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25. わたしたち異能者の代償

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「……辛いなら目を瞑っていていいよ。僕がちゃんと見届けるから。だから、大丈夫だよ。」
「………ん、ありがとう。…でも、わたしは大丈夫、ちゃんと見届けるよ。ジェフがわたしのそばにいてくれるから。」

 わたしは、彼の優しい言葉と表情に、フラッシュバックした昔の記憶の恐怖によって無意識のうちにガチガチに強ばった身体の力がふわりと抜けた。
 小さく微笑みを浮かべてお礼を込めて彼の方を向くと、彼は目を見開いて固まった。
 わたしはずっと彼に守られ続けなければならないほど弱くないのに……。

 それに、もうここにはお母さまはいない。
 わたしを苦しめる人間お母さまはいない。

『あぁ、わたくしの可愛い可愛いレティシア。あぁ、わたくしの可愛らしいレティシア。』

 目を瞑ったら今でも鮮明に浮かび上がってくるお母さまの口癖。
 でも、わたしはもうこの言葉に負けない。異能者だろうと異能者でなかろうとわたしはわたしだから。ジェフがずっとわたしのそばにいてくれるから。

 異能者になることで失うものは沢山ある。
 異能者の持つ魔法の力は人間には強すぎる、強大な力だ。
 強い力にはその分の大きな代償が必要になる。

「……わたしはれっきとした異能者よ。」
「……そうだね。でも、君は人を救う良い異能者だよ。」
「………どうかしら、現に今現在わたしは、沢山の人間を苦しめているわ。」

 わたしは隠しきれなくて、僅かに引き攣った笑みを浮かべてジェフを見据えた。

「……言っただろう、異能者は畏怖の対象であって、実際に怖いわけではないと。」
「…それはわたしが特殊な事例だからそう思うのよ。
 ………ーーわたしが、異能者として出来損ないの失格者だからよ………。」

 異能者は力に比例して沢山の代償を請け負う。
 その代償の1つ、それは雰囲気だ。
 わたし自身には分からないが、異能者は常人は近寄り難い存在らしい。
 近寄ると、こう、本能が警鐘を鳴らすらしい。

 どうやら、わたしには異能者としての雰囲気、威圧感が比較的少ないらしい。わたし個人としては嬉しいことだが、異能者としては出来損ないだ。失格だ。

 お母さまも異能者だったけれど、血が薄いからか、威圧感が少なかった。

 けれど、わたしは純血の異能者と混血の異能者から生まれた異能者だから、異能者として格が高いはずなのだ。未だに出会ったことがないお兄さまと同じように……。

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読んでいただきありがとうございます♪♪♪

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