに自分の指を舐めるんじゃない。・・・いやらし過ぎる。
 脳内だけでしか反論できないのが辛いけれど。
 オルギールの淫靡とも言うべき姿に溺れないように、必死で睨みつけたつもりだったのに、彼はさらに嬉し気に口元をほころばせた。なぜ、逆効果。

 「もっと、零して差し上げたいが。・・・敷布を濡らしてしまうのは、侍女たちの手前、さすがにお嫌でしょうね」
 「わかっているならやめて」

 ようやく、私は声に出して反論したけれど、答えの代わりに返されたのはさらに度肝を抜く行為だった。

 私の膝裏に手をかけて、限界まで左右に割開き、その人間離れした美貌を私のからだの中心に近づけたのだ。
 愕然とする私と、足の間から向けられるオルギールの目が合う。。。あり得ない。

 「ちょっ・・・!何、・・・!?」
 「今やめてもお辛いでしょうし、どのみちこのままでは薬を塗っても浸透しませんので」

 オルギールは嫣然と微笑んだ。こんな体勢で笑うなんて、どうかしている。

 「零さないように、私が飲んで差し上げます。・・・一度、楽になられるとよろしい」
 「!!!」

 いうが早いか、オルギールは薄くて形の良い唇を、私の襞に押し当てた。

 舌が入ってくる。襞の中へ、さらに、蜜口の中へ。弱々しく体を捩ろうとしても、既に疲労困憊の私のからだはほとんど動きもしない。オルギールの両肩に足をかけられても、ばたつかせることもできない。舌と、さらには自由になった両手を使って、ただでさえ敏感な部分をこれでもかと執拗に弄られる。硬く尖らせた舌が膣道に分け入り、生き物のように蠢く。とめどなく零れてくる蜜を、初めに断言したとおり、一滴たりとも残さずじゅるじゅると音を立てて吸い上げ、飲み干される。昨晩からの激しい行為のせいで、私のそこはぴりぴり、ひりひりするのに、オルギールの巧妙な舌と指はまさしく「愛撫」で、悔しいことに全く痛みも嫌悪も感じない。それどころか、もっと快感を拾おうとするかのように、腰を揺らしてしまう。実際には、ほとんど動かなかったけれど、通常のからだだったら、はしたなく腰を振って、彼の行為に応えていたのだろう。

 「・・・!はあ、あああん!・・・ああ、あん・・・!!」

 こらえようのない喘ぎが、自分の口から洩れてくる。あとからあとから、際限なく蜜が零れてくる。それを、喉を鳴らしてオルギールが飲み干している。

 いつになったら「楽にして」くれるのか。既に思考をあきらめた私の頭は、私の口にとんでもない言葉を紡がせた。

 はやく、イカせて。
 
 啜り上げる音が、一瞬止まった。
 オルギールは情欲にけぶる瞳で私を見つめ、リヴェア様、と小さく呟くと。
 濡れた指で、私の陰核をそっとつまんだ。 

 「ひっ!!・・・あああ!!」

 頭の中が、視界が、真っ白になる。
 たぶん、一瞬でイったらしい。
 ドッとさらにたくさん溢れたものを、彼は貪るように啜り上げ、敷布を濡らさないまま私を「楽にして」、ひくつく蜜口を名残惜し気に最後にひと舐めしてから、ようやく解放してくれた。

 「・・・リヴェア様」

 息を乱して全身を震わせる私をゆるやかに抱き込んで、オルギールは私に囁くように言った。

 彼の顔が見られない。見たくない。私はぎゅっと目を瞑った。
 また、だ。ヤダヤダと言っているくせに、こんなに感じて濡らしてイかせてほしいとねだって。
 レオン様にあれだけのことをされてもまだ足りず、オルギールの愛撫に簡単に反応する自分のからだ。
 浅ましい。恥ずかしい。でも、きっと同じことがあればまた同じように反応するのだろうと思う。
 それがたまらなく悔しいのに、オルギールのことを嫌いになんてなれない。

 「リヴェア様、泣かないで下さい」

 いつの間にか涙を流していたらしい。オルギールは私の涙を舐めとって、目尻にくちづけた。
 ここで目を開けたらだめだ。からだはともかく、私の理性はこんなことを望んでいないとわからせなくては。
 でも、涙は止まらない。その間中、オルギールはずっと頬を舐めては、目尻に口付けを落とす。それを繰り返している。

 「・・・私がやっていることです。・・・あなたは悪くない。何も」

 優しい、甘い声だけれど、悪魔の囁きのようだ。------なぜって、本当にそう思えてくるから。私は悪くないのかもしれない、と。

 「考えないで、リヴェア様。・・・‘このようなこと’に理屈などない。あなたは、感じるだけでいい。私が、男たちが、勝手にやっているだけだと」

 そっと、唇が重ねられた。
 わずかに、自分の蜜の味がすると思ったら、それと知覚するのと同時に、くちづけは深まり、オルギールの舌を通じて唾液が流し込まれ、喉を撫でて嚥下を促された。とろりとした唾液は、腫れた私の喉奥をゆるやかに下りていく。

 囁かれる毒のような言葉と、深くて、けれどやわらかなくちづけに警戒心がとかれて、ゆっくりと目を開けると、オルギールのほうが今度は目を閉じていた。
 密で長い、美しい銀色の睫毛。何か違う物質でできているようだ。

 淫魔に誑かされている。そう思わないと、やっていられない。
 だんだん、毒が全身に回って、本気で「私は悪くない」と思い始める自分がいる。

 ・・・陶然としているうちに、オルギールは当初の目的を思い出したらしい(忘れる、というより勝手に脱線したのだろう)。身を起こした彼は、かたわらの野薔薇の香りの油薬を、もう一度手に取った。

 「・・・このあと、閣下にもお伝えしておきますが。・・・今夜はおやめになられるべきでしょう」

 打って変わっててきぱきと私の足をあらためて開脚させ、指に取った油薬をきびきびとした動作で私の中に塗り込み、最後は憎たらしいほどクールに「カルナック医師」の顔をして、とんでもない一連の行為は終了となった。

 「------滋養のつくものと、熱冷ましを一緒に調合して侍女に渡しておきますから。今のあなたは食事もままならないでしょうから、それだけ飲んでお休みください」

 寝衣を整え、私に肌掛けをかけ、薄紅色の瓶は小卓に置いて(まだ痛むようなら閣下にお願いすれば塗ってくださいますよと言っていた。絶対に嫌だ)、オルギールは優雅に一礼して出て行った。

 そういえば、破廉恥な行為の間中、彼の服装はまるで乱れていなかった。
 私だけがあんあん言っていたのかと思うと本当にむかつく。
 あれだけのことをしても、彼自身は無反応なのだろうか・・・って、何考えているんだ、私!
 
 自分の想像にうろたえながら、私はもう一度目を閉じた。

 とりあえず寝よう。頭もからだも休めよう。

 ------出陣は、明後日に迫っている。
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