鷹村商事の恋模様

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それっていつから?

このままだって!

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このままの状況は、非常によろしくない。
「あの、錦織さん」
「はい、何でしょう?」
「その、夕飯は食べていないんですよね?」
「勿論」
「おなかが空きませんか?」
「特には」

何か、取り付く島もないと言うか…。
気まずいなぁ、嫌だなぁ。
買い出しにでも、行こうかな…。

「えーと、そんなことは。私、何か買ってきますよ!」
「誘ってくれる人もいないし、一緒に食べてくれる人もいないから、別に良いかな」
「それは…」
「『ノリで入ったけれど、そこそこ良い雰囲気のお店』なんて僕も行きたかったな」
「ん?」

「『可愛い後輩と珍しく夕飯』なんて、僕だってアフターになれば、ちゃんと光ちゃんの先輩になれるけど?」
「はい…?」
「『久しぶりのぬいぐるみ』って2人で遊びに行ったの?」
「えーと、錦織さん?」
「何でしょう?光先輩」
「さっきから、何の話を」

「あぁ、伝わってなかった?帰る気にもなれなくて、無駄に残業していたらさ。帰る気にもなれなかった理由の人たちが、2人揃って楽しそうに投稿しているから。まるでデートみたいだなって思ったら、何か悔しいから邪魔をしたくなったんだってこと」
それはつまり、さっきまでの…。
「友成さんとの時間ですか?」
「そう」
「元はマーケティングですよ?仕事です。むしろ、就業時間過ぎていて、働き損でしたけど」

「でも、良い雰囲気のお店で、おいしいごはんを食べて?帰り道に仲良く遊んで、まるで社会人カップルみたいだ」
「違いますけど」
「でも、ぬいぐるみ取ってもらったんでしょ?立派なプレゼントを」
先輩の言葉に、さっき放り投げたぬいぐるみを思い出した。
「はい、私から軍資金をしっかり渡して、友成先輩に取ってもらいました。需要と供給が成り立っていましたから」

私の、勘違いしないでくださいね!は、どうやら届いたようだ。
プレゼントって、私の好きな物を、友成さんにタダでもらったと思われるのは癪だ。

「…そうなんだ」
「そうですよ。情報は正確に、です」
「そういうところ、本当に光ちゃんの良い所だよね」
「どういう所ですか?」
「ん-、なんて言うか、生粋の長女みたいなところとか、1人っ子のように自由なところとか、まるで末っ子のような甘え上手なところとか」

「…良い所ですか?」
「良いところじゃない?“しっかりしなきゃ”っていうお姉さんの部分と、“振り回しちゃうぞ”っていう我儘な部分と、“甘やかしてください”“褒めてください”って全身で訴える可愛い部分と」
「何ですか、そのイメージ」

「僕の中の光ちゃんだよ」
「もしかして、高校生のまま年だけ大きくなっていません?そのよ…錦織さんの中の“私”は」
「そうかな?多分、ほとんどの人は感じていると思うよ。純粋に光ちゃんを可愛いとね」
「まさかー」
「そうやって、冗談にして逃げるのは、もう通じないよ?」
笑おうと思った私の喉が「ひゅっ」と鳴った。

「僕は、光ちゃんが好きだよ」

言われた言葉を理解して、顔が赤くなっていく。
急速に、熱がこもる。
仄かになんてものじゃない。
しっかりとした、その言葉にありえないくらい驚く自分がいた。

「まずいです!」
「何で?」
「そんなことを、簡単に口に出してはいけません!」
「だから、何で?」
真面目な表情の先輩に、口をパクパクさせてしまう。
呼吸すらも満足にできずに、ただ口をパクパクする私はきっと間抜けに見えていただろう。

「光ちゃんを、好きって言っちゃいけない理由を、教えて?」
優しく、そしてどこか色気を感じる言い方に、更に頬が熱くなった。
「…わ、私が勘違いして、しまうから…です」
勢いもなく、真面目な顔をした先輩を前に、冗談で切り抜けることもできず、正直に言ってしまった。
何が、今ならいくらでも切り返しができるだ。
さっきの自分を、力の限りぶっ飛ばしたい。

「勘違いしちゃ、いけないの?」
言いながら、先輩が近くに来る。
「私は、そんな。よ…!錦織さんに、好かれるような、何かがあるとは思えません」
「何で?」
「何でって。…さっきから、錦織さんは意地悪です」
「そっか、ごめん。怖がらせていたかな?」
意識的に、にっこりと笑う顔。

「違います」
「ん?」
「怖くないです、でも、何か落ち着きません」
「僕が、光ちゃんを好きになったらダメなの?」
「ダメじゃないです!ダメじゃないですけど…でも、なんというか」

「嫌だ?」
「嫌じゃないです」
「嬉しい?」
「そりゃもう!めちゃくちゃハッピー…な」
言ってしまって、途中で止まるチキンな私再び。

「めちゃくちゃ、ハッピーね…。僕はね、17から、光ちゃんをずっと意識しているよ?光ちゃんは?違った?僕のこと異性として見ていなかった?」
「ずるいです!タイムです!高橋はタイムを希望します!」
耐えきれずに、大きな声を出してしまった。

びっくりした表情をするものの、そのまま先輩は見慣れた王子様スマイルで笑ってくれた。
「じゃ、一緒に帰ろう」
「帰る?」
どこに?帰るのでしょうか?
「手を繋いでも良いかな?良いよね?その位は、したって怒られないよね?社内でも」

「え?」
驚く私の手を持ち、先輩が手を繋ぐ。
「卒業式の日に、握手位はできるかと思っていたのに」
ぽつりと呟くその声に、無意識に顔を上げる。

「写真だって、何なら遠い所で撮られたし」
近い位置で、視線が交わる。
照れる、というか今、卒業式でのこと。
「そういえば、あの時、何で」
「僕は気付いていたから。光ちゃんって、あんなにはしゃぐのに、恋愛方面だけは、すごく奥手で、『好き』っていう言葉に過剰に反応していたよね?」

「だから、逃げられないように、生徒会のみんなを証人にしようとしたのに、僕の告白をなかったことにしたでしょ?」
「えーと」
「忘れていないよ。あの時のこと、今でも夢に見るくらい」
「す、すみません…」
「その後も、徹底的に僕のこと、避けていたよね?」
「そうでした?というか、あの錦織さん、私…。あの手汗が酷くなりそうで、気持ち悪いと思われたくないので、手を離し…」

「そうなの?じゃ、僕は乾燥しがちだから、丁度良いね。光ちゃんの手で、湿度が保てて」
「湿度とかのレベルじゃなくて、本当に滝のような汗が、あの!手から溢れてしまいそうな、気が!」
「確かに手は熱いね、繋いでいるだけなのに、こんなに可愛い」
ふふと笑う姿は、王子様のままだ。
なのに、逃げられない。

どうしたって、こんなことに。
というか、先輩はやはり女性慣れをしている!
これは、大学時代モテモテだったに違いない。
先輩の投稿を思い出して、ふと我に返る。

「私知っていますよ?先輩大学で、彼女さんいましたよね?先輩のSNSチェックしていたから、リアルタイムでデートしているのとか、何となく想像できましたけど」
「あー、それ突っ込んじゃう?」
「ダメですか?」
「ダメじゃないけど、光ちゃんにも飛び火するよ」
「どうしてですか?」

「だって、先に光ちゃんが彼氏とのデートを投稿し始めたんでしょ?」
「はい?」
「浮かれてさ、初デート!とか、初の記念!とか一々報告して」
「…なんか、すみません」
「僕としては、僕のことを好きなはずの光ちゃんが、他の男とデートをしているのは許せなかったけど、というか高校時代だって、決して認めていなかったけどさ」
「なんか、本当にすみません!」

あれ、私何でこんなに必死に謝っている?
後ろめたいことはない、はず。
確かに、先輩のことは好きだったと思うけれど、それでも私と先輩は付き合っていなかった。
…はずだよね?

さっきから、先輩が私のことを好きって言っているみたいに聞こえるけれど、私の勘違いだよね。
え?私のことを好きなの?
それっていつから…?
混乱する私にお構いなく、先輩は謝る私。

「高校時代は良いよ、全部おままごとみたいな関係でさ。長続きしていなかったみたいだし、不問にするけど。それで僕と生徒会の子を勝手にカップルに見立てて、それで盛り上がって、喜んでいたでしょ?」
「う…はい、すみません。勝手に、盛り上がっていました」
「何で、そこに光ちゃんが納まらなかったの?」
「え?」
「僕の彼女の位置に、光ちゃんがいても良かったんだけど。というか彼女とも付き合っていたわけじゃないし、生徒会が終了するまでは、気まずい思いをするのもされるのもごめんだったから」

「僕たち、両想いだったよね?」
「え、違いま…」
咄嗟のことに、否定しようとするがそんなことは関係ないらしく、繋がれた手に力が入った。
「僕のこと、好きじゃなかった?」
「えーと」
「僕と、お付き合いしてくれる気持ちはなかった?というか、今もないの?」

「何で、先輩がお伺いを立てる方なんですか?」
つい、先輩と言ってしまった。
「だって僕は今、光ちゃんに好きだって言って、返事を待っている状態だからね」
「それは…」

「ダメだよ、今回はうやむやにはさせない。あの卒業式みたいに、ふわっとさせてフェードアウトもさせない。ちゃんと返事をもらうまで、この手も離さない」
繋がれた手をぎゅっとされて、心臓も同じくぎゅっとなった。
「あの、でも…」
「手を離したいなら、早く返事をちょうだい?」
「…違います、あのぬいぐるみを取りに」

「どこにあるの?」
「女子更衣室に…」
「ずるいなあ、それじゃ僕は入れないところだ」
「なので、手を」
「離したら、そのまま逃げそうだから却下」
歩いている速さは変わらない。
でも、何だろう?どんどんと、追い詰められている気分になる。

「逃げません」
「じゃ、早く返事をちょうだい」
「先輩って、こんなキャラでしたっけ?」
私の言葉に、再度ニッコリと笑う顔。

「そうだよ。僕はずっとこんな感じだったよ?光ちゃん、気が付かなかった?こんな僕は嫌かな?」
「そんなこと!…って危ない」
うっかり、そんなことないです!と否定するところだった。
「ダメかー」
「ダメかーって…」
「光ちゃんは、話しながらでもちゃんと内容を処理していくから、言質が取りにくいなー」

「何で、言質なんか取らなくても」
「それは、取るでしょ?今の会社、光ちゃんが言っていたみたいに、恋愛で浮かれているし、会社中がなんか『恋しなきゃ』みたいなブームで揺れているでしょ?」
「そう…なんでしょうか?」
「それで、光ちゃんが誰かとお付き合いでも始めちゃったら、本当に僕どうしようか?ってなっちゃうから」

「どうしようか?とは…」
「入社して、僕と光ちゃんの仲を、喫煙所やラウンジで根気強く『高校から知っている』『古い付き合い』をこれでもかってアピールして、光ちゃんが僕のことを「耀先輩」って言う度に、みんなが僕たちのことを誤解してるって順調だったのに、急に「錦織さん」なんて呼ばれ始めたら、さ?僕と光ちゃんが、ただの先輩と後輩になったら、他の誰かにそのチャンスをみすみすあげちゃうことになるでしょ」

そんなことはないと、思うけどなぁ。
「そんな時に、っていっても今日だけど東田課長が来てね」
「え?いつですか?」
「光ちゃんたちが、外に出てから」

「今まで自然にあったものって、急になくなると結構寂しいぞ、って余計なことを言うだけ言っていなくなるし。僕としては十分知っていることなのに。それで、余計な残業までする羽目になったんだし」
「はあ…」
話している間に、女子更衣室に着いた。
「手を離してほしい?」
「はい!」
「じゃ、返事をください。できれば良い返事をね」

ニッコリ笑う顔に、言葉に詰まる。
「しょうがないな、じゃ頷くだけで良いことにするよ?純情な光ちゃんに「好き」なんて返して言ってもらえるのは、まだまだ遠そうだし」
困る私をしっかりと見て、笑顔の先輩がそう告げた。
「僕を好きだよね?」
「…う」
笑顔の圧が強い。
何も言えない私に、変わらない笑顔のまま追い打ちをかけてくる。

「光ちゃん、僕のこと好きでしょ?」
「…は」
時間にして数秒、しかし私には途方もない時間に感じた。
繋がれた手が、永遠に離れない錯覚を起こす。
ダメだ、逃げられない。
諦めにも似た境地に、私の心が持たなかった。
大きすぎるドキドキに、自分が押しつぶされそう。

「…はい、好きです」
永遠に感じたけれど、喉の奥から絞り出した小さな声。
言って、しまった…。
あんなに恥ずかしくて、言ったら死んでしまうのではないかと思っていた言葉を。
妄想でしか、言えないと思っていた言葉を…。
自分の言葉で、マジで死にそう。

「やっとだ、長かったなぁ」
先輩が、あっさりと手を離した。
「ぬいぐるみ、持っておいで」

急いで更衣室の中に入り、ドアを閉める。
深呼吸し、その場にずるずるとしゃがみ込む。
「誰、あれは?高校の時にいた、…王子、様?耀、先輩?あんな先輩は、…知らない」
繋がれた手が熱い。

どうしよう、夢みたいなことが起きた。
というか、本当に夢だったのでは?
放り投げたぬいぐるみを、手を伸ばして引き寄せ、その大きな体に顔を埋める。

「うぅぅうー!」
声にならない叫びは、「嬉しい」「夢みたい」「何で」「困る」「どうしよう」とかぐるぐるしたまま吸い込まれた。
しばらくそのままにしていたかったけれど、控えめにされるノックで現実に戻されたことを知る。

「光ちゃん?大丈夫?」
「はいー」
よろよろと立ち上がり、ドアを開ける。
まるで酔ったような、ふわふわした気分だった。

「本当に、大きいぬいぐるみだね」
「はい、うちのアパートに入れるには少し、大きすぎなんですけど」
困ったように言った私に、先輩はこっそり耳打ちをした。

「なっ!そんなことは!」
またぬいぐるみをぎゅっとし、顔を隠す。
「それを持っていて手を繋げないなら、これは僕は預かるよ?」
「それは!」
「じゃあ、はい」
出された手に、渋々自分の手を重ねる。

「良い提案だと思わない?」
「思いません、先輩は意地悪だったってことを知れたのも、今日の出来事の1つですね」
「あれ、怒ってる?」
「怒ってません」
「じゃ、照れている?」
「っ!…はい」

「本当に可愛いなぁ」
「何で、そんなことをサラッと言えるのか…」
「え?毎日思っているよ。でも、僕も思った以上に我慢が出来なかったみたい」
「何の?」
「光ちゃんが、社会人として嫌でも先輩なんだって、たった3ヶ月で十分に実感させられたこと」

「えーと…ノリが軽すぎて、これなら楽勝って思ったってことですよね?」
「全然、むしろ。その業務をノリでこなすの?と思ったら、純粋に尊敬しかないよ」
「またまたー」
「本当だって」
「先輩たちの、デキる代に比べたら、私達なんて!全然ですよ!勢いと若さ、ノリしかなかったし」

「そうかもしれないけど、覚えているかな?謝恩会でのこと」
「いつの方ですか?」
「えーと、光ちゃんたちが1年生で、ちょっとしたミスがあったでしょ?」
「あー、懐かしいですね」

「あの時に君たち言う、そのノリに、確実に僕たちは助けられたんだ」
「大袈裟ですって」
「だから、僕は君が好きになったんだ」
「へ?」
「その“自分では、何でもない”という意識に、自分がしたいように振舞う素直さに、一気に惹かれたんだと思うんだ」

「…そう、なんですか?」
赤くなった顔をぬいぐるみで覆いながら、会社の外に出る。
「じゃ、今日をくれる?それとも週末をくれる?」
さっきの耳打ちを思い出し、再度ボッと顔が赤くなる。
『ぼくの家なら、置くスペースが十分あるよ?だから、泊まりに来る?』

「それ、絶対ですか?」
「嫌そうだね、じゃ、このまま光ちゃん家に行くって言う選択肢も増やそう」
「すみませんでした!」
「謝らないで良いから、どうする?ちなみに、この手を離す時は、どちらかの家にいる時だよ?」
「あのですね、先輩。ワタクシにも、その心の準備をいうものが…ですね」
「嫌だなあ、家に来てって言って、急に襲い掛かるようなことはしないよ」
「襲っ!」

「だから、安心しておいで?それか、僕がお邪魔します?」
電車で2駅先の私のアパートか、反対側の沿線の3駅先の先輩のマンションか。
ここは、思い切って先輩のマンションかな?
でも、はしたない?
違う違う、今日、そんな話じゃないって先輩も言っていた。

とか言いながら、そのつもりだったら?
覚悟は全くない。
そうだ、覚悟なんてないぞ!
どうしたら?
怖いよう。

「あの…先輩」
私の言いたいことを想像してか、先輩の雰囲気が揺れた。
「なあに、光ちゃん」
「あの、怒って…います?」
「光ちゃんには怒ってないよ、でも、信じてもらえない自分の信頼のなさには、少しイライラするかな」
「ちがっ!」

「違くないでしょ?ただ、僕は一緒にいたいって言っているだけ。別に、光ちゃんの同意もなしに、先に進むことは誓ってしないよ。好きな子と、もっと一緒の時間を過ごしたいだけ。今までの分も取り戻したいし…。だから、家か光ちゃんの家で、ゆっくり話とかしたいだけなんだけど。…でも、信用してもらってないってことでしょ?」
「違います!それは、違いますよ!」
思わず、先輩の手を解いてしまった。

「そんなことで、先輩を信用していないとは全然思っていません!それは、私の知っている先輩に、今まで絶対の信頼を寄せていた“耀先輩”に対しても、侮辱行為です。これは、私の覚悟の問題です!」
驚いて目を見開く先輩に、眼差しを合わせる。

私のことを、好きだという話は、まだ正直信じられない気持ちが大きい。
でも、先輩がいい加減な気持ちで、私に告白をしたわけじゃないってことはちゃんと伝わった。
なので、恥ずかしいとか言ってないで、私も腹を括らねば。

「…だから、その上でお聞きします。先輩は、どっちが嬉しいですか?私は、どうしたら良いですか?先輩の家に行行きたいっていうのは、何だかはしたないんじゃないかって考えたら、つい言えなくて!でも、家にお招きするには、散らかりすぎていて…掃除の時間を与えてもらわないと無理です」
ぬいぐるみの腕で顔を隠しながら、聞いてしまった。
そのまましばらく沈黙が訪れ、不思議に思うものの顔を上げる勇気もない私。

でも、そっとぬいぐるみごと包まれた。
あれ、これって抱きしめられている?
想像しただけで、マジで爆発しそう。

「僕は、光ちゃんが側にいてくれて、僕のことを意識してくれるならどこでも良い」
そう耳元で囁いた。
「嘘、本当は家にお招きしたいかな?僕の生活範囲に、光ちゃんの場所を作っていきたい。そして光ちゃんの家にも、僕の場所を作っていきたい」
つまりは、どちらも選び難いってことかな?と冗談のように言う先輩に、「なら、お邪魔させてください」と言うのは、告白するよりは簡単だった。

「良いの?」
「同意なしには、襲い掛からないんですよね?」
「…努力します」
「はい!お願いします」

手を繋ぎ直して、先輩の家まで一緒に向かう。
なんという、驚きの日常。
ハッピーな日常が、気付けばすぐそこに迫っていた。
リアルな王子様は、現代でもいるってこと。
そんな王子様に、見つけてもらえるってすごい奇跡。

やっぱり私のハッピーの中心は、耀先輩なんだってことをふわふわした頭で考えた。
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