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外された首輪【side環】
④
しおりを挟む「おい!待て!早まるなっ!!」
突然の大声が背後から聞こえてきて、何事かと振り返る前に次はすぐ近くで爆音が鳴り響いた。
あまりの音の大きさに目を瞑ってしまう。
その瞬間、自分の身体を暖かい何かが包み込んだ。
「たまきさんっ」
聞き覚えのあるような、しかしそれにしては少し舌足らずな声。
おそるおそる自分を包み込んでいる正体を見上げると、そこには満面の笑みを浮かべている犬飼の姿があった。
なんでここに、と聞こうとした口をやけに湿った唇で塞がれる。
「っん!?んーー!!」
いきなりの出来事に胸元を叩こうと思っても、力強く抱き締められているせいで両手がまともに動かない。
ここは外だ、とかあんなに避けてたくせに何だ、とか言いたいことは100個くらいあったが、ぬるりと舌が侵入してくると急激に思考力が鈍った。
悔しいことに、散々犬飼の味を教え込まれたこの身体はコイツから与えられる快感に従順だ。
「んっ…やめ、んむっ、んんぅ…」
後頭部を掴まれ口の奥まで犯される。
駄目だと分かっていても、身体がこの男を求めてしまう。
下半身がずくずくと疼く。
「おーーーい!!いい加減にしろって!」
一人の男が犬飼を羽交い締めにしたことで、危うく失いかけていた自我が引き戻された。
顎に伝ったどちらのものかも分からない唾液を拭いながら、犬飼と格闘している男に目をやる。
この男、もしかして喫煙室や食堂でよく犬飼と懇意にしている奴か?
状況を理解してしまい急激に顔に血液が集まっていく。
犬飼とキスをしているところを、よりによって会社の人間に見られてしまうなんて。
「副部長すみません!コイツ店中の酒飲み尽くして泥酔状態なんです!」
「…うるさい、おれは酔ってない」
「素面の人間は会社の先輩を蹴飛ばしたりしないんだよ!馬鹿!」
男は目の前で私が犬飼とキスをしていたことよりも、犬飼の介抱に必死になっているようで安堵した。
目の前で揉めている二人をよく見てみると、たしかに犬飼の顔は真っ赤だ。
男は申し訳なさそうに項垂れながら怖々と話しかけてきた。
「あの、すみません…その…そこの…」
男が指し示した先に顔を向けると、本川はゴミ袋にまみれて気を失っている。
二人の話を聞く限り、犬飼が本川を蹴り飛ばしたということだろうか。
正直助かった、というのが本音だが些かやりすぎな気もする。
「っ!い、犬飼!抱きつくなっ」
「ほめてください」
「は?」
「おれが、たまきさんを助けたんです。ほめてください」
そう言って犬飼は頬をぐりぐりと押し付けてくる。
私は唖然として顔を真っ赤にしている犬飼を見つめることしかできなかった。
…誰だ、お前は。
「たまきさん…久しぶりのたまきさんだ…。ずっと抱きしめたかった…」
「は?」
「さっきから冷たいです、たまきさん…」
見える。
犬飼の頭部に項垂れた犬耳が見える。
これは、本当にあの犬飼なのだろうか。
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