妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん

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3話 安らぎ

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 レイナはわがままで、無理にでも我を通してくる。
 最近だと、わたしのお気に入りのドレスをわがままを言って奪っていった。

 両親は圧倒的にレイナ派であり、わたしの意見は聞きもせず、彼女ばかりを尊重する。
 わたしの、この家における立場は令嬢にもかかわらず薄いと言わざるを得ない。

「お姉様のお肉が欲しい!」
「あんたたくさん食べたでしょ」

 ローウェンと出掛けて腹を空かせた彼女はディナーを真っ先に平らげ、満腹の余韻に浸っていたはずだ。

「食べたいの! お肉は別腹だもの!」

 訳の分からない理屈をかざし、わたしが半分ほど食べた高級肉のソテーに目を付ける。
 他人のものを欲するなんて、貴族にあるまじき違反行為であり、親から見ても目に余る行為だ。

「お父様やお母様からも言ってあげてよ」

 普通は親としてルールを守れない娘を叱るべきところである。
 わたしはこれまでのこともあって親に期待してはいないが、さすがにこうも露骨だとわたしの意見を汲み取ると思っていた。

「レイナがかわいそうよ。リエナの分も分けてあげなさい」
「母さんの言う通りだ。長女が妹に譲るのは当然だろう」

 少しでもこの夫妻に好意を向けたのが間違いだと理解するのに、時間は掛からなかった。
 彼女がわたしのものを全て奪っておいて、なおそこから搾取することを許す酷い親からの援護射撃により、ますますわたしの立場は弱くなる。

「お父様たちの許しも得たことだし、ちょうだいね」

 立場を活かし、強かに振る舞う妹はその追い風に全身を用いて乗っかり、欲望のままに肉汁滴るわたしの肉を奪っては口に運ぶ。

「うーん、人から取ったものはこんなにも美味しいのはどうしてかな」

 12歳の少女とは思えない図々しさと貪欲な姿勢に、わたしは気分を悪くする。
 両親は猫を被ったレイナに引っ張られていて、こいつをかわいいと勘違いして譲らない。

 狡猾に自分の立場を利用して、わたしを排斥しようとする動きには目もくれない。
 真の仲間と言えるのは、わたしの使用人を幼少期からやっているシエルとその部下たちだけだ。

「お嬢様、代わりのものをお持ちしますのでここはどうか抑えてください」

 レイナには毎回辛酸を舐めさせられるせいで、怒ることすら疲れてきており、自ずと落ち着きは取り戻していく。
 わたしはレイナが嫌いな野菜類がふんだんに使われ、大量に余っているソテーで腹を満たしていた。

 腕利きのシエルが追加の料理を作ってくれるのが、不幸中の幸いである。
 そういった意味では、あの暴君には多少感謝してもいいかもしれない。

 シエルは自分の腕を自覚しておらず、困ったわたしがお願いしなければ料理を作ってくれないからだ。

「お肉美味しかったわ」
「さすがは伯爵家に嫁ぐ方のマナー。食事においても抜かりはありませんね」
「今更そんなことを言うのかしら」
「私にはリエナお嬢様こそ、貴族の鏡だと思いましてね。久方ぶりにじっくり拝見して正解でした」

 シエルはわたしの気品の良さをえらく気に入っていて、基本は無味乾燥な表情を崩してでもわたしを褒め殺す。
 そんな彼女は元奴隷であり、小さい頃にわたしの目に偶然付いた彼女を、父が買い取ってくれた。

「リエナの悩み、難しい話だよね」
「まったくよ。浮気性のパートナーに生意気な妹に板挟みにされているんですもの」

 彼女はわたしと同じ15だが、こういった経緯もあって主従関係を結んでいる。
 ただ、主従とはいっても互いに素を出せる気の置けない友人の一面があり、他の使用人もいない二人きりの場合はフランクに話し合う。

「紅茶でも淹れようか」
「任せたわ」

 わたしは自室に戻ると、心を落ち着かせる作用のあるカモミールティーを淹れてもらうようにシエルに頼む。

「私はレイナ様よりもシエラを買っているんだ。あの素行の悪さでは優秀なお嬢様にはなれない」
「あなたはお堅いからやっぱりそう思うでしょうね。でも、あれだけわがままを通せるのなら、なんでもできそうじゃない?」

 レイナは虚飾をまとい、他人を欺いているに過ぎない。
 しかし、身にまとうものが見る者を魅了してしまう宝石だったら、そんな虚飾に惹かれて人は集まる。

 現に彼女を慕う者はわたしよりもはるかに多い。両親に使用人に、果てはわたしの恋人のローウェンまでも手中に収めている。
 わたしに勝ち目など無さそうにさえ思えてくるくらいの戦力差であった。

「メッキはいつか剥がれるよ」
「剥がれると、良いわね」

 淡い期待を胸に、わたしはシエルから受け取ったカモミールティーをゆっくりと飲む。
 喉の辺りから胸、そして腹にかけて温まるのを時間と共に味わっていると、次第に心が安らいでいくのだった。
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