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続編

32 自慢の侍女

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 それからメアリーは少しずつ呼吸がゆっくりになって、そして意識を失った。

「眠りの魔法、か………。無詠唱とはさすがだな。クラウディア嬢」
「お褒めに預かり光栄です。ですが、この程度ならばとても簡単な魔法ですから………」

 ゆっくりと愛おしげにメアリーの背中を撫でると、思っていたよりもずっと小さく、頼りなかった。わたくしは彼女のことを国王陛下にお任せすると、彼に連れられて隠し通路から王宮へと戻ってきた。
 ふわっと辺りがいっぺんに明るくなって目に悪いが、外に出られてとてもほっとした。

「………マーギィを休めたいから、ついてきてくれ。君がそばにいないと、この子も気が休まらないだろう」
「お言葉に甘えさせていただきます」

 ーーーカツカツカツカツ、

 王宮の中でも奥まった場所まで歩いて行き、わたくしは柄にもなく興味津々で辺りを見回してしまう。自分を律するのは得意な方だし、好奇心を満たすのは本でも十分な性格だったはずだが、やっぱり冒険チックなことになると、人間どうしても興奮してしまうようだ。わたくしは飾られている、たくさんの美しい絵画や精緻な彫刻を眺めながら、とあるお部屋へと入った。
 お部屋の中はとても綺麗で、けれど生活感が全くなかった。女の子らしい桃色でまとめられたお部屋は童話の中に出てくるお姫さまのお部屋を連想させ、ここが王女マーガレットのお部屋であることは簡単に想像がついた。わたくしは大きな天蓋付きの愛らしいベッドにメアリーが寝かされるのを見つめながら、どこか他人事のようにそのことを見つめていた。
 何もかもが以外で、驚きで、突飛だったのだ。メアリーが良いところのお嬢さまではないかという予想はずっとしていたが、ここまで良いところのお嬢さまだとは思っても見なかったのだ。
 ふわっと睡眠魔法を解いて、わたくしはメアリーの整った顔立ちを覗き見る。

「ん、クラウディア、お嬢、さま………?」
「そうよ、メアリー。わたくしの可愛くて優秀で自慢の侍女さん」
「っ!!」

 泣きそうな顔をして嬉しそうに笑ったメアリーに、わたくしは恥ずかしいという思いを押し込んでにっこりと笑った。失ってしまっていたであろう王女として育った彼女が戻ってきて、困惑してしまっているであろう彼女に向かって、安心させるかのような笑みを浮かべる。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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