アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃

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序章   何故こうなった!?

1  花嫁が1人で迎える初夜の朝

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 ピピピ、チチチ……。

 あ、小鳥の声?
 あぁ朝日もカーテンの隙間より差し込んでいるって事は間違いなく……これは朝よね。
 もしかしなくても――――なのだわ。

 そう1人小さな声で呟くのは、些か広過ぎる寝室に、これまた大きなキングサイズの、しかも支柱となる柱には精密で上品な彫り物までされているかなり値の張ったであろう天蓋付き寝台の隅っこで、申し訳なさ気にも映る様にちょこんと座っている女性は、ほぅ……と何とも言えない深い、深すぎる溜息ためいきを一つ漏らす。
 寝台に座っている女性は、薄絹の白い夜着と同じ素材であつらえられた頭よりすっぽりと被っているベール隙間よりほんの少し垣間見えるのは、漆黒の艶やかな髪に深い緑色の、大粒の翡翠とも思われる瞳にそして艶やかな象牙色の肌。
 見た目上白い布にすっぽりと包まれている女性はややふっくらとした体型?

 いやいや断じて彼女は完全なるおデブさんではない。
 そう白い布に包まれてはいるが、その布の下にはたわわに実る瑞々しい桃の様な胸に安産型の丸いお尻、そして腰も一応くびれてはいる。
 ただ全体的にややふっくらとしているだけ。
 身長も女性にしては高い方だが、背筋をぴんと伸ばしている姿は見る者に好印象を与える。
 しかし今彼女にしてみれば何とも言えない気分だろう。
 あぁそれは周囲から見た感想であって彼女自身のものではない。
 いやむしろ当の本人にとってこれ以上ないくらい安堵感に包まれているのかもしれない。

 だが普通の感覚で言えばこの状態は――――なのである!!


 彼女、アレクサンドラ・キャロリーン・ディアナ・ノーリッシュ。
 ノースウッド皇国の第一皇女であったが、昨日よりそこへブランケルという姓が新たに追加された。
 何故なら彼女、アレクサは昨日となるものをしたのだ。
 そして言うまでもなく昨夜はワクワクドキドキなだった筈?
 しかし当然の事ながらアレクサ達夫婦は政略結婚であるのは言うまでもない事実。
 まぁ王族ならば自国とその国民の益となる結婚を文句を言わず、二つ返事で受け入れるのは至極当然。
 そのアレクサが夫となったブランカフォルト国王の顔を見たのは、昨日誓いの言葉を交わした時。
 噂通りの美丈夫ぶりな夫を見たアレクサが抱いた感想は――――。

 時には的外れな噂であればよかったのに……。

 にこやかにほほ笑んでいる……いや誰が見ても物凄く嬉しそうな表情をした夫を見る度に、アレクサの心はどんどんしぼんでいく。
 そうして何処か他人事の様な結婚式も滞りなく終え、王都内を祝賀ムード一色の中でパレードをした時も、新婚の2人はキスどころか会話も二言三言のみ。
 最も声を掛けるのはアレクサではなく、夫となったブランカフォルト王である。
 アレクサと言えば相手に失礼がないくらいの態度で、ただ曖昧に返事をするくらい。
 そうしてパレードが終われば新婚夫婦はこれからの準備の為に一先ず別れ、衣装を整えれば城内挙げての大祝宴となり、各国の招待客よりの祝辞と挨拶、そして請われるままにダンスを披露し、落ち着いてゆっくり夫婦で会話をするなんて事はほぼほぼ皆無だった。

 そんな中ようやく最期の儀式――――用意をする為に、アレクサは夫よりも先に宴より退席した。
 入浴を済ませ、丹念に侍女の手によって初夜の準備をされたと言うのにっ、次第に夜も更け疲れた身体を時折叱咤し重くなる瞼を何度も強制的に開いていたというのにっ、夫となったブランカフォルト国王は彼女の許へ訪れる事はなかった!!
 だからアレクサは夜通し訪れもしない相手を無駄に、寝ずに待っていたという事になる。
 何も彼女は夫を心待ちにしていた訳じゃあない。
 ただ怒涛の一週間は何だったのかと思っただけ。
 まぁ元々アレクサもこの結婚に乗り気だった訳ではない――――というか、はっきり言って彼女は

 言ってみればであり、そして急遽押しつけられたのだっっ!!


 話は今から戻って1年前――――。
 その頃アレクサは、ブランカフォルト王国より東の隣国ノースウッド皇国の第一皇女として暮らしていた。
 しかし長年このノースウッドとブランカフォルドは事ある毎に戦を繰り返していたのだが、現在のブランカフォルド国王の代になるとそれまで優勢だったノースウッドが見る間に劣勢となり、そしてほぼほぼ負け確実な状態で両国は講和条約を締結した?
 いや違う。
 これは一方的なもの。
 事実上戦勝国であるブランカフォルトより、現実的な敗戦国であるノースウッドへの一方的な通達圧力とも取れるもの。
 当然の事ながらほぼほぼ負け込んでいたノースウッドに拒否権はない。
 何故なら多額な賠償金や広大な領地に国民を奪われるかと思いきや、条件はたった一つ――――。

 事。

 ただそれだけ。
 皇女1人が無事に国王の許へ嫁げば両国間で長年繰り返された戦は真の意味で終わりとなり、土地も荒らされる事もなく国民達も安心に暮らせるのだ。
 誰もが焦がれていた真の平和。
 そう、たった1人の皇女が我慢すればいいだけの事。

 

 何時も美味しいご飯や綺麗なドレスに身を包み、腕に覚えのある騎士達にしっかりと護られているのも全てはこういう時の為。
 だから選ばれた皇女は泣く事なく、むしろ胸を張り、喜んでこの婚姻を受け入れるのが普通なのだ。

 それに夫となるブランカフォルトの国王は、俗に言う醜悪で肥え太った狒々爺ひひじじい等ではない。
 それどころか煌めく銀色の長い髪と青灰色の瞳に中性的で美しい顔立ち、そして騎士らしく程良い筋肉の付いた逞しい体躯に溢れる様な妖しいまでの色香を纏った25歳の青年。
 地位もその容姿も何ら問題はないどころか、とんでもなくハイスペック!!
 おまけに前国王夫妻は最早この世には存在しないし、煩い小姑もいない。
 条件的には断然文句なんてないと言っていいのだが、文武両道、眉目秀麗、天はこの男に何物も与えてはいたけれどただ一つだけ――――がある。

 それは彼、クリス・レヴァン・ヘラクレス・ブランケルはだったのだ!!

 そう、妃と名のつく女性こそは存在しないが、愛妾だけで約8人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程とまで言われている。
 また愛妾達との間に2人、1男1女の子供も儲けている。
 そんな下半身にだらしなく、然も愛妾と子供まで既に儲けている所なんて、何処の深窓の姫君が花嫁に来てくれるだろう。
 いや、答えはNOだ。

 幾ら見目麗しくお仕事が出来ても、最初から女達の巣窟に足を突っ込みたい姫君はいない。
 幼い頃は婚約者もいたのだが、これがごく普通の身持ちの堅い深窓の姫君だった故、彼の爆発的な精力を押し付けられそうになった瞬間――――これを見事回避し、それが切欠きっかけとなり、彼は婚約者以外の女性と関係を結びその後婚約は解消となったらしい。
 またそれからも婚約を何度か結ぶものも余りの絶倫、そして1人の女性だけでは我慢の出来ない彼に恐れをなしてことごとく婚約は破棄となり、それと共に身分の低い女性を愛妾とし離宮へと住まわせるようにもなっていく。
 そうこうしている間に子供まで誕生したものだから王族は勿論の事、そこそこの高位貴族からも花嫁となる娘は声を掛けられる前にさっさと婚約ないし、結婚へと逃げ込む始末。
 愛妾や世継ぎとなる子供は存在しても王の隣に立つという存在は必要な訳で、はてさて困ったという時に長年隣国でもあるノースウッド皇国との戦にもけりがつき、然もブランカフォルトの勝ちが目に見えていた。
 ここで一気に隣国を攻め滅ぼすのもいいかと思われたが隣国には皇女が4人もおり、第二、第三皇女は嫁いだが、第四皇女は確か19歳の今を盛りと花開く乙女だった筈。
 講和条約へ持っていき、その代償に皇女との結婚を条件に入れれば問題ない!!

 ノースウッドは由緒ある国で、また稀少とされる多くの聖魔導師を輩出している。
 血筋も王妃として全く問題はない。
 若い王妃を思う儘に味わい、そして生まれてくるだろう子供を世継ぎにすればいいだけの事。
 ブランカフォルト王はそうと決める?と行動は早く、側近に命じて親書を送りつけた。
 また親書を送りつけられたノースウッドに断る理由なんてない。
 そう、国を守る為に身を捧げるのが皇女の務め。
 勿論彼自身姫を幸せにする自信はある。
 皇女が嫌がるならば子供の母親以外の愛妾とは切ってもいいとさえ思っていたらしい。

 そう言ってみればこの機会を逃せばブランカフォルトに嫁いでくる姫は最早いないと断言出来た。 
 そしてブランカフォルト王は遠いノースウッドの宮殿にいる皇女へ想いを馳せる。
 
 この好機。
 たとえ何が起ころうとも俺は……皇女を逃がさない!!

*加筆修正しています。
 今回恋愛大賞へこの作品と『俺の愛した悪役令嬢』そして出来るかな……『笑う事を知らない竜冷陛下と呪われた天然魔薬師』をエントリーしました。
 色々何かとありますが、何とか頑張ってますのでどうぞ宜しくお願いします。
      
                         雪乃
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