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第97話 バルログかイフリート様の祟りである
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燃え上がるバルログ山車が出現して、鉱山都市の中心部がパニックになる。
「うわーっ、ほ、炎のモンスターだ!」
「ここまで来たのか!?」
「いやちょっと待てよ。なんかチープな気が……」
観客を冷静にさせてはいけない。
こういう恐怖や驚きを煽るタイプの出し物は、没頭してもらってこそ力を発揮するのだ。
どうしよう、という目で俺を見るドワーフたちと、リザードマンたちに、自信満々に頷いてみせる。
俺の腹話術スキルが唸りを上げるときだ。
『うおおおおん! 我はバルログ! 炎の悪魔バルログなり!!』
人々には、燃え上がるバルログ山車から声が響いたように聞こえただろう。
誰もが目を見開き、バルログ山車から目を離せなくなる。
『この先は我の住まう魔の城! 炎の悪魔バルログを恐れぬ不届き者め! かつての忌まわしき大戦の時のように、灰も残さず焼き尽くしてくれようぞ!!』
ここで合図。
ギスカが鉱石魔法を使い、バルログ山車の口元辺りから炎の魔法を放つ。
魔法の炎は熱を発するものの、炎そのものではない。
密閉空間で火が燃えると息が苦しくなったりするのだが、そういう状況は生まれないのだ。
ということで、バルログ山車の炎は鉱山都市にも優しい炎。
焼き尽くすなんてとんでもない……のだが。
やはり、演出というものは大事である。
「ば、バルログだー!!」
「ひいー!! お助けーっ!!」
ドワーフたちがへたりこんで助けを求めている。
騒ぎを聞きつけて、長が走ってきた。
「ど、どういうことだ! な、なんだあれはーっ!!」
よし、長は最初から、いい感じに冷静じゃないぞ。
誰しも、冷静でなくなれば目の前にあるものが、真実か偽りなのかが分からなくなる。
そして、自分が望む物に近い側のものであると信じ込みやすくなるのだが……。
これは正の方向ばかりではなく、負の方向にも言える。
だからこそ、ことさらにバルログであることをアピールする意味がある!
『うおおおーっ、我はバルログ! 炎の悪魔バルログなるぞー!! 即刻、あの坑道を封鎖せよ! 我に近づこうとは不届き者め! ドワーフどもは残らず灰になってしまいたいと見える!』
「ひ、ひいーっ!」
「あの坑道、リザードマンがいたんじゃなかったのか!」
「なんでバルログが出てくるんだー!」
『それはつまり、リザードマンの神イフリートと我が遠い親戚だからである! 遠い親戚の信者を害するものは我の敵! ドワーフ、滅ぶべし!』
「ぎゃぴー!」
もうドワーフたちは腰砕けである。
いいぞいいぞ。
「理屈としては完全に破綻しているが、不思議なことに信じられているな……。いやあ、オーギュストは本当にこういうのが好きだな」
「そりゃあどうも。興行は、舞台だけでなく観客の反応までもコントロールできれば素晴らしいものになるからね。今回の仕事はなかなかやり甲斐があるよ!」
「オーギュスト、むっちゃいい汗かいてるやないか。まあ、うちもあの温泉は惜しいなーって思うしなあ」
「戦いは無いが、まあ見てて笑えることは確かだな」
パーティの仲間たちは、完全に高みの見物である。
今回、俺とギスカくらいしか出番がないしな。
「なあオーギュスト、俺がモンスターに化けて暴れたらダメか?」
「けが人が出たらダメだろう。我々は温泉を守るために、無血の革命をしているんだ。血が流れたら我々の負けだよ」
「そんなもんか……。今回、俺は酒を飲んで温泉に入ってるだけだぜ」
ジェダの能力は戦闘に特化していて、ピーキーだからな。
さて、バルログからのドワーフたちへの要求がクライマックスを迎える。
「な、何が望みなんじゃ、バルログ……!」
『温泉郷……じゃない、リザードマンの聖地から手を引け……! 何者にも、触れられたくないものは存在する……! それを汚したら、もう戦争だろうが……!』
「ひいーっ!」
「バルログと戦争!!」
「もうだめだあー!」
「この鉱山都市は終わりだあー!」
おっと、騒ぎが大きくなってきた。
ここで終わらせてしまおう。
『あの坑道を封鎖するのか……! はい、か、いいえ、で答えよ……! いいえなら燃やす』
「は、はい! はい! 坑道を封鎖しますーっ!!」
『よろしい……!!』
よし、言質は取った。
頑固なドワーフのことだ。
前言を撤回するなどということはまずあるまい。
後は、この山車を退場させるだけだ。
ドワーフの若者たちとリザードマンたちが、どうするんだ、という顔をしてくる。
俺は彼らに、退避するように指し示した。
彼らはわーっと山車の後部に散っていく。
「あとは俺の仕上げだ。ふんっ!!」
俺の全身から、正真正銘、バルログの炎が吹き上がる。
そして山車に向かって突撃である。
俺の炎は、触れた相手を焼き焦がし、破壊する。
だからこそ山車の中に入っては使えなかった。
しかし、山車を破壊するならばこれ以上のものはない!
『さらばだーっ!! わははははは!!』
声を張り上げて告げると、俺は全身を回転させて山車を粉砕する。
山車は燃え上がり、溶け崩れる金属塊と化した。
バルログであったはずのものは形を失い、既にそれがなんであったのか、誰にもわからないようになっている。
ということで、撤退である。
山車が燃え上がり、蒸発していく。
ここで有毒なガスがちょっと発生してしまうのが作戦の弱点であろう。
だが、ドワーフたちは怖がってガスの範囲内に近づかないし、仲間たちは退避させている。
そして俺には毒は通じない。
ウィンウィンである。
ガスに紛れて、俺も退場。
かくして作戦は成功した。
逃げているドワーフの若者たちが、皆首を傾げている。
「あれ? 革命……? 何が革命……?」
「おやあ……?」
お気づきになりましたか……!
ちなみに。
ギスカの兄、ディゴは、事の最後まで温泉と酒場を行き来して、最後は酒で潰れて何もわからないうちに状況が終わっていたようである。
「うわーっ、ほ、炎のモンスターだ!」
「ここまで来たのか!?」
「いやちょっと待てよ。なんかチープな気が……」
観客を冷静にさせてはいけない。
こういう恐怖や驚きを煽るタイプの出し物は、没頭してもらってこそ力を発揮するのだ。
どうしよう、という目で俺を見るドワーフたちと、リザードマンたちに、自信満々に頷いてみせる。
俺の腹話術スキルが唸りを上げるときだ。
『うおおおおん! 我はバルログ! 炎の悪魔バルログなり!!』
人々には、燃え上がるバルログ山車から声が響いたように聞こえただろう。
誰もが目を見開き、バルログ山車から目を離せなくなる。
『この先は我の住まう魔の城! 炎の悪魔バルログを恐れぬ不届き者め! かつての忌まわしき大戦の時のように、灰も残さず焼き尽くしてくれようぞ!!』
ここで合図。
ギスカが鉱石魔法を使い、バルログ山車の口元辺りから炎の魔法を放つ。
魔法の炎は熱を発するものの、炎そのものではない。
密閉空間で火が燃えると息が苦しくなったりするのだが、そういう状況は生まれないのだ。
ということで、バルログ山車の炎は鉱山都市にも優しい炎。
焼き尽くすなんてとんでもない……のだが。
やはり、演出というものは大事である。
「ば、バルログだー!!」
「ひいー!! お助けーっ!!」
ドワーフたちがへたりこんで助けを求めている。
騒ぎを聞きつけて、長が走ってきた。
「ど、どういうことだ! な、なんだあれはーっ!!」
よし、長は最初から、いい感じに冷静じゃないぞ。
誰しも、冷静でなくなれば目の前にあるものが、真実か偽りなのかが分からなくなる。
そして、自分が望む物に近い側のものであると信じ込みやすくなるのだが……。
これは正の方向ばかりではなく、負の方向にも言える。
だからこそ、ことさらにバルログであることをアピールする意味がある!
『うおおおーっ、我はバルログ! 炎の悪魔バルログなるぞー!! 即刻、あの坑道を封鎖せよ! 我に近づこうとは不届き者め! ドワーフどもは残らず灰になってしまいたいと見える!』
「ひ、ひいーっ!」
「あの坑道、リザードマンがいたんじゃなかったのか!」
「なんでバルログが出てくるんだー!」
『それはつまり、リザードマンの神イフリートと我が遠い親戚だからである! 遠い親戚の信者を害するものは我の敵! ドワーフ、滅ぶべし!』
「ぎゃぴー!」
もうドワーフたちは腰砕けである。
いいぞいいぞ。
「理屈としては完全に破綻しているが、不思議なことに信じられているな……。いやあ、オーギュストは本当にこういうのが好きだな」
「そりゃあどうも。興行は、舞台だけでなく観客の反応までもコントロールできれば素晴らしいものになるからね。今回の仕事はなかなかやり甲斐があるよ!」
「オーギュスト、むっちゃいい汗かいてるやないか。まあ、うちもあの温泉は惜しいなーって思うしなあ」
「戦いは無いが、まあ見てて笑えることは確かだな」
パーティの仲間たちは、完全に高みの見物である。
今回、俺とギスカくらいしか出番がないしな。
「なあオーギュスト、俺がモンスターに化けて暴れたらダメか?」
「けが人が出たらダメだろう。我々は温泉を守るために、無血の革命をしているんだ。血が流れたら我々の負けだよ」
「そんなもんか……。今回、俺は酒を飲んで温泉に入ってるだけだぜ」
ジェダの能力は戦闘に特化していて、ピーキーだからな。
さて、バルログからのドワーフたちへの要求がクライマックスを迎える。
「な、何が望みなんじゃ、バルログ……!」
『温泉郷……じゃない、リザードマンの聖地から手を引け……! 何者にも、触れられたくないものは存在する……! それを汚したら、もう戦争だろうが……!』
「ひいーっ!」
「バルログと戦争!!」
「もうだめだあー!」
「この鉱山都市は終わりだあー!」
おっと、騒ぎが大きくなってきた。
ここで終わらせてしまおう。
『あの坑道を封鎖するのか……! はい、か、いいえ、で答えよ……! いいえなら燃やす』
「は、はい! はい! 坑道を封鎖しますーっ!!」
『よろしい……!!』
よし、言質は取った。
頑固なドワーフのことだ。
前言を撤回するなどということはまずあるまい。
後は、この山車を退場させるだけだ。
ドワーフの若者たちとリザードマンたちが、どうするんだ、という顔をしてくる。
俺は彼らに、退避するように指し示した。
彼らはわーっと山車の後部に散っていく。
「あとは俺の仕上げだ。ふんっ!!」
俺の全身から、正真正銘、バルログの炎が吹き上がる。
そして山車に向かって突撃である。
俺の炎は、触れた相手を焼き焦がし、破壊する。
だからこそ山車の中に入っては使えなかった。
しかし、山車を破壊するならばこれ以上のものはない!
『さらばだーっ!! わははははは!!』
声を張り上げて告げると、俺は全身を回転させて山車を粉砕する。
山車は燃え上がり、溶け崩れる金属塊と化した。
バルログであったはずのものは形を失い、既にそれがなんであったのか、誰にもわからないようになっている。
ということで、撤退である。
山車が燃え上がり、蒸発していく。
ここで有毒なガスがちょっと発生してしまうのが作戦の弱点であろう。
だが、ドワーフたちは怖がってガスの範囲内に近づかないし、仲間たちは退避させている。
そして俺には毒は通じない。
ウィンウィンである。
ガスに紛れて、俺も退場。
かくして作戦は成功した。
逃げているドワーフの若者たちが、皆首を傾げている。
「あれ? 革命……? 何が革命……?」
「おやあ……?」
お気づきになりましたか……!
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