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1話 遅れた理由
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わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
正午からずっと待っているが、一向にローウェンがやって来る気配は無い。
「きっとまた、妹と出掛けているのね」
わたしは彼が来ない理由をある程度推測できていた。
それは妹がローウェンにまとわりついているからである。
優しいローウェンは妹にも目をかけていて、ことあるごとに我が妹レイナの相手をしていた。
レイナはとにかくわがままで、無理を言っては周りを困らせる常習犯である。
「お嬢様、紅茶ができましたよ」
「そこに置いておいて」
「かしこまりました」
彼とのデートを兼ねたお茶会のために用意させたティーセットも、相手が来ないのでは台無しである。
今頃はわがままに付き合わされたローウェンが、レイナの大好きな服やぬいぐるみを買っていることだろう。
わたしとの約束をすっぽかしてまで、おめでたい男だ。
「それにしても、前はここまで酷くなかったのですがね」
ローウェンは最近、わたしよりも妹に傾倒することが多くなっていて、わたしにとって相当な気掛かりであった。
デートの約束をこうもすっぽかすような不義理な男でないことは、少なくとも事実だ。
「妹に唆されているのよ」
使用人の言葉に、冗談めいた返事を送るわたしは、不透明な思惑に振り回される愚かしい自分を自嘲していた。
「誠実な彼に限って、婚約相手を裏切る真似はしないと思いますが」
「善悪が入り混じった人間である以上、変わらない保証なんて無いわ」
死んだ祖父が、娘息子には厳しかったと親から聞いた時には耳を疑った。
孫のわたしが見た限りでは、祖父は優しい人だという印象しか持てなかった。
祖父の語りからもそれは事実だと言っていた。
気立ての良いローウェンだからといって、わたしの期待に応え続ける好青年でいてくれる保障はどこにも無い。
「まあ、優しさだけが取り柄のローウェンからそれを取ったら、何が残るんだって話になるのだけど」
笑いながらローウェンについての信頼を語るわたしが惹かれたのは、彼の不恰好でも誠実な部分である。
遅れているのも、きっと困っている人に出会してしまって、拙い正義感を振りかざしているに違いない。
無理に言い聞かせながら、わたしは夕方を迎えても来ない彼を律儀に待っていた。
「お嬢様、そろそろディナーの支度とまいりましょう」
待っている間にティーセットを完食し、彼の分の紅茶ももったいないと飲んでいた。
ローウェンが来ないとそろそろ断定し、使用人の案内に従おうとした時、夜に落ちた正門に光が走る。
「きっとローウェンだわ」
「お嬢様……」
夜だから危ないと言う使用人の制止を振り切り、わたしは玄関を突き破る。
門を超えて噴水の辺りまで来ていた馬車からは、たくさんのものを買い与えられていたレイナと、少し疲れた様子のローウェンが来ていた。
「いやぁ、ついレイナがかわいくて、はしゃいでしまったよ」
暖かく迎えようとしたわたしの周りの空間が、ここへ来ないことについてくだらない理由を口走った彼のせいで凍る。
そこには彼らしい誠実さのかけらも無い、ただレイナを甘やかしただけとも取れるそれに、入っていた熱は急激に冷めていく。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
正午からずっと待っているが、一向にローウェンがやって来る気配は無い。
「きっとまた、妹と出掛けているのね」
わたしは彼が来ない理由をある程度推測できていた。
それは妹がローウェンにまとわりついているからである。
優しいローウェンは妹にも目をかけていて、ことあるごとに我が妹レイナの相手をしていた。
レイナはとにかくわがままで、無理を言っては周りを困らせる常習犯である。
「お嬢様、紅茶ができましたよ」
「そこに置いておいて」
「かしこまりました」
彼とのデートを兼ねたお茶会のために用意させたティーセットも、相手が来ないのでは台無しである。
今頃はわがままに付き合わされたローウェンが、レイナの大好きな服やぬいぐるみを買っていることだろう。
わたしとの約束をすっぽかしてまで、おめでたい男だ。
「それにしても、前はここまで酷くなかったのですがね」
ローウェンは最近、わたしよりも妹に傾倒することが多くなっていて、わたしにとって相当な気掛かりであった。
デートの約束をこうもすっぽかすような不義理な男でないことは、少なくとも事実だ。
「妹に唆されているのよ」
使用人の言葉に、冗談めいた返事を送るわたしは、不透明な思惑に振り回される愚かしい自分を自嘲していた。
「誠実な彼に限って、婚約相手を裏切る真似はしないと思いますが」
「善悪が入り混じった人間である以上、変わらない保証なんて無いわ」
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孫のわたしが見た限りでは、祖父は優しい人だという印象しか持てなかった。
祖父の語りからもそれは事実だと言っていた。
気立ての良いローウェンだからといって、わたしの期待に応え続ける好青年でいてくれる保障はどこにも無い。
「まあ、優しさだけが取り柄のローウェンからそれを取ったら、何が残るんだって話になるのだけど」
笑いながらローウェンについての信頼を語るわたしが惹かれたのは、彼の不恰好でも誠実な部分である。
遅れているのも、きっと困っている人に出会してしまって、拙い正義感を振りかざしているに違いない。
無理に言い聞かせながら、わたしは夕方を迎えても来ない彼を律儀に待っていた。
「お嬢様、そろそろディナーの支度とまいりましょう」
待っている間にティーセットを完食し、彼の分の紅茶ももったいないと飲んでいた。
ローウェンが来ないとそろそろ断定し、使用人の案内に従おうとした時、夜に落ちた正門に光が走る。
「きっとローウェンだわ」
「お嬢様……」
夜だから危ないと言う使用人の制止を振り切り、わたしは玄関を突き破る。
門を超えて噴水の辺りまで来ていた馬車からは、たくさんのものを買い与えられていたレイナと、少し疲れた様子のローウェンが来ていた。
「いやぁ、ついレイナがかわいくて、はしゃいでしまったよ」
暖かく迎えようとしたわたしの周りの空間が、ここへ来ないことについてくだらない理由を口走った彼のせいで凍る。
そこには彼らしい誠実さのかけらも無い、ただレイナを甘やかしただけとも取れるそれに、入っていた熱は急激に冷めていく。
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