上 下
28 / 517
それなり私の飛翔編

第28話 ゲストイベント準備伝説

しおりを挟む
「なんで……なんでまた登録者が増えてるの……!?」

 登録者数が160.000人になってる。
 昨日の今日だから、間違いなくあのチャラウェイさんの家の雑談配信だ。

 終始、新人らしく大人しくしていたつもりだったけど……。
 あ、ゴボウについて聞かれたから、我が家のゴボウ料理レパートリーが増えた話したっけ!

 私も母と一緒に、ゴボウチップスを揚げたりしてるし。
 ……という話をしたら、またコメントが盛り上がったんだよね。
 解せぬ……!!

 自分が振るったゴボウを自分が美味しくいただく……!
 それがお野菜への礼儀でしょう。

『抽選で何名とかにお前が揚げたごぼうチップスを送るのはどうだ?』

「は!? 私のお手製ごぼうチップスを!?」

 兄め、なんという悪魔的発想。
 これはガチ恋勢生まれる。

 だけど、よく考えたら貰える人と貰えない人で格差が生まれちゃうから、これはナシということになった。

『まあ、いつかどこかの施設とコラボレーションをした際に、お前が監修した料理としてゴボウづくしを出せばいいだけの話だな』

「そうそう。……って、どこかの施設とコラボ!? 私が!? ひいー」

 話の規模がまた格段と大きくなってきていて、私は悲鳴を上げた。

『まさか、とか思っていないだろうな? いいか? 個人勢で登録者数16万は破格だぞ。しかもお前はまだ、配信を始めて二ヶ月経ってもいない。勢いは止まっていないということだ』

「お兄ちゃん、落ち着こう。あまり可能性を提示されると私は死んでしまう」

『逆可能性の獣……。分かった。スローペースで行こう』

 この人、ぶっきらぼうだし、どんどん仕事を進めるやり手だけど、ちょこちょこ優しいんだよね。
 ありがたい。

『それより今回は、例のお披露目のリハーサルだ。いよいよ開催が近いからな。向こうからは拘束時間に応じた費用をもらっている』

「お金が!! じゃあ、やらないとだね……」

 いよいよ忙しくなってきた……!
 リハーサルは、専用のスタジオでやるらしい。

 実際のダンジョンを使って、万一の事故が起きたら洒落にならないし。

『迎えに行く。一時間待っていろ』

「へーい」

 チャラウェイさんの時は迎えに来なかったのに、今回はなぜお迎え付きなんだろう……!
 ……詮索はやめとこっと。

 すぐにお迎えがやって来た。
 日々、だんだん運転が上手くなる兄のスポーツカー……。

「軽?」

「修理に出してる。代車だ」

 悲しそうな顔してる。
 この間、幻ファンの事務所行った時に擦ったもんねえ。

 向かうのは、都心からちょっと外れたところにあるスタジオ。
 それでも駅チカだから、免許を持ってない配信者の人も安心らしい。

 ここでイベントのリハーサルをやって、ダンジョンに備えるらしい。
 なるほど……こうやってなうファンタジーの配信者たちは、鍛えられてるんだなあ……。

 兄が到着すると、出迎えるスタッフたちがみんな会釈してくる。

「お久しぶりです」

「お元気そうで何よりです」

「また一緒に仕事できて嬉しいです」

 うおー、みんな兄にリスペクトに満ちた視線を向けてくるんだけど。
 この人、なんで辞めたんだろうな……!

 通されたスタジオは、だだっ広い。
 そして壁が緑色をしている。
 なんで?

「ようこそはづきちゃん! 今日はよろしくねー」

「カンナちゃん、よろしくね……!」

 カンナちゃんはフレンドリーだけど、見慣れぬ環境に挙動不審な私なのだ。
 恐る恐る、スタジオに足を踏み入れた。

「これ、背景に立体映像を投影するからこういう色してるの。ARって言うんだけどね。これでシミュレーションをしたりするわけ」

「なるほどー。なうファンタジーの人たちって、みんなここで練習するんですか?」

「そうそう。見栄えのする動きって、一朝一夕だとできないもの。日々練習だよー。でも、所属してる配信者の数も多いから、スタジオ使えるのも普段は順番待ちなんだ」

「あー。大手は大手で大変だなあ……」

「大変……だから、スタジオ借りられたら時間いっぱいまで全力で練習するの。お陰でクタクタだよー」

 そんな話をしていたら、卯月さんが走ってきた。

「だけどはづきちゃんが来てくれたから元気百倍! 抱きしめたーい!」

 むぎゅっとされた!

「うーわー」

「相変わらずはづきちゃんは柔らかいなあ~。高校だとほら、ひと目があるし、あたしが抱きしめてたら目立っちゃうでしょ」

「そっか、はづきちゃん、桜と同じ学校だったっけ! そうかあ……私と四歳も離れてるんだねえ……」

「カンナちゃん助けてー」

 パワフルな卯月さんにハグされて、助けを求めてもがく私。
 うおー、ダンジョンの外の私の腕力はすっごく弱い!
 スーパーベビー級だあ。

「おつかれー」

「噂をしてたら最年長が来たよ」

「ミナ、タバコ休憩終わった?」

「終わりー。あ、はづきちゃんじゃーん。ハグ、ハグ」

「うーわー」

 なうファンタジーのマネージャーさんが止めてくれなかったら、いつまでもハグされているところだった!

 ここで私が体験したのは、ARを使ったダンジョンシミュレーターだった。
 Aフォンと連動するらしくて、戦闘をすると武器で叩いた感触がある。

 ダメージを受けると、ちゃんと軽い衝撃もある。
 現実はこんなもんじゃないけどね!
 ……多分。

 私、よく考えたらまだ一回もダメージを受けたことがない気がする……。
 今度リスナーたこやきにお願いして、ダメージ受けてる動画を検証してもらおうかな。

「はづきちゃん、はい、これ」

「これ何?」

 茶色い棒を渡された。

「AR用のバーチャルゴボウ」

「バーチャルゴボウ!?!?!」

 珍妙なものを手にして、私の頭が疑問符でいっぱいになった。
 どうやら、AR環境だとゴボウと同じ重さ、同じ威力になるように調整された物らしい。
 私用に、幻ファン株式会社で作ってくれたんだって。

 ありがたい……。
 なんか、様子を外から見ている兄の目が険しくなってるんだけど。
 
 あれは、私がスカウトされるのを警戒している目だ……!
 大丈夫、大丈夫だから……!
 私、あんな大規模団体に入って先輩が山程できたら、ストレスのあまり即座に引退するから。

「それじゃあリハーサル、行ってみようー!!」

 カンナちゃんの掛け声とともに、デビューイベントのリハーサルは始まる。
 いやあ、本当にゴボウでゴブリンを叩いた感触がしたよ。
 科学技術は凄いね……!
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...