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42 不思議さんなお義母さまと血迷ったお父さま

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「あら、ディア早速付けてくれたの?」
「えぇ、デザインがとっても気に入ったから。お義母さまもライアンと一緒に選んでくださったの?」
「えぇ、ライアンの希望を聞いて私がデザインしたの」

 お義母さまはデザインもできるらしい。

「素敵ね。お洋服のデザインもできるの?」
「うぅん、小物というか、アクセサリー限定。
 ………………懐かしいわ」

 お義母さまの呟きに首を傾げた。以前閲覧した彼女に関する記録には彼女がアクセサリー関係のお仕事についていたり、それっぽいものを作っていたりした記録はなかったはずだ。じゃあ、彼女にとって何が懐かしいのだろうか。聞いてみたいが、ここまで人が多い状況では絶対に答えてくれないだろう。ちらりとライアンを盗み見ると、彼とパチリと視線が合った。

「母上は不思議さんだから、放っておいた方がいいよ。考えるだけ時間の無駄」

 母親に対してここまで辛辣な息子はこの世に存在していないのではないかというほどに、辛辣な口調でお義母さまの実の息子たるライアンは、お義母さまを評価した。
 そして、微妙な空気のまま、いつもの晩餐と変わらぬような時間が過ぎていった。

「………今年度から8月23日に喪服で過ごすことを取りやめる」

 食後のデザート中、唐突に口を開いたかと思えば、お父さまが突拍子もないことを言い始めた。あれだけお母さま『LOVE♡』なお父さまの意見とは到底思えない言葉だ。

「………………何を血迷っているのです。喪服で過ごさないのは今年度限定ですわ」
「ディア」

 お母さまの咎めるような声と視線を、わたくしは真っ向から見つめた。常に微笑んでいるわたくしだが、今の微笑みはおそらく冷たい類のものになってしまっているだろう。微笑みにも存外たくさんの種類が存在しているのだ。わたくしはいつもそれをその場その場で最も適切な微笑みを使えるように心がけている。

「ディア、誕生日のお祝いというのは、生んでくれた母親への感謝の気持ちもこもっているものだと、私は考えるわ。それに、あなたはお祝いされて嬉しくなかったの?」

 わたくしは確かに嬉しかった。だが、それを今言ってはいけない。わたくしには『わたくしのお誕生日会』が『お母さまを悼む会』で十分なのだ。疫病神と呼ばれているわたくしには、それすらもとっても貴重なものなのだ。だから、これで十分幸せなのだ。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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