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冴えない私の黎明編

第7話 ご近所ダンジョン制覇伝説

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 近所のダンジョンにも慣れてきたけど、同じ場所で配信していると飽きられる……!
 三回目にして、マンネリを恐れる私なのだ。

「みんなー! こんにちきら星~! 新人冒険配信者のきら星はづきです~!」

※『こんにちきら星~!』『はづきちゃん配信時間早いよね』『夜の方が助かる』

「ごめんね、門限が……。本当に、遅くなるとお母さんに怒られるので」

※『あー』『かわいい』『かわいい』

 何を言っても肯定してくれるじゃん……!
 本日の同接は、111人。
 安定して高い……!

 もちろん、もっと凄い配信者の人はたくさんいるんだが!

「今日はリスナーの皆さんから募集したアイデアを、実際にダンジョンで使ってみまーす! このダンジョン、同じ部屋が八つある古いマンションなんだよね。だから構造は同じなんだけど……」

※『この間のダンジョンはボスいなかったよね』

「そう、それよ! ダンジョンのボスっていうのは本来は怨霊が変化したボスモンスターでしょ?」

 世界中に出現したダンジョンは、怪奇スポットを土台にしている。
 だから、そのダンジョンのボスは全て、怨霊がモンスター化した存在なのだ。

 つまり、ボスモンスターは元人間であることも多いってこと。

「ちょっとダンジョンから顔だけ出すね。えー、こちらを御覧ください!」

 一階は、部屋が三つある。
 うち一つはこの間攻略して、今日挑むのはもう一つ。
 残る一つは、明らかに広い。つまり大家さんの部屋ということだ。

「大家さんの家、絶対にボスモンスターいると思わない?」

※『いそう』『いますわ』『突撃しよう』

「しませんー! まだその時ではない……」

※たこやき『達人になるまで戦場に出ないつもりか』

「ぐさっと来ること言うなあ! だけどここは、ほら。もっと大々的なイベントみたいにして攻略しようかなーって。詳しくは近日公開!」

※おこのみ『おっ、コラボか?』

「深読みやめてください!」

 将来のネタを潰すなー!?

※もんじゃ『そうだぞ。こう言うときは秘して言わず、期待を口にするのがマナーだ。それとはづきっち、武器は装備しないと効果を発揮しないぞ』

「そうでした! 今回の武器は、じゃーん」

※『マイバッグ漁ってる』『家庭的だなあ』『バッグにモザイク掛かってるんだけど』『キャラモノだね』

 鋭い。
 版権がある画像を配信に出すと、著作権が関わってくるので面倒くさいのだ!

 さて、取り出しましたのはこちら!
 お兄ちゃんからもらってきた、振るとブォンブォン言う、蛍光灯みたいな剣! ……のおもちゃ。
 レーザーソードという商品だ。

「今日はこれで、ダンジョンを探索してみようと思います! じゃあみんな、行ってみよう!」

※『おー!』『おー!』『おー!』

 ノリがいい!
 同接が多いと盛り上がるなー。
 私はホクホクしながらダンジョンの中へと上がっていった。

 玄関を超えると、そこからがダンジョンだ。

 レーザーブレードのスイッチを入れ、光らせてブォンっブォンっと振る。
 いい感じ。
 本来、空洞になったプラスチック部品に光るパーツを内蔵してるものだから、衝撃を与えると割れるんだけど……。

 同接さえ増えれば、トマトでゴブリンの額を割れる世界なのだ。
 いけるいける!

※『剣を振る動き遅くね?』『はづきっちの腕力が追いつかないんだ』『初代シリーズあんなもんじゃなかったか?』『そういう意味だと本格派か』
※『筋肉つけろ』『ゴボウを食え』

 色々勝手なこと言ってるな!

 あと、ひたすらゴボウを押すやつはなんなんだ。
 そんな事を考えながら、ブォンブォン剣を振っていたら、『ゴブゴブ!』『ゴブゴブ!』とゴブリンが二体現れた。

 集団戦!

「か、かかってこーい! 順番に!」

※『腰が引けてる!』『ヘイヘイヘイ、はづきっちビビってるー』

「うるさーい!?」

 がんばれー、という激励が多いのだが、こういうどうでもいいコメントを拾ってしまう……!

『ゴブゴブ!』

「あひーっ」

※『出た! あひー!』『助かる』『寿命が伸びました』

 私の悲鳴を喜ぶなー!
 ゴブリンが振り回す出刃包丁を、必死にレーザーソード(おもちゃ)で受け止め、弾く私。
 このおもちゃ、重い! そりゃ、電池とライトと音が出る装置が入ってるんだから当たり前か!

 だけど、同接111人……いや、今113人になった! その力は偉大だ。
 出刃包丁が、レーザーソードで完全に受け止めきれている!

 いいぞいいぞ!

 何回も、ゴブリン二体と切り結んだ。
 いや、攻撃を弾くので必死なんだけどね!
 敵の手数が多いのよ!

「あひー、腕が疲れてきた……!」

※『やっぱりネタ武器だったか』『もう腕がプルプルしとる』『筋トレしろ』

「し、指示厨やめて下さぁい」

※『ゴボウでいけ!』

 ううっ、悔しいがそれしかないか。
 ゴボウ推しのリスナーに言われて、リュックに突き刺していたゴボウ。
 レーザーソードを投げ捨てながら、私は後ろにコテンと転んだ。

『ゴブウーッ!?』

 ゴブリンたちは攻撃を空振りし、体が泳ぐ。
 チャーンス!

 私はどうにかこうにか後転しつつ、ゴボウを脱いて起き上がった。

※『すごい動きだ……! ある意味すごい動きだ』『後転の練習しようはづきっち!』『痙攣するイモムシ』『草』

「うるさいよ!?」

 私は抜き打ちにゴボウを放つ。
 凄い!
 軽い!
 まるで羽みたい!

 ゴボウが出刃包丁を砕き、ゴブリンの一体を殴り倒した。

『ウグワーッ!』

 昏倒するゴブリン。
 残る一体にも、ゴボウで一撃!

『ウグワーッ!』

 このゴブリンも倒れた。

「よし……」

※たこやき『ゴボウ娘』『すげえゴボウさばき! さっきとは別人だぜ!!』『やっぱはずきっちはゴボウだよな』『ゴボウ振ってる時が一番輝いてるよね』

 私はゴボウから逃げられないようだ……。
 冒険配信者って、もっとかっこよくてキラキラした存在だと思ってたんだけど。
 少なくとも、中学の頃に見ていた兄の配信は、もっとずっとかっこよかった。

 私もああなりたい!
 そう思って、兄にも協力してもらって冒険配信者になったのに……!

※『なんかゴボウ握って憂いのある顔してる』

 くうっ、絵に……絵にならない!
 絶対にゴボウから脱却して、私もかっこいい冒険配信者になってやる!

 そうだ。私の目標は、あの時の兄のような、キラキラしててかっこよくて、憧れられるような冒険配信者になることだ……!
 そのためには、レーザーソードを振り回せるくらいの筋力と、かっこよく後転できるくらいの身体能力が必要だろう。
 体、鍛えよ……!!

※『あ、次のゴブリン』

「くう……! でも今は、ゴボウに頼るしかない……!! 行くよーっ! アチョー!」

※『なんか悲壮感の漂う怪鳥音だな』

 見てろよリスナー!
 明日にはゴボウを卒業してやる!
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