戦ぐ窓際

ゆゆゆですやん

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花散らし

回想

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あの運命的な日から既に1週間も経っていた。
日に日に腕の痛みは治まりつつあるが、心の方はどうしようも無い。何故かと言うと、あれから彼女の影すら見つけれていないのだ。

地球はとてつもなく丸いが、彼女だけを見つけて隠れているんではないかと錯覚するくらい、本当に出逢わない。だからこそ、
俺は心の中である1つの仮説を立ててみた。

彼女には悪そうなところが一つもなかったと、確かに記憶してる。窓から見えた一瞬ではあったがその姿は鮮明に焼き付いている。この間宙を舞った時の、走馬灯より鮮明にだ。
ましてや体内に何かをわずらっていたとしても、病棟では彼女を見た事は無いし、病院服も来ていなかったので、入院をしていた訳でもなさそうだ。
そして、誰かのお見舞いに来ていたという説は否定したいと思っている。何故ならば。

俺は1週間する事が無さすぎて、とあるおじいさんと仲良くなった。
そのおじいさんは中々に重い病気を抱えているらしく、何年も入退院を繰り返しているそうだ。
その為、この院内のありとあらゆる情報は網羅している。

例えば、あの子は最近入院してきてこの時間に家族が面会に来るとか。
この病院で働いている看護師や医師の名前や年齢。好みまで知っている。
ここまで知っていると、この病院には、とんでもない秘密が隠されていて、それを調査しに来たなのではないかと。
という妄想を膨らませいたが、まぁ有り得ない。骨を折った時に脳みそにパンケーキでも詰まってしまったんだろう。

こうして1週間おじいさんと仲良くしていた訳だが、おじいさんはそんな女の子を見た事ないと言っていた。

「うーん。そんな娘は見たことないわい。ワシもたまーに窓から外を眺めておったり、裏庭を散歩したりするのぉ、そんな娘知らぬし、患者さん達にもそういう家族はいなかったはずじゃが?あぁ、そういえばこないだ山本さんところ飼っているみぃちゃんがのぉ…」

このおじいさんはよく喋る。絶対に俺の秘密はこの人だけには教えたくないと、切に思った。
確して俺が導き出した結論。それは。
彼女は【幽霊】だったんじゃないかと思う。
(真昼間に幽霊なんて)
と思うかもしれないが、ここは病院だ。幽霊だっていつ出てもおかしくないし、そちらさん達は時間なんて関係ないだろう。出たい時に出る。しゃっくりと一緒だと思った。

幽霊だとは思いたくないが、あれ程にまでに透き通った肌や、風が靡いた時に揺れた髪。
そしてあの表情。
どれ一つとってもこの世には存在しない美しさだった。幽霊でしかないことくらい、俺にでも分かる。幻だったのに違いない。

そうなってくると、あの時心臓の鼓動は、一目惚れなんかでは無く、本能的に何かを察知していたんでは無いだろうか。
昔一度本能に従って失敗したことがあった。
本能というかあれは欲望だったに違いない。




 それはまだ幼い時。親父は家におらず、1人で遊んでいた時だ。同じおもちゃで遊んでいても、いつかは飽きてしまう。
親父と遊園地や水族館。公園でもいいから遊びに行きたいと、幼心で思っていた。
そして俺はそんな親父の気を引きたくなってしまってミスを犯した。

親父が唯一大切にしていた車の模型。
車種など型番などは今になっても解らないが、相当大事にしていたのは覚えている。俺には構わないくせに、親父は毎晩その模型を磨いていた。
そうして俺はその模型を手に取りあろう事か、絵を描き始めてしまった。
何を描いたかは覚えていないが、白い車体をカラフルにしたことは確かだ。
親父が大事にしている物に自分という存在を加えたかったんだろうなと今では思えるが、当たり前にブチギレられた。
それ以来親父との会話は極端に減っていった。元々多くもなかったが…


そんな過去を懐かしがっていた最中、俺の心は陸に打ち上げられた魚のように息苦しくも次第に静かになっていった。
俺の一目惚れはに終わったのである。
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