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外された首輪【side環】
⑥
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「こら!そんなところで寝るんじゃない!風邪を引くだろう!」
「むにゃ…」
「…はぁ」
玄関を開けるや否や玄関口に寝転がって寝ようとする犬飼に、本日何度目になるか分からないため息をつく。
「マンションの入口まで」と約束したものの、泥酔しているこの男が言葉の意味を理解しているはずもなく、結局手を繋がれたまま家の玄関まで来てしまった。
さすがにこんな状態の部下を放っていくわけにも行かない。
引きずってでも寝室まで連れていくしかないかと画策していると、不意に異臭が鼻をついた。
臭いだけで酔っぱらってしまいそうな程の酒の臭い。
それは、明らかにこの部屋で異常が起こっていることを示していた。
「…おじゃま、します」
靴を揃え、目の前で障害物と化している犬飼を避けながら少しずつリビングの方へと進んでいく。
歩を進めるたびに臭いは強烈になっていった。
「っ…!」
リビングに到着して、あまりの臭いに鼻を摘まんだ。
電気をつけなくても分かる。
この部屋、大量の酒で埋め尽くされている。
「…なんだ、これは」
手探りで電気を付けると、想像を絶する光景が目の前に広がっていた。
あらゆる空き瓶や缶がそこら中に無造作に転がっている。
中には割れている物もあるが、掃除された形跡はない。
私は犬飼をきれい好きだと認識している。
あいつのデスク周りはいつも整頓されているし、いつ家に行っても埃一つ落ちていない。
そんな犬飼が部屋中を酒瓶で埋め尽くすなどという暴挙を働くだろうか。
にわかには信じ難いが、しかし目の前の光景は紛れもない現実のものだ。
しかも落ちている瓶はウォッカやウイスキーなど極端に度数が高いものが多い。
この惨状を見る限り、犬飼がこの散らかった部屋でそれらの酒を暴飲していたのだと推測できる。
ここ一週間の犬飼の不調を思い出して納得した。
夜な夜なこんな深酒をしていては仕事に手が付くわけがない。
「…まずは介抱するか」
犬飼への質問は山のようにあるが、肝心の本人は未だに玄関に転がっている状態だ。
割れた酒瓶を踏まないよう注意しながら、戸棚にあったグラスを取り出し水道水を入れた。
「犬飼、犬飼っ」
「ん…」
「水持ってきたから飲め」
犬飼の顔の辺りに屈みこんで頬をぺちぺちと叩いてみるが、瞳を閉じたまま動かない。
「!いひゃい…」
「お前が起きないのが悪い」
強めに頬を抓ると、潤んだ目がぱちぱちと動き出した。
グラスを眼前に置く。
「飲め」
「たまきさんの口移しがいいです」
「…馬鹿なこと言うな」
「じゃないと飲みません」
そう言って唇を尖らせぷいっとそっぽを向く犬飼。
完全に幼児と化している。
いっそこのまま帰ってやろうかとも思ったが、放置したせいで急性アルコール中毒で死んだなんて話があったら夢見が悪い。
しばらくグラスを睨みつけた後、覚悟を決めて一気に水を口に含んだ。
「…ん」
反対側を向く犬飼の顔を両手で掴み唇を重ねた。
しかし寝転がっている相手に上手く口移しなどできるはずもなく、ほとんどの水が床に零れていく。
「たまきさん、キス下手ですね」
「あのな………分かった。座れ」
「はい」
さっきまで梃子でも動かなかったくせに、途端に俊敏に動き出す犬飼。
まともに座ることもできないのか壁にもたれかかりながらも、ふにゃりと笑いながらこちらを見つめている。
極力視線を合わさないようにして、床に零れた水をハンカチで拭いつつ口を開く。
「先に行っておく。あくまで私はお前を助けるために口移しをするだけだ」
「はい」
「いいか、調子に乗るなよ。これっきりだからな」
「はいっ」
「むにゃ…」
「…はぁ」
玄関を開けるや否や玄関口に寝転がって寝ようとする犬飼に、本日何度目になるか分からないため息をつく。
「マンションの入口まで」と約束したものの、泥酔しているこの男が言葉の意味を理解しているはずもなく、結局手を繋がれたまま家の玄関まで来てしまった。
さすがにこんな状態の部下を放っていくわけにも行かない。
引きずってでも寝室まで連れていくしかないかと画策していると、不意に異臭が鼻をついた。
臭いだけで酔っぱらってしまいそうな程の酒の臭い。
それは、明らかにこの部屋で異常が起こっていることを示していた。
「…おじゃま、します」
靴を揃え、目の前で障害物と化している犬飼を避けながら少しずつリビングの方へと進んでいく。
歩を進めるたびに臭いは強烈になっていった。
「っ…!」
リビングに到着して、あまりの臭いに鼻を摘まんだ。
電気をつけなくても分かる。
この部屋、大量の酒で埋め尽くされている。
「…なんだ、これは」
手探りで電気を付けると、想像を絶する光景が目の前に広がっていた。
あらゆる空き瓶や缶がそこら中に無造作に転がっている。
中には割れている物もあるが、掃除された形跡はない。
私は犬飼をきれい好きだと認識している。
あいつのデスク周りはいつも整頓されているし、いつ家に行っても埃一つ落ちていない。
そんな犬飼が部屋中を酒瓶で埋め尽くすなどという暴挙を働くだろうか。
にわかには信じ難いが、しかし目の前の光景は紛れもない現実のものだ。
しかも落ちている瓶はウォッカやウイスキーなど極端に度数が高いものが多い。
この惨状を見る限り、犬飼がこの散らかった部屋でそれらの酒を暴飲していたのだと推測できる。
ここ一週間の犬飼の不調を思い出して納得した。
夜な夜なこんな深酒をしていては仕事に手が付くわけがない。
「…まずは介抱するか」
犬飼への質問は山のようにあるが、肝心の本人は未だに玄関に転がっている状態だ。
割れた酒瓶を踏まないよう注意しながら、戸棚にあったグラスを取り出し水道水を入れた。
「犬飼、犬飼っ」
「ん…」
「水持ってきたから飲め」
犬飼の顔の辺りに屈みこんで頬をぺちぺちと叩いてみるが、瞳を閉じたまま動かない。
「!いひゃい…」
「お前が起きないのが悪い」
強めに頬を抓ると、潤んだ目がぱちぱちと動き出した。
グラスを眼前に置く。
「飲め」
「たまきさんの口移しがいいです」
「…馬鹿なこと言うな」
「じゃないと飲みません」
そう言って唇を尖らせぷいっとそっぽを向く犬飼。
完全に幼児と化している。
いっそこのまま帰ってやろうかとも思ったが、放置したせいで急性アルコール中毒で死んだなんて話があったら夢見が悪い。
しばらくグラスを睨みつけた後、覚悟を決めて一気に水を口に含んだ。
「…ん」
反対側を向く犬飼の顔を両手で掴み唇を重ねた。
しかし寝転がっている相手に上手く口移しなどできるはずもなく、ほとんどの水が床に零れていく。
「たまきさん、キス下手ですね」
「あのな………分かった。座れ」
「はい」
さっきまで梃子でも動かなかったくせに、途端に俊敏に動き出す犬飼。
まともに座ることもできないのか壁にもたれかかりながらも、ふにゃりと笑いながらこちらを見つめている。
極力視線を合わさないようにして、床に零れた水をハンカチで拭いつつ口を開く。
「先に行っておく。あくまで私はお前を助けるために口移しをするだけだ」
「はい」
「いいか、調子に乗るなよ。これっきりだからな」
「はいっ」
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