4 / 49
副部長と初接触です
③
しおりを挟む
「乾杯!!」
6月の決算期も終わり、各部署で細々と打ち上げが行われた。
人と常に一定の距離を保っているあの副部長も、さすがに立場があるのか参加している。
乾杯の音頭が取られるや否や、俺は挨拶回りをするより前に複数人の先輩たちに取り囲まれた。
「お前頑張れよ」
「何をですか?」
「小笠原副部長のことだよ!あの人は打ち上げに参加しても一言も喋らないんだ!!俺たちはビビっちまって話しかけることすらできねえ…あの副部長の心を開けるのは犬飼、お前しかいない!!」
一人の先輩が熱弁をふるうと周りの先輩方がそうだそうだ!と野太い声をあげている。
俺が副部長を昼飯に誘って以来、俺はヒーローとして崇められている。
俺が社内の女子からの人気が高いことも一躍買っているらしい。
もしかしてこいつなら副部長と心を通わせられるんじゃないかと。
俺なんかじゃ無理ですよと眉を下げるのは建前上のことで、もちろん内心ではあのときの昼飯のリベンジに燃えまくってる。
しかし先輩からそそのかされたのは幸いだった。
これで副部長の隣に座る口実になる。
「ほら、行ってこい!」
「僕なんかが行ってもしょうがないですよ」
十分すぎる前振りだ。
俺は立ち上がり、ビールを片手に副部長に近寄る。
「みんながはやしたててきて困ったなあ」なんて顔をしながら。
副部長の周りには人が寄り付いていなかったのが好都合だった。
「すみません、隣いいですか」
「かまわないけど」
副部長は背筋をぴんと伸ばしてお行儀よくきれいに正座している。
非力なのか両手でジョッキを抱えてごくごくと喉を鳴らしている姿は、普段の超人的な仕事ぶりとはまるで対極的で可愛らしい。
「ビールお好きなんですか」
「…まあ」
打ち上げが始まってからまだ5分も経っていないのにジョッキがほとんど空になっているところを見ると、かなりビールが好きなようだ。
ピッチャーを持ってきて副部長のジョッキにビールを注ぐと、副部長は軽く頭を下げて感謝の意を示している。
「ビール好きとしては、ビールがピッチャーに入ってくるのは許せないですよね」
「そうね」
これは事実だ。
ビールはキンキンに冷えてこそのビールなのに、こんなおっきな容器に入れられたら一瞬でまずくなってしまう。
一応テーブルにあるピッチャーをすべて飲み干せば、次からは生ビールにしてくれるらしい。
こんな店を予約したのは誰だ、と憤慨しかけて、待てよ?と俺の悪知恵が働きだした。
ピッチャーを全部飲み干せば、生ビールが飲めるんだよな。
そして目の前の副部長はビールが好きときた。
これは使える。
「そういえば、このピッチャーを全部飲み干せば生ビールが飲めるらしいですよ」
「そう」
「てことで俺らでちゃっちゃとこいつ消化しません?早く生ビール飲みたいですし」
「アルコールの早飲みはよくな」
「決まりですね!せっかくだからみんなでパーッと楽しんじゃいましょう!皆さん集合してくださーい!」
副部長が眉をしかめて何か話していたのを一切無視して、俺は部署内の先輩方を招集した。
もちろん飲み会どころではなく俺たちの話を盗み聞きしていた彼らは一瞬で集まってくる。
俺は内心ほくそえんで、皆に人当たりのいい笑顔を向けた。
「今から俺と副部長でこの大量のビールを減らしていくんですが、ただ飲むだけではつまらないので、どっちがたくさん飲めるか勝負したいと思います!」
「や、やらないっ」
「副部長は女性なのでもちろんハンデをつけます!俺はこのジョッキ、副部長は水が入っていたこのグラスにビールを注ぎます」
席を立って移動しようとする副部長の手を掴んでおく。
ここならちょうどみんなから見えない位置で、まるで秘密の恋人みたいだなと少し興奮してしまった。
副部長は思いっきり眉をしかめて不参加の意思を示してきたが、俺は副部長に近づいて耳打ちした。
「…逃げるんですか」
「!」
副部長の見事な三白眼がこちらを射止める。
この人はプライドが高いし、なぜか俺を嫌っている。
そんな彼女が俺に煽られて尻尾を巻いて逃げ出すだろうか。
「あとで覚えてなさい」
副部長はそう告げた後、無言でグラスを握る。
副部長が参加を決めた様子を見て、みんなはワッと盛り上がった。
俺の口角はにやりと上がる。
大学生のときはそれこそ毎日飲み歩いていたけど、俺が潰れたことは一度もない。
悪いけど、副部長にはここで潰れてもらう。
「では一杯目から行きます!かんぱーい…」
6月の決算期も終わり、各部署で細々と打ち上げが行われた。
人と常に一定の距離を保っているあの副部長も、さすがに立場があるのか参加している。
乾杯の音頭が取られるや否や、俺は挨拶回りをするより前に複数人の先輩たちに取り囲まれた。
「お前頑張れよ」
「何をですか?」
「小笠原副部長のことだよ!あの人は打ち上げに参加しても一言も喋らないんだ!!俺たちはビビっちまって話しかけることすらできねえ…あの副部長の心を開けるのは犬飼、お前しかいない!!」
一人の先輩が熱弁をふるうと周りの先輩方がそうだそうだ!と野太い声をあげている。
俺が副部長を昼飯に誘って以来、俺はヒーローとして崇められている。
俺が社内の女子からの人気が高いことも一躍買っているらしい。
もしかしてこいつなら副部長と心を通わせられるんじゃないかと。
俺なんかじゃ無理ですよと眉を下げるのは建前上のことで、もちろん内心ではあのときの昼飯のリベンジに燃えまくってる。
しかし先輩からそそのかされたのは幸いだった。
これで副部長の隣に座る口実になる。
「ほら、行ってこい!」
「僕なんかが行ってもしょうがないですよ」
十分すぎる前振りだ。
俺は立ち上がり、ビールを片手に副部長に近寄る。
「みんながはやしたててきて困ったなあ」なんて顔をしながら。
副部長の周りには人が寄り付いていなかったのが好都合だった。
「すみません、隣いいですか」
「かまわないけど」
副部長は背筋をぴんと伸ばしてお行儀よくきれいに正座している。
非力なのか両手でジョッキを抱えてごくごくと喉を鳴らしている姿は、普段の超人的な仕事ぶりとはまるで対極的で可愛らしい。
「ビールお好きなんですか」
「…まあ」
打ち上げが始まってからまだ5分も経っていないのにジョッキがほとんど空になっているところを見ると、かなりビールが好きなようだ。
ピッチャーを持ってきて副部長のジョッキにビールを注ぐと、副部長は軽く頭を下げて感謝の意を示している。
「ビール好きとしては、ビールがピッチャーに入ってくるのは許せないですよね」
「そうね」
これは事実だ。
ビールはキンキンに冷えてこそのビールなのに、こんなおっきな容器に入れられたら一瞬でまずくなってしまう。
一応テーブルにあるピッチャーをすべて飲み干せば、次からは生ビールにしてくれるらしい。
こんな店を予約したのは誰だ、と憤慨しかけて、待てよ?と俺の悪知恵が働きだした。
ピッチャーを全部飲み干せば、生ビールが飲めるんだよな。
そして目の前の副部長はビールが好きときた。
これは使える。
「そういえば、このピッチャーを全部飲み干せば生ビールが飲めるらしいですよ」
「そう」
「てことで俺らでちゃっちゃとこいつ消化しません?早く生ビール飲みたいですし」
「アルコールの早飲みはよくな」
「決まりですね!せっかくだからみんなでパーッと楽しんじゃいましょう!皆さん集合してくださーい!」
副部長が眉をしかめて何か話していたのを一切無視して、俺は部署内の先輩方を招集した。
もちろん飲み会どころではなく俺たちの話を盗み聞きしていた彼らは一瞬で集まってくる。
俺は内心ほくそえんで、皆に人当たりのいい笑顔を向けた。
「今から俺と副部長でこの大量のビールを減らしていくんですが、ただ飲むだけではつまらないので、どっちがたくさん飲めるか勝負したいと思います!」
「や、やらないっ」
「副部長は女性なのでもちろんハンデをつけます!俺はこのジョッキ、副部長は水が入っていたこのグラスにビールを注ぎます」
席を立って移動しようとする副部長の手を掴んでおく。
ここならちょうどみんなから見えない位置で、まるで秘密の恋人みたいだなと少し興奮してしまった。
副部長は思いっきり眉をしかめて不参加の意思を示してきたが、俺は副部長に近づいて耳打ちした。
「…逃げるんですか」
「!」
副部長の見事な三白眼がこちらを射止める。
この人はプライドが高いし、なぜか俺を嫌っている。
そんな彼女が俺に煽られて尻尾を巻いて逃げ出すだろうか。
「あとで覚えてなさい」
副部長はそう告げた後、無言でグラスを握る。
副部長が参加を決めた様子を見て、みんなはワッと盛り上がった。
俺の口角はにやりと上がる。
大学生のときはそれこそ毎日飲み歩いていたけど、俺が潰れたことは一度もない。
悪いけど、副部長にはここで潰れてもらう。
「では一杯目から行きます!かんぱーい…」
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる