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副部長と初接触です
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「乾杯!!」
6月の決算期も終わり、各部署で細々と打ち上げが行われた。
人と常に一定の距離を保っているあの副部長も、さすがに立場があるのか参加している。
乾杯の音頭が取られるや否や、俺は挨拶回りをするより前に複数人の先輩たちに取り囲まれた。
「お前頑張れよ」
「何をですか?」
「小笠原副部長のことだよ!あの人は打ち上げに参加しても一言も喋らないんだ!!俺たちはビビっちまって話しかけることすらできねえ…あの副部長の心を開けるのは犬飼、お前しかいない!!」
一人の先輩が熱弁をふるうと周りの先輩方がそうだそうだ!と野太い声をあげている。
俺が副部長を昼飯に誘って以来、俺はヒーローとして崇められている。
俺が社内の女子からの人気が高いことも一躍買っているらしい。
もしかしてこいつなら副部長と心を通わせられるんじゃないかと。
俺なんかじゃ無理ですよと眉を下げるのは建前上のことで、もちろん内心ではあのときの昼飯のリベンジに燃えまくってる。
しかし先輩からそそのかされたのは幸いだった。
これで副部長の隣に座る口実になる。
「ほら、行ってこい!」
「僕なんかが行ってもしょうがないですよ」
十分すぎる前振りだ。
俺は立ち上がり、ビールを片手に副部長に近寄る。
「みんながはやしたててきて困ったなあ」なんて顔をしながら。
副部長の周りには人が寄り付いていなかったのが好都合だった。
「すみません、隣いいですか」
「かまわないけど」
副部長は背筋をぴんと伸ばしてお行儀よくきれいに正座している。
非力なのか両手でジョッキを抱えてごくごくと喉を鳴らしている姿は、普段の超人的な仕事ぶりとはまるで対極的で可愛らしい。
「ビールお好きなんですか」
「…まあ」
打ち上げが始まってからまだ5分も経っていないのにジョッキがほとんど空になっているところを見ると、かなりビールが好きなようだ。
ピッチャーを持ってきて副部長のジョッキにビールを注ぐと、副部長は軽く頭を下げて感謝の意を示している。
「ビール好きとしては、ビールがピッチャーに入ってくるのは許せないですよね」
「そうね」
これは事実だ。
ビールはキンキンに冷えてこそのビールなのに、こんなおっきな容器に入れられたら一瞬でまずくなってしまう。
一応テーブルにあるピッチャーをすべて飲み干せば、次からは生ビールにしてくれるらしい。
こんな店を予約したのは誰だ、と憤慨しかけて、待てよ?と俺の悪知恵が働きだした。
ピッチャーを全部飲み干せば、生ビールが飲めるんだよな。
そして目の前の副部長はビールが好きときた。
これは使える。
「そういえば、このピッチャーを全部飲み干せば生ビールが飲めるらしいですよ」
「そう」
「てことで俺らでちゃっちゃとこいつ消化しません?早く生ビール飲みたいですし」
「アルコールの早飲みはよくな」
「決まりですね!せっかくだからみんなでパーッと楽しんじゃいましょう!皆さん集合してくださーい!」
副部長が眉をしかめて何か話していたのを一切無視して、俺は部署内の先輩方を招集した。
もちろん飲み会どころではなく俺たちの話を盗み聞きしていた彼らは一瞬で集まってくる。
俺は内心ほくそえんで、皆に人当たりのいい笑顔を向けた。
「今から俺と副部長でこの大量のビールを減らしていくんですが、ただ飲むだけではつまらないので、どっちがたくさん飲めるか勝負したいと思います!」
「や、やらないっ」
「副部長は女性なのでもちろんハンデをつけます!俺はこのジョッキ、副部長は水が入っていたこのグラスにビールを注ぎます」
席を立って移動しようとする副部長の手を掴んでおく。
ここならちょうどみんなから見えない位置で、まるで秘密の恋人みたいだなと少し興奮してしまった。
副部長は思いっきり眉をしかめて不参加の意思を示してきたが、俺は副部長に近づいて耳打ちした。
「…逃げるんですか」
「!」
副部長の見事な三白眼がこちらを射止める。
この人はプライドが高いし、なぜか俺を嫌っている。
そんな彼女が俺に煽られて尻尾を巻いて逃げ出すだろうか。
「あとで覚えてなさい」
副部長はそう告げた後、無言でグラスを握る。
副部長が参加を決めた様子を見て、みんなはワッと盛り上がった。
俺の口角はにやりと上がる。
大学生のときはそれこそ毎日飲み歩いていたけど、俺が潰れたことは一度もない。
悪いけど、副部長にはここで潰れてもらう。
「では一杯目から行きます!かんぱーい…」
6月の決算期も終わり、各部署で細々と打ち上げが行われた。
人と常に一定の距離を保っているあの副部長も、さすがに立場があるのか参加している。
乾杯の音頭が取られるや否や、俺は挨拶回りをするより前に複数人の先輩たちに取り囲まれた。
「お前頑張れよ」
「何をですか?」
「小笠原副部長のことだよ!あの人は打ち上げに参加しても一言も喋らないんだ!!俺たちはビビっちまって話しかけることすらできねえ…あの副部長の心を開けるのは犬飼、お前しかいない!!」
一人の先輩が熱弁をふるうと周りの先輩方がそうだそうだ!と野太い声をあげている。
俺が副部長を昼飯に誘って以来、俺はヒーローとして崇められている。
俺が社内の女子からの人気が高いことも一躍買っているらしい。
もしかしてこいつなら副部長と心を通わせられるんじゃないかと。
俺なんかじゃ無理ですよと眉を下げるのは建前上のことで、もちろん内心ではあのときの昼飯のリベンジに燃えまくってる。
しかし先輩からそそのかされたのは幸いだった。
これで副部長の隣に座る口実になる。
「ほら、行ってこい!」
「僕なんかが行ってもしょうがないですよ」
十分すぎる前振りだ。
俺は立ち上がり、ビールを片手に副部長に近寄る。
「みんながはやしたててきて困ったなあ」なんて顔をしながら。
副部長の周りには人が寄り付いていなかったのが好都合だった。
「すみません、隣いいですか」
「かまわないけど」
副部長は背筋をぴんと伸ばしてお行儀よくきれいに正座している。
非力なのか両手でジョッキを抱えてごくごくと喉を鳴らしている姿は、普段の超人的な仕事ぶりとはまるで対極的で可愛らしい。
「ビールお好きなんですか」
「…まあ」
打ち上げが始まってからまだ5分も経っていないのにジョッキがほとんど空になっているところを見ると、かなりビールが好きなようだ。
ピッチャーを持ってきて副部長のジョッキにビールを注ぐと、副部長は軽く頭を下げて感謝の意を示している。
「ビール好きとしては、ビールがピッチャーに入ってくるのは許せないですよね」
「そうね」
これは事実だ。
ビールはキンキンに冷えてこそのビールなのに、こんなおっきな容器に入れられたら一瞬でまずくなってしまう。
一応テーブルにあるピッチャーをすべて飲み干せば、次からは生ビールにしてくれるらしい。
こんな店を予約したのは誰だ、と憤慨しかけて、待てよ?と俺の悪知恵が働きだした。
ピッチャーを全部飲み干せば、生ビールが飲めるんだよな。
そして目の前の副部長はビールが好きときた。
これは使える。
「そういえば、このピッチャーを全部飲み干せば生ビールが飲めるらしいですよ」
「そう」
「てことで俺らでちゃっちゃとこいつ消化しません?早く生ビール飲みたいですし」
「アルコールの早飲みはよくな」
「決まりですね!せっかくだからみんなでパーッと楽しんじゃいましょう!皆さん集合してくださーい!」
副部長が眉をしかめて何か話していたのを一切無視して、俺は部署内の先輩方を招集した。
もちろん飲み会どころではなく俺たちの話を盗み聞きしていた彼らは一瞬で集まってくる。
俺は内心ほくそえんで、皆に人当たりのいい笑顔を向けた。
「今から俺と副部長でこの大量のビールを減らしていくんですが、ただ飲むだけではつまらないので、どっちがたくさん飲めるか勝負したいと思います!」
「や、やらないっ」
「副部長は女性なのでもちろんハンデをつけます!俺はこのジョッキ、副部長は水が入っていたこのグラスにビールを注ぎます」
席を立って移動しようとする副部長の手を掴んでおく。
ここならちょうどみんなから見えない位置で、まるで秘密の恋人みたいだなと少し興奮してしまった。
副部長は思いっきり眉をしかめて不参加の意思を示してきたが、俺は副部長に近づいて耳打ちした。
「…逃げるんですか」
「!」
副部長の見事な三白眼がこちらを射止める。
この人はプライドが高いし、なぜか俺を嫌っている。
そんな彼女が俺に煽られて尻尾を巻いて逃げ出すだろうか。
「あとで覚えてなさい」
副部長はそう告げた後、無言でグラスを握る。
副部長が参加を決めた様子を見て、みんなはワッと盛り上がった。
俺の口角はにやりと上がる。
大学生のときはそれこそ毎日飲み歩いていたけど、俺が潰れたことは一度もない。
悪いけど、副部長にはここで潰れてもらう。
「では一杯目から行きます!かんぱーい…」
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