アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃

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序章   何故こうなった!?

2  皇女アレクサンドラとアルシアーナに降りかかる悲劇

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 話は今からちょうど一年前へと戻る。
 そもそも最初に白羽の矢がこれでもかというぐらいグッサリと刺さったのはノースウッドの第四皇女、アルシアーナ・ビアンカ・キャンディス・ノーリッシュ。
 そして現在彼女はとても困っている……というか、恐らく18年間生きてきた中で今一番身の危険と恐怖を感じ、出来る事ならばいっそこのまま世を儚んでしまいたいとさえ思っていた。
 それもその筈、彼女はこれより別件で長い時を掛け両親そして姉や兄達と何度も話し合い、20歳までは皇女として公務をこなし、その後はとなるべく入信する予定だったのだ!!

 ノースウッド皇国は巨大な世界樹を中心に都が造られている特殊な国。
 いや、言っても決して過言ではない。

 天にも届くと言われ、また不思議な聖樹と呼ばれる世界樹には必ず1人の守護精霊が宿っており、100年に一度その精霊の加護を受けている皇室より、未婚の乙女が聖教会へ入信という義務付けられているのだ。
 まぁはっきり言って精霊との契約である。
 本来ならば第一皇女のアレクサも精霊の花嫁候補であったのだが、皇太子となる皇子は彼女の弟1人のみ。
 弟である皇太子に変事があれば、長姉で皇位継承第二位のアレクサが次の教皇きょうおうとなる為、花嫁候補より除外されたというよりも、とある彼女に押し切られたと言う方が正しい。
 そのとある彼女と言うのが末の第四皇女であるアルシァーナ。
 アルシアは幼い頃より生身の男性の許へ嫁ぐより、我が国を守る精霊に心を込めてお仕えしたいというのたっての希望で、妹の我儘と言うものを最大限利用し、姉を押し退け、見事精霊の花嫁の座を手に入れたのだ。
 しかもその時彼女はまだ12歳の若さで決断し、反対される前に素早く行動を起こしたのは驚きだ。
 そしてその念願の嫁入りまで後2年となった現在――――彼女にとって、到底受け入れられない現実を突きつけられた。

 ???

 冗談?
 そう、アルシアは一瞬、いや出来る事ならば冗談で片付けたかった。
 生身の男、然も相手はっっ!!
 何人もの愛妾をはべらせ、一夜の相手等星の数。
 ましてや正式な結婚もしてはいないのに既に2も子供がいるという事実。
 また愛妾達は常に寵を競い合い、想像したくない程の見苦しい争いを繰り返しているとか……。
 その様な光景等見たくもないっっ!!
 おぞましく欲望の巣窟の坩堝るつぼ等絶対にっ、足は愚か髪の毛一本でも絶対に入り込みたくはないっっ!!

 彼女には幼い頃より世界樹に住む精霊を心酔していた。
 何時の日かこの身も心も全ては精霊様に尽くせるものだと思って生きてきたのだ。

 それを――――たかが戦にっ、確かにほぼほぼ負けていたからといって何故っ、あぁでも私が行かなければ愛する国も国民も護れない。

 相手のブランカフォルト王は御齢25歳。
 そして独身なのは敬愛する姉のアレクサと自分だけ。
 姉のアレクサは34歳で相手より9歳も年上、それに比べて自身は18歳で、相手が結婚を考えるのならば後者なのか……と、アルシアは深く嘆息たんそくする。

 だがどう考えても生身の男を夫にするなんて一瞬想像してみるが、その想像をするという行為でさえ吐き気を催しそうになる……がしかし、これを受け入れなければ精霊の花嫁どころではなくなる。
 そう、これは国の存亡にも係わる事。
 そんな末の娘に父皇ふおうは力なく詫びるばかり。
 こうしてなし崩し的にアルシアが隣国へ嫁ぐと決まった今、今度はアレクサが再び精霊の花嫁候補と舞い戻る。

 勿論第一皇女のアレクサは精霊の花嫁候補となる事を快諾し、そしてアルシアの心がまだ定まらないまま、結婚の支度は粛々と整えられていく。
 望まない結婚の準備期間の一年は本人の気持を無視するかのように、瞬く間に過ぎていく。
 そうして後一週間で隣国へ行き、そのまま結婚式となった頃――――事件は起こった!!

 !?

 
 望まぬ結婚と皇女として国民を護らねばならないと言う責務に板挟みとなり、18歳の若く美しい美貌を損なわす程悩み苦しみ抜いた故の凶行だった。
 普段はノースウッドの習慣を固く守り、真っ白な厚地のベールとフェイスベールで顔を覆い、家族に対しても男性であれば親兄弟にも決して素顔を晒さなかったアルシアが、頭に着けるベールはおろかフェイスベールをするのも忘れ、アレクサと同じ漆黒の髪はあるべき艶をなくしただけではない。
 バッサバサに振り乱し、やつれて少し窪んだ翡翠の瞳よりは大粒の涙を流し、食欲もないのだろう元々華奢なアルシアの身体は更に痩せ細り、小枝の様な身体を折り曲げアレクサの前で泣き崩れると同時に追い詰められた様な瞳で懇願した。

「姉様っ、わ、私っ、嫌ですっっ。お願いです、どうかお願いっ、私を助けて姉様!!」

 愛してやまない末妹まつまいの命を賭しての懇願。
 心の底からの懇願に、アレクサの心は思いっきり揺すぶられてしまう。
 そう、幾ら皇族とはいえアルシアはまだ18歳の乙女。
 然もアレクサ達兄妹の中で一番末の妹。
 アレクサとは16歳モノ年の差がある。
 姉妹というよりどちらかと言えば親子だと言っても過言ではない。
 実際いまだ未婚であるアレクサにとってこの年の離れた末妹は、まだ見もしない自身の娘の様にも感じられていた。
 だからこそ死を覚悟するまでに至った幼い妹の心情を思いやれなかった自身の配慮のなさに、アレクサは反省するばかりなのである。

 この一年の間にもっとアルシアを労わってやればよかった。
 幼いアルシアのか細い両肩に、このノースウッドという国の未来を背負わせてしまった事の遣る瀬無さ。
 代わってやれるものならば代わってやりたいとさえ……この時アレクサは何とはなしに思ってしまった。
 まぁ思った所で自分はあの王よりも9歳も年上。
 現実にそんな事はしえ様もないのだがしかし……。

 そう現実には無理――――でしょう。

 それがアレクサの素直な気持ち。
 幾ら可哀想だとしてもだっっ!!
 愛する妹が相手を選ぶ様に、どんなに女好きな男であろうとも一応相手を選ぶだろう。
 ブランカフォルト国王にとって選ぶ女性は単なる愛妾ではない。
 彼と同等の地位と権力を有する女性、なのだからっっ。
 この時のアレクサは本当に心の底より妹の災難を、そして止むを得ないにしろ、また皇女としての務めを無事果たせる事を純粋に精霊へと祈りを捧げていた――――がっ、何故なのか、結婚式を挙げるだろう3日前にアレクサは父皇よりあり得ない事を命じられた。
 そしてそれは相手国ブランカフォルト国王も了承したとの事だった。

 そう、ほんの数日前まである意味他人事だったのがだっ、今現実にアレクサ自身へと降りかかってしまった。
 
 

 講和条約の約定通り、その約定を交わしたちょうど一年後、つまり今日こうしてノースウッド皇国第一皇女アレクサンドラ・キャロリーン・ディアナ・ノーリッシュは、隣国ブランカフォルト国王クリス・レヴァン・ヘラクレス・ブランケルの許へ正妃として輿入れした。
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