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87 わたしはお風呂上がりに指す

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 カツン、カツン、駒を動かす心地の良い音と、弄ばれているような感覚に、わたしはむぅっとくちびるを尖らせた。負けず嫌いなフレイアさまは、例えそれが子供相手であっても、絶対に手を抜いてはくださらない。今もわたしは、フレイアさまの1手1手に翻弄されて眉を顰めてしまっている。

「チェック、」
「ふぎゃっ、」

 必死になって頭を巡らせるが、どの手を打っても次の手には必ずチェックメイトになってしまう。わたしはむぎゅーっとくちびるを引き結んだ。やっぱりフレイアさまと同じで負けず嫌いなわたしは、負けない手を必死になって探してでも負けたくない。それが例え育ての親で、わたしにチェスを教えてくれた人で、わたしの思考を全て知っている人であっても、だ。

「………………、」
「無理よ。潔く負けを認めるのもかっこよさ。」
「………、ーーまけました。」
「そう、良い子。」

 フレイアさまは、眉間に皺を寄せてほっぺを膨らませたわたしの頭を優しく撫でた。仮面の下にある鮮やかな瞳がわたしを見て緩んだ気がしたが、実際どうなのかは分からない。
 ………やっぱりわたしはフレイアさまが大好きだ。

「ただいま。」
「「おかえりなさい。」」

 お風呂上がりでほわほわとしているジェフが、お部屋に戻ってきた。大人っぽい妙な色気が彼から出ている気がする。わたしと同年代に見えないのは何故だろうか。

「お疲れ様、レティー。」
「ん、」

 ふんわりと微笑んだ彼から、ふわりとわたし好みの甘い香りがして、わたしはこてんと首を傾げた。

「………紅茶?」
「そ、フレーバーティー。夜にカフェインは良くないからね。」
「………、」

 カフェイン満載な飲み物を飲もうと予定していたわたしは、無言ですっと彼から視線を外した。

「今日は起きててもいいからって理由でコーヒー飲む気だったでしょう。」
「………、」

 無言は肯定なりという言葉があるが、わたしは正解すぎるジェフの指摘に何も返すことができない。なんというか、思考が読まれすぎていて怖い。

「今日はシトラスだよ。美味しいのを頂いたから、我慢しようね。レティー。」
「ん、」
「良い子良い子。」

 主人の頭をぽんぽん撫でた彼に物申したいが、心地がいいので、わたしは特別にジェフのことを許すことにしたlそれに、今は主人と従者ではなく、大事な大事な幼馴染同士だ。立場の上も下もないだろう。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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