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77 わたしは狐さんと関わりたくない

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 わたしたちは静かな足取りで屋敷へと歩き始めた。幾人もの人とすれ違うが、行きしに感じたような不愉快な感情や不安な感情に支配されることもなく、ただただ静かに歩くことができる。フレイアさまとジェフリーが隣にいる、ただそれだけのことがわたしの心に一時の平穏を分け与えてくれる。

「レティシアお嬢様、いらっしゃったのですね。我が君が執務室でお待ちです。」
「………そうですか。」

 昨日からお兄さまの隣でよく見かける狐のような印象の男が、どこからともなく現れて、わたしたちにお兄さまの情報を渡してきた。この男がキレると言うことは話し方によってひしひしと伝わってきている。敵にするには武が悪いし、何より危険だ。お馬鹿な妹キャラクターで生活するはずが、昨日の一件のせいもあってできそうにない。ここは当たり障りのない会話をのらりくらりとするべきだろう。本当に、時間の無駄だ。
 数分間の彼の男と会話を終え、わたしたちはお兄さまの執務室の前に無事到着した。ボロは出していなかった筈だ。そう信じたい。

「………お兄さま、レティシアとジェフリー、フィリアザフィロ公爵が起こしです。開けてもよろしいですか?」
「………………………。」
「あのー、お兄さま?」

 人のことを呼び出しておいて、冷酷無慈悲と有名な我が兄は一切返事をしない。わたしたちのことをいくら馬鹿にすれば、彼は満足をしてくれるのだろうか。本当に、不愉快な男だ。

「………ちょーっとどいてくださいねー?」

 お兄様の従者さまは、あ、もうめんどくさいわね。もうこの際狐さんでいいや。狐さんはわたしとジェフリーとフレイアさまを押し退けて部屋のドアをガンガン叩いた。えぇ、それはもうびっくりするくらいに力任せにガンガンと殴ったのだ。執務室の前の廊下に鈍い音が響き渡るが妙に痛々しい。

「あー、もう!開けますよ!!我が君!!」

 えっと………、会話と行動が噛み合っていない気がするのは、わたしだけなのだろうか。狐さんはお兄さまの執務室をなんの躊躇いもなく開け放った。本当に、食えないし、読めないし、不可思議で、危険そうな男だ。これ以上は一切関わりたくない。というか、お兄さまとも関わりたくない。わたしは出会うたびに、毎度毎度失敗を重ねているのだ。もう反応がないなら立ち去ってもいいだろうか。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊


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