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55 わたくしの決意

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▫︎◇▫︎

 5年後、13歳になったわたくし達は、今馬車に揺られて王立貴族学園に向かっている。思い返せば、ここに来るまでたくさんの挫折を味わった。
 そう、目の前に座るとってもかっこいい天敵の義弟によって!!ここ5年でわたくしもライアンも背がたくさん伸びた。けれど、わたくしは155センチメートルで止まってしまった。もう1年伸びていない。かくいうライアンは180センチメートルで鍛え抜かれた無駄のない細身。長めだった濃紺の髪はばっさりと切り落とされ、少し長めのストレートな短髪だ。切長の氷色の瞳も相まって超絶かっこいい。けれどもわたくしは5年前と全く変わらない。お母さま似の綺麗めな容姿に、癖っ毛な赤髪、そしてルビーにすみれを混ぜたかのような瞳。あんまり男ウケしない、庇護よくゼロな容姿だ。
 そして何より、ライアンは賢く強くなりすぎた。もう彼が公爵になることになることに反対しない。だから、わたくしは今日を区切りにすることにした。

「ライアン、お話があるわ」
「何?」

 低くなった声は、鼓膜をどきりとふるわせる。
 あれだけたくさんいじめたのに、彼はわたくしのことをいまだに慕っている。毎年難しい言語で書かれている多種多様な本(わたくしのお下がり)を渡し、無茶振りをたくさん言って、彼の苦手なことばかりを押しつけて(わたくしも一緒にやる)、わたくし手作りの劇まず&苦手な物をたくさん食べさせて、あとあと、いっつも迷惑を言って困らせた。けれど、それも今日でお終いだ。

 だってわたくしはもう諦めるから。

 ゆっくりと殊更美しく見えるように微笑みを浮かべると、ライアンが目を見開いた。ここ数年は彼の表情を読む技術がなおのこと上がった気がする。

「………わたくしはもう舞台から降りるわ」
「え………」
「ーーーあなたが、ぁなたが公爵になりなさい。わたくしは、わたくしはもう、降りるわ」

 言い切れた。声が震えて、情け無くも微笑みが崩れたとしても、ちゃんと言い切れた。昨日徹夜でずっと練習し続けただけはある。涙がぽろりと溢れたがそれは割愛してほしい。
 わたくしは公爵になることを諦めた。悔しいが、わたくしと彼ではそもそもの才能が違うのだ。
 ライアンは見たことがないくらいに目を見開いている。それはそうだろう。わたくしは初めて彼の前で微笑みを崩したのだから。ティアラが亡くなって初めて、笑うということを放棄したのだから。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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