俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
76 / 337
26・ビータの相談

第76話 アヒージョの伝説

しおりを挟む
 さて、ビータから大きなインスピレーションを受け取ったが、それだけでは足りない。
 僕は料理を閃きだけで作れるような天才ではないからだ。
 しっかりとしたレシピが必要なのと、できれば料理人による実践を見学させてもらいたい。

 ということで、僕はビータを連れて商業地区を歩き回ることにした。

「師匠、油をそのまま食べさせる料理って、ぼくが言っててなんですけど、どんなものなんでしょうか……」

 聞けば、ビータの家は比較的保守的で、新しい料理を食べないのだそうだ。
 市場に出回り始めている魚醤も、まだ口にしたことがないとか。

 では、百聞は一見に如かずとも、一口に及ばずとも言う気がするので。
 僕は彼を連れて新しいものを出している食堂に入った。

「茹で肉の魚醤掛けをお願い。二人前」

「へい! お客さん耳が早いね。最新のメニューですよ」

「ふふふ……。さる事情から僕は情報通でね……」

 店の主人と怪しい会話をした。
 その後、主人のお嬢さんらしき人がお盆を持ってきた。

「お待たせでーす。茹で肉の魚醤掛けです! 召し上がれ! あ、こちらの漬物は当店のサービスでーす」

「ありがたい!」

「この……褐色でどろっとしたのが魚醤……!!」

 漬物に快哉をあげる僕と、魚醤を前に身構えるビータ。
 まだ若いのに、保守的過ぎるのは良くないぞ。

「まあ食べてみるんだ。独特の匂いと風味があるが、慣れてくると実に美味しい」

「なるほどです! じゃ、じゃあ……んっ」

 茹で肉はちょうどいい大きさにカットされていたので、これを摘んでパクっと食べるビータ。
 そして、難しい顔をした。

「んー……。塩やハーブとは全く違う風味がしますけど……なんていうか、独特の臭みみたいなのが気になります」

「子どもの味覚は繊細だなあ」

 どうやら魚醤はお気に召さないようだった。
 だが、それは当たり前だ。
 今までアーランに存在していたのは、塩とハーブ。
 シンプルな味付けに、香り付けだけなのだ。

 そこへ出現した魚醤は、独特の香りに強い塩気、そして発酵した食物特有のコク、旨味みたいなのがぎっしり詰まっている。
 味の爆弾みたいなもんだ。
 慣れないと戸惑うだろう。

「無理はしなくていいよ。僕はこいつを仕入れるために随分苦労した。感慨深いよ……」

 パクパク食べる。
 うむ、美味い。
 そして僕の言葉を聞いて、ビータの目の色が変わった。

「師匠が苦労して仕入れられたものだったのですか! それは……無駄にはできないです!」

 彼は意を決して、魚醤の掛かった肉を次々に食べた。
 おおっ、食べるようになってるなあ。
 以前の、線の細い美少年がかなりたくましくなったものだ。

「うっ、お、おいしいです……!」

「無理すんな無理すんな」

 僕が残りを食べてやった。
 うんうん、美味しい。
 これ、酒が進む味だな。

「茹で肉は魚醤の味がもろに出るからな。少年にはきつかったかもしれない。口直しのジュースを奢ろう」

「あ、ありがとうございます……!」

 果実の種類が少ないアーランにおいて、ジュースというのはなかなか高級品なのだが……。
 僕のために無理をした弟子である。
 その心意気に応じるためにお金を出そうじゃないか。

「美味しいです!!」

「今度は明るい感じの声になった。本当に美味しいんだな」

「スミマセン……」

 しょんぼりしないでよろしい。
 さて、魚醤に関しては、ちょっと割高だが珍しい調味料ということで、あちこちのテーブルで食べられているようだ。
 彼らの言葉から、新しい料理のヒントが得られぬものか。

 僕は耳を澄ませることにした。

「なんと不思議な味なのだ。色々なものに掛けて試してみたい」

「これだけ舐めても酒が進みそうだ……」

 それは体に悪いから止めたほうがいいと思うな。

「油煮に加えてみたいな。ここでは食べられる油が無いから試せないが」

 いたああーっ!
 いたぞ、食材としての油を知る人物が。
 どうやら、外国からやって来た行商人のようだ。

「もし、旅のお方……」

「はい……。おや、あなたも外国の方?」

「はっ、生まれは今はもう無い遺跡の村でして……そんなことより、油煮という言葉を耳にしましたが」

「ああ、はい!」

 その人は、中年くらいの男性だった。
 口ひげを撫でながら、にっこり笑う。

「私の地元の油煮はですね。そりゃあもう絶品なんですよ。体が温まりますから」

「ほうほうほう……」

「砂漠の中にある国なんですが、夜はとても冷えましてね。ですが、我が国に生えている乾燥に強い植物のオブリーというのが潰すと油が出るのです。こちらでは、油は獣の脂肪を主に使うのですよね。あるいは花を絞って取る油だとか」

「ええ。癖がある油が多くて、それ単体で食用にはあまりしないんですよ」

 食料に乏しい地域では、獣脂をそのまま食べてカロリー補給したりするらしいが……。
 アーランは食材に満ちているからね。

「なるほど。オブリーからできたオブリーオイルは……それはもう素晴らしい風味なんですよ……」

「なんですって!!」

「ちょっとした食べ物を入れて、油で煮てですね。油ごと食べるんですが、もう……。寒い砂漠の夜も、これがあれば本当にハッピーです!」

 それはつまり……アヒージョってこと……!?
 僕は今、アヒージョの手がかりを手にしたのである。


しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ
ファンタジー
 十年前――  世界は平和だった。  多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。  誰もが思っただろう。  心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。  何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。  十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。  そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。 「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」 「クビ?」 「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」  めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。  彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。  そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。    一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。  順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...