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第2章 波乱のギルド検定試験

cys:39 戦いの先に見える物

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「レイ様……?」

 なぜ? という顔をして見つめるエレナの側で、レイは倒れたままのノーティスを凛とした瞳でジッと見つめている。
 そんな中、ノーティスは仰向けに倒れたまま悔しさに顔をグッとしかめた。

───バカな……師匠から授かったこの技でなぜ倒せない? それに、確かにヤツは強いが、さっきのクリーシス・アックスは、レイのディケオ・フレアニクスよりも僅かに威力は小さかった……なのになぜ?!

 ノーティスがそこまで思考を巡らせた時だった。
 レイは腕を組みノーティスを見つめたまま、エレナの隣で大きく口を開く。

「ノーティス! いい加減にしなさいっ!」

 その姿にビックリして隣で見上げるエレナをよそに、レイはノーティスをさらに叱りつける。

「何なの今の技は! それに、その前までもそうよ。今のアナタの戦い方は全く美しくないわ!」

 手厳しい言葉をぶつけられ身体をピクリと動かしたノーティスに、レイは叱責を続けていく。

「私と戦った時と全然違うじゃない! ノーティス、アナタの目的は何なの? 怒りに任せて剣を振るう事? 無様な技を繰り出す事? それとも、あの子を助ける事なの? 答えなさい!!」

 そう問われたノーティスは、倒れたまま自分の心を振り返った。

───俺の目的? 俺は、何をしていたんだ……

 倒れたまま心の中を整理していくノーティス。

 突然ルミがさらわれた事。
 その理由がジークの身勝手な理由だった事。
 そして、血清を1時間以内に打たないとルミを助けられない事。

 確かに、そのどれもが理不尽だ。

 けれどノーティスは気付いた。
 ルミを助けるつもりが、怒りに自らを任せてしまった事に。

───そうだ……忘れていた。怒りは持っていてもいいが、心がそれに覆われたら冷静な判断が出来なくなるんだ……!

 その事に気付いたノーティスは身体にググッと力を込め、剣で体を支えながら立ち上がっていく。

───今俺がしなければいけない事は、ルミに血清を打って助ける事。その為には、そう……目の前のジークを倒す為に心を整え、最高の力を発揮する事だ!

 そう決意をした瞬間、ノーティスの瞳の色が変わった。
 どこまでも澄んだ、全てを見通し包み込む瞳に。

 ノーティスはその瞳でレイ見つめる。

「レイ、すまなかった。そしてありがとう。キミのお陰で、俺が今すべき事が分かったよ」

 そう告げられたレイは、嬉しそうに笑みを浮かべた。
 ノーティスがちゃんと分かった事が伝わってきたから。

「まったく、世話の焼ける子ね♪」

 するとジークも片手で戦斧ハルバードを肩に乗せたまま、ノーティスを見て嬉しそうにニヤリと笑う。

「おいおい、さっきまでとはダンチじゃねーか♪ やっぱ、男は女で変わるな」

 嬉しそうに声を上げたジークを、レイはフフンとした態度で見下ろした。

「ジーク、違うわよ。男はね、いい女で変わるのよ♪」
「へっ、違ぇねぇ♪」

 ジークはそう言って軽く目を閉じ笑みを零すと、再びノーティスの方を向きニヤリと笑った。
 最高の戦いが始まる予感をヒシヒシと感じながら。

「さぁ、今度こそ来いよルーキー!」
「あぁジーク。こちらこそすまなかった。やり方は強引だが、強い相手と戦いたいという、戦士の気持ちは間違っていない」

 ノーティスは澄んだ瞳でジークを見つめたまま、ビシッと剣を構えた。
 怒りを完全に心の内に納め、1人の剣士としての覚悟と共に。

「その気持ちに、今度こそ真っ向から応えさせてもらう!」

 ジークはその言葉に一瞬目を丸くするとスッと表情を変え、ノーティスを友を見る様な眼差しで見据えた。

「ノーティス、お前は最高だぜ! よぉーーーーし、んじゃ、完全に全力でいかせてもらうぜ!! オォォォォッ!!」

 両手で戦斧をギュッと握り締め、真紅のクリスタルを輝かせながら闘気を滾らすジーク。
 ノーティスも必殺剣の構えを取り、白輝のクリスタルを最大限に輝かせる。

「ジーク、これで決着だ。いくぞ! ハァァァァァッ!!」

 2人の凄まじい闘気の放つ衝撃放で、震えるコロッセオ。
 その中でノーティスとジークは互いに睨み合ったまま、互いに必殺剣を放つ。

 先に放ったのはジークだ。
 ニヤッと笑い、両手で戦斧を大きく振りかぶった。
 そして、瞳をギラギラと輝かす。

「今度こそ全て消し飛ばしてやるぜ! 喰らいなノーティス! これが俺の全力の『クリーシス・アックス』だ!!」

 その瞬間、先程よりも遥かにデカい真紅のオーラを纏った巨大な戦斧が、ノーティス目がけて振り下ろされた。
 それを、真っ直ぐ見据え迎え打つノーティス。

「煌めく流星よ! 今こそ一つになり想いを貫け! 『バーン・コミュテクス・フォース』!!」

 ノーティスの剣から放たれた数多の流星は、回転しながら1つの大きな閃光に変わっていく。
 それを目の当たりにしたジークは、目を大きく見開いた。

「こ、こいつは数多の流星が1つに合わさった……彗星じゃねぇか!」

 ジークがそう声を上げた瞬間、ドガアンッ!! と轟音を立ててぶつかる2人の必殺技。

「ぐぉぉぉぉっ……!!」
「ハァァァァッ……!!」

 その2つが互いにせめぎ合う中、ノーティスはジークを澄んだ瞳で真っ直ぐ見据える。

「……ジーク、戦士として戦うのは素晴らしい。けれど……より大切なのは、その戦いの先に何を見るかだ」
「戦いの先だと……」
「あぁ、そうさジーク。キミはこの戦いの先に何を見る?」

 そう告げられた瞬間、ジークの脳裏に蘇る。
 昔、アルカナートと交わした会話が。

『ジーク、お前の飽くなき強さへの執着、見事なものだ』
『そりゃあそうっすよ、先生。男は、いや、戦士は強くなきゃダメじゃないっすか♪』
『フッ、そうだな。けどジーク、邪悪な者でも強いヤツはいる。それでもソイツは戦士なのか?』
『う~ん、そりゃぁ……邪悪だけど戦士なんすかね?』
『ジーク。真の戦士になりたくば、何の為に戦うのかを自身に問いかける事だ』
『何の為に、ですか?』
『そうだ。戦いの先に見える大切な物。それを守る事が、戦士が真に戦う理由だ』

 それを思い返したジークは、思わず声を漏らす。
 ノスタルジックな想いを感じながら。

「先生……俺は……」

 ジークがそう零した時、ノーティスは真摯な眼差しを向けさらに剣に力を込めていく。

「ジーク、俺は大切な人を必ず守りきる……! さらに煌け! 俺のクリスタルよ!!」

 その叫びと共にノーティスの彗星剣はより威力と輝きを増し、ジークのクリーシス・アックスをズガンッ!! と貫いた。
 彗星剣の凄まじい白輝びゃっきの光が、ジークに襲いかかり全身を大きく照らしてゆく。

「う、うぉぉぉぉぉっ……!」

 ドガアンッ!! という爆音と共にジークの鎧は粉々に砕け、ジークは体ごと大きく吹き飛ばされた。
 そして、背中から地面にドシャ! と叩きつけられると、ジークはそのまま天を仰いだ。

 そんなジークの下へノーティスは、ハァッ……ハァッ……ハァッ……と、息を整えながらゆっくり歩み寄り、片膝を曲げてジークを凛とした顔で見下ろした。
 友を見つめるような眼差しで。

「ジーク、いい勝負だった。この戦いでキミの戦士としての誇りを感じたよ」

 そう告げられたジークは、仰向けに倒れたままニヤリと満足そうに笑みを浮かべた。

「ノーティス。戦いの先ってヤツを、俺も見てみる事にするぜ」
「フッ、そうだな。1人よりも、2人の方がよりいい光景が見えるハズだ」
「カッ♪ 全く、お前さんは大したヤツだぜ。完敗だ。けど……ありがとよ」

 ジークは倒れたままノーティスにそう告げると、首にかけている瓶を片手に持ち、スッと差し出した。
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