75 / 337
26・ビータの相談
第75話 美少年、来たる
しおりを挟む
アーガイルさんから融通してもらった野菜などを用いて、日々料理に精を出す僕である。
冒険?
そんなものは料理が一段落してからでよろしい。
最近はギルドの酒場と、ドロテアさんのお宅を行ったり来たり。
徐々に魚醤も市場に流通し始め、僕はこれが一番マッチする料理を大々的に発表するべく準備を重ねていた。
「なんとかナザルさんに冒険者としてのお仕事をさせたいんですけど」
「ふむふむ、なるほどね。では私にいい考えがある」
エリィの相談にリップルが乗ったようだ。
嫌な予感がする。
リップルはどこかに向けてサラサラと手紙をしたためた。
どこに出したんだ……?
その答えはすぐに分かる。
「ナザルさん! いえ、師匠! お久しぶりです!!」
前よりもちょっと覇気のある物言いとともに、彼がやって来たのだ!
少しだけ伸びた背丈。
胸を張って歩く様と、全身から醸し出される謎の魅力。
彼を見たりすれ違った者達は、みなポワーンとなった。
「あっ、び、ビータ!! どうしてここに!」
「リップルさんからのお手紙をもらいまして。師匠が冒険者として伸び悩んでいるから、今度はぼくに助けてほしいと……!」
なにぃーっ!!
「リップル、きちゃまー!」
「はっはっはっはっは! ずっと屋内にいても体に悪いだろう! ナザルもまたそろそろ、足を使って町中を歩き回ったらどうだい」
「くそー、これが僕を外に連れ出す作戦か。確かにビータが冒険者ギルドにいたら、他の冒険者たちが仕事にならなくなる……。前よりもギフトの威力上がってない? 出力調整出来てないんじゃないか?」
「さあ……? 家族は平気なんですが、最近通い出した私塾では他の塾生たちがやたらとぼくに優しいです……」
そりゃチャームされてるんだよ。
仕方ない。
料理もちょっと煮詰まってきていて、揚げ物から抜け出せなかったところだ。
気分転換も兼ねて、ビータと街を練り歩くとするか。
いよいよ夏真っ盛りとなってきたアーランの街は、日向を歩いているとすぐに汗ばんでくるくらいだ。
僕のように日差しに強いタイプならいいが、ビータのように真っ白な肌だと赤くなってしまうだろう。
「日陰を行こう」
「はい、師匠!」
「なんで師匠なんだ……?」
「ナザルさんは、ぼくに将来冒険者になるためにどう気持ちを持つべきか、そしてどのように生きていくべきかを示してくださいました。私塾の先生に聞いたら、そういう人物こそが人生の師なのだと」
「余計なことを言うやつがいたな!」
僕は弟子ができてしまったらしい。
何の弟子だというのだ。
「とりあえず、日傘を奢ってあげるからこれを差して歩いて。強い日差しは肌の天敵だ。君のチャームの威力が落ちかねない」
「ありがとうございます、師匠」
ビータがニッコリ笑った。
僕はふんふんと頷くだけだが、背後にいた店の主人と女性客がクラクラーっとなってその場にへたり込んだ。
とんでもない威力だな、チャーム!
「ビータ、僕は君の能力はもっと制御されるべきだと思っている。垂れ流しすぎだ。いや、前も垂れ流していたんだろうが、あの時のビータはもっと背筋も猫背で自信なさげだったからな……」
「はい! 師匠の教えを受け、歩むべき道が定まり、ぼくは日々を勉学と訓練に費やしています! それでぼくはこうして、背筋を伸ばして生きていけるようになったんです!」
「そりゃあいいことだ。つまり僕が君のリミッターを外して、強力なギフトを解き放ってしまったわけだな! 責任を感じる~」
なるほど、リップルが僕に彼の対応をやらせるわけだ。
「対策ができるまで店の中はダメだな。外を歩き回ろう」
「はい! 何か新しいインスピレーションを探すんですね!」
「インスピレーション……?」
「師匠は、新しいお料理を研究されてると聞きましたが」
「ビータにまでその話が届いてたのか。いかにも。最近縁があって、国から支援を受けて寒天料理や油料理を作っているんだ。だが、マンネリでね」
道を歩きながら、ビータに思いの丈を話す。
リップルに相談するのはなんとなく気恥ずかしい。
エリィはなんか向いてる方向が違う。
ドロテアさんは話をしてると甘やかしてくる。
ここはニュートラルな感じがするビータがいいだろう。
「うーん。師匠はどういうところで詰まっているんですか」
「揚げ物だな。僕は油使いだ。だから、油を用いた料理で揚げ物をメインにしている。だが、やはり揚げて何かを掛けるという組み合わせだけではワンパターンな気がしてきて……」
「ぼくはそれでもいいと思います! 師匠の揚げてくれた鳥は美味しかったですし! きっと、油そのものが美味しいんですね!」
「ああもちろん。僕の油は飲めるんだ」
「やっぱり! 油に味付けしたらそのままごちそうになりそうですよね!」
僕の脳裏に電撃が走る────!!
そ、そ、そ、それだーっ!!
立ち止まり、自分を見てわなわなと震えている僕に、ビータは不安を覚えたらしい。
「し、師匠……?」
「ビータ! 凄いぞ! とんでもない発想の転換を口にしてくれた! 僕は! 油は揚げるものという常識に囚われていたのだ!! そうだ! 僕の油をさらに美味しくして、そのものを食べさせる料理を作ればいい!」
「やった! 師匠が元気になった! ぼくは嬉しいです!」
二人で道の真ん中で快哉を挙げる。
うん、リップル。
この二人だとブレーキ役がいないぞ!
冒険?
そんなものは料理が一段落してからでよろしい。
最近はギルドの酒場と、ドロテアさんのお宅を行ったり来たり。
徐々に魚醤も市場に流通し始め、僕はこれが一番マッチする料理を大々的に発表するべく準備を重ねていた。
「なんとかナザルさんに冒険者としてのお仕事をさせたいんですけど」
「ふむふむ、なるほどね。では私にいい考えがある」
エリィの相談にリップルが乗ったようだ。
嫌な予感がする。
リップルはどこかに向けてサラサラと手紙をしたためた。
どこに出したんだ……?
その答えはすぐに分かる。
「ナザルさん! いえ、師匠! お久しぶりです!!」
前よりもちょっと覇気のある物言いとともに、彼がやって来たのだ!
少しだけ伸びた背丈。
胸を張って歩く様と、全身から醸し出される謎の魅力。
彼を見たりすれ違った者達は、みなポワーンとなった。
「あっ、び、ビータ!! どうしてここに!」
「リップルさんからのお手紙をもらいまして。師匠が冒険者として伸び悩んでいるから、今度はぼくに助けてほしいと……!」
なにぃーっ!!
「リップル、きちゃまー!」
「はっはっはっはっは! ずっと屋内にいても体に悪いだろう! ナザルもまたそろそろ、足を使って町中を歩き回ったらどうだい」
「くそー、これが僕を外に連れ出す作戦か。確かにビータが冒険者ギルドにいたら、他の冒険者たちが仕事にならなくなる……。前よりもギフトの威力上がってない? 出力調整出来てないんじゃないか?」
「さあ……? 家族は平気なんですが、最近通い出した私塾では他の塾生たちがやたらとぼくに優しいです……」
そりゃチャームされてるんだよ。
仕方ない。
料理もちょっと煮詰まってきていて、揚げ物から抜け出せなかったところだ。
気分転換も兼ねて、ビータと街を練り歩くとするか。
いよいよ夏真っ盛りとなってきたアーランの街は、日向を歩いているとすぐに汗ばんでくるくらいだ。
僕のように日差しに強いタイプならいいが、ビータのように真っ白な肌だと赤くなってしまうだろう。
「日陰を行こう」
「はい、師匠!」
「なんで師匠なんだ……?」
「ナザルさんは、ぼくに将来冒険者になるためにどう気持ちを持つべきか、そしてどのように生きていくべきかを示してくださいました。私塾の先生に聞いたら、そういう人物こそが人生の師なのだと」
「余計なことを言うやつがいたな!」
僕は弟子ができてしまったらしい。
何の弟子だというのだ。
「とりあえず、日傘を奢ってあげるからこれを差して歩いて。強い日差しは肌の天敵だ。君のチャームの威力が落ちかねない」
「ありがとうございます、師匠」
ビータがニッコリ笑った。
僕はふんふんと頷くだけだが、背後にいた店の主人と女性客がクラクラーっとなってその場にへたり込んだ。
とんでもない威力だな、チャーム!
「ビータ、僕は君の能力はもっと制御されるべきだと思っている。垂れ流しすぎだ。いや、前も垂れ流していたんだろうが、あの時のビータはもっと背筋も猫背で自信なさげだったからな……」
「はい! 師匠の教えを受け、歩むべき道が定まり、ぼくは日々を勉学と訓練に費やしています! それでぼくはこうして、背筋を伸ばして生きていけるようになったんです!」
「そりゃあいいことだ。つまり僕が君のリミッターを外して、強力なギフトを解き放ってしまったわけだな! 責任を感じる~」
なるほど、リップルが僕に彼の対応をやらせるわけだ。
「対策ができるまで店の中はダメだな。外を歩き回ろう」
「はい! 何か新しいインスピレーションを探すんですね!」
「インスピレーション……?」
「師匠は、新しいお料理を研究されてると聞きましたが」
「ビータにまでその話が届いてたのか。いかにも。最近縁があって、国から支援を受けて寒天料理や油料理を作っているんだ。だが、マンネリでね」
道を歩きながら、ビータに思いの丈を話す。
リップルに相談するのはなんとなく気恥ずかしい。
エリィはなんか向いてる方向が違う。
ドロテアさんは話をしてると甘やかしてくる。
ここはニュートラルな感じがするビータがいいだろう。
「うーん。師匠はどういうところで詰まっているんですか」
「揚げ物だな。僕は油使いだ。だから、油を用いた料理で揚げ物をメインにしている。だが、やはり揚げて何かを掛けるという組み合わせだけではワンパターンな気がしてきて……」
「ぼくはそれでもいいと思います! 師匠の揚げてくれた鳥は美味しかったですし! きっと、油そのものが美味しいんですね!」
「ああもちろん。僕の油は飲めるんだ」
「やっぱり! 油に味付けしたらそのままごちそうになりそうですよね!」
僕の脳裏に電撃が走る────!!
そ、そ、そ、それだーっ!!
立ち止まり、自分を見てわなわなと震えている僕に、ビータは不安を覚えたらしい。
「し、師匠……?」
「ビータ! 凄いぞ! とんでもない発想の転換を口にしてくれた! 僕は! 油は揚げるものという常識に囚われていたのだ!! そうだ! 僕の油をさらに美味しくして、そのものを食べさせる料理を作ればいい!」
「やった! 師匠が元気になった! ぼくは嬉しいです!」
二人で道の真ん中で快哉を挙げる。
うん、リップル。
この二人だとブレーキ役がいないぞ!
43
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある
セントクリストファー・マリア
ファンタジー
日本の東京に店を構える老舗のラーメン屋「聖龍軒」と、ファルスカ王国の巨大ダンジョン「ダルゴニア」の地下第7階層は、一枚の扉で繋がっていた。


どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「異世界に転生してくれぇえええええええええ!」
事故で命を落としたアラサー社畜の俺は、真っ白な空間で謎の老人に土下座されていた。何でも老人は異世界の賢者で、自分の後継者になれそうな人間を死後千年も待ち続けていたらしい。
賢者の使命を代理で果たせばその後の人生は自由にしていいと言われ、人生に未練があった俺は、賢者の望み通り転生することに。
読めば賢者の力をそのまま使える魔導書を五冊もらい、俺は異世界へと降り立った。そしてすぐに気付く。この魔導書、一冊だけでも読めば人外クラスの強さを得られてしまう代物だったのだ。
賢者の友人だというもふもふフェニックスを案内役に、五冊のチート魔導書を携えて俺は異世界生活を始める。
ーーーーーー
ーーー
※基本的に毎日正午ごろに一話更新の予定ですが、気まぐれで更新量が増えることがあります。その際はタイトルでお知らせします……忘れてなければ。
※2023.9.30追記:HOTランキングに掲載されました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます!
※2023.10.8追記:皆様のおかげでHOTランキング一位になりました! ご愛読感謝!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる